著作権重要判例要旨[トップに戻る]







複製の主体性(2)
「‘自炊(スキャン)代行サービス’事件」平成250930日東京地方裁判所(平成24()33525 

【コメント】本件は、小説家・漫画家・漫画原作者である原告らが、法人被告らは、電子ファイル化の依頼があった書籍について、権利者の許諾を受けることなく、スキャナーで書籍を読み取って電子ファイルを作成し(以下、このようなスキャナーを使用して書籍を電子ファイル化する行為を「スキャン」あるいは「スキャニング」という場合がある。)、その電子ファイルを依頼者に納品しているから(以下、このようなサービスの依頼者を「利用者」という場合がある。)、注文を受けた書籍には、原告らが著作権を有する作品(「原告作品」)が多数含まれている蓋然性が高く、今後注文を受ける書籍にも含まれている蓋然性が高いとして、原告らの著作権(複製権)が侵害されるおそれがあるなどと主張し、@著作権法1121項に基づく差止請求として、法人被告らそれぞれに対し、第三者から委託を受けて原告作品が印刷された書籍を電子的方法により複製することの禁止を求めるとともに、A不法行為に基づく損害賠償として、被告らに対し,弁護士費用相当額として原告1名につき21万円等の連帯支払を求めた事案です。 

1 著作権法1121項に基づく差止請求の成否について
(1) 後掲の証拠等によれば,以下の各事実がそれぞれ認められる。
 (略)
(2) 以上に基づいて,法人被告らが原告らの著作権を侵害するおそれがあるかについて検討する。
ア 複製の主体等について
() 著作権法2115号は,「複製」について,「印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製すること」と定義している。
 この有形的再製を実現するために,複数の段階からなる一連の行為が行われる場合があり,そのような場合には,有形的結果の発生に関与した複数の者のうち,誰を複製の主体とみるかという問題が生じる。
 この問題については,複製の実現における枢要な行為をした者は誰かという見地から検討するのが相当であり,枢要な行為及びその主体については,個々の事案において,複製の対象,方法,複製物への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して判断するのが相当である(最高裁平成23120日第一小法廷判決参照)。
 
本件における複製は,上記で認定したとおり,@利用者が法人被告らに書籍の電子ファイル化を申し込む,A利用者は,法人被告らに書籍を送付する,B法人被告らは,書籍をスキャンしやすいように裁断する,C法人被告らは,裁断した書籍を法人被告らが管理するスキャナーで読み込み電子ファイル化する,D完成した電子ファイルを利用者がインターネットにより電子ファイルのままダウンロードするか又はDVD等の媒体に記録されたものとして受領するという一連の経過によって実現される。
 この一連の経過において,複製の対象は利用者が保有する書籍であり,複製の方法は,書籍に印刷された文字,図画を法人被告らが管理するスキャナーで読み込んで電子ファイル化するというものである。電子ファイル化により有形的再製が完成するまでの利用者と法人被告らの関与の内容,程度等をみると,複製の対象となる書籍を法人被告らに送付するのは利用者であるが,その後の書籍の電子ファイル化という作業に関与しているのは専ら法人被告らであり,利用者は同作業には全く関与していない
 以上のとおり,本件における複製は,書籍を電子ファイル化するという点に特色があり,電子ファイル化の作業が複製における枢要な行為というべきであるところ,その枢要な行為をしているのは,法人被告らであって,利用者ではない
 したがって,法人被告らを複製の主体と認めるのが相当である。
() この点について,被告サンドリームらは,著作権法301項の適用を主張する際において,被告サンドリームは,使用者のために,その者の指示に従い,補助者的な立場で電子データ化を行っているにすぎないとし,また,被告ドライバレッジらは,同項の「使用する者が複製する」の解釈について,「複製」に向けての因果の流れを開始し,支配している者が複製の主体と判断されるべきであるし,複製の自由が書籍の所有権に由来するものであることに照らしても,書籍の所有者が複製の主体であると判断すべきであると主張する。
 著作権法301項は,複製の主体が利用者であるとして利用者が被告とされるとき又は事業者が間接侵害者若しくは教唆・幇助者として被告とされるときに,利用者側の抗弁として,その適用が問題となるものと解されるところ,本件においては,複製の主体は事業者であるとされているのであるから,同項の適用が問題となるものではない。もっとも,被告らの主張は,利用者を複製の主体とみるべき事情として主張しているものとも解されるので,この点について検討する。
 確かに,法人被告らは,利用者からの発注を受けて書籍を電子ファイル化し,これを利用者に納品するのであるから,利用者が因果の流れを支配しているようにもみえる。
 しかし,本件において,書籍を電子ファイル化するに当たっては,書籍を裁断し,裁断した頁をスキャナーで読み取り,電子ファイル化したデータを点検する等の作業が必要となるのであって,一般の書籍購読者が自ら,これらの設備を準備し,具体的な作業をすることは,設備の費用負担や労力・技術の面において困難を伴うものと考えられる。
 このような電子ファイル化における作業の具体的内容をみるならば,抽象的には利用者が因果の流れを支配しているようにみえるとしても,有形的再製の中核をなす電子ファイル化の作業は法人被告らの管理下にあるとみられるのであって,複製における枢要な行為を法人被告らが行っているとみるのが相当である。
 また,被告らは,法人被告らが補助者にすぎないと主張する。利用者がその手足として他の者を利用して複製を行う場合に,「その使用する者が複製する」と評価できる場合もあるであろうが,そのためには,具体的事情の下において,手足とされるものの行為が複製のための枢要な行為であって,その枢要な行為が利用者の管理下にあるとみられることが必要である。本件においては,上記のとおり,法人被告らは利用者の手足として利用者の管理下で複製しているとみることはできないのであるから,利用者が法人被告らを手足として自ら複製を行ったものと評価することはできない
() さらに,被告ドライバレッジらは,「複製」といえるためには,オリジナル又は複製物に格納された情報を格納する媒体を有形的に再製することに加え,当該再製行為により複製物の数を増加させることが必要であり,言い換えれば,「有形的再製」に伴い,その対象であるオリジナル又は複製物が廃棄される場合には,当該再製行為により複製物の数が増加しないのであるから,当該「有形的再製」は「複製」には該当しない旨主張する。
 しかし,著作権法21条は,「著作者は,その著作物を複製する権利を専有する。」と規定し,著作権者が著作物を複製する排他的な権利を有することを定めている。その趣旨は,複製(有形的再製)によって著作物の複製物が作成されると,これが反復して利用される可能性・蓋然性があるから,著作物の複製(有形的再製)それ自体を著作権者の排他的な権利としたものと解される
 そうすると,著作権法上の「複製」は,有形的再製それ自体をいうのであり,有形的再製後の著作物及び複製物の個数によって複製の有無が左右されるものではないから,被告ドライバレッジらの主張は採用できない。
イ 被告サンドリームが原告らの著作権を侵害するおそれについて
 上記のとおり,被告サンドリームは,平成2411月現在において,そのスキャン事業として,会員登録をした利用者から利用申込みがあると,有償で,書籍をスキャナーで読み取ることにより,電子的方法により複製して,電子ファイルを作成している。
 そして,上記のとおり,原告らを含む作家122名及び出版社7社は,被告サンドリームに対し,本件質問書において,作家122名は,スキャン事業における利用を許諾していないとした上で,作家122名の作品について,依頼があればスキャン事業を行う予定があるかなどの質問を行ったが,被告サンドリームは,本件質問書に対して回答しなかった。
 また,原告らを含む作家122名及び出版社7名は,被告サンドリームに対し,本件通知書において,今後は,作家122名の作品について,依頼があってもスキャン事業を行なわないよう警告するなどしたが,被告サンドリームは,本件通知書に対しても回答しなかった。その後の調査会社の調査によると,被告サンドリームは,原告X6及び甲の作品について,スキャンを依頼され,スキャンによって作成されたPDFファイルを収録したUSBメモリを納品した。
 以上に照らすと,被告サンドリームのウェブサイト(平成241229日のもの)では,会員専用ログイン画面の最下部に,原告らの書籍のスキャンには対応していない旨が記載されているとしても,被告サンドリームが原告らの著作権を侵害するおそれがあると認めるのが相当である。また,被告サンドリームに対する差止めの必要性を否定する事情も見当たらない。
ウ 被告ドライバレッジが原告らの著作権を侵害するおそれについて
 (略)
 このように,被告ドライバレッジは,本件質問書に対し,作家122名の作品について,利用者の依頼があってもスキャン事業を行うことがない旨を回答するなどしている。しかし,調査会社の調査によると,被告ドライバレッジは,原告X6及び甲の作品について,スキャンを依頼され,スキャンによって作成されたPDFファイルを収録したDVDを納品しているし,被告ドライバレッジは,チェック漏れとしながらも,平成2310月から平成251月までの間において,原告作品を合計557冊スキャンしたことを認めている。
 以上に照らすと,被告ドライバレッジが原告らの著作権を侵害するおそれがあると認めるのが相当である。また,被告ドライバレッジに対する差止めの必要性を否定する事情も見当たらない。
(3) 次に,法人被告らのスキャニングが私的使用のための複製の補助として適法といえるかについて検討する。
 被告らは,法人被告らのスキャニングについて,そのスキャン事業の利用者が複製の主体であって,法人被告らはそれを補助したものであるから,著作権法301項の私的使用のための複製の補助として,法人被告ら行為は適法である旨主張する。
 しかし,上記(2)のとおり,本件において著作権法301項の適用は問題とならないし,また,本件における書籍の複製の主体は法人被告らであって利用者ではないから,被告らの主張は事実関係においてもその前提を欠いている。
 したがって,被告らの主張は理由がない。
(4) 続いて,原告らの被告サンドリームに対する差止請求が権利濫用に当たるかについて検討する。
 被告サンドリームらは,本件は,法的に見ても,社会的に見ても,評価や将来の制度設計について多様な意見があり得る問題といえるなどとして,仮にスキャン代行が私的使用に該当しないと判断される場合であっても,権利の濫用に該当する旨主張する。
 しかしながら,被告サンドリームらの主張によっても権利の濫用に該当する事情は見当たらないし,上記(1)において認定した事実に加え,本件記録を精査しても,同様に権利の濫用に該当する事情は見当たらないから,被告サンドリームらの主張は理由がない。
(5) 小括
 以上のとおり,法人被告らが原告らの著作権を侵害するおそれがあると認めるのが相当であり,法人被告らに対する差止めの必要性を否定する事情も見当たらない。他方で,私的使用のための複製及び権利濫用の抗弁はいずれも理由がない。
 したがって,原告らの法人被告らに対する著作権法1121項に基づく差止請求は理由がある。
2 不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害額について
(1) 不法行為に基づく損害賠償請求の成否について
ア 著作権者が,その著作権を侵害する者(又は侵害するおそれがある者)に対し,著作権法1121項に基づく差止請求をする場合には,著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様,その著作権者において,具体的事案に応じ,著作権取得に係る事実に加え,著作権侵害(又はそのおそれ)に係る事実を主張立証する責任を負うのであって,著作権者が主張立証すべき事実は,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない(損害賠償請求では,故意又は過失に加え,損害の発生及びその額を主張立証する責任を負う点が異なる。)。そうすると,著作権法1121項に基づく差止請求権は,著作権者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができる
 したがって,著作権者が,著作権法1121項に基づく差止めを請求するため訴えを提起することを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,著作権侵害(又はそのおそれ)と相当因果関係に立つ損害というべきである。
イ 以上に基づいて,被告サンドリームらに対する不法行為に基づく損害賠償請求の成否について検討する。
 前記に認定した被告サンドリームの対応に照らすと,このような被告サンドリームの対応によって,原告らは,被告サンドリームに対する差止請求を余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任したものと認められるし,被告サンドリームの過失も認められるというべきである。
 また,…によれば,被告Y1は,被告サンドリームの代表者であるとともに,そのスキャン事業の責任者であったことが認められるから,被告サンドリームと同様に過失が認められ,被告サンドリームと共同して不法行為を行ったものと認めるのが相当である。
 したがって,原告らの被告サンドリームらに対する不法行為に基づく損害賠償請求は成立する。
ウ 続いて,被告ドライバレッジらに対する不法行為に基づく損害賠償請求の成否について検討する。
 (略)
 したがって,原告らの被告ドライバレッジらに対する不法行為に基づく損害賠償請求は成立する。
(2) 損害額について
 上記(1)のとおり,法人被告らに対する差止請求に係る弁護士費用相当額が因果関係のある損害である。
 
そして,被告サンドリームらと被告ドライバレッジらがそれぞれ負担すべき弁護士費用相当額は,上記差止請求の内容,経過等に照らすと,原告1名につき10万円が相当である。

【控訴審】参照











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