著作権重要判例要旨[トップに戻る]







著作者の「推定」を覆した事例(4)-学術論文における共著者の表示が問題となった事例-
「コンピュータ研究論文事件」平成241206日大阪地方裁判所(平成23()15588 

2 論文@及び論文Aに係る著作権,著作者人格権の帰属について
1) はじめに(論文の共著者の表示による推定)
 前提事実のとおり,論文@及び論文Aの共著者として,原告の氏名が表示されており,著作権法14条により,原告は,論文@及び論文Aの共著者と推定される。
 しかし,後記()のとおり,原告は,上記各論文の執筆に直接関与していないことを自認しているというべきであり,後記(3)(4)の事情も総合すると,上記推定は覆滅されているというべきである。
 以下,詳述する。
2) 論文の執筆者
 (略)
3)学術論文における共著者の記載のあり方
 ところで,学術論文における共著者の記載のあり方について,次のとおり,東大大学院情報学環学際情報学府の学生(博士課程を含む)向けの解説がある。
 「修士論文や博士論文は著者が一名となる単著ですが,対外的に論文を発表する場合は,指導教員や共同で研究した研究者を共著者に含めることも多くなります。共著者は,主著者とともに共同で研究に貢献し,論文内容を説明でき,それに関する質問に応じることができる人です。また共著者も論文内容について責任を負うことになります。
 単著以外の論文を投稿する時は,過不足なく適切に共著者を選定して,全ての共著者に投稿前に論文原稿案を見て頂き,共著者になる了承を得ておかなければなりません。共著に加えておけば喜んでもらえるだろうと勝手に判断することは慎むべきです。共著者も論文の内容に責任を負うため,了承を得ずに投稿することはあってはならないことです。また,学会誌によっては採録の際に著者全員の許諾(サインなど)を求める場合がありますので,事後に思わぬトラブルを産む原因となります。
 なお,連名の場合の著者の順は,主著者を筆頭にし,貢献度の高い順に共著者を書くことが一般的です。単に組織上の地位を重視して配列するのはしてはいけないこととされています。」
 上記記載からすると,当該論文の執筆(創作行為)自体に実質的な関与がなくても,指導教員や共同で研究した研究者を,当該論文の共著者として表記することがあり得ることを前提としていることが窺える。
4)論文@及び論文Aの作成における実質的関与
 著作権法上の著作者は,「著作物を創作する者」であり,創作行為に実質的に関与していなければならず,本件においても,論文@及び論文Aの著作者の認定については,論文の執筆(創作行為)に実質的に関与しているか否かという観点から検討すべきである。
 しかし,論文@及び論文Aの執筆者の認定は前記(2)のとおりである。
 原告は,前記…のとおり,論文@及び論文Aの基礎となった研究成果や,引用された論文があり,原告が,これらの研究成果の形成や論文の作成において,主導的な役割を果たしたことから,論文@及び論文Aについても,著作者の1人であると主張するものと解される。
 これら,論文@及び論文Aの基礎となった研究成果や,引用された論文が,原告が被告大学を退職する以前,原告研究室に在籍する学生や研究者によって,形成されたり,作成されたりしたことから,原告が,これらの研究成果の形成や,論文の作成について,主導的な役割を果たしたことは十分に窺える。そして,原告が被告大学を退職したのは平成213月であるところ,論文@の発表は平成18年に,論文Aの発表は平成21年に行われており,これらが原告の指導の下,作成された可能性は否定できない。
 しかし,研究成果自体について著作権は成立しない。論文の引用は,著作権法32条の範囲で許されており,同条の範囲内の引用である限り,引用を理由に何らかの権利を取得するわけではない。
 また,前記(2)のとおり,論文@及び論文Aの実際の作成に当たって,原告がどのような関与をしたかについて,具体的な主張,立証はない。論文@及び論文Aの基礎となったとされる研究成果(論文)で,原告が共著者として挙げられている論文の多くにおいて,原告が著作者の1人であり,原告に著作権が帰属するものであることも,容易に推認することが可能であるものの,どの論文の複製,翻案が,論文@及び論文Aとなるのかは不明である。
 例えば,原告は,論文Aについて,甲25論文と甲26論文を再編集したものであり,甲26論文は,P5論文及びP6論文と同一であり,P6論文はP4論文(論文@)や原告の産学連携研究紹介資料を引用していると主張し,これらの論文を証拠として提出しているが,それらの具体的な比較や,複製,翻案であることについての説明はしていない。
5)小括
 以上によると,原告は,論文@及び論文Aの共著者として記載されてはいるが,前記(2)から(4)までに述べた事情を総合すると,原告を論文@及び論文Aの共著者であるとの推定は,覆滅されたというべきである。
6)原告の主張について
 論文@及び論文Aの著作権に関する原告の主張は,論文@及び論文Aが,原告及び原告研究室における研究成果を踏まえている以上,当該論文の著作権が原告にも帰属するというものであると解される。
 しかし,著作権法上の著作者というためには,前述したとおり,当該論文の執筆(創作行為)に,実質的に関与したか否かで判断すべきであり,原告の主張する事情のみをもって,当該論文の著作者であると認定することはできないというべきである。
 また,原告は,論文@及び論文Aに係る著作権の侵害を請求の根拠としているが,その一方で,最終準備書面においては,論文Aについて,新たな知見の追加はなく,創作性はなく,著作物性を認めることはできないとまで述べるに至っている。このことは,要するに,原告や原告研究室における研究成果こそが,本件請求の根拠となるべきものとして主張するもののようであるが,著作物の特定自体が,曖昧になってしまっているといわざるを得ない。
 (略)
4 著作者人格権侵害の有無について
1) 公表権侵害の有無
 原告は,被告2名が,論文A〜論文Cの共著者名に,被告P3を入れたものを作成,公表したことが,論文@及び論文Aの公表権を侵害したと主張する。
 しかし,前述したとおり,原告が論文@及び論文Aについて,著作権を有しているとは認められず,また,論文A〜論文Cが論文@及び論文Aの複製又は翻案であることの主張立証もないので,原告の主張は,その前提を欠くというべきである。
 なお,原告の上記主張は,論文@及び論文A自体の著作者人格権(公表権)の侵害があったとするものではなく,また,論文A〜論文Cに係る著作者人格権(公表権)の侵害があったというものでもない。
2) 氏名表示権侵害の有無
 原告は,被告2名が,論文A〜論文Cの共著者名に,被告P3を入れたものを作成,公表したことが,論文@及び論文Aの氏名表示権を侵害したと主張する。
 しかし,前記(1)と同様の理由により,論文@及び論文Aに係る氏名表示権の侵害の問題は生じないというべきである。
3) 同一性保持権侵害の有無
 原告は,被告2名が,論文A〜論文Cの共著者名に,被告P3を入れたものを作成,公表したことが,論文@及び論文Aの同一性保持権を侵害したと主張する。
 しかし,前記(1)と同様の理由により,論文@及び論文Aに係る氏名表示権の侵害の問題は生じないというべきである。
 なお,原告の上記主張からしても,原告は,論文@及び論文Aの内容についての改変を問題にしているわけでなく,むしろ,論文の作成に関与していない被告P3の氏名を共著者として記載することを問題にしているものであるが,このことは,同一性保持権の侵害とは関係がないというべきである。
4) 原告の主張について
 原告は,被告2名の行為が,論文@及び論文Aに係る原告の著作者人格権を侵害すると主張するに当たり,著作者人格権侵害であることの理由として,文部科学省のガイドラインや,東大における学生向けの解説などを引用する。
 
しかし,学術論文における共著者の表示が,必ずしも,著作権法上の著作者と同じ扱いがされているわけでないことは,前記2(3)のとおりであって,仮に,被告2名の行為が,上記ガイドラインや解説に反する点があるとしても,これが,直ちに,著作権法上の著作者人格権の侵害に該当するわけではない











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