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警察によるコンビニ店頭からの暴力団関係書籍等の撤去要請が問題となった事例
暴力団関係書籍コンビニ撤去事件平成240613日福岡地方裁判所(平成22()1608 

【コメント】本件は、原告が、福岡県警察(以下「県警」という。)がA防犯協議会(以下「本件協議会」という。)等に対してした暴力団関係書籍等に関する違法な撤去要請により、原告の著作を原作とする漫画本がコンビニエンスストアの店頭から撤去されるなどしたため、原告は著しい精神的苦痛を被ったなどと主張して、被告に対し、国家賠償法11項に基づき、慰謝料等の支払を求めた事案です。 

1 争点(1)(本件要請並びに本件リストの作成及び配布の違法性)について
(1) 表現の自由の侵害について
ア 本件要請文書の内容は,前提事実…のとおり,県警が,コンビニ各社に対し,暴力団排除及び青少年の健全育成等の観点から,暴力団関係書籍等をコンビニの店頭から撤去することが検討されるべきであると考えていることを伝えるとともに,これを踏まえた適切な措置を講じるように求めるものとなっている。そして,撤去が検討されるべきであるとしているものの,コンビニ各社が取るべき措置をこれに限定しているものとはいえず,むしろ,コンビニ各社が適切な措置を取らなかった場合に何らかの不利益を被ることを示唆する記載などはないことからすれば,そもそも本件要請に応じて何らかの措置を取るか否かも含め,コンビニ各社の自主的な判断に委ねたものであるといえる。
 また,本件要請の態様は,前提事実…のとおり,生安総務課の担当者がコンビニ各社を訪問して口頭で県警の上記要請を伝えるとともに,本件要請文書を交付するというものであるが,その際に,暴力団関係書籍等の撤去を迫るような言辞を用いるなど,県警がコンビニ各社に対し警察権力を背景として暴力団関係書籍等の撤去を強制したことを根拠づける事実をうかがわせる資料は見当たらない。
 そして,…によれば,本件要請後,本件リストに掲載された雑誌等ではないものの,暴力団を題材とするコミックを販売している福岡県内のコンビニが存在すること,県警は,本件要請後,コンビニ各社の取った措置の内容や本件要請に従ってコンビニから暴力団関係書籍等が撤去されたか否かについて調査したり,暴力団関係書籍等を置いているコンビニに対する再度の要請や何らかの不利益な取扱い等をしていないことが認められる。
 
ところで,前提事実のとおり,本件要請を受けたコンビニ各社のうち,暴力団関係書籍等を取り扱っていた会社は,いずれもその販売中止及び店頭からの撤去を行っている。しかし,…によれば,福岡県下には多数の暴力団が存在し,暴力団組員による一般市民に対する犯罪や発砲事件も多いことから,平成211019日に暴力団の排除の推進等を目的とする福岡県暴力団排除条例が制定され,官民一体となって暴力団を排除する取り組みがされていることが認められる。このような社会的風潮の下,本件要請を受けたコンビニ各社が自主的に上記措置を取ることは何ら不自然であるとはいえず,これをもって,本件要請がコンビニ各社に対し暴力団関係書籍等の撤去を事実上強制するものであったことを根拠づける事実であると評価することはできず,他にこのような事実を認めるに十分な証拠はない。
 以上のとおりの本件要請文書の内容及び本件要請の態様等からすれば,本件要請は,県警が行政警察活動の一環としてコンビニ各社に対し暴力団関係書籍等の取扱いに関する自主的な措置を取ることを求めるものにすぎず,その撤去を強制するものということはできない。そして,前提事実…のとおりの本件リストの作成及び配布も,本件要請に付随する事実行為にすぎないというべきである。
そうすると,本件要請は,その直接の相手方であるコンビニ各社に対してすら本件コミック等の撤去を強制するものではないのであるから,その直接の相手方ではなく,本件コミックの原作者にすぎない原告の執筆活動,その作品の公表及び販売等を規制するものということは到底できない。コンビニ各社による本件コミックを含む暴力団を題材とするコミックや雑誌等の販売中止及び店頭からの撤去がコンビニ各社の自主的な判断に基づくものであることは上記アのとおりである上,仮に,原告が主張するとおり,本件要請を知った出版社等が原告の作品の出版等を断るなどしたとしても,それは当該出版社等の判断によるものと捉えるべきであり,したがって,これらは,本件要請の直接の効果とはいえず,その事実上の影響という範囲に止まるものである
 そうすると,本件要請は,原告の表現活動を制限するものではなく,原告の表現の自由を侵害するものということはできない
(2) 名誉棄損及び人格的利益の侵害について
ア 名誉棄損について
() …によれば,原告の名前やその作品名は本件リストに挙げられておらず,本件コミックの原作者が原告であることは,本件リストの記載からは明らかではないことが認められる。また,本件証拠上,一般人が,本件コミックの原作者が原告であることを理解できたといえるような事情もうかがわれない。
 そうすると,前提事実…のとおりの本件要請文書及び本件リストの記載について,一般人の普通の注意と読み方を基準としてその意味内容を解釈すれば,本件リストに挙げられた本件コミック等が青少年の健全育成を害する暴力団関係書籍等に当たると県警が判断した,というものにすぎず,本件コミックと原告との関連性については明らかではないから,本件要請文書及び本件リストの記載内容をもって,原告の社会的評価を低下させるものということはできない
() また,前提事実…とおり,本件要請及び本件リストの配布は,コンビニ各社に対してされたものであり,不特定多数人を対象としてされたものではない。そして,本件要請文書及び本件リストの上記内容に加え,前提事実…のとおり,本件リストが,コンビニ各社からの求めに応じてその自主的判断の参考に供する趣旨で作成されたものであり,これを配布する際,県警からコンビニ各社に対し,その旨の説明がされていることなどからすると,本件要請がされたこと自体について伝播する可能性はあるものの,本件リストに本件コミックが挙げられており,その原作者が原告であることについて,伝播する可能性はなかったというべきである。なお,…によれば,本件要請に関する新聞等は,本件リストに挙げられた具体的な作品名やその作者及び原作者等については,これを報道していないことが認められる。
() したがって,本件コミックの内容を検討するまでもなく,本件要請並びに本件リストの作成及び配布が,原告の名誉を毀損し,違法であるということはできない
イ 人格的利益の侵害について
() 前記(1)のとおり,本件要請は,原告の表現活動を法的に制限する効果を伴うものとはいえないものの,本件要請及び本件リストの交付を受けたコンビニ各社は,本件コミック等をコンビニの店頭から撤去するなどしており,また,そのことを知った出版社等が,原告の作品等を取り扱うことを自粛したりすることにより,原告の表現活動に何らかの支障を生ずることがあり得るといえる。
 そこで,憲法の保障する精神的自由の一つとしての表現の自由の重要性に鑑み,本件要請並びに本件リストの作成及び配布が原告の人格的利益を侵害する違法なものかどうかを判断するに当たっては,被侵害利益の内容及び性格,本件要請並びに本件リストの作成及び配布の目的の正当性,手段の相当性等を吟味した上で,総合的に判断すべきである。
() 本件で具体的に問題となる原告の利益は,原告の作品を原作とする本件コミックが,県警から干渉されることなく,コンビニで販売される利益であるといえる。このような利益は,原作である原告の作品において,その思想等を表現するという意味で,主に個人的な価値に支えられる表現の自由から派生するものとして法律上保護される利益といい得るとしても,本件コミックの販売の点では経済的利益の側面もあり,かつ,その社会的価値の視点をも前提にすると,個人が言論活動を通じて自己の人格を発展させ,言論活動によって国民が政治的意思決定に関与するという,表現の自由の核心部分からは遠く,その価値とその表現の保護の必要性は,相対的には必ずしも高いとはいえない
() 他方,本件要請並びに本件リストの作成及び配布の目的は,青少年が,暴力団関係書籍等による影響を受け,誤った憧れを抱いて暴力団に加入することを防止するというものであって,前提事実…の経緯及び本件要請文書中にも記載されている近時の状況を前提にする限り,そのような重要な社会的利益の保護を目的とすること自体,極めて正当であり,かつ,その必要性が高いものということができる。
() そして,上記目的達成のための手段である本件要請は,前記(1)アのとおり,コンビニ各社に対し,暴力団関係書籍等の取扱いに関する自主的な対応を求めるものにすぎず,その撤去を強制するものではない。また,前提事実…のとおり,本件リストは,県警が積極的に作成したものではなく,コンビニ各社からの求めに応じて,その自主的判断の参考に供する趣旨で作成及び配布されたものであり,県警からコンビニ各社に対してその旨の説明もされている。なお,原告は,本件リストは恣意的に作成されたものであると主張するが,これを認めるに十分な証拠はない。
 これらの事情からすれば,前提事実…のとおりの,コンビニ各社への本件要請の過程におけるその担当者からの要望をきっかけとした県警による本件リストの作成については,その方法に安易かつ杜撰な面があったといわざるを得ないことを考慮しても,本件要請が上記目的達成のための手段として相当性を欠くと断ずることはできない
() 以上の事情を総合考慮すると,本件要請並びに本件リストの作成及び配布が,原告の人格的利益を侵害する違法なものであるということはできない
(3) 適正手続違反等について
一般に,憲法31条の定める法定手続の保障は,直接には刑事手続に関するものであるが,行政手続については,それが刑事手続ではないとの理由のみで,そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではなく,行政処分の相手方に事前の告知,弁解,防御の機会を与えるかどうかは,行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合衡量して決定されるべきものと解される(最高裁平成471日大法廷判決参照)。
 これを本件についてみると,本件要請は,前記(1)及び(2)のとおり,コンビニ各社に対し自主的な対応を要請するものにすぎず,本件リストの作成及び配布も,本件要請に付随する事実行為であって,原告の権利又は人格的利益を侵害するものではないから,原告に対する事前の告知等を与える必要はないというべきである。
 
したがって,本件要請並びに本件リストの作成及び配布に憲法31条の保障は及ばないから,この点に関する原告の主張には理由がない。
イ 原告は,本件要請は法的根拠に基づくものではないから違法である旨を主張する。
 しかし,警察法21項が,「犯罪の予防」を警察の責務として定めていることに照らすと,これに必要な警察の諸活動は,強制力を伴わない任意手段による限り,一般的に許容されるものと解される(最高裁昭和55922日第三小法廷判決参照)。そして,「犯罪の予防」には,青少年が暴力団に加入することを防止することも含まれるというべきであるところ,前記(1)アのとおり,本件要請は強制力を伴うものではなく,本件リストの作成及び配布は,本件要請に付随する事実行為にすぎないというべきであるから,本件要請並びに本件リストの作成及び配布は,警察法21項に基づくものとして許容されるというべきである。
 したがって,原告の上記主張には理由がない。
ウ また,原告は,県警が本件要請をするに当たって行政指導指針を作成していなかったことなどをもって,福岡県行政手続条例34条及び37条に違反した違法があるなどと主張する。
 しかし,前提事実…とおり,本件要請は,原告に対してされたものではなく,コンビニ各社に対してされたものであることなどからすると,行政指導指針が作成されなかったからといって,原告の何らかの法律上保護された利益が侵害されるものではなく,国家賠償法11項の違法があるということにはならない。
 したがって,原告の上記主張は,失当であるといわざるを得ない。
エ さらに,原告は,本件要請は福岡県青少年健全育成条例における有害図書の指定の厳格な手続を潜脱するものであって許されないなどと主張する。
 しかし,上記(1)アのとおり,本件要請はコンビニ各社に対し任意の対応を求めるものであり,罰金又は科料による制裁の下に青少年に対する販売等が禁止されることとなる同条例における有害図書の指定(同条例16条,3841号)とは,その性質を異にすることは明らかである。
 したがって,原告の上記主張は,失当である。
(4) 小括
 以上のとおりであって,本件要請並びに本件リストの作成及び配布に国家賠償法11項の違法があるということはできない。
2 結論
 
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないことが明らかであるから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。











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