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プライバシー権侵害-否定事例(3)-
光市母子殺害事件実名本事件平成250530日広島高等裁判所(平成24()354 

【コメント】本件の「事案の概要」は次の通りです:
1 甲事件原告は,18歳当時に殺人事件(いわゆる光市母子殺害事件,以下「本件刑事事件」という。)を犯し,犯人として起訴され,死刑判決が確定している。甲事件被告Dは,本件刑事事件の差戻し控訴審判決(死刑判決)が言い渡された後,甲事件原告との面会などに基づき,甲事件原告に関する事柄を記載した書籍(「C君を殺して何になる―光市母子殺害事件の陥穽(かんせい)―」。以下「本件書籍」という。)を執筆し,甲事件被告Aを出版者として,これを出版した。
 甲事件は,甲事件原告が,本件書籍の出版によってプライバシー権などの人格権等が侵害されたとして,()甲事件被告らに対し,本件書籍の出版,販売等の差止め及び甲事件被告Aが開設している「B」という名称のウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)に掲載されている本件書籍の紹介記事の削除を求め,()甲事件被告Aに対し,本件ウェブサイトに掲載された甲事件原告に関する記事の削除及び本件ウェブサイトに甲事件原告の実名を含む記事を掲載することの禁止を求め,()甲事件被告らに対し,共同不法行為や債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づき,連帯して1200万円及びその遅延損害金の支払を求める事案である。
 乙事件は,甲事件被告らが,本件書籍をめぐる甲事件原告,本件刑事事件における甲事件原告の弁護人であった乙事件被告らの発言等により,名誉が毀損されたとして,共同不法行為に基づき,甲事件原告,乙事件被告らに対し,甲事件被告D1100万円及びその遅延損害金,甲事件被告Aが495万円及びその遅延損害金の支払を求める事案である。
 原判決は,甲事件について,本件書籍や本件ウェブサイトの記事により,甲事件原告のプライバシー権,肖像権などが侵害されたとして,甲事件被告らに対し連帯して33万円,甲事件被告Dに対し22万円,甲事件被告Aに対し11万円及びこれらの遅延損害金を甲事件原告に支払うよう命じ,その余の甲事件原告の甲事件請求を棄却し,甲事件被告らの乙事件請求をいずれも棄却したので,甲事件原告,甲事件被告らがそれぞれ控訴をした。』 


3 本件書籍の出版によって甲事件原告の権利が侵害されたか(甲事件)。
(1) 甲事件原告は,本件書籍が無断で出版されたことにより,甲事件原告のプライバシー権,肖像権,名誉権,著作者人格権等,成長発達権が侵害されたと主張する。
(2) 確かに,上記のとおり,本件書籍には,甲事件原告が広島拘置所内で甲事件被告Dと面会した際に述べた甲事件原告の会話内容,甲事件原告の実名,甲事件原告の親族が「L小学校の近くの戸建て住宅」に居住していること,甲事件原告が甲事件被告Dに宛てた最初の手紙(本件手紙1)の写真とその内容,本件知人が甲事件原告に宛てた手紙(本件知人手紙)の写真とその内容,中学校の卒業アルバムから複写した甲事件原告の顔写真,甲事件原告が甲事件被告Dに宛てた本件手紙2の内容が記載されており,また,甲事件被告Dは,甲事件原告に対し,本件知人手紙を第三者に公開しない旨の本件誓約書を差し入れていた。
(3)ア しかし,前記で認定したとおり,甲事件被告Dが,甲事件原告に対し,平成20623日付け及び同月27日付けの手紙により,自己が報道機関に所属していないフリーランスであって,甲事件原告から聞いた話を即座に記事にするつもりはないが,取材した結果,記事にすべきだと思うことがあれば,記事にしようと思っている旨を伝えて,面会を求めたところ,甲事件原告が,平成2084日,甲事件被告Dとの面会を承諾して,初めて両者の面会が実現し,その後,甲事件被告Dと甲事件原告は,平成2187日までの約1年間に継続して25回にわたって面会し,その中で,甲事件原告は,甲事件被告Dが事前に用意していた多岐にわたる質問に答えるなどして,甲事件被告Dが取材対象として興味を有する事項について,素直に情報を提供し,もって,甲事件被告Dの取材に積極的に協力していたのである。また,甲事件原告は,本件書籍の出版と甲事件原告の実名表記については,平成21327日の面会において,本件知人手紙の引用については,同年618日の面会において(甲事件被告Dが平成201029日に差し入れた本件誓約書は撤回されたことになる。),甲事件原告が甲事件被告Dに宛てた手紙の引用については,平成21619日の面会において,いずれも同意しているのである。さらに,甲事件原告は,甲事件被告Dが同年99日付けの手紙で本件書籍が同月末に出版されることを伝えても,出版予定日の同月末に至っても,異議を述べなかったのである。
 したがって,甲事件原告は,甲事件被告Dが甲事件原告の提供した情報を基に本件書籍を執筆し,これを発行することを同意していたものというべきであり,両者のやりとりに照らせば,その中には,本件書籍の中に,甲事件原告から提供された手紙の写真を掲載することも含まれていたものというべきである。
イ これに対し,甲事件原告は,甲事件被告Dとの間で,事前に原稿内容等を確認させること,甲事件原告の親族,知人及び関係者の実名を出したり,生活を脅かすようなことをしないことを合意したと主張し,その旨供述するが,甲事件原告の甲事件被告D宛ての手紙や甲事件被告Dの甲事件原告宛ての手紙,甲事件被告Dの面会記録には上記合意をうかがわせるものはない上,甲事件原告が,本件書籍が出版されることを知らされ,出版予定日に至っても,異議を述べていなかったことに照らすと,一審原告の上記供述は,到底採用することができず,他に,上記主張を認めるに足りる証拠は存しない。
ウ 本件書籍の内容についても,前記で認定したとおりであって,あたかも甲事件原告が死刑になることが確定しているかのような印象を与えたり,甲事件原告が死刑相当であるとの否定的評価を行って,甲事件原告の社会的評価を低下させるようなものと認めることはできない。むしろ,甲事件原告に対する世間一般のイメージ(凶悪な犯罪者)と異なる甲事件原告の具体的な人間像を甲事件被告Dの感性で捉え,その情報を社会に報道する趣旨のものということができるのである。
 また,甲事件原告の中学校卒業時の写真の掲載は,甲事件原告の明確な承諾はないものの,甲事件原告が本件書籍の出版に同意していたことに加え,甲事件原告に対する社会的関心が高く,そのような関心は正当なものといえることなどを考慮すれば,少年法61条を考慮しても,報道の自由として許されるものであって,違法なものとはいえない
 さらに,甲事件原告の親族が「L小学校近くの戸建て住宅」に居住していると記載したことも,この程度の居住地の記載が甲事件原告のプライバシーを侵害するものとはいえない。
 その上,甲事件原告は,本件手紙12の掲載について,著作権(著作権法21条),著作者人格権(同法19条)を侵害すると主張するが,本件手紙12の公開については,プライバシーの面からその法的保護を図れば足りるのであって,著作権ないし著作者人格権によって保護を図るものではないと解されるが,そうでないとしても,甲事件原告から提供された手紙の写真を掲載することが承諾されていたというべきであることに加え,本件手紙12が甲事件被告Dに交付された経緯やその引用が承諾されていたこと,甲事件原告が甲事件被告Dの取材に積極的に協力した上,本件書籍の出版に同意していたことなどの事情に照らせば,その公開がこれらの著作権法上の権利を侵害する違法なものと認めることはできない
 加えて,一審原告は,成長発達権(少年法61条違反)が侵害されたと主張するが,少年法61条からそのような権利を認めることは困難である。
(4) したがって,一審原告の上記(1)の主張は,いずれも採用することができないものというべきである。
4 本件紹介記事によって甲事件原告の権利が侵害されたか(甲事件)。
(1) 甲事件原告は,本件紹介記事には,「「C君が死刑になることで,何か1つでも,社会にとって得るものがあってほしい」と願い,取材を続けた著者」との記載があって,甲事件原告が死刑になることを前提とするような書きぶりをしており,甲事件原告の人格権を侵害するものであると主張する。
(2) 確かに,上記のとおり,本件紹介記事には,上記の記載が存する。
(3) しかし,上記によれば,本件紹介記事には,本件書籍の題名である「C君を殺して何になるー光市母子殺害事件の陥穽(かんせい)ー」との記載があるほか,「再び最高裁の判断を待つC被告は,どのような心境で過ごしているのか。」,「彼の心の深層に迫る。」との記載もあり,これらを総合すれば,本件紹介記事は,死刑判決に疑問を呈しているともいえるのであって,甲事件原告の死刑を前提とするような書きぶりであるということはできない。
(4) したがって,甲事件原告の上記(1)主張は,採用することができない。
5 本件各記事によって甲事件原告の権利が侵害されたか(甲事件)
(1) 甲事件原告は,本件各記事は,甲事件原告の実名を記載するもので,少年法61条に違反し,また,本件記事1は,甲事件原告の身体・健康・医療という他人に知られたくないプライバシー情報を含み,訴訟目的で裁判所に提出された甲事件原告の陳述書の一部を甲事件原告に無断で原文のまま使用するもので,プライバシー権及び名誉権を侵害するものであると主張する。
(2) 確かに,前記で認定したとおり,甲事件被告Aは,本件ウェブサイトに本件記事1(「『C被告が胃潰瘍で血便や吐血』と弁護団 著者−A 2010713日(火曜日)0415」,「当方は,相手方の心ない準備書面にたびたびキズつけられている。ぼく自身は精神科医から新たに『ポンタール』という頭痛薬の服用を許可され,精神安定剤も増えている一方だ。どうしてくれる?(原文ママ。以下同)ということである。」)及び本件記事2(「広島法務局,C被告の人権救済申し立てに関する調査を中止」)を掲載した。また,本件記事1の前段は,乙事件被告Fらが同月12日付け準備書面で明らかにした事実であり,本件記事1の後段は,同日の弁論準備手続期日において提出された甲事件原告の陳述書の記載を引用したものであった。
(3) しかし,上記のとおり,本件各記事が掲載された平成227月当時,本件刑事事件の被告人である甲事件原告については,社会一般の正当な関心事となっていて,甲事件原告の実名が既に一部メディア(週刊誌O,月刊誌R,文庫本「S」)により報道され,インターネット上でも甲事件原告の実名や写真が多数公開されていた上,甲事件原告自身が,本件書籍において実名を報じることを許諾していたのである。また,甲事件原告(当時29歳)は本件訴訟(甲事件)の原告であり,本件各記事は,本件訴訟の進行を伝えるものとして,掲載されたものである。
 そうすると,甲事件被告Aが本件各記事により甲事件原告の実名を報道したことは,少年法61条に照らしても,違法ということはできない。また,本件記事1に記載された情報は,甲事件原告や乙事件被告Fらが,本件訴訟(甲事件)において,その請求を理由付けるために主張,陳述したものであり,これら民事訴訟における訴訟資料は,原則として一般公開され,何人も閲覧を請求することができ,利害関係を疎明した第三者であれば,その謄写等を請求することができる上,本件記事1に係る甲事件原告の健康状態に係る情報は,特別に保護すべきほどのプライバシーに属する情報ということもできないから,甲事件被告Aが,本件訴訟(甲事件)の手続から入手した甲事件原告の上記健康状態に係る情報を公開したからといって,これが違法であるということはできず,本件記事2も,同様に違法ということはできない。
(4) したがって,甲事件原告の上記主張は,いずれも採用することができない。
6 本件週刊誌インタビューによって甲事件原告の権利が侵害されたか(甲事件)
(1) 甲事件原告は,甲事件被告Dが,本件書籍出版後,「週刊誌J」及び「週刊誌K」の記者のインタビューに応じ,甲事件原告の甲事件被告D宛の手紙を公開するなどして,甲事件原告のプライバシー権及び名誉権を侵害したと主張する。
(2) 確かに,上記のとおり,甲事件被告Dが,本件書籍出版後,「週刊誌J」及び「週刊誌K」の記者のインタビューに応じ,その際,甲事件原告の甲事件被告D宛の本件手紙1を提示するなどし,これが上記週刊誌の記事に掲載された。
(3) しかし,上記のとおり,甲事件原告は,本件書籍の出版や甲事件原告が甲事件被告Dに宛てた手紙の引用等に同意していたところ,本件書籍の出版後,これを否定して出版差止めを求める本件仮処分の申立てをするなどの紛争が生じたため,甲事件被告Dは,上記週刊誌のインタビューで,上記紛争における自己の主張を述べたものにすぎず,また,掲載された手紙の写真は不明瞭なものでしかないから,甲事件被告Dの上記(1)の行為が違法なものということはできない。
(4) したがって,甲事件原告の上記主張は,採用することができない。
7 甲事件原告の甲事件被告らに対する甲事件請求の当否について
(1) 甲事件原告は,本件書籍が無断で出版されたことによって,甲事件原告のプライバシー権,肖像権,名誉権,著作者人格権等,成長発達権が侵害され,本件紹介記事によって,甲事件原告の人格権が侵害され,本件各記事によって,甲事件原告のプライバシー権及び名誉権が侵害され,本件週刊誌インタビューによって甲事件原告のプライバシー権及び名誉権を侵害され,甲事件被告Dについては,債務不履行及び不法行為責任があり,甲事件被告Aについては,不法行為責任があるとして,()甲事件被告D及び甲事件被告Aに対し,本件書籍の出版,販売等の差止め及び甲事件被告Aが開設している本件ウェブサイトに掲載されている本件書籍の紹介記事の削除を求め,()甲事件Aに対し,本件ウェブサイトに掲載された甲事件原告に関する本件各記事の削除及び本件ウェブサイトに甲事件原告に関する記事を掲載することの禁止を求め,()甲事件被告D及び甲事件被告Aに対し,共同不法行為や債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づき,連帯して1200万円及びその遅延損害金の支払を求める。
(2) しかし,上記説示のとおり,甲事件原告の主張する上記の権利侵害はいずれも認められないのである。したがって,甲事件原告の甲事件被告らに対する甲事件請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないものというべきである。
8 本件週刊誌Iの記事に係る甲事件原告,乙事件被告らの本件発言1ないし4が甲事件被告らの名誉を毀損したか(乙事件)。
(1) 甲事件被告らは,甲事件原告の本件発言1,乙事件被告Gの本件発言2,乙事件被告Fの本件発言3が甲事件被告Dの名誉を毀損し,本件発言4が甲事件被告D及び甲事件被告Aの名誉を毀損したと主張する。
(2) 確かに,上記のとおり,甲事件原告が,乙事件被告Gと平成21928日に接見した際,本件発言1(甲事件原告と甲事件被告Dとの間に,本件書籍を出版する前に,本件書籍の原稿を甲事件原告に見せて確認させる約束があったのに,甲事件被告Dがこの約束を反故にした旨)を述べ,甲事件原告の代理人弁護士である乙事件被告らが,本件仮処分の申立てについて,週刊誌Iの取材を受け,記者に対し,乙事件被告Gが本件発言2(甲事件原告の本件発言1と同旨)を述べ,乙事件被告Fが本件発言3(当初,取材目的であることを明確に告げず,甲事件原告に心を寄せるひとりの女性として元少年(甲事件原告)に近づいた手法も認め難い)」,本件発言4(本件書籍について,実名表記は話題性だけを狙ったものではないでしょうか。そもそもタイトルが,あたかも死刑が確定しているような誤った印象を与える極めて心ないものです)を述べ,これらの発言内容が本件週刊誌Iの記事として掲載された。
(3)ア ところで,民事裁判における各当事者の事実関係の主張は,一方当事者から見た事実の主張でしかなく,双方の提出する証拠に基づき,裁判所によってその真否を判断される性質のものである上,相手方も当該裁判において反論ができるものである。また,民事裁判における当事者の主張は,正当な裁判を受けるため必要なものであって,不当に制限されないよう保護されなければならないものである。したがって,民事裁判における各当事者の事実関係の主張は,悪意でことさら必要のない名誉毀損の事実を繰り返すなど,正当な裁判活動として許容される範囲を逸脱していると評価される場合以外は,違法なものとはいえないというべきである。また,民事裁判は,原則公開されていることも考慮すれば,裁判外で裁判での主張を述べたり,説明したりすることも,上記に準じて取り扱われるのが相当である。
イ 上記見地に立って検討すると,本件仮処分における双方の主張は,正当な裁判活動として不当に制限されないよう保護されるべきものということができるところ,本件週刊誌Iの記事は,このような本件仮処分における双方の主張を記事にする趣旨のものであって,申立人である甲事件原告と相手方である甲事件被告らの双方について,取材をして,本件仮処分についての双方の言い分を記事にしたものである。
 そうすると,甲事件原告の本件発言1は,甲事件原告が本件仮処分を申し立てた理由の説明であり,甲事件被告らの反論も掲載されているから,そもそも,違法なものということはできない。また,乙事件被告Gと接見した際の発言であるから,これが甲事件被告Dの社会的評価に影響を与えるようなものではなく,甲事件原告が乙事件被告Gを通じて本件発言1をしたとみることもできない。
 また,乙事件被告Gの週刊誌Iの記者に対する本件発言2は,本件仮処分の手続における甲事件原告の主張を説明したものにすぎず,甲事件被告らの反論も掲載されているから,違法なものとはいえない。
 さらに,乙事件被告Fの本件発言34も,同様に,本件仮処分の手続における甲事件原告の主張を説明したものでしかなく,甲事件被告らの反論も掲載されているから,違法なものということはできない。
(4) したがって,甲事件被告らの上記主張は,いずれも採用することができない。
9 本件週刊誌Iの記事として掲載された本件記載が甲事件被告らの名誉を毀損するか(乙事件)。
(1) 甲事件被告らは,乙事件被告らの提供により,仮処分申立書に記載された本件記載(債務者(甲事件被告D)は,債権者(甲事件原告)が取材に応じない場合は,債権者にとって,ますます不利益な内容を書くかもしれないなどと脅迫的な言辞を用いて債権者に取材に応じることを強いるといった経緯もあった)が週刊誌Iの記事になったことは,甲事件被告らの名誉を毀損するものであると主張する。
(2) 確かに,上記のとおり,仮処分申立書に本件記載が存し,これが乙事件被告らによって週刊誌Iの記者に提供され,これが週刊誌Iの記事として掲載された。
(3) しかし,本件記載は,本件仮処分の手続における甲事件原告の主張を掲載したものでしかないから,上記8(3)アの説示のとおり,違法なものということはできない。
(4) したがって,甲事件被告らの上記主張は,採用することができない。
10 乙事件被告Fの記者会見での本件発言5が甲事件被告Dの名誉を毀損するか(乙事件)。
(1) 甲事件被告Dは,乙事件被告Fの本件発言5は,甲事件被告Dの名誉を毀損すると主張する。
(2) 確かに,上記のとおり,乙事件被告Fは,平成211126日の甲事件第1回口頭弁論期日の終了後に,記者会見を行い,「甲事件被告Dは,甲事件原告に友人として接触しており,手段を選ばない取材で,その取材方法には取材者としての倫理観が欠如しており,営業目的が先行している」旨の本件発言5をした。
(3) しかし,乙事件被告Fの本件発言5は,甲事件における甲事件原告の主張の説明として述べられたものにすぎないから,上記8(3)アの説示のとおり,違法なものということはできない。
(4) したがって,甲事件被告Dの上記主張は,採用することができない。
11 乙事件被告Eの市民集会での本件発言6ないし9が甲事件被告らの名誉を毀損するか(乙事件)
(1) 甲事件被告らは,乙事件被告Eの本件集会での本件発言6ないし9が甲事件被告らの名誉を毀損すると主張する。
(2) 確かに,上記のとおり,乙事件被告Eは,本件集会の席上,本件仮処分及び本件訴訟の双方の主張に関して,「私たちが実名を出すこと自体が彼(甲事件原告)の社会復帰を妨げると主張したことに対しては,彼(甲事件原告)は死刑,そして,良くても無期懲役,そして今,無期懲役は事実上終身刑だから社会に復帰することは基本的にはない。従って,彼の更生を考える必要はないということを主張しています。私どもは,それを見てびっくりしたわけですね。」(本件発言6),「確かに出版の自由を止めることは,大変重要な,あるいは重大なことであるかもしれないわけですけれども,私は,この表現というのは,彼を救うということに名を借りて,あるいは実名をタイトルに載せるということのセンセーショナルさに名を借りて,出版という手段でもって行った一種の営業行為じゃないかというふうに思っているわけです。」(本件発言7),「実名を掲載するということに関しては,彼はその内容如何によって承諾すると。だから原稿を見せてほしい。それで,周りの人やそういう人たちに迷惑がかからなければ,自分は,承諾するという,いわゆる承諾前の状態にあったわけです。しかし,彼の元には原稿が送られてきませんでしたし,実は,この本は売られたわけですけれども,売られた本自体も彼の所に送られてきていないし,出版しましたという報告も来ていないわけです。結局,私どもが買い求めて,彼の所に送って初めて彼の所に届いたわけです。」(本件発言8),「こういう形で徹底して彼は利用されたわけです。また今回はこういうかたちで民間人に商売の道具として彼は利用されたのです。」(本件発言9)などと発言した。
(3) しかし,本件発言6ないし9は,いずれも本件仮処分や本件訴訟の手続における甲事件原告の主張や甲事件被告らの主張に対する反論の説明として述べられたものにすぎないから,上記8(3)アの説示のとおり,違法なものということはできない。
(4) したがって,甲事件被告らの上記主張は,いずれも採用することができない。
12 甲事件被告らの乙事件請求の当否について
(1) 甲事件被告らは,本件発言1ないし9,本件記載により,甲事件被告らの名誉が毀損されたとして,甲事件原告及び乙事件被告らに対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,甲事件被告Dについては,連帯して1100万円及びこれに対する乙事件訴状送達の日の翌日(甲事件原告は平成22110日,乙事件被告F,乙事件被告Gは,同月13日,乙事件被告Eは同月9日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,甲事件被告Aについては,連帯して495万円及びこれに対する乙事件訴状送達の日の翌日(甲事件原告は平成22110日,乙事件被告F,乙事件被告Gは同月13日,乙事件被告Eは同月9日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) しかし,上記説示のとおり,本件発言1ないし9,本件記載が甲事件被告らの名誉を毀損したとは認められないのである。したがって,甲事件被告らの甲事件原告及び乙事件被告らに対する乙事件請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないものというべきである。











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