著作権重要判例要旨[トップに戻る]







ノンフィクションの侵害性が問題となった事例
「日航機墜落事故書籍事件」平成250314日東京地方裁判所(平成23()33071 

【コメント】本件は、原告が、被告Bが著述し、被告集英社が発行する書籍は原告の著作物の複製又は翻案に当たり、上記書籍の複製及び頒布により、原告の著作物の著作権及び著作者人格権が侵害されたと主張して、被告らに対し、被告書籍の複製・頒布の差止め及び廃棄を求めるとともに、民法709条、719条に基づき、著作権侵害を理由とする著作権利用料損害金、著作権侵害及び著作者人格権侵害を理由とする慰謝料等の連帯支払を求めた事案です。 


1 原告の著作権の侵害の成否について
(1) 被告各記述は原告各記述を複製又は翻案したものか否かについて
ア 複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいうところ(著作権法2115号参照),後記の最高裁判所の判例に照らすと,言語の著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,これと同一のものを作成し,又は,具体的表現に修正,増減,変更等を加えても,新たに思想又は感情を創作的に表現することなく,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうと解される。また,言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成13628日第一小法廷判決参照)。そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法211号参照),既存の著作物に依拠して作成又は創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらないというべきである。
 被告書籍の第3章は,原告書籍に依拠しているから,本件において,被告各記述が原告各記述を複製又は翻案したというためには,原告各記述のうち被告各記述と同一性を有する部分が思想又は感情を創作的に表現したものであり,かつ,被告各記述が,原告各記述と同一であるか,又は,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものであることが必要である。
イ そこで,被告各記述が原告各記述を複製又は翻案したものか否かについて検討する。
() 被告第1記述について
 原告第1記述と被告第1記述とは,バスは満席だったが,誰一人しゃべる者もなく,静かだったこと,室内灯が消されたことを著述している点において共通し,同一性がある。
 バスは満席だったが,誰一人しゃべる者もなく,静かだったことは,その事実に加え,原告を含むバスの乗客が抱いていた不安の感情を表現したものといえるが,当該状況における感情を表現したものとしてはありふれたものであるから,表現上の創作性がない。また,室内灯が消されたことは,事実であって,表現それ自体ではない。
 原告は,原告第1記述のうち,@「室内灯を消してみた」は原告が泣いているところを見せたくないという感情を表現したものであり,A「だれ一人しゃべる者もなく」や「室内灯」は選択し得る表現の幅が広いから,創作性があると主張する。しかしながら,@については,被告第1記述のうち原告第1記述中の「室内灯を消してみた」と同一性を有する部分は,「室内灯が消された」という記述だけであり,これは事実であって,感情を表現したものということはできない。また,Aについては,選択し得る表現に幅があるとしても,「だれ一人しゃべる者もなく」や「室内灯」との記述だけでは,原告の個性ないし独自性が表れているとはいえないから,表現上の創作性がない。原告の上記主張は,採用することができない。
 したがって,被告第1記述は,原告第1記述を複製又は翻案したものということはできない。
() 被告第2記述について
 原告第2記述と被告第2記述とは,朝元気に家を出た人が,その夕刻に死ぬなんて,原告にはどうしても信じられなかったこと,悪夢と思ったこと,夫のいない生活を考えたこともなかったこと,これから一人になると思うと,涙が止めどなく溢れてきたこと,原告は周囲に知られないよう涙をふいたことを著述している点及びその著述の順序においてほぼ共通し,同一性がある。
 これらは,その事実に加え,原告が抱いた悲しみの感情を創作的に表現したものであり,被告第2記述は,原告第2記述の表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,被告第2記述を一読しただけで,その特徴を直接感得することができるものである。
 被告Bは,原告第2記述中の「悪夢でも見ている」及び「周囲に気づかれないように涙をそっとふいた」並びに順序は創作性がないと主張する。しかしながら,前記の同一性を有する部分は,感情の形容,強調方法や言い回しにおいて,原告の個性ないし独自性が表れていることが明らかである。被告Bの上記主張は,採用することができない。
 したがって,被告第2記述は,原告第2記述を複製又は翻案したものということができる。
 (略)
() 被告第26記述について
 原告第26記述と被告第26記述とは,夫が骨となってこの日の深夜に自宅へ戻ったこと,812日に自宅を出て以来,7日と17時間ぶりであったことを著述している点において共通し,同一性がある。
 これらは,その事実に加え,原告が抱いた無念さや悲しみの感情を創作的に表現したものであり,被告第26記述は,原告第26記述の表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,被告第26記述を一読しただけで,その特徴を直接感得することができるものである。
 したがって,被告第26記述は,原告第26記述を複製又は翻案したものということができる。
ウ 以上のとおりであって,被告各記述は,別紙対比表の当裁判所の判断欄に○と記載された記述において,原告各記述を複製又は翻案したものということができる。
(2) 被告Bは複製又は翻案及び譲渡に係る利用の許諾を得たか否か
 (略)
(3) 以上によれば,被告Bは,別紙対比表の当裁判所の判断欄に○と記載した被告各記述を不可分的に有する被告書籍の第3章を著述することによって,原告の原告書籍の著作権(複製権又は翻案権)を侵害し,被告集英社は,当該被告各記述を第3章に含む被告書籍を頒布することによって,原告の原告書籍の著作権(譲渡権又は著作権法28条に基づく譲渡権)を侵害するものと認められる。
2 原告の著作者人格権の侵害の成否について
(1) 原告の氏名表示権の侵害の成否について
 (略)
(2) 原告の同一性保持権の侵害の成否について
 同一性保持権を侵害する行為とは,他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為をいう(最高裁昭和55328日第三小法廷判決,同平成10717日第二小法廷判決各参照)。
 被告Bは,別紙対比表の当裁判所の判断欄に○と記載した被告各記述に対応する原告各記述について,単語や文章を加削若しくは置換し,又は順序を入れ替えるなどの方法により,原告の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加えて上記被告各記述を著述し,被告集英社は,当該被告各記述を第3章に含む被告書籍を頒布したから,被告らは,原告の同一性保持権を侵害するものと認められる。
3 被告らの故意又は過失の有無について
 被告Bは,原告書籍に依拠して被告書籍の第3章を著述したのであって,原告の著作権や著作者人格権を侵害するおそれがあることを容易に予見することができたものであるから,原告の著作権や著作者人格権を侵害しないように著述すべき注意義務があったということができる。また,被告集英社は,前記のとおり,被告書籍の参考文献欄に原告書籍が掲げられていたのであって,原告の著作権や著作者人格権を侵害するおそれがあることを容易に予見することができたものであるから,原告の著作権や著作者人格権を侵害しないような書籍を発行すべき注意義務があったということができるそうであるにもかかわらず,被告らは,共同して原告の有する前記著作権や前記著作者人格権を侵害したのであるから,被告らには過失がある。
4 原告の受けた損害の額について
(1) 著作権法1143項による損害額 28560
 …によれば,被告書籍は,平成22812日から平成231010日までの間に1万部が販売されたこと,原告各記述の利用料率は,定価の10%が相当であることが認められる。また,…によれば,原告各記述を複製又は翻案したものと認められる被告各記述は,合計約4.8頁(86行÷18行/1頁)であることが認められ,これは,本文290頁からなる被告書籍の約1.7%に相当する。
 そうすると,被告らによる被告書籍の複製又は頒布に係る利用料相当額は,下記計算式のとおり,被告書籍1冊当たり消費税込みで2.856円とするのが相当であるから,原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額は,28560円になる。
 原告は,被告各記述が被告書籍の中核部分を構成しているから寄与度による減額をすべきでないと主張する。しかしながら,…によれば,被告書籍は,A家を含む6家族の話で構成されていることが認められるところ,被告各記述が被告書籍の中核部分を構成しているとは認められないから,原告の上記主張は,採用することができない。
 また,被告らは,原告から抗議を受け,積極的な販売活動を行うことができず,いまだ利益を受けていないと主張する。しかしながら,被告らが主張する事実を認めるに足りる証拠はないから,被告らの上記主張は,採用することができない。
 (計算式)1680円×0.1×0.0172.856
       
2.856円×1万部=28560

※⇒控訴審-平成250930日知的財産高等裁判所(平成25()10027-参照











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