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一般不法行為の成否-否認事例(32)-タイプフェイスが問題となった事例
「テレビ番組テロップ事件」平成250718日大阪地方裁判所(平成22()12214 

【コメント】本件は、フォントベンダーである原告が、テレビ放送等で使用することを目的としたディスプレイフォントを製作し、番組等に使用するには個別の番組ごとの使用許諾及び使用料の支払が必要である旨を示してこれを販売していたところ、原告が使用を許諾した事実がないのに、当該フォントを画面上のテロップに使用した番組が多数制作・放送・配給され、さらにその内容を収録したDVDが販売されたとして、番組の制作・放送・配給及びDVDの販売を行った被告テレビ朝日並びに番組の編集を行った被告IMAGICAに対し、被告らは、故意又は過失により、フォントという原告の財産権上の利益又はライセンスビジネス上の利益を侵害したものであり、あるいは原告の損失において、法律上の原因に基づかずにフォントの使用利益を取得したものであると主張して、主位的には不法行為に基づき、予備的に不当利得の返還として、原告の定めた使用料相当額の金員の支払を求めた事案です。
 なお、判例中に「フォント成果物」という用語がたびたび登場しますが、これは「フォントソフトを使用して作成された成果物」のことで、フォントソフトあるいはフォント自体と区別して論じる必要がある場合に用いられています。


2 不法行為についての判断
(1) 本件タイプフェイスの保護について
ア 原告は,本件タイプフェイスをデータ形式にした本件フォントが,一揃いのタイプフェイスとしてはもちろんのこと,一文字単位でも法的な保護に値する利益を有する旨主張する。
 本件タイプフェイスの具体的形態は,前記のとおりであって,著作権法211号の著作物に該当するものとは認められず(最高裁平成1297日第一小法廷判決参照),原告も,著作権法に基づく保護を求めているものではないが,本件フォントをテレビ放送等に使用することは,上記法律上保護された利益を侵害するものとして,不法行為に当たると主張する。
 しかしながら,著作権法による保護の対象とはならないものの利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解されるが(最高裁平成23128日第一小法廷判決参照),本件フォントを使用すれば,原告の法律上保護される利益を侵害するものとして直ちに不法行為が成立するとした場合,本件タイプフェイスについて排他的権利を認めるに等しいこととなり,このような主張は採用できない
イ 原告は,前記アの主張とは別に,本件フォントに係るライセンスビジネスという営業上の利益が侵害された旨の主張もするところ,本件フォントをテロップに使用したテレビ番組が放送されたのは,被告らが,本件フォントソフトを使用してテロップを製作し,あるいは本件フォント成果物をテロップに使用したことにより,故意又は過失による不法行為が成立し,これによって,原告の営業上の利益が侵害された,あるいは,本件フォントに係る使用許諾契約上の地位が侵害された旨を主張すると趣旨と解される。そこで,次項以下では,前記認定事実に照らし,原告のかかる利益を侵害する不法行為が成立するか否かにつき,検討することとする。
(2) 被告らによる本件フォントの使用及びその態様
 原告は,本件番組等に使用されたテロップは,被告テレビ朝日の担当者が,社内のテロップ製作システムで本件フォントを使用し,これを製作したものであると主張し,あるいは,被告らが,被告IMAGICAの本件編集室で,本件フォントの一部が保存されたパソコンを使用して,これを製作したものであると主張する。
 しかしながら,本件フォントが本件番組等のテロップに使用された経緯としては,前記のとおり,被告テレビ朝日がテロップ製作業者にテロップの作成を発注し,納付を受けたテロップ画像を被告らの担当者が編集して放送したところ,これに本件フォントが使用されていた事実,被告テレビ朝日が,番組制作業者から,編集まで了した番組の納付を受けて放送したところ,これに本件フォントが使用されていた事実,及び被告テレビ朝日が本件番組の一部について,その内容を収録した本件DVDを販売した結果,それら本件DVDでも本件フォントが使用されることとなった事実は認定し得るものの,証拠上,それ以外の使用態様を認定することはできない。
 したがって,被告らが,本件フォントソフト又は本件フォント自体を使用してテロップを製作したことを前提とする原告の主張は,その余の点について検討するまでもなく理由がない。
(3) 本件番組における故意による不法行為
ア 原告は,本件番組において本件フォントが使用された経緯及び態様が前記(2)のとおりであったとしてもなお,被告らの行為は,故意による不法行為にあたると主張する。
 しかしながら,前記認定のとおり,被告らの行為は,本件フォントソフト又は本件フォント自体を使用してテロップを製作したわけではなく,テロップ製作業者等の第三者が本件フォントを使用し,フォント成果物として出力したテロップ画像を取得し,これを使用したに過ぎないものである。
 そして,前記(1)のとおり,本件タイプフェイスあるいは本件フォントに著作物性,排他性を認めることはできないから,フォント成果物を取得する際に,本件フォントに由来する文字であることを認識していたとしても,当然に原告に対する故意の不法行為が成立するものではない
 また,前記で認定したところによれば,被告らが,本件フォントについて,原告と本件使用許諾契約を締結したとは認められず,そのため,前記(1)のような原告の主張する利益との関係において,その侵害につき被告らの故意があったというためには,少なくとも,被告らにおいて,フォント成果物の納品元であるテロップ製作業者等が,原告との間で本件フォントの使用に制限を課す本件使用許諾契約を締結しており,かつ,これに違反している旨知っていたことを要するものと解される。
イ この点,原告は,被告テレビ朝日の不法行為責任については,テロップ製作業者等の故意を被告テレビ朝日の故意と同視すべきである旨主張する。
 しかし,原告が,本件フォントを販売するにあたりその使用に制限を課したとしても,それに拘束されるのは,その制限のあることを了解して原告と本件使用許諾契約を締結した本件フォントの購入者に限られる。つまり,仮にテロップ製作業者等が原告と本件使用許諾契約を締結した場合であっても,別の法主体である被告テレビ朝日がこれに拘束されるべき理由はなく,不法行為の成否を考えるに当たっても,テロップ製作業者等と被告テレビ朝日との間で法的地位に違いがあることは明らかである。
 そうすると,仮に,第三者であるテロップ製作業者等に本件使用許諾契約違反があれば,原告は,その者に対し,債務不履行責任等を追及しうるが,その後,フォント成果物を取得し,これを使用するに過ぎない被告テレビ朝日との関係においては,テロップ製作業者らとの間に長年にわたる取引関係などがあったとしても,テロップ製作業者等の故意を,被告テレビ朝日の故意と同視すべきとは認められず,両者の責任を同一視することはできない
ウ そして,前記で認定したところによれば,被告らにおいて,テロップ製作業者等が原告との間で,本件フォントの使用に制限を課す本件使用許諾契約を締結し,かつ,これに違反していることを知りながら,フォント成果物であるテロップ画像を取得し,本件番組に使用した事実は認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 そのため,本件番組について,被告らに故意の不法行為が成立する旨の原告の主張は,違法性など,故意以外の点を検討するまでもなく理由がない。
(4) 本件番組における過失による不法行為
ア 原告は,本件番組の制作,編集を行った被告らには,外注先から受領したテロップについて,本件フォント使用の有無を確認した上で,原告の使用許諾があるかを確認すべき注意義務があり,そのような確認をしないままこれを使用した点で過失があると主張する。しかしながら,前記で認定したところによれば,原告の上記主張に関しては,以下の()ないし()の点を指摘することができるのであって,これらを総合すると,フォント成果物であるテロップ画像を取得して本件番組の制作,編集に使用する被告らに,テロップ製作業者等による本件フォントの使用につき,原告の正当な許諾があったかを確認し,許諾がないのであればその使用を中止すべき義務があったにもかかわらず,これを怠ったとの過失を認めることはできない
() 原告から旧フォントを購入した者は,旧使用許諾契約を締結していたとしても,特段の制限を受けず旧フォントをテレビ番組等で自由に使用できたのであるから,原告がその者に対し,今後は,放送等への使用には別途許諾が必要である旨を通知したとしても,このような一方的な通知によって,上記のような法的地位を変更することはできない。
 したがって,原告が本件フォントを販売した後も,契約上の制約を受けることなく旧フォントを使用し得る者が存在したといえるが,現に前記のとおり,一部の番組では,新フォントと旧フォントの混在が認められ,被告IMAGICAはもちろん,テロップ製作の発注者である被告テレビ朝日としても,従来から使用されている旧フォントと,ごく一部が変更されたに過ぎない本件フォントを区別することは,実際上極めて困難であったといえる。
() 多数のフォントベンダーによる多数のフォントが流通しているが,無償で使用し得るもの,有償で正当に取得すれば使用に特段の制限のないもの,使用態様に制限があるもの,使用態様の制限はないが,期間制限があり更新が必要なものなど,その使用制限の有無,態様は様々であり,契約の当事者でない者が,これを区別することは極めて困難であるから,仮に,フォント成果物としてテロップを取得した者が,それを使用するにあたり,テロップの製作者におけるフォントの使用に正当な権限があるかを確認しなければならないとすれば,非常な困難を強いられるおそれがある。
() タイプフェイスあるいはフォントが,一定の財産的価値があるものとして有償取引の対象となっていることは原告主張のとおりであるものの,これらは歴史的,文化的に形成されてきた文字との同一性の範囲内にあるものとして流通しているのであるから,フォント成果物の流通過程において,前者の使用権限の有無を確認すべき義務があるとすれば,その流通に制約が課されることとなり,文字を使用した情報伝達やコミュニケーション自体を阻害するおそれが生じる。
() 本件番組は,別法人である放送事業者,編集担当者,番組制作業者及びテロップ製作業者などが,業務を分担する形で制作されているが,このような場合,一般には,各人が受注した範囲で権利の処理を行い,必要な許諾を得るものとされており,特段の理由のない限り,それを前提として各人の業務を遂行することが許されると解される。
イ また,原告は,原告の主張する利益の要保護性と被告らによる本件フォントの使用態様とを対比して,被告らの行為は,社会的に相当な範囲を逸脱し,悪質であるとして,不法行為の成立を主張するが,被告らの故意が認められないことは前述のとおりであり,以下の事情を総合すると,被告らが,本件フォントが使用された本件番組等に関与した事実を前提としてもなお,これを違法と評価することはできず,この点からも不法行為に関する原告の主張は採用できないというべきである。
() 原告の主張する本件フォントを取引対象とする営業上の利益,あるいは本件フォントの使用料を求める使用許諾契約上の地位について,これを法律上保護される利益と評価する余地はあるものの,既に述べたとおり,本件フォントは,旧フォントと比べ,一部の文字が若干修正されたに過ぎず,旧使用許諾契約のもとで自由に使用することができた旧フォントと同一性の範囲内にある。そのため,旧フォントの販売開始から約6年ないし9年が経過した後に,本件フォントの販売開始とあわせて使用許諾契約の条項に変更を加え,テレビ放送等での使用に制限を課し,別途使用料を求めることとしたとしても,その利益の要保護性を格別高いものと見ることはできない。
() 被告らによる本件フォントの使用態様も,専らフォント成果物の使用にとどまり,被告ら自身が原告との間で本件使用許諾契約を締結し,これに違反して本件フォントソフト又は本件フォントを使用した事実は存しない。また,その目的,用途は,フォント成果物として当然想定される範囲内にあり,使用回数こそ相当数に昇るものの,各回当たりでは,本件タイプフェイスに属するフォントのごく一部をテロップとして使用したにとどまる。
ウ なお,原告は,被告らの行為が社会的に相当な範囲を超えて悪質,違法なものである根拠として,原告がかねてから被告テレビ朝日に対して,フォントの無断使用をやめるよう通知していたにもかかわらず,被告らが本件フォントの使用を継続したことを挙げるが,この点に関しても,以下のとおり,被告らの行為の悪質性,違法性を根拠づける事情は認められない
() 原告が被告テレビ朝日に対してフォントの無断使用を指摘する書面を送付していたのは,旧フォントが販売,使用されていた時期である。一方,被告らは,平成155月の本件フォントの販売開始後,被告IMAGICAが原告から平成211120日付けの通知を受けるまでの間,被告テレビ朝日の番組等で本件フォントが使用されていることの指摘などを受けることはなかった。つまり,被告らにおいて,本件フォントが原告の許諾なく使用されていることを知り得る機会に欠けていたものである。
() そして,平成21年に前記通知を受けた後においては,前記のとおり,同年123日放送分を最後に,当時放送継続中であった番組における本件フォントの使用が中止されている。すなわち,被告らは,上記通知を受け,本件フォントが原告の許諾なく使用されている可能性を認識した後は,本件使用許諾契約に基づく原告の利益を損なうことがないよう速やかな対応をとったものといえる。
() 被告テレビ朝日のみに関係する事情として,本件各番組2中の5番の番組(二人の食卓)においては,前記()の対応後10か月ほどが経過した平成22109日からロゴGの使用が開始され,本件訴訟においてこれが指摘された後もなお,平成24324日までロゴGの使用が継続されている。しかし,同番組は,番組制作会社が権利処理業務も含めて制作を請け負っており,被告テレビ朝日は完成された番組の納品を受ける立場にあったため,上記ロゴGが旧フォントでなく本件フォントであったとしても,被告テレビ朝日の意思で本件フォントの使用が開始されたとはいえないし,本件フォントを一見してそれと識別することが困難であることは,既に述べたとおりである。
エ 以上を総合すると,本件番組に関し,原告が被告らの不法行為の理由として主張するところは,いずれも採用できない。
(5) 本件DVDに関する不法行為の成否
ア 原告は,本件DVDにおける本件フォントの使用について,本件番組における本件フォントの使用とは別に不法行為が成立すると主張している。
イ まず,被告IMAGICAとの関係においては,被告IMAGICAが本件各DVD1における本件フォントの使用に関わったことを認めるに足りる証拠はなく,この点で被告IMAGICAの不法行為が成立する余地はない。
ウ 続けて,被告テレビ朝日について検討するに,本件DVDは,いずれも被告テレビ朝日が放送したテレビ番組のいわゆる二次利用に位置付けられる。このような二次利用においては,番組内で利用されている著作物であれば,当該著作権者の別途の許諾が必要と解されるが,本件フォントはこれに当たらない。しかも,本件DVDの一部には,原告から被告IMAGICAに対する平成211120日付けの前記通知後に販売が開始されたものも含まれているとはいえ,番組そのものは,いずれも上記通知の前に放送されたものであるから,本件DVDにおいて使用された本件フォントは,違法性を帯びることなく,文字としての流通過程に置かれたものといえる。
 以上によれば,本件DVDにおける本件フォントの使用が原告に対する不法行為を構成するとは解されない。
(6) 小括
 したがって,原告の被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
3 不当利得についての判断
(1) 原告は,被告らが,法律上の原因なく本件フォントの使用利益を利得し,あるいは使用料支払を免れたことが,不当利得に当たると主張する。
 しかしながら,本件タイプフェイスには,著作物としての排他的権利性は認められないから,本件フォント成果物を取得し,これをテレビ番組等に使用することで,被告らが一定の利益を受ける面があったとしても,被告らが,「他人の財産又は労務によって利益を受け」(民法7031項)たと評価することはできない
 また,前記のとおり,被告らは,本件使用許諾契約の当事者とは認められず,同契約に基づく債務を負担する立場にないから,本件使用許諾契約に基づく使用料が支払われていないことをもって,原告の損失,あるいは被告らの利得と評価することもできない
(2) また,仮に,第三者が,本件フォントの不正な使用を理由とする損害賠償責任又は本件使用許諾契約違反による債務不履行責任を負う場合を想定しても,原告は,この者に対する権利行使が可能であり,被告らがフォント成果物を取得しこれを使用したことによって原告の上記債権が消滅したり移転したりするものではなく,やはり損失は認められない。
(3) よって,被告らが本件フォントをテロップに使用したことについて,不当利得が成立するとすべき理由はなく,原告の被告らに対する不当利得返還請求はいずれも理由がない。











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