著作権重要判例要旨[トップに戻る]







利用許諾契約の解釈(34)-契約の成立を否定した事例④-
「『聖経 甘露の法雨』利用契約事件」平成251107日東京地方裁判所(平成23()37319/平成27428日知的財産高等裁判所(平成25()10109 

【コメント】本件は、原告が、被告に対し、①1)被告によるカセットテープの複製・頒布について、著作権使用契約に基づき、所定の印税等の支払などを求め、②被告によるコンパクト・ディスクの販売について、表示が著作権使用契約により定められたものと異なるとして、同契約に基づき、その©表示の削除を求めた事案です。

 なお、本件における「前提事実」として以下参照:
(5) 原被告間には,原告を権利者,被告を使用者としてそれぞれの記名押印のある昭和6186日付け「著作権使用契約書」の写し2通(以下「本件契約書写」という。)があり,これには,本件原著作物について,原告を甲とし,被告を乙として,次の記載がある。
2条(使用の許諾)
 「甲(…)は,表記の著者名及び題名をもって表示せられる著作物(…)を録音物として複製・頒布するために,乙(…)に対し,この契約の条項に従って,表記の著作物を使用することを許諾する。」
5条(製造,販売)
 「使用者は,著作物をカセットテープその他の体裁の録音物として,複製し,国の内外を問わず,頒布することができる。
 前項の複製物の製造数量・販売価格・表装及び販売・宣伝の方法等は,使用者が適宜に定めるものとする。」
7条(印税の支払)
 「使用者は,権利者に対し,録音物の定価の10パーセントを印税として,支払う。
 印税の計算は,録音物製品の製作された月の翌月末ごとに,計算報告書を作成提出すると共に,権利者の指定銀行口座へ振込む方法をとるものとする。」
(6) 原告は,平成18811日,被告との間で,原告が被告に対し「聖経 甘露の法雨」をコンパクト・ディスクとして複製,頒布することを許諾し,被告が原告に対し印税として税抜価格の10%を支払うことを内容とする著作物使用契約を締結した(以下「著作物使用契約(CD」という。)。
 これにつき作成された「著作物使用(複製・頒布)契約書」10条(_表示)には,原告を甲とし,被告を乙として,次の記載がある。
 「乙は,万国著作権条約加盟の方式国に於いて甲の権利を保全するため,同条約第3条に基づき所定の位置(パッケージ等)に©記号,甲の名称(財団法人生長の家社会事業団又は,Seicho-No-Ie Shakaijigyodan),第一発行年を一体として表示する。」
(7) 被告は,「聖経 甘露の法雨」を原著作物としてEが口述した著作物をコンパクト・ディスク(以下「本件CD」という。)に複製して,頒布したが,そのパッケージには,_表示として次の記載がある。
 Seicho-No-Ie-Shakai-jigyodan,2006
 C”, D”, 2006」』


【原審】

2 原被告間に本件契約書写に記載された内容の著作権使用契約が成立したかについて
(1) 本件契約書写は,複写機により複製されたものであって,その体裁に照らして元となった原本があると考えられるから,特段の事情がない限り,これに記載された内容の著作権使用契約が成立したものと認められるべきである。
(2) ところで,前記前提事実に,…を総合すれば,以下の事実が認められる。
 (略)
(3) 上記(2)認定の事実によれば,昭和618月ころは,本件原著作物を含むAの著作物の著作権の帰属や印税等の扱いが,生長の家や原被告において明確にされていなかったことが認められる。そして,原被告ともに本件契約書写の元となる原本を所持していないこと,本件契約書写及びその原本が作成された経緯を明らかにする証拠が全くないこと,被告が同月13日にCとの間で「聖経 續々甘露の法雨」について著作権使用契約を締結したこと,被告の原告に対する印税の支払がなく,原告も本件契約書写を提出するまでは被告に対して印税の支払を求めていないこと,原告が平成18年ころから被告との間で改めて本件カセットテープの複製,頒布について交渉していることを併せ考慮すれば,本件契約書写があり,元となった原本が真正に作成されたものであると認められるとしても,本件契約書写に記載された内容の著作権使用契約が成立したと認めるのを相当としない特段の事情があるというべきである。
 そうであるから,本件契約書写によって,著作権使用契約が成立したと認めることはできず,他にこのことを認めるに足りる証拠はない。
3 原告が被告に対し本件カセットテープの複製,頒布を許諾したかについて
 前記認定の事実によれば,原告は,被告が少なくとも「聖経 甘露の法雨」のカセットテープを複製,頒布し,その印税をCらに支払っていることを認識していたが,平成18年ころまで印税等の扱いについて異議を述べていない。そして,Cらが生長の家を創始したAの相続人であること,被告が生長の家の管理の下で本件カセットテープを複製,頒布したことを併せ考慮すれば,原告は,昭和618月ころ,Cらに印税に相当する額を支払うことを条件に本件カセットテープの複製,頒布を被告に許諾したものと認められる。
 そうであるから,被告による本件カセットテープの複製,頒布は,原告の本件原著作物の著作権を侵害しない。
4 被告が本件カセットテープの複製,頒布により法律上の原因なくして印税に相当する額を利得したかについて
 原告は,前記3のとおり,印税に相当する額をCらに支払うことを条件に本件カセットテープの複製,頒布を被告に許諾したのであり,被告はCらに印税に相当する額を支払っているから,被告がこれを利得したということはできない。
5 本件CD©表示が著作物使用契約(CD)に違反するかについて
 被告は,原告が本件CD©表示を前記前提事実(7)のとおりにすることを承諾したと主張し,被告代表者は,陳述書及び代表者尋問においてこれに沿う陳述をする。しかしながら,原告は,Aの相続人の代表行使者であるCとの間で,Aから原告に対し「聖経 甘露の法雨」の著作権が譲渡されたことを確認しているのであるから,原告があえて本件CDについて著作権の帰属を不明確にするような©表示の記載を認めるとは考え難いところであり,反対趣旨の原告代表者の陳述に照らしても,被告代表者の上記陳述は,にわかに採用することができず,他に被告の主張する上記事実を認めるに足りる証拠はない。
 そうであるから,本件CD©表示は,著作物使用契約(CD)に違反するといわざるを得ない。
6 以上のとおりであって,原告の請求は,本件CD©表示の抹消を求める限度で理由がある。

【控訴審】

3 主位的請求について
(1) 控訴人と被控訴人との間で本件著作権使用契約が成立したか否かについて
ア 控訴人は,被控訴人との間で,本件契約書記載の内容の著作権使用契約(本件著作権使用契約)が成立した旨主張する。
イ 本件契約書については,その原本が証拠として提出されていないものの,被控訴人は,控訴人との間で,本件契約書を作成したものと認められる。
 処分証書である本件契約書については,その成立が認められれば,特段の事情がない限り,これに記載されたとおりの内容の契約が成立したものと認めるべきであるから,以下,上記特段の事情が存するか否かにつき検討する。
ウ 特段の事情の存否について
 (略)
 このように,本件契約書作成後の控訴人や被控訴人の言動は,いずれも本件著作権使用契約が成立していないことを推認させるものであるから,本件契約書に記載されたとおりの内容の契約が成立したものとは認められない特段の事情があるというべきである。
 (略)
エ 小括
 以上によれば,控訴人と被控訴人との間で本件著作権使用契約が成立したとの事実は認められない。
(2) したがって,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の主位的請求は理由がない。
4 予備的請求について
(1) 控訴人と被控訴人との間で,本件カセットテープの複製・頒布に係る許諾契約が成立したか否かについて
ア 被控訴人は,控訴人と被控訴人との間で,控訴人が被控訴人に対し,本件カセットテープを複製・頒布することを許諾し,その印税については,被控訴人から亡Aないしその相続人らに対して支払うことを内容とする本件許諾契約を明示又は黙示に締結したから,被控訴人による本件カセットテープの複製・頒布行為は,本件原著作物に係る著作権を侵害する行為には該当しない旨主張する。
 この点については,控訴人が被控訴人に対し,本件カセットテープの複製・頒布を明示的に許諾したことを認めるに足りる証拠はない。そこで,被控訴人の主張する事情によって,これを黙示的に許諾した,すなわち,黙示の本件許諾契約が成立したものと認められるか否かについて,以下検討する。
イ 被控訴人の主張する事情について
 (略)
以上のとおり,被控訴人の主張する事情をもって,本件許諾契約が黙示に成立したとの事実を認めるに足りず,他に上記事実を認めるに足りる証拠は存しないから,被控訴人の上記主張は理由がない。
エ 小括
 以上によれば,被控訴人による本件カセットテープの複製・頒布行為は,本件原著作物に係る著作権を有する控訴人の許諾を得ることなく行われたものであり,上記著作権を侵害する行為であると認められる。
 したがって,控訴人は,被控訴人に対し,著作権法1121項に基づき,本件カセットテープの頒布の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,本件カセットテープの廃棄を求めることができる。
(2) 次に,控訴人は,不法行為による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき,被控訴人に対し,本件カセットテープの定価の10%に相当する金銭及び弁護士費用の支払を求めているのに対し,被控訴人は不法行為による損害賠償請求権(消滅時効期間は3年)及び不当利得返還請求権(消滅時効期間は10年)のいずれについても消滅時効を援用しているので,事案に鑑み,不当利得返還請求権の有無から判断することとする。
(3) 利得の有無及びその額について
 (略)
5 結論
 以上の次第で,原判決中控訴人敗訴の部分に係る請求のうち,主位的請求は理由がないから棄却し,予備的請求は,被控訴人に対し,本件カセットテープの頒布の差止め及び廃棄,並びに,3747600円及びこれに対する平成26827日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。
 
したがって,以上と異なる原判決は変更することとし,主文のとおり判決する。











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