著作権重要判例要旨[トップに戻る]







複製の主体性(3)
「‘自炊(スキャン)代行サービス’事件②」平成251030日東京地方裁判所(平成24()33533 

【コメント】本件は、「本件各作品」を創作した小説家・漫画家及び漫画原作者である原告らが、「被告会社ら」において、個人ないし法人である第三者から注文を受けて書籍をスキャナーで読み取り、電子ファイル化する事業を行っている行為は、本件各作品について、原告らがそれぞれ有する著作権(複製権)を侵害するおそれがあるとして、著作権法21条,同法1121項に基づき侵害の予防請求として,その差止めと、被告会社らそれぞれの代表者である「被告代表者ら」は、それぞれが代表する被告会社らと各共同して、上記著作権侵害をするおそれがある状況を作出する著作権法上違法な行為を行っており、著作権法21条、民法709条、同法7191項前段に基づき、原告ら各自に、被告代表者らが各代表する被告会社らとそれぞれ連帯して、弁護士費用相当額として原告1名につき21万円等の支払を求めた事案です。 

1 …によれば,以下の事実が認められ,同認定を覆すに足る的確な証拠はない。
 (略)
2 争点(1)(本件事業による複製行為の有無)について
 被告ビー・トゥ・システムズは,同社が行っているのは書籍の加工であり,複製には該当しない旨主張するので,以下,本件事業における書籍の電子ファイルを作成する行為が書籍の複製に該当するか否かにつき判断する。
 著作権法にいう複製とは,「印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをい」う(著作権法2115号)ところ,本件事業においては,書籍をスキャナーで読みとり,電子化されたファイルが作成されているものであるから,書籍についての有形的再製が行われていることが明らかであり,上記複製に当たる行為が行われているということができる。
 これに対し,被告ビー・トゥ・システムズは,裁断済み後の本としての体裁をなしていない原本は廃棄ないし返却するなどして,1冊の本から一つの電子データが作成されていることや,電子データを販売するなどはしていないことなどから,同社の行為は複製には該当しない旨主張する。
 しかし,本件事業においては書籍を有形的に再製した物である電子ファイルが作成されており,これにより複製行為が行われていることは明らかであって,その複製の元となる書籍の原本自体の複製後の帰趨や,複製物である電子ファイルがその後販売されているか否かは複製権侵害の成否に影響しないというべきである。
 したがって,被告ビー・トゥ・システムズの上記主張は採用することができない。
3 争点(2)(本件事業への著作権法301項適用の可否)について
(1) 被告タイムズ及び被告ビー・トゥ・システムズは,本件事業における複製行為の主体は,被告会社らにスキャン及び電子ファイルの作成を依頼した利用者であり,被告タイムズ及び被告ビー・トゥ・システムズは,利用者が個人的に使用することを目的として複製を行うことを代行し,あるいはその手足として複製を行うにすぎないから,複製の主体はあくまで利用者であって,本件事業は,利用者の行う私的複製として適法である旨主張する。
 そこで,まず本件事業において複製行為を行っている主体が誰かであるかにつき検討する。
 複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であり,その複製の実現に当たり枢要な行為をしている者が複製の主体であるということができる(最高裁平成23120日第一小法廷判決参照)。
 これを本件についてみると,本件における複製の対象は,利用者が提供する書籍であり,問題とされる複製行為は,書籍をスキャナーで読み取って電子化されたファイルを作成することにあるところ,本件事業における一連の作業は,前記)記載のとおり,利用者においてインターネットのウェブサイトから書籍の電子化を申し込み,直接被告会社らの指定する場所にこれを郵送等するか,あるいは,書籍の販売業者等から直接被告会社らの指定する場所に郵送等し,これを受領した被告会社らにおいて,書籍を裁断するなどしてスキャナーで読み取り,書籍の電子ファイルを作成して,完成した電子ファイルを利用者がインターネットを通じてダウンロードするか,電子ファイルを格納したDVDないしUSB等の送付を受ける,というものである。
 これら一連の作業をみると,書籍を受領した後に始まる書籍のスキャナーでの読込み及び電子ファイルの作成という複製に関連する行為は,被告会社の支配下において全ての作業が行われ,その過程に利用者らが物理的に関与することは全くない
 上記によれば,本件事業において,書籍をスキャナーで読み取って電子化されたファイルを作成するという複製の実現に当たり枢要な行為を行っているのは被告会社らであるということができる。そうすると,本件事業における複製行為の主体は被告会社らであり,利用者ではないというべきである。
(2) 次に本件事案に著作権法301項が適用されるか否かにつき検討する。
 著作権法301項は,著作権の目的となっている著作物は,個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは,同項1号ないし3号に定める場合を除き,その使用する者が複製することができる旨規定している。そうすると,同条項にいう「その使用する者が複製する」というためには,使用者自身により複製行為がされるか,あるいは使用者の手足とみなしうる者によりこれがされる必要があるというべきところ,既に検討したとおり,被告タイムズ及び被告ビー・トゥ・システムズは,本件事業における複製の主体であって,使用者自身でも,使用者の手足とみなしうる者でもないのであるから,本件においては,著作権法301項にいう「その使用する者が複製する」の要件を満たすとはいえず,したがって,同条が適用されるものではないと認めるのが相当である。
 なお,被告タイムズは,同社のウェブサイトにおいて,同社は利用者の私的使用の範囲内での本件事業の利用を求めているとし,それに沿う証拠として,同社のウェブサイトの記事を提出する。(記事)によれば,同社のウェブサイトにおいて,「本サービスはお客様に代わって書籍を裁断及びスキャンする内容となりますので,対象書籍はお客様が自ら所有する書籍に限らせていただきます。また,書籍から変換された電子データは,私的使用の範囲内でのみ利用し,ネット上で公開したり,誰でも閲覧できる状態にしないようご注意ください。」と記載されている。
 しかし,前記(1)のとおり,あくまで複製行為の主体は被告タイムズであると認められるところであって,(記事)の上記記載は,その認定を左右するものではない。
(3) 以上によれば,被告タイムズ及び被告ビー・トゥ・システムズの上記各主張は,いずれも採用することができない。
4 争点(3)(本件事業差止めの必要性の有無)について
(1) 前記のとおり,被告会社らは,いずれも,原告らによる本件質問書を受領し,これによって,原告らから,本件事業における電子ファイルの作成について許諾するものではないことを通知されたところ,被告会社らのうち,被告ビー・トゥ・システムズのみは,今後は,本件事業については,本件各作品を対象とせず,本件各作品の書籍について本件事業を行わない旨回答をし,さらに,その他の被告会社らは,上記質問書の各受送達地に発送された本件通知書においても,上記と同旨の通知を受けていたにもかかわらず,被告ビー・トゥ・システムズを含む被告会社らは,平成24822日ないし同年98日頃に,原告X6及び訴外Aの各作品につき,書籍をPDFファイル化した電子ファイルを作成し,これを依頼した者に送付するなどしているものである。
 そうすると,被告会社らは,今後も,本件事業において,本件各作品に該当する書籍をスキャナで読み取って電子ファイルの作成を行い,原告らの著作権(複製権)を侵害するおそれがあるといえるから,被告会社らの行う本件事業について,これを差し止める必要性がある
(2) この点に関して被告タイムズは,本件訴状が提出された日以降は,本件各作品は電子化サービスの対象外としており,その複製権を侵害するおそれはない旨主張し,それに沿う証拠として電子メールを提出する。
 
しかし,被告タイムズの提出する(電子メール)は,2件の依頼に対し,本件訴訟で係争中の原告らの書籍であることを理由として電子化依頼を断ったとするものにすぎず,上記のとおり,被告タイムズが,原告らからの2度にわたる警告を含む通知のあった後においても,原告X6の作品である書籍を電子ファイル化したこと等に照らせば,原告らの複製権を侵害するおそれがないとはいえない。
 したがって,被告タイムズの上記主張は採用することができない。
(3) また,被告ビー・トゥ・システムズは,同社には複製の意図はなく,複製権侵害のおそれもないと主張するが,本件事業が複製行為に該当することは前記2で説示したとおりであり,また上記(1)の認定事実に照らせば,被告ビー・トゥ・システムズについて,複製権侵害のおそれもあるということができる。
 したがって,被告ビー・トゥ・システムズの主張は採用することができない。
5 争点(4)(被告らの賠償責任の有無並びに損害発生の有無及びその額)について
(1) 著作権者が,その著作権を侵害するおそれのある者に対し,著作権法1121項に基づく差止請求をするについては,不法行為である著作権侵害を理由とする損害賠償請求をするのと同様に,著作権者において,自らが著作権者である事実と,著作権侵害ないしそのおそれに係る事実を主張立証する責任があるところ,著作権者が主張立証すべき事実は,故意ないし過失及び損害額を除けば,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟と異なるところはない。
 そうすると,著作権法1121項に基づく差止請求権は,不法行為に基づく損害賠償請求権と同様,弁護士に委任しなければ訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができる。そして,本件のように,著作権者が著作権法1121項に基づく差止請求をする訴えの提起を余儀なくされ,その訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内で,著作権侵害ないしそのおそれと相当因果関係に立つ損害であると解される(最高裁昭和44227日第一小法廷判決,最高裁平成24224日第二小法廷判決参照。)。
(2) 被告ユープランニング及び被告Y1の賠償責任につき
 上記認定事実によれば,被告ユープランニングは,本件質問書を平成2396日に受領し,原告らから,本件事業における電子化ファイルの作成について許諾するものではないことを通知され,さらに本件通知書を同年1018日に受領し,同旨の通知を受けていたにもかかわらず,平成24713日に原告ら代理人が申込みをした原告X6及び訴外Aの各作品につき,書籍をPDFファイル化した電子ファイルを作成し,同年825日までに送付するなどしているものである。こうした被告ユープランニングの対応により,原告らは,被告ユープランニングらに対する差止請求の訴訟提起を余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任したものと認められるし,被告ユープランニングの過失も認められる。
 また,…によれば,被告Y1は,被告ユープランニングの代表者であって,上記2通の質問書等も受領しており,インターネットのウェブサイト上においても代表者として会社案内の挨拶文を記載し,顔写真も載せるなどしていることや,被告ユープランニングの本店所在地に存する建物の所有者は,担保不動産の競売により平成24119日に移転登記がされるまでは被告Y1であったことなどからすると,別途事業責任者として訴外Y①の氏名が会社案内には記載されているものの,被告Y1は,被告ユープランニングの行う本件事業の責任者であったことが認められるから,被告ユープランニングと同様に,過失が認められ,被告ユープランニングと共同して不法行為を行ったものと認められる。
(3) 被告タイムズ及び被告Y2の賠償責任につき
 上記認定事実によれば,被告タイムズは,被告タイムズ訴外Y②宛て本件質問書の内容証明郵便を,同月6日に受領し,原告らから,本件事業における電子化ファイルの作成について許諾するものではないことを通知され,さらに本件通知書も,同月18日に受領した。これに対し,被告Y2において,原告ら代理人宛てに,本件各作品について本件事業を行うかは検討中である旨等を返答した。しかし,被告タイムズは,平成24713日に原告ら代理人が申込みをした原告X6及び訴外Aの各作品につき,書籍をPDFファイル化した電子ファイルを作成し,同年822日までに送付するなどしているものである。こうした被告タイムズの対応により,原告らは,被告タイムズらに対する差止請求の訴訟提起を余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任したものと認められるし,被告タイムズの過失も認められる。
 この点に関して被告タイムズは,本件事業の適法性について,本件各作品の出版元である出版社や,一般社団法人日本雑誌協会等,複数の出版関係事業者等に問い合わせをしたが,いずれも適法であるとの回答を得た旨主張する。
 しかし,被告タイムズは,それに沿う証拠を何ら提出しないばかりか,かえって,原告らからは,これと反する証拠(一般社団法人日本雑誌協会事務局長Bの陳述書。)が提出されており,被告タイムズが,本件事業の適法性について,本件事業を的確に説明した上で,本件各作品の出版事業に関わる者等から適法である旨の回答を得ていたか等については,これを認めることができないというべきである。
 また,被告Y2は,被告タイムズの代表者であって,被告Y2のほかには,上記Y②も含め,被告タイムズの取締役はおらず,上記のとおり,被告Y2において,原告ら代理人に対し被告タイムズの代表者として回答していることなどからすると,被告Y2は,被告タイムズの行う本件事業の責任者であったことが認められるから,被告タイムズと同様に,過失が認められ,被告タイムズと共同して不法行為を行ったものと認められる。
(4) 被告ビー・トゥ・システムズ及び被告Y3の賠償責任につき
 (略)
(5) 被告ジャカレ及び被告Y4の賠償責任につき
 (略)
(6) 損害発生の有無及びその額につき
 前記(1)ないし(5)で検討したところによれば,被告会社らに対する差止請求に係る弁護士費用相当額は,被告会社らによる著作権侵害のおそれと相当因果関係のある損害であるということができる。
 
そこで,被告会社らがそれぞれ負担すべき弁護士費用相当額は,上記差止請求の内容,経過等に照らすと,原告1名につき10万円と認めるのが相当であり,被告代表者らは,それぞれが代表する被告会社らとの間で連帯して,上記金額につき損害賠償の責めを負うというべきである。











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