著作権重要判例要旨[トップに戻る]







譲渡契約の解釈(15)-著作権譲渡条項の有効性が問題となった事例-
「司法書士受験講座講師業務委託契約事件」平成240928日東京地方裁判所(平成23()14347 

【コメント】本件は、原告が、「被告書籍」のうち、別紙対比表の黄色マーカーで特定した部分(「被告書籍マーカー部分」)は、「原告書籍」中、別紙対比表の黄色マーカーで特定した部分(「原告書籍マーカー部分」)の複製に当たるものであるから、被告が、被告書籍を販売・頒布する行為は、原告の複製権(著作権法21条)及び譲渡権(同法26条の2)を侵害するものであるなどと主張して、著作権法1121項に基づき、被告書籍の販売・頒布等の差止め等を求めた事案です。 

 原告書籍に関する著作権譲渡契約の成否について
(1) 原告書籍に関する著作権譲渡契約の成否に関し,前記前提事実に加え,…によれば,以下の事実が認められる。
 (略)
(2) 以上の事実に照らし,原告書籍に関する著作権譲渡契約の成否について検討する。
ア 前記…のとおり,原告書籍は,被告が平成9年ころから順次作成した本件講義ノートの一部であるが,原告書籍は,平成22年から平成23年にかけて原告において開講された講義で使用されたものであり,上記講義は,前記…の業務委託規約に係る業務委託契約に基づき行われたものである。そこで,まず,上記業務委託契約に基づく著作権譲渡の成否についてみると,上記規約第5条には,前記…のとおり,「乙は,委託業務の遂行に伴い,乙が行った講義を収録した収録物…並びに乙が講義に関係するか否かを問わず制作した原稿…及びこれを使用した書籍・テキスト・レジュメその他の制作物(以下,「本制作物」といい,他人の制作物と合わせて一つの制作物(教材)とする場合を含みます。以下同じです。)の著作権(著作権法第21条〜第28条に定める全ての権利。以下,同じです。)を,発生と同時に甲に譲渡するものとします。」との定めがある。
 上記条項は,原被告間において,業務委託契約に基づき被告が行った講義の収録物及び被告が業務委託契約の遂行に伴い作成した制作物の著作権を原告に帰属させる旨を定めたものであるところ,原告書籍は,前記…のとおり,被告が原告における講義で使用するために作成したものであり,平成22年から平成23年にかけて開講された講義において実際に使用されたものであって,被告が業務委託契約の遂行に伴い作成したものに当たるから,上記条項の「本制作物」に含まれ,原告書籍の著作権(なお,その著作物性の有無については争いがあるが,仮に著作物性が認められるとした場合の著作権の帰属の問題として論じることとする。)は,上記条項により,遅くとも前記…の契約期間において,原告に譲渡されたものと認められる
イ この点に関し,被告は,前記…の条項を含む一連の本件著作権譲渡条項は無効であり,また,仮に有効であるとしても,原告書籍を含む本件講義ノートは上記条項の対象には含まれず,又は,原被告間に,本件講義ノートを本件著作権譲渡条項の対象から除く旨の合意があったと主張するので,これらの点について検討する。
ウ 本件著作権譲渡条項の有効性について
() 本件著作権譲渡条項の文言は,前記…のとおりであり,@平成10年から平成14年までにおいて,「委託業務の過程で発生した著作権」を,A平成15年から平成18年までにおいて,「委託業務に関してスタッフに発生した著作権」を,B平成19年から平成22年までにおいて,「委託業務の遂行に伴い,乙が行った講義を収録した収録物並びに…原稿及びこれを使用した書籍・テキスト・レジュメその他の制作物の著作権」を,それぞれ,原告に譲渡する旨定めたものであり,いずれも,その対象を委託業務に関して作成された著作物に限定するものであることが認められる。
 この点,前記…のとおり,原告において,委託業務の内容は,「業務計画書」に記載されるほか,毎月交付される「発注書」に,細目にわたって内容が記載されていたことが認められるのであるから,当事者において,委託業務の内容を明確に特定し,認識することが可能であったと認められるのであって,上記委託業務に関し作成された著作物を特定することも,当事者において,十分に可能であったものと認められる。そうすると,本件著作権譲渡条項が,対象の特定性・明確性を欠くものとは認められず,対象の不特定・不明確を理由として,本件著作権譲渡条項が無効となるものとは認められない
() また,本件著作権譲渡条項の趣旨及び内容についてみると,原告は,ライブ講義の実施,講義DVD等の販売,インターネット上での講義の配信等に伴う講義資料の印刷製本,データ化,受講生への配布・発送,インターネット上での提供等の営業を円滑に行うため,本件著作権譲渡条項を設けている旨主張している。原告が,教室における直接講義(いわゆる「生クラス」),教室におけるビデオ講義(「ビデオクラス」),個別モニターによる講義(「LTVクラス」),ウェブ上におけるダウンロード又はDVDによる講義(「通信クラス」)など,種々の講義形式を採用していること,講義資料等の著作権を制作者が有するものとした場合,上記各形式による講義の実施に伴う資料の配付等に不都合が生じ得るものと考えられること等を考慮すると,上記目的は一定の合理性を有するものということができる。また,著作権譲渡条項の趣旨・目的が上記のとおりのものであることを考慮すれば,上記ウ()でみた本件著作権譲渡条項の対象が不必要に広すぎるものともいうことができない
() なお,本件著作権譲渡条項には,平成19年まで対価の定めがなく,平成20年以降は,「前項に基づく著作権譲渡の対価は,業務計画書及び発注書に基づく当該収録講義実施,または,当該本制作物の制作に関する委託料に含まれるものとし,甲の講義収録物及び本制作物…の使用・頒布に関し,乙は甲に対して,当該委託料の他に何らの金銭も請求しないものとします。」と定められており,著作権譲渡の対価を,委託業務に係る報酬に(すなわち,当該著作物が,個別の制作業務委託に基づき制作されたものである場合には当該制作業務報酬に,講義業務に伴い制作されたものである場合には当該講義報酬に)各含める旨規定していることが認められる。
 本件著作権譲渡条項が,その対象を委託業務に関し作成された著作物に限定するものであることに鑑みれば,上記譲渡対価を委託業務報酬に含めることも合理性を有するものということができ,この点をもって,上記条項自体を不合理なものということはできない
() この点に関し,被告は,本件講義ノートが本件著作権譲渡条項の対象に含まれるとすれば,その量及び内容に鑑み,対価支払がないことは不当かつ不合理であると主張する。
 しかし,前記…のとおり,本件講義ノートは,被告が,原告における委託業務である司法書士試験受験対策講座を実施するに当たり使用する資料として作成されたものであり,講義を行うための準備の一環として作成されたものとみることができるものである。そして,前記…のとおり,被告の講義に係る委託報酬金額は,年を追う毎に順次増額されている上,その受ける報酬額は,多いときで年額1100万円程度にも及び,その大部分を講義報酬が占めていたことを各指摘することができる。上記のとおり被告の報酬額が経年的に順次増額され,かつ,多数の講義を任されるなどして多額の報酬を得ることができたのは,被告の講義が受講生らに好評を得て,多数の受講生らを集めることができたことなどに起因するものであるとみることができるが,前記…でみた事実に鑑みれば,被告が,本件講義ノートを作成し,経年的にその内容を充実させ,これを利用して講義を行ったことが,被告の講義が上記のとおり評価され,多数の受講生を集め得た大きな要因となっていたことがうかがわれるところである。そうすると,本件講義ノートの作成と,被告が原告から受けた報酬とは密接に関連しているものということができ,その総額が多額に上るものであることにも鑑み,本件講義ノートの対価が,講義報酬に含まれるものとみることが,本件講義ノートの価値に比して不当であり,又は,被告にとって著しく不利益若しくは不合理なものであるとはいえないというべきである。
() なお,被告は,本件著作権譲渡条項により本件講義ノートの著作権が原告に譲渡されるとすれば,下請法及び独禁法に違反することになる旨も主張する。しかし,前記(2)アのとおり,本件講義ノートは,講師業務の委託に伴い制作されたものであるところ,同業務委託に下請法の適用があるとしても,同法に違反する点は見当たらない。また,上記()でみたところによれば,本件著作権譲渡条項が,被告にとって,著しく不利な条件であり,又は原告が被告との関係で優越的地位にあるともいえないから,本件著作権譲渡条項が,独禁法に反するものであるとも認められない。
() 以上のとおり,本件著作権譲渡条項が,その目的及び内容において不当又は不合理なものであるとは認められず,強行法規に反するものであるとも認められない上,前記…でみた事実関係に鑑み,被告が,上記条項を不当に強制されたなどの事情も認めることができない。
() したがって,本件著作権譲渡条項が公序良俗に反し無効であるとは認められない。これに反する被告の主張は採用しない。
エ 原告書籍が著作権譲渡条項の対象に含まれることについて
() 原告書籍が前記…の著作権譲渡条項の対象に含まれることは前記(2)アでみたとおりである。なお,前記ウでみたところによれば,本件著作権譲渡条項の対象から講義ノートを除外して解釈しない限り,本件著作権譲渡条項が無効となるものとも認められない。
() 被告は,原被告間の従前の経緯に鑑みれば,本件講義ノートは本件著作権譲渡条項の対象から除外されると解釈すべきであり,又は,本件講義ノートをその対象から除く旨の合意があったと主張する。
 確かに,前記…のとおり,平成229月以降の業務委託契約更新に関わる交渉の中で,原告が,本件講義ノートにつき対価を支払う旨や,その著作権を共有とする旨の提案をしたことが認められるところであって,これらの行動は,本件講義ノートの著作権が,本件著作権譲渡条項により,その作成の都度原告に譲渡されたとすることと必ずしも整合しないものということができる。
 しかし,前記…でみた経緯に鑑みると,原告の上記各提案は,被告との間の業務委託契約更新に向けた交渉の中で,被告に対する説得材料としてなされたものにすぎず,上記各提案に関係した者において,上記のとおり対価を支払う対象と,著作権が共有となる範囲が一致するのかどうか,上記対価支払と著作権が共有になることが法的に関連するのか否か,上記各提案が,従前の法律関係と整合するものかどうかなどの点に関し,統一的な認識をもった上で,各提案をしたものではないことがうかがわれるばかりか,著作権を共有とする旨の提案をするに際して,対価支払の提案については,認識すらしていなかったというのであって,上記各提案が,従前の法律関係を正確に反映してなされたものとは認められない。そうすると,上記提案がなされた事実をもって,平成10年以降の業務委託契約時点において,原告が,本件講義ノートを本件著作権譲渡条項の対象から除く意思であったと推認するのは相当ではないというべきである。
() また,被告は,従前,原告との間で,本件著作権譲渡条項を形式的なものとする旨の合意があった旨も主張するところ,原告との間の契約更新に関わるやり取りにおいて,被告が,一貫して,従前の担当者から契約終了後において本件講義ノートを用いた被告の活動は制限されない旨聞いていた旨述べていることなどに鑑み,被告と原告担当者との間で,上記趣旨のやり取りがあったことがうかがわれるところである。しかし,上記担当者発言が原告において決定権を有する者の意向に基づきなされたものであるか否かは,本件各証拠によっても明らかではない上,上記発言の内容・趣旨も明確ではなく,本件著作権譲渡条項の対象から本件講義ノートを除外し,又は,本件著作権譲渡条項を無効とする無効とするべき意思表示に当たると認めるに足りるものではない。
() したがって,本件講義ノートが本件著作権譲渡条項の対象に含まれず,又はこれを除外する合意があったと認めることはできない。これに反する被告の主張は採用しない。











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