著作権重要判例要旨[トップに戻る]







提訴会見日後の当該参加者(記者等)へのDVDの配布行為の適法引用性が問題となった事例
「‘霊言’のDVD頒布事件」平成240928日東京地方裁判所(平成23()9722 

【コメント】本件は、宗教法人である原告が、その代表役員の配偶者である被告に対し、所定の動画映像(以下、「本件各霊言」という。また,本件各霊言を収録したDVDを「本件DVD」という場合がある。)について、原告の著作権(複製権・頒布権)が侵害された旨主張して、著作権法1121項に基づく差止請求として、本件DVD、その活字起こし文書及びワープロソフトデータファイルの複製又は頒布の禁止、不法行為に基づく損害賠償金等の支払を求めた事案です。

 なお、本件においては、次の「前提事実」があります:

(3) 被告の記者会見とその後の対応
 被告は,平成23224日,原告代表役員及び原告に対する名誉毀損を理由とする損害賠償請求訴訟(当庁同年(ワ)第…号事件,以下「本件名誉毀損訴訟」という。)を提起し,同月25日,本件訴訟の被告訴訟代理人であるH弁護士(以下,単に「被告代理人」という。)を伴って,都内のホテルにおいて,本件名誉毀損訴訟の提訴記者会見を行なった(以下「本件記者会見」という。)。本件記者会見には,20数名のマスコミ(テレビ局4社,週刊誌記者,フリージャーナリスト等)が出席し,訴状の概要を記した書面が配布され,被告及び被告代理人による口頭説明が行われたが,本件名誉毀損訴訟において証拠として提出された本件DVD及びその活字起こし文書については上映や配布などは行われなかった。
 その後,被告は,本件DVDとその活字起こしのワープロソフトデータファイルが収められたCD-Rを複製し,平成23226日付け書簡を同封した上で,宅配便により本件記者会見の出席者全員に対して本件DVDCD-Rを送付して頒布した(以下「本件複製頒布行為」という場合がある。)。』 


 本件複製頒布行為が著作権法321項の引用に当たるかについて
(1) …によれば,以下の各事実がそれぞれ認められる。
 (略)
(2) 以上に基づいて,本件複製頒布行為が著作権法321項の引用に当たるかについて検討する。
ア 被告は,本件複製頒布行為が著作権法321項の引用に当たるとして,本件記者会見における説明,批判,反論等(説明資料である「訴状の概要」を含む。)が引用表現であり,本件各霊言が被引用著作物である旨主張する。
 著作権法321項は,「公表された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定するから,他人の著作物を引用して利用することが許されるためには,引用して利用する方法や態様が,報道,批判,研究等の引用するための各目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであり,かつ,引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要である。
 本件においては,引用する側の表現であると主張する本件記者会見における(配布資料を含む)説明,批判,反論等と被告が引用される表現であると主張する本件各霊言及びその活字起こしファイルとは,同時ではなく1日又は数日の時間的間隔を置いて伝えられたものであり,また伝達媒体としても異なるところから,これらを理由として,著作権法321項の「引用」に当たらないと解する余地もあると考えられるが,以下においては,仮に「引用」に当たるものとして,同項の他の要件について検討する。
イ まず,引用の目的上正当な範囲で行われたものか,すなわち,引用して利用する方法や態様がその目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるかについて検討する。
 上記(1)のとおり,本件記者会見では,約1時間にわたり,「訴状の概要」を説明資料として,本件名誉毀損訴訟に至る経緯,内容等について説明されたものと認められる。そして,その中心的な内容である,本件各霊言による被告の名誉毀損については,「訴状の概要」において,1頁を25行で構成し,1行当たりの文字数37文字で構成された同書面の615頁において,丸数字で示されている。その丸数字の箇所は,本件霊言1につき28箇所,本件霊言2につき38箇所(本件各霊言の合計で179行)であり,1行文字数37字で換算すると,6623字である。これに対し,本件霊言1103分の動画映像,本件霊言2117分の動画映像であり,その間,登場人物がほとんど間隙なく,通常の会話の速度で,質問とこれに対する回答という形式で話し続けているものであり,その反訳文(1行当たり40文字のもの)において,本件霊言1は約73000字,本件霊言2は約74000字であり,その合計は約147000字である。なお,「訴状の概要」自体において,本件各霊言における原告代表役員の発言がその言語的表現として引用されているから,本件各霊言のうち,「訴状の概要」に記載されている部分は既に引用済みであり,その後本件DVD等が配布されたからといって,その部分については,新たに引用されたものとは認め難い。しかし,「訴状の概要」において引用された言語的表現部分においても本件DVDではその音声部分や映像部分が新たに利用されていると考えられるから,既に「訴状の概要」において引用されていた言語的表現部分を除いた本件DVD全体について,引用の要件を検討することとする。また,本件DVD映像の言語的表現部分を活字起こししたCD-Rにおける表現については,言語的表現部分のみであるから,「訴状の概要」で引用された部分については引用には当たらないことになり,その他の部分について引用の要件を検討することになる。
 上記の量的な対比からも明らかなとおり,「訴状の概要」を含む被告の説明,批判,反論において名誉毀損として具体的に摘示されている箇所は本件各霊言全体であるとは認められず,むしろその一部分にとどまる。しかも,前記のとおり,本件各霊言中には,被告が名誉毀損と主張する内容とは直接関係のない内容のものが多く含まれている。
 このように,被告が名誉毀損と主張する部分が,本件各霊言の一部にすぎないことや,名誉毀損とは関係のない内容も多数含まれていることからすれば,本件各霊言全体を複製・頒布して利用した本件複製頒布行為について,上記の説明,批判,反論等の目的との関係で,社会通念に照らして正当な範囲の利用であると解することはできない
 これに対し,被告は,本件各霊言が「霊言」という特殊な形態と内容により行われ,動画映像の視聴によって初めてその趣旨や権利侵害の事実を正確に理解し得るといえること,名誉毀損的言辞がほぼ全編にわたって貫かれていること等からすれば,本件複製頒布行為が説明と反論という引用の目的上当然に正当な範囲内のものと認められるべきである旨主張する。
 しかしながら,本件各霊言が「霊言」という特殊な形態と内容により行われたものであっても,被告が名誉毀損と主張するのは,個々の言語的表現であり,本件各霊言全体を視聴しなければ,被告が指摘する名誉毀損の箇所を理解できないものではない。また,被告は,本件記者会見において,「訴状の概要」を配布したほか,口頭での説明も付加しているのであるから,本件各霊言の全体の趣旨についても口頭で説明することが可能であったと認められる。そうすると,被告が主張するような理由によって本件複製頒布行為が「引用の目的上正当な範囲内」であるとは認められない。
 被告は,引用の同一機会に,同一の伝達手段で提示されたものではない本件のような場合には,分量論は意味をもたないと主張する。しかしながら,たとえ同一の機会等でないとしても,原告において被引用著作物が引用著作物と関連づけて理解されるものであると主張する以上,引用の正当性を判断するに当たって,その両者の分量を考慮の一要素とする必要があると考えられるから,被告の主張は採用できない。
ウ 次に,原告の主張する引用が公正な慣行に合致するものであるかについて検討する。
 本件DVD等は,被告の主張によれば,「訴状の概要」を含む被告の説明,批判,反論がされた本件記者会見の翌日に,原告の主張によれば本件記者会見の翌週に,記者会見に参加した報道関係者等に配布されたものである。しかも,被告の陳述書によれば,被告は,記者会見終了後に,記者会見の出席者が原告代表者が行う「霊言」というものをきちんと理解してもらえたかという気がかりを生じ,その気がかりを解消するために本件DVD等を報道関係者等に送付する必要を感じ実行したものと認められるから,本件記者会見の席上においては,本件DVD等を,後日,記者会見における説明等に必要なものとして配布する旨を述べていなかったものと認められる。
 このような本件DVD等の配布の時期,本件記者会見当日における説明内容に照らせば,本件複製頒布行為が公正な慣行に合致するものと認めることもできない
 被告は,例えば,相手方当事者の著作物が自らの著作権その他何らかの権利を侵害しているとして訴訟を提起し,提訴会見を開くような場合に,相手方当事者の著作物を複製して開示し,侵害の具体的態様や自らの主張するところを説明することは,日常,当然のように行われているところであり,記者会見における配付資料として,自己の権利を侵害する著作物を配布し利用することは,世上極めて頻繁に目にするところであり,明らかに公正な慣行に合致するものである旨主張する。
 被告の主張は,提訴者が著作権侵害であると主張する相手方当事者の著作物について,提訴会見における複製・開示行為全般を公正な慣行に合致すると主張するものと解されるが,そのような複製・開示行為について限定を付することなく許容する公正な慣行は存在しないというほかないから,被告の主張は理由がない。
(3) したがって,本件複製頒布行為が著作権法321項の引用の要件を満たし,適法に行われたものであるとは認められない。











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