著作権重要判例要旨[トップに戻る]







編集プロダクション(編集請負業者)の著作権侵害回避義務を認定した事例
「自衛隊ムック本事件」
平成241015日東京地方裁判所(平成22()28318 

【コメント】本件は、@原告が、被告に対し、被告との間で「自衛隊百識図鑑」(以下「本件ムック本」という。)の編集委託契約(以下「本件委託契約」という。)を締結し、本件ムック本が発売されたにもかかわらず、被告が委託手数料を支払わない旨主張して、本件委託契約に基づく委託手数料として残金1785000円(附帯請求として約定の支払日の翌日である平成21126日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)の支払を求めた(本訴)のに対し、A被告が、原告に対し、著作権侵害の疑念がある本件ムック本の原稿データを編集・制作した旨主張して、本件委託契約の債務不履行に基づく損害賠償として5706741円(附帯請求として反訴状送達の日の翌日である平成221130日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)の支払を求めた(反訴)事案です。

 なお、本件においては、次の前提事実があります。
       原告は雑誌・ムック本の編集請負を主要な業務とする会社であり、被告は出版を主要な業務とする会社である。
       原告と被告は、平成209月中旬ころ、本件委託契約を締結し、被告は、原告に対し、委託手数料の内金80万円を支払った。
       原告は、被告に対し、平成201023日頃、本件ムック本を編集・制作した原稿データを納品した。被告は,同月30日、本件ムック本(「自衛隊百識図鑑」)を発売した。
       財団法人防衛弘済会(以下「防衛弘済会」という。)は、平成21223日、被告に対し、同月19日付け通知書をもって、本件ムック本について、防衛弘済会が著作権を有する「知っておきたい!!自衛隊100科」(以下、「自衛隊100科」という。)と構成、内容が類似しているとして、「対象本(判決注:本件ムック本を指す。)においては,100項目という構成の類似性もさることながら,100項目のうち,70以上の項目において,通知人本(判決注:「自衛隊100科」を指す。)と同様ないし,類似した項目が立てられています。また,対象本には,通知人本の文章の言い換えを行う等の手法により記載されたと思われる類似文章が非常に多く見られ,対象本が通知人本を模倣して記載されていることは明らかといわざるを得ません。」などと主張し、本件ムック本の販売停止等を要求した。
 ・ 防衛弘済会は、平成217月、被告を債務者として、被告が「自衛隊100科」の著作権を侵害している旨主張して、本件ムック本の販売等の禁止を求める仮処分命令を申し立てた(「本件関連仮処分」)。その後、防衛弘済会は、本件関連仮処分を取下げ、平成223月、被告に対し、同様の主張をして、約729万円の損害賠償を請求する訴訟を提起した(「本件関連訴訟」)。本件関連訴訟は、原告が補助参加した後、和解により終了した。 


1 原告の委託手数料請求の可否について
 本件委託契約では,委託手数料を250万円(消費税別)と定め,その支払について,契約時に内金80万円を支払い,残額170万円は,発売日の属する月の翌々々月25日に支払う旨が定められ,本件ムック本は,平成201030日に発売されたのであるから,被告は,原告に対し,平成21125日限り,残額1785000円(消費税込み)の支払義務があったと認められる。
 したがって,原告の本件委託契約に基づく委託手数料請求は理由がある。
2 原告の債務不履行の有無について
(1) 前提事実に加え,後掲の証拠等によれば,以下の各事実がそれぞれ認められる。
 (略)
(2) 以上に基づいて,原告の債務不履行の有無について検討する。
ア 上記(1)において認定した事実によれば,本件委託契約においては,原告と被告の担当者との間で,初心者を読者として想定した陸海空の自衛隊が分かるような内容を基本線とし,マニアックな内容も入れたムック本を制作するという基本的な内容についての合意がされた。しかし,その後の制作の経緯及び著作権侵害の指摘を受けた後の原告の説明内容によれば,実際の編集・制作作業は専ら原告によって行われ,参照図書の選択及びその参照方法,本件ムック本の全体の構成,各章の編成方法等は原告によって決定され,校正作業も原告に委ねられたものと認められる。
 上記のような事実関係に照らせば,原告は,本件ムック本の制作において当然行われるべき,類似図書との対比による著作権侵害のおそれの回避作業を,被告から委ねられていることを前提とした作業をしているものと認められ,本件委託契約において,原告は,委託者である被告に対し,合理的にみて著作権侵害の疑いがある書籍を編集・制作しない義務を負っていたものと認めるのが相当である。
イ そこで,原告が上記義務を履行したものといえるかについて検討する。
 本件ムック本と「自衛隊100科」は,いずれも自衛隊に関する情報を提供することを目的とする出版物であるから,「自衛隊100科」に記載された客観的な情報が本件ムック本において記述されていたとしても,それだけでは直ちに不自然であるとはいえない。しかしながら,別紙対照表をみるに,本件ムック本の記載のうち,「自衛隊100科」の著作権侵害と指摘された箇所は多数である上,表現が異なる部分もあるものの,語句を入れ替えた程度にすぎない部分も多い。
 そうすると,著作権侵害と指摘された箇所の大部分が客観的な情報に関する記述であることを考慮したとしても,当該箇所は「自衛隊100科」に依拠したものと認めるのが相当であり(上記のとおり,原告は,本件ムック本の原稿データの編集・制作に当たり,「自衛隊100科」を参考としたことを認めている。),本件ムック本は合理的にみて著作権侵害の疑いがある書籍であったというべきである。
 そして,このような合理的にみて著作権侵害の疑いがある書籍については,紛争が生じるおそれがあるために,通常の形態での販売が困難であることは明らかであり,実際に,本件ムック本については,防衛弘済会と被告との間で紛争が生じ,被告は本件ムック本の出荷を停止している
 そうすると,本件ムック本については,最終的に表現において類似性が認められないために著作権侵害とされない箇所があるとしても,合理的にみて著作権侵害の疑いがある書籍であったから,本件ムック本の原稿データを編集・制作した原告は本件委託契約の債務の本旨に従った履行をしていない(不完全履行)というべきである。
ウ これに対し,原告は,被告が「自衛隊100科」の存在,内容を知っており,原告の原稿をチェックできた旨を主張する。しかしながら,原告の主張に沿って検討しても,上記(1)の本件ムック本が発売されるまでの事情や原告の本件ムック本の制作状況についての説明から,被告が「自衛隊100科」の存在を知っていたとは認められないし,その他これを認めるに足りる証拠はない。加えて,被告は,原告が印刷会社に入稿した後に,本件ムック本の原稿データを受領しており,本件ムック本が発売されるまでに原稿データを精査する時間は残されていなかったと解されるから,原告の主張は理由がない。
 また,原告は,本件ムック本が「自衛隊100科」に対する著作権侵害の疑念を生んだだけで契約の目的が達成できない欠陥があったとはいえない旨主張するが,上記イのとおりであるから,原告の主張は理由がない。
(3) 以上のとおり,原告は本件委託契約の債務の本旨に従った履行をしていない(不完全履行)と認められる











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