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利用許諾契約の解釈(32)
「‘DSP
使用許諾契約事件」平成250528日大阪地方裁判所(平成23()12939/平成251127日知的財産高等裁判所(平成25()10058 

【コメント】P1と被告は,DSPと称するプログラムについてソフトウェア使用許諾契約(「本件使用許諾契約」)を締結し、被告は、DSPの使用又は複製、販売に対し使用許諾料を支払う旨を約していたところ、P1は、被告が株式会社アトリスのコンピュータにDSPをインストールし、その使用を許諾したとして、本件使用許諾契約に基づく使用許諾料の支払を求める本件訴訟を提起しましたが、P1が死亡したため、P1の相続人である原告らは、P1の地位を承継し、各自の法定相続分に応じ、被告に対し、本件使用許諾契約に基づく使用許諾料の支払を求めました。

 本件において、被告は、合意による紛争解決の有無及びその効果について、次のように主張しました:
 
P1は,平成1811月ころから,アトリスへのDSP貸与に伴う使用許諾料発生の有無を巡り,被告との間で紛争となった。しかし,平成19410日,P1及び当時の被告代表取締役であったP6を含む被告の役員6名の間で,P1が次期定時株主総会で取締役を辞任して,その後被告の技術顧問に就任し,技術顧問料として月額50万円の支払を受けること,診療支援データベース(診療支援知識ベース)に係る被告の著作権をP1に譲渡することを交換条件に,アトリスへのDSP貸与について,過去分は不問とすること,同年7月以降分は,役務提供の対価である受託開発費用の10%を使用料として支払うことなどを内容とする合意が成立した(その成立には争いがあるが,被告が主張する上記合意を便宜「本件合意」という。)。したがって,アトリスへのDSP貸与を巡るP1と被告間の紛争は,本件合意によって既に解決しており,原告らの本訴請求権は存在しない。』 


※【 】は、控訴審で付加された箇所。
 争点についての判断
(1) 使用許諾料について
 平成16年から平成19年までの間,被告がアトリスのコンピュータ数十台にDSPをインストールした事実は認められるものの,このインストールは,被告が,アトリスから委託された開発業務の実施のため,それに必要な期間に限定されたものであること,被告はアトリスから金員の支払を受けているが,名目上,役務の提供に対する報酬が大部分であることは,前記で認定したとおりである。
 P1と被告が平成9年にした本件使用許諾契約は,DSPをインストールした電子計算機の所有者は,DSPを永続的に使用できることを前提とするものであり,これがアトリスに対する上記インストールに適用されるかは必ずしも明らかではない。また,平成181月の本件基準表も,売上金額が著作権利用の対価のみによるものではなく,役務の提供に対する報酬が含まれている場合に,P1に支払うべき額がどのように算定されるかを,明定するものではない。
 結局のところ,本件使用許諾契約及び本件基準表によっても,被告がアトリスのコンピュータにDSPをインストールし,ルールベースファイル作成業務に使用した際に,被告のP1に対する対価の支払義務が発生するか否か,またその額がいくらであるかは明確ではないといわざるを得ないが,そうであるが故に,開発に使用するための一時的な貸出しの場合に多額の使用許諾料を支払うことはできないと考える被告と,DSPを第三者のコンピュータに複製し,使用させることで被告が対価を得ている以上,使用許諾料を支払うべきであると考えるP1との間に,紛争が生じたものと解される
(2) 本件合意の成立について(事実認定の補足説明)
 原告らは,P1が本件合意に応じるはずがないとして,本件合意の成立を否認し,乙1書面[管理人注:本件合意の内容が記載された書面のこと]P1名義の署名についても争っている。
 そこで検討するに,P1が,新会社であるなう社を設立して,被告の取締役を辞任し,被告から技術顧問料を受領していることは前記で認定したとおりであるが,これらはいずれも本件合意で定められた内容であり,P1が本件合意の成立に関与していないとか,本件合意の内容を認識していないとすることは不合理といわざるを得ず,P1自身,平成20417日付け電子メールにおいて,平成18年末に紛争があり,平成193月にはP1が被告の経営権を取得することも考えたが,被告はP10に任せ,自身は新会社を設立することを選択し,平成201月に現体制に移行して,技術顧問となった旨を述べている。
 また,成立に争いのないP1の署名との対比によれば,乙1書面中のP1名義の署名は,P1の自署であると考えても矛盾はないし,平成19410日に被告の経営会議があり,P1らが出席して協議し,その場で乙1書面を作成して,確認の署名をしたとする被告代表者の陳述書及び供述についても,これを覆すに足る証拠は提出されていない。
 さらに,P1は,平成1810月から11月にかけて,アトリスのDSPの使用について数量等の開示を求めたり,使用許諾料の支払を求めたりする文書や電子メールを被告に送付していたが,本件合意成立後,P1自身が,被告に対し,本件合意以前の使用許諾料の支払を求めた等の事実は認められない(本件訴訟は,P1の成年後見開始決定後,その後見人である原告P3が提起したものである。)。【なお,本件合意のされた後である平成19624付けのP1から控訴人P3に宛てたメール中には,『アトリスで使われたDSPの版権料不払いの件についてですが,今すぐ裁判紛争を行いP10の責任追及をしようにも…資金的にはもちろん,精神的にも全くゆとりがない状態です。現状では棚上げするしか解はありません。』との記載部分がある。しかし,同メール中には,『頭を過去の紛争のために使い,専念すべき研究がおろそかになると,…今後の研究活動のチャンスの全てを失うことにつながりかねません。』との心情を述べた記載部分もあり,同記載からは,P1は,P5P10に対し不満はあるものの,研究活動に専念することを選択したことが窺われる。】
 これらを総合すると,前記のとおり,平成19410日にP1らが本件合意をし,その成立を証するために乙1書面を作成して,これに署名した事実を認定し,本件合意が成立したと認めるのが相当である。
 (略)
(4) 本件合意の効力について
 1文書には,ALADINプロジェクトのためのDSP貸出しについて,平成197月以降,受託開発費用の10%を使用料として支払う一方,過去のDSPの使用料については,診療支援知識ベースの版権の譲渡と相殺する旨の記載がある。これは,DSPの使用料を支払う理由はないとする被告(当時の代表取締役はP6)と,使用料の支払いを求めるP1との間で紛争となり,それを解決する一内容として,本件合意以前のDSPの使用料については,支払うことを要しない旨を定めたものと解されるから,相殺という言葉は使われていても,民法上の契約である和解の一種と考えられ,その効果はP1及び被告に帰属したものといえる
 そして,これまでに検討したとおり,本件合意が成立したと認められ,これを無効とする理由が認められない以上,P1が,本件合意以前に,アトリスへのDSPの貸与に関し,使用許諾料の請求権を有していたか否かに関わりなく,本件合意成立後は,被告にその支払を求めることはできなくなったというべきでありP1の地位を承継した原告らについても同様である。
 【なお,控訴人らは,本件合意においてP1は多額の債権を放棄したのに対し,被控訴人は譲歩していないので,和解が成立することはない旨主張する。
 しかし,控訴人らの主張は失当である。
 
前記認定のとおり,被控訴人がアトリスのコンピュータにDSPをインストールして使用させた事実に起因して,P1の被控訴人に対する何らかの請求権が生じるか否かは不明であり,仮に請求権が生じたとしても,その額は不明確であること,他方,P1は,本件合意により,被控訴人の取締役退任後も技術顧問として月額50万円の顧問料を受領する権利を取得したのみならず,被控訴人から「知識ベース」の共同著作権の譲渡を受けたことに照らすならば,本件合意が互譲の基礎を欠くと評価することはできない。原告の上記主張は,失当であり採用することはできない。】











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