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利用許諾契約の解釈(30)-包括的利用許諾の合意を認定した事例-
「‘週刊ホンダ’エンジン写真事件」
平成251225日知的財産高等裁判所(平成25()10076 

(3) 本件写真に係る著作権の譲渡の有無及び包括的利用許諾の合意の有無について
ア …によれば,次の事実が認められる。
() 1審原告は,平成16年頃から平成227月中旬頃まで,補助参加人の依頼を受けて,写真撮影を行い,撮影した写真フィルムないし電子データを納品し,補助参加人から,交通費のほか,報酬(日当名目)として122000円(平成198月頃からは25000円)を受領していた。本件写真の撮影された平成18年における補助参加人の依頼による第1審原告の撮影日数は合計108日間であり,それによって得た報酬は2376000円であった。
 1審原告は,平成16年以降,写真フィルムを用いて写真を撮影していた当時は,補助参加人から預かった写真フィルムにつき,撮影後自ら現像することなく,写真フィルムを補助参加人に渡しており,しかも,基本的にはその返還を求めておらず,個展で使用する際には,補助参加人代表者であるCに「使わせてください」と承諾を求めていたこともあった。
 また,補助参加人は,平成16年頃から平成227月中旬頃までの間に,多数回にわたり,第1審原告撮影の写真を二次利用した書籍を発行しているものの,その際には,第1審原告の承諾を得ることはしておらず,事後的に第1審原告に対し,補助参加人発行の書籍を贈呈しているだけである。これに対し,補助参加人のこのような二次利用に対して第1審原告が異議を述べたことはないし,利用料の請求をしたこともない。
 この点,第1審原告は補助参加人による二次利用に気付かなかった旨供述するものの,上記各書籍にはいずれも写真が第1審原告によるものであることを示す表示がされており,中にはタイトルの下に掲載された写真が第1審原告によるものであることが記載されているものや,写真撮影者として第1審原告のみが挙げられているものも存在することに加え,多数の第1審原告撮影の写真が二次利用されている書籍も存在することも併せ考えると,第1審原告の上記供述を直ちには採用し難く,第1審原告は,上記の写真の二次利用による書籍出版の事実を知っていたものと推認される。
() 補助参加人は,前記期間において,他社において出版される書籍について,第1審原告撮影の写真を二次利用する際にも,第1審原告からその都度承諾を得ることはしておらず,第1審原告がこれらの二次利用の際に新たに利用料等を請求した事実もない。
() Cは,尋問において,写真撮影者の採用面談の際に,撮影に関する権利は全て「買取り」であることを説明しているし,第1審原告の採用面談でも,撮影した写真が「買取り」であることを説明した旨供述している。Bは,その証人尋問において,補助参加人で勤務していた際には,カメラマンと初めて仕事をするときに,写真に関する権利は全て補助参加人のものになり,二次利用をしようがどのように使おうが補助参加人の自由である旨説明しており,第1審原告と初めて仕事をした時にも同様の説明をした旨証言している。
 上記2名の供述及び証言は,それぞれが説明の際に用いた具体的な文言は異なるものの,「買取り」という語の一般的な意味が「買って自分の物とすること」というものであることに照らすと,補助参加人の依頼を受けたカメラマンの撮影した写真の権利処理に関しおおむね同一の内容について説明したとするものであり,この点で符合しているほか,説明時の状況や内容について具体的に述べるものである。しかも,Bは,尋問の時点では既に補助参加人を退職している上に,二次利用の際には必ず写真家の名前を入れるようにしていたなどと,第1審被告らの本件訴訟における主張と必ずしも整合するとはいえない内容についても率直に証言している。
 他方,第1審原告は,C及びBから上記説明を受けたことを否定する供述をするものの,その供述内容は単に説明を受けたことを否定するにすぎないものである上に,Cとの面接の際の記憶もあまりない旨述べるなど,その供述を直ちには採用し難く,C及びBの供述及び証言の方がより信用できる。
 このC及びBの上記供述及び証言によれば,CBは,第1審原告に対し,写真に関する権利の「買取り」,あるいは写真に関する権利は全て補助参加人のものになり,二次利用をしようがどのように使おうが補助参加人の自由であることを説明したものであると認められ,両者間で同趣旨の合意があったものと推認される。第1審原告が,この合意を前提とした補助参加人の依頼を受けて,前記期間を通じて写真撮影を継続してきたことは,第1審原告が,補助参加人に対し,撮影した写真フィルムを渡し,その返還を求めておらず,また,平成16年頃から平成227月中旬頃までは,書籍の出版による撮影した写真の二次利用についても何ら異議を唱えておらず,その利用料も請求していなかったとの前記認定の事実とも符合する。
() 1審原告は,上記ア()の権利に関する包括的合意は存在しない旨の供述をし,(証拠)にもこれに沿う記載がある。しかし,第1審原告の供述を採用し得ないことは前記ア()のとおりである。
() …によれば,補助参加人は,平成208月頃,第1審原告に対し,第1審原告撮影の写真の複製物を,その被写体の提供者に対し交付することについて,承諾を求めているとの事実が認められる。
 しかし,補助参加人は,被写体の提供者等である第三者らが写真を欲しいと言った場合等,出版に利用されない,すなわち商業的利用とはいえない場合には写真撮影者にとって想像もし得ないような使われ方をされる危険性があることなどから,事前に写真撮影者の了承を得るようにしていたものであり,著作物の著作権が譲渡された場合であっても著作者人格権はそれに伴い移転するものではないことも併せ考えると,補助参加人が写真撮影者の了解を得ていたことは不合理なものとはいえない。そうすると,補助参加人が,第1審原告に対し,第1審原告撮影の写真について,その複製物を被写体の提供者に対して交付することの承諾を求めたとしても,そのことをもって,補助参加人と第1審原告との間で前記アの写真の権利に関する包括的合意があったとの事実と何ら矛盾するものではない。…
() また,…によれば,補助参加人は,平成18年発行の「機械式時計バイブル」という補助参加人出版の書籍のために第1審原告が撮影した写真を,平成21年に上記書籍の記事や他のカメラマン(補助参加人従業員を含む)の撮影した写真とともにアシェット社に対して販売した際,原稿制作者,イラストレーター及び第1審原告を含むカメラマンに対して,上記書籍製作時の支払額の10%に相当する額(第1審原告については6600円である。)を支払っていることが認められる。
 しかし,第1審原告が,上記支払が上記販売に関連するものであることを否認し,第1審原告が補助参加人の撮影に関して立て替えた機材の購入代金の支払である旨主張していることなどからすると,補助参加人が上記金銭を支払った趣旨は証拠上明確ではない。もっとも,補助参加人が,第1審原告に対し,上記販売について,第1審原告が撮影した写真の二次利用のために承諾を求めたとの事実はそもそもうかがえないし,上記金銭の支払を除外すると,補助参加人が平成16年頃から平成227月中旬頃までの間に,自社で出版したり,他社に利用許諾し,第1審原告撮影の写真を商業利用目的(出版目的)で二次利用した際にその承諾を求めたとか,その利用料を支払ったとか,第1審原告がこれを請求したとの事実がないことは前記認定のとおりであり,上記金銭の支払の趣旨は,不明であるといわざるを得ず,上記金銭支払の事実をもって,前記ア()の包括的合意の認定が左右されるものとはいえない。
() …によれば,第1審原告が補助参加人出版の書籍「フラワーソープのアレンジメント」のために撮影した写真について,同書籍の監修者がそのホームページに使用するに当たり,第1審原告が,平成2210月頃,補助参加人に対し「書籍外 写真使用 許諾料」として25000円を請求し,補助参加人がその頃第1審原告に対し同額を支払ったことが認められる。
 この「フラワーソープのアレンジメント」に関する上記25000円の支払は,平成226月下旬頃,「フラワーソープのアレンジメント」の監修者が自らのホームページに使うために第1審原告撮影の写真の大部分の複製物の交付を要望したところ,第1審原告が異議を述べたことを発端とするものであって,利用形態も,出版とは関係がないものであり,商業目的(出版目的)の二次利用とは解し難いものである。そして,上記の請求及び金銭の支払の経緯についてみても,補助参加人が,第1審原告に対し,平成22928日付け「請求書送付のお願い」と題する文書により,「フラワーソープのアレンジメント」の写真撮影に係る日当に関し同年825日付けとする請求書の送付を依頼し,さらに,同月30日付で,実際には撮影が行われていないにもかかわらず,第1審原告に対し,上記文書には「弊社費用持ちにて,相手様のご希望の撮影をしていただくというお約束の分が含まれておりませんでした。請求書にその分の日当25,000円も一緒に記載してお送り下さい。」との記載のあるメールを送付したのに対し,第1審原告が同額を許諾料として請求したものであることが認められる。以上の事実及び前記ア認定の事実の経過に照らすと,補助参加人は,上記認定のとおり異議を述べた第1審原告との紛争を穏便に解決するために上記金銭を支払ったものであり,同金銭につき,第1審原告撮影の写真を二次利用するための利用料であることを前提として行動していたものとはいえず,上記金銭の支払の事実をもって,補助参加人が,第1審原告に対し,「フラワーソープのアレンジメント」の監修者が自らのホームページに第1審原告撮影の写真を使用することの利用料を支払ったものと評価することはできない。
以上によれば,第1審原告は,平成16年頃から平成227月中旬頃までの間は,補助参加人との間で,補助参加人の依頼により撮影した写真に関する権利は全て補助参加人に譲渡するとの,いわゆる買取りの合意の下に,補助参加人から依頼されて多数の写真を撮影してその収入を得ていたものと認められ,このような包括的な合意があったことは,第1審原告が,撮影した写真フィルムについても,補助参加人に渡したままその利用を委ねていたことや,その後,多数回にわたり,その写真が二次利用され,別の書籍等が出版されることになっても,第1審原告が,事前の承諾を求めることもなく,二次利用の利用料の支払もなく,かつ当該書籍が出版されていることを知っていたものと推認される立場にありながらも,上記期間内は何らの苦情を述べてきていないとの事実とも符合するものである。
 もっとも,この包括的合意の趣旨が,写真の著作権の補助参加人への譲渡であるか,それとも将来の補助参加人ないし他社による書籍出版その他における二次利用も含めた包括的許諾であり,その対価については,当初の撮影時の支払によるものとするとの合意であるかについては,これが口頭による合意であり,書面による明確な合意ではないこと,及び,そのためか,補助参加人においても過去において前記イ()及び()のようなやや不明瞭な対応をしたこともあったことなどの事情を総合的に考慮すれば,上記包括的合意の趣旨は,著作権の譲渡ではなく,上記のような包括的許諾の趣旨であったものと認めるのが相当である。そうすると,上記期間内に撮影された本件写真の著作権についても,上記包括的合意に基づき,第1審原告から補助参加人に対し,その二次利用も含め,包括的許諾がなされたものと認められる。
(4) よって,第1審原告の本件写真の著作権に基づく請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。











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