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アーティストの専属マネジメント契約の解除の有効性等が争われた事例
「‘JYJ 専属マネジメント契約解除事件平成250118日東京地方裁判所(平成23()17612 


【コメント】本件の「事案の概要」は、以下のとおりです:

(1) 1事件
 
韓国人アーティストであるJYJことA,B及びC(以下,上記3名を併せて「JYJ」という。)との間で,専属的にマネジメントを行う契約(以下「基本専属契約」という。)を締結した原告シージェスが,被告エイベックスとの間でJYJの日本におけるアーティスト活動に関して締結した専属契約(以下「本件専属契約」という。)について,被告エイベックスの義務違反により解除した(以下「本件解除」という。)として,被告エイベックスに対し,①被告エイベックスが,原告シージェスの取引先に告知し,ホームページで公表している「本件専属契約は現在も有効に成立しており,原告シージェスが被告エイベックスの承諾を得ることなくJYJにアーティスト活動を行わせることは,日本におけるJYJの独占的なマネジメント業務を遂行する被告エイベックスの権利を侵害する」旨の事実は虚偽であるなどとして,不正競争防止法2114号に該当する旨主張し,同法31項に基づく差止請求として,被告エイベックスが同旨の事実を文書又は口頭で第三者に告知・流布することの禁止を求めるとともに,②被告エイベックスは,本件解除を争い,原告シージェスに対し,被告エイベックスを介することなく日本においてJYJのアーティスト活動を行うことが判明した場合,原告シージェスの業務活動を阻止する行為を行う旨を通知したなどとして,原告シージェスの業務遂行権が妨害されている旨主張し,業務遂行権に基づく差止請求として,被告エイベックスが原告シージェスの業務を妨害することの禁止を求めた事案である。
(2) 2事件
 被告エイベックスが,原告シージェス及びJYJのコンサート会場として両国国技館の利用を許可した被告相撲協会に対し,被告エイベックスの承諾なくJYJのコンサートを両国国技館で開催したこと(以下「国技館コンサート」という。)が本件専属契約に違反し,被告相撲協会については債権侵害の共同不法行為に当たるなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償請求(原告シージェスについては債務不履行に基づく損害賠償請求との選択的併合)として14340万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成23811日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払を求めた事案である。
(3) 3事件
 原告シージェスが,被告エイベックスに対し,本件専属契約の契約金等が未払であるなどと主張して,①本件専属契約に基づく未払契約金の支払請求又は債務不履行に基づく損害賠償請求として15000万円(附帯請求として本件解除の日の翌日である平成23224日から支払済みまで商事法定利率の年6分の割合による遅延損害金),②本件専属契約に基づく未払分配金等の支払請求として45117108円,債務不履行に基づく損害賠償請求(逸失利益)として1131197416円,コンサート活動の妨害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求として55083500円,著作隣接権(実演家の権利)の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求として318892150円の合計1550290174円の一部である1243069908円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成23810日から支払済みまで商事法定利率の年6分の割合による遅延損害金)の支払を求めるとともに,原告甲[管理人注:原告シージェスの代表者]が,被告エイベックスに対し,被告エイベックスの親会社であるエイベックス・グループ・ホールディングス株式会社(以下「エイベックスGHD」という。)のホームページにおいて名誉を毀損された旨主張して,③不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料500万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成23810日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払,④民法723条に基づく名誉回復等の措置請求として別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を求めた事案である。
(4) 第4事件
 被告エイベックスが,原告シージェスに対し,被告エイベックスの承諾なくJYJのコンサートを国営ひたち海浜公園で開催したこと(以下「ひたちなかコンサート」という。)が本件専属契約に違反するなどと主張して,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として,966056000円の一部である1億円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成24417日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案である。』 


1 被告エイベックスの本件専属契約違反の有無について
(1) 前提事実のとおり,原告シージェスと被告エイベックスは,平成22226日,本件専属契約を締結したが,後掲の証拠等によれば,本件専属契約締結後の事情として,以下の各事実がそれぞれ認められる。
 (略)
(2) 以上に基づいて,被告エイベックスの本件専属契約違反の有無について検討する。
ア まず,本件専属契約5条違反について検討するに,被告エイベックスは,平成2291日以降,JYJの日本におけるアーティスト活動について,マネジメント業務を行うことはなかったのであるから,個別にJYJのアーティスト活動を企画・計画することを怠ったほか,少なくともJYJに対するアーティスト活動に必要なレッスンその他の機会の提供及び出演業務の提供を怠り,JYJのための広告宣伝活動を怠ったことが明らかである。
 そうすると,被告エイベックスは,本件専属契約5(1)のほか,少なくとも同条(2)①,②及び⑤に違反したといえる。
イ 本件専属契約15条違反について検討するに,本件専属契約15(2)①は,被告エイベックスが,その権利,権限及び能力に照らし,本件専属契約を履行できることを保証し,同条(2)②は,それを前提として,原告シージェスの権利行使について支障がないことを保証する規定である。
 そうすると,本件専属契約15(2)②は,被告エイベックスの権利,権限及び能力に照らし,原告シージェスの権利行使につき支障が生じている場合を規律するものであって,本件公表のような場合を規律する規定ではないから,被告エイベックスが同号に違反するとはいえない。
 他方で,本件専属契約15(5)は,被告エイベックス及び原告シージェスは,契約期間中,本件専属契約に影響を及ぼすおそれのある行為を行う場合には,事前に相手方と協議の上,相手方の書面による承諾を得るものとする旨規定する。そして,被告エイベックスは,平成2291日以降,JYJのアーティスト活動について,マネジメント業務を行うことはなく,同月16日,本件公表を行ってJYJの日本におけるアーティスト活動の休止を発表しており,当該行為が本件専属契約に影響を及ぼすおそれのある行為であることは明らかである。しかし,被告エイベックスは,原告シージェスの書面による承諾を得ていないのであるから,本件専属契約15(5)に違反したといえる。
 この点,被告エイベックスは,本件専属契約15(5)が想定しているのは,括弧書に例示列挙されているような場合である旨主張するが,この括弧書は例示であって限定列挙ではないと解されるのであるから,被告エイベックスの主張は採用できない。
ウ さらに,本件専属契約16条違反について検討するに,同条(1)は,被告エイベックス及び原告シージェスは,自己及び相手方の名誉・声望の毀損,並びに社会的信用の失墜を招くような言動をしてはならない旨規定する。
 そして,本件公表は,後記4(6)のとおり,原告シージェスの代表者である原告甲の名誉を毀損する摘示を含むものであるから,被告エイベックスは,本件専属契約16(1)に違反したといえる。
エ 最後に,本件専属契約17条違反について検討するに,同条(4)なお書は,第三者の根拠のないあるいは誇張された主張やうわさなどによる場合に,被告エイベックスは最大限原告シージェス又はJYJを保護しなければならない義務がある旨規定する。
 確かに,サンケイスポーツ新聞は,原告甲について,「人気韓流スターの元マネージャーだったが,このスターを脅迫して実刑判決を受けたことがあり,暴力団とのつながりがあるという」との記事を掲載したことが認められる。しかしながら,原告甲は,韓国において,別紙認定犯罪事実記載のとおり犯罪事実が認定され,懲役8か月の実刑判決が言い渡されたことがあるから,「暴力団とのつながり」以外については,上記の記事は事実に基づくものであるといえる。そして,別紙認定犯罪事実においては,原告甲は自分の父親が暴力団の副親分格であることを被害者に告げていた旨が認定されているのであるから,上記の記事が「根拠のないあるいは誇張された主張やうわさ」であるということはできない。
 そうすると,上記の記事が掲載されたことによって,被告エイベックスにおいて,原告シージェス及びJYJを保護する義務が生じたとはいえないから,その余について判断するまでもなく,被告エイベックスが本件専属契約17(4)なお書に違反したとはいえない。
 ところで,原告シージェスは,被告エイベックスが「根拠のないあるいは誇張された主張やうわさ」を公表したとして,本件専属契約17(4)なお書に違反した旨主張するが,被告エイベックスは契約当事者であって第三者ではなく,被告エイベックスを「根拠のないあるいは誇張された主張やうわさ」の主体と解することはできないから,原告シージェスの主張は理由がない。
以上のとおり,被告エイベックスは,本件専属契約5(1),同条(2)①,②及び⑤,15(5)並びに16(1)に違反したと認められる。そして,前提事実のとおり,原告シージェスは,本件専属契約17(2)に基づいて,本件解除をしたことが認められるから,本件専属契約の違反事項の治癒を求める通知書が被告エイベックスに到達した平成23124日から30日を経過した同年223日の経過をもって解除できる状況となり,原告シージェスによる契約解除の意思表示が被告エイベックスに到達した同日の翌日である同月244日には契約解除の効力が発生したものと認めるのが相当である。
 したがって,本件解除をもって本件専属契約は終了したと認められる。
(3) これに対し,被告エイベックスは,民法644条及び商法505条の規定の趣旨からすれば,たとえ契約書に明示的に記載されていなかったとしても,受任者において,委任の趣旨に合致する行為を行う限りにおいては,何ら契約違反を構成しないとし,本件専属契約における委任の趣旨は,あくまでも「被告エイベックスによるJYJの日本国内における『適正・適法』なアーティスト活動に関するマネジメント」であるといえ,かかる委任の趣旨に鑑みれば,本件において,韓国でのJYJのマネジメント業務を行っている原告甲を巡る報道や韓国で係争中のS.M.との別件訴訟の結果次第では,被告エイベックスが日本におけるJYJのマネジメント業務を独占的に行う権限を失う可能性があることといった事情が判明したにもかかわらず,被告エイベックスがその後も漫然とJYJの日本国内におけるアーティスト活動のマネジメントを行うことが,「適正・適法」なマネジメントなどと到底評価することができないことは明らかであり,被告エイベックスの本件対応は,本件専属契約の委任の趣旨に合致する,極めて適切かつ妥当な事務処理の方法であるから,本件専属契約5条に違反しない旨主張する。
 確かに,民法644条及び商法505条の規定の趣旨に照らすと,契約書に明示的に記載されてなくとも,受任者は委任の趣旨に合致する行為を行うことができると解される。しかしながら,本件専属契約は,原告シージェスが被告エイベックスに対してJYJの日本におけるマネジメント業務を委託することが主要な目的であると解されるのであるから,マネジメント業務により行われるJYJの活動内容自体がコンプライアンスに反するような深刻な事態を引き起こすようなことがあれば格別,JYJの活動内容には直接反映することのない,原告甲の過去の経歴の存在等を理由として,被告エイベックスがJYJの日本におけるマネジメント業務を行わないことが委任の趣旨に合致するとは到底解されない
 そして,上記(1)のとおり,サンケイスポーツ新聞の記事が掲載された後,被告エイベックスは,本件専属契約を合意解除してJYJと直接契約をすることを試みたものの,JYJに拒否されてJYJと直接契約をすることができなくなると,最終的に原告シージェスがプレスリリースすることを含めて被告エイベックスの提示する合意解除の条件を受け入れる旨を通知したにもかかわらず,本件専属契約の継続について既に取締役会において決議されているとして合意解除を拒否している。被告エイベックスのコンプライアンスとして,原告甲の前科等が重要な問題になるのであれば,JYJとの直接契約ができなくとも本件専属契約の解除を優先するであろうと解されるのに,被告エイベックスは本件専属契約の継続を選択しているのであり,このような被告エイベックスの行動は,「適正・適法」なマネジメントのためであったとは到底理解できないし,かえって前記(1)の交渉の経緯に照らせば,JYJとの直接契約などの目的があったと推認されてもやむを得ないものである。
 また,被告エイベックスは,韓国においてJYJとS.M.との係争があることを知った上で,本件専属契約を締結したのであるから(前提事実。また,証人によれば,被告エイベックスは本件専属契約の締結についてS.M.に報告し,消極的な反応ながらも,一応の理解を得ていたと認められる。),たとえJYJとS.M.との訴訟の帰趨について当初の予測と異なる点が生じたとしても,訴訟の決着も見ない段階で,そのことがマネジメント業務を行わない理由にはならない。
 以上のとおり,被告エイベックスの主張は採用できない。
2 1事件について
(1) 不正競争防止法31項に基づく差止請求の成否について
 前記1のとおり,本件解除は有効であるから,本件解除をもって本件専属契約は終了したと認められる。
 
そして,前提事実のとおり,被告エイベックスは,本件解除の効力が発生した平成23224日以降においても,ザック,横浜アリーナ及び被告相撲協会に対し,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるので,JYJは被告エイベックスを介することなく日本でアーティスト活動を行うことはできないなどと通知したほか,株式会社ノースロードミュージックを含む数社,国土交通省関東地方整備局,株式会社JTBコミュニケーションズ,茨城県庁(広報室),水戸市役所,ひたちなか商工会議所,水戸商工会議所に対しても,同様の旨を通知ないし説明している。
 そうすると,被告エイベックスは,原告シージェスについて虚偽の事実を告知したというべきであるし,上記の告知内容は,原告シージェスのマネジメント業務について信用を害するものである。また,被告エイベックスと原告シージェスとは,アーティストのマネジメントを業務とするから,競争関係があることは明らかである。
 以上のとおり,被告エイベックスは,不正競争防止法2114号に該当する。そして,原告シージェスは,被告エイベックスの不正競争により営業上の利益を侵害されるおそれがあることは明らかであるから,同法31項に基づく差止請求は理由がある。
(2) 業務遂行権に基づく差止請求の成否について
ア 原告シージェスは,業務遂行権に基づく差止請求権として,被告エイベックスが原告シージェスの業務を妨害することの禁止を求める。
 そこで検討するに,法人の営業又は業務に係る利益も法人の財産権の行使又は法人の人格的利益と評価できる場合には,差止請求の根拠となる場合があり得る。これは,刑法233条,234条において,業務が保護法益とされ,その妨害が刑罰の対象とされていることからも根拠付けられる
 もっとも,このような差止請求については,相手方の権利行使との衝突が予想されるものであるから,相手方の権利行使の相当性,業務に支障を及ぼす程度,相手方の行為の継続性等を考慮して,差止請求の必要性と相当性を判断するのが相当である。
イ 前提事実のとおり,被告エイベックスは,①原告シージェスに対し,本件専属契約について解除事由がなく,本件専属契約は現在もなお有効に存続しているとし,「貴社が,本件契約が解除されていることを前提に,当社を介することなく,JYJのアーティスト活動を行うことが判明した場合には,貴社のすべての取引先(テレビ局,レコード製作会社,コンサートイベンター等)に対する事前の警告等,これを阻止するために必要なあらゆる方策を講じる予定であることも,併せて警告して参りました」などとして,横浜アリーナでのコンサートを中止するよう要求したこと,…⑨茨城県庁(広報室),水戸市役所,ひたちなか商工会議所,水戸商工会議所を訪問し,JYJはビザを取得していない旨,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,被告エイベックスの承諾なくJYJのコンサートを開催することはできない旨,ひたちなかコンサートを実行した場合には被告相撲協会と同様に訴える旨を説明し,ひたちなかコンサートを中止するよう要求したことがそれぞれ認められる。
ウ 以上のとおり,被告エイベックスは,本件解除後においても本件専属契約が有効であることを前提として,JYJのコンサートを開催しようとした原告シージェス及びザックに対し,コンサートの中止を要求するなどした上,コンサートの施設管理者等に対し,会場の利用を許可しないよう要求するなどしたものである。
 確かに,被告エイベックスの行動は,本件解除後においても本件専属契約が有効であることを前提とする点において,権利行使として相当性を疑われるものである。しかしながら,その態様は,自らの見解を表明した上で,それに従った要求又は事後的措置として訴訟提起の可能性を通知するなどしたものであって,実力行使をもって原告シージェスの業務を妨害するなどというものではない。また,原告シージェスは,横浜アリーナ及びさいたまアリーナでのコンサートを開催できなかったものの,国技館コンサート及びひたちなかコンサートを開催できていることをも併せ考慮するならば,原告シージェスの日本におけるJYJのマネジメント業務について,被告エイベックスの行為を差し止める必要性があるとは直ちにいい難いし,その差止請求の内容も広汎であって相当性に欠けるというべきである
 したがって,原告シージェスの業務遂行権に基づく差止請求は理由がない。
(3) まとめ
 以上のとおり,第1事件について,不正競争防止法31項に基づく差止請求は理由があるから認容し,業務遂行権に基づく差止請求は理由がないから棄却する。
3 2事件及び第4事件について
(1) 2事件について
 被告エイベックスは,原告シージェスの本件専属契約違反として,原告シージェスは,本件専属契約が現在もなお有効に存続しているにもかかわらず,被告エイベックスの承諾を得ないまま,国技館コンサートを開催したと主張する。
 しかしながら,前記1のとおり,本件解除は有効であり,本件解除をもって本件専属契約は終了したと認められるから,被告エイベックスの主張は理由がない。
 そうすると,その余について判断するまでもなく,被告エイベックスの原告シージェス及び被告日本相撲協会に対する不法行為(原告シージェスに対しては選択的に債務不履行)に基づく損害賠償請求は理由がないからいずれも棄却する。
(2) 4事件について
 被告エイベックスは,原告シージェスの本件専属契約違反として,本件専属契約が現在もなお有効に存続しているにもかかわらず,被告エイベックスの承諾を得ないまま,平成231015日及び16日,ザックとともに,ひたちなかコンサートを開催したと主張する。
 しかしながら,前記1のとおり,本件解除は有効であり,本件解除をもって本件専属契約は終了したと認められるから,被告エイベックスの主張は理由がない。
 そうすると,その余について判断するまでもなく,被告エイベックスの不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求は理由がないから棄却する。
4 3事件について
(1) 本件専属契約に基づく未払契約金の額(又は債務不履行に基づく損害賠償としての未払契約金相当額)について
ア 本件専属契約10(1)①は,被告エイベックスが,原告シージェスに対し,本件専属契約の契約金として7億円支払う旨を定め,被告エイベックスが55000万円を支払済みであることは当事者間に争いがない。
イ この点,被告エイベックスは,原告シージェスが,原告甲の前科を殊更隠して,本件専属契約を締結し,その結果,被告エイベックスのJYJに対する適正・適法なマネジメント権の行使につき,重大な支障を与えたのであるから,本件専属契約15(1)①に基づき,被告エイベックスの権利行使につき何らの支障もないことを保証する同条(1)②に違反し,原告シージェスは,契約金の残部を被告エイベックスに請求する権利を有しない旨主張する。
 しかしながら,本件専属契約15(1)①は,原告シージェスが,その権利,権限及び能力に照らし,本件専属契約を履行できることを保証し,同条(1)②は,それを前提として,被告エイベックスの権利行使について支障がないことを保証する規定である。
 そうすると,本件専属契約15(1)②は,原告シージェスの権利,権限及び能力に照らし,被告エイベックスの権利行使につき支障が生じている場合を規律するものであって,原告シージェスの代表者である原告甲に前科があった場合を規律する規定ではないから,原告シージェスが同号に違反するとはいえない
ウ 他方で,前提事実に加え,…によれば,本件専属契約10(1)①は,契約金7億円のうち15000万円について,平成232月末日支払と定めていたところ,被告エイベックスと原告シージェスとは,平成2241日,上記15000万円のうち2160万円を直接JYJに対して支払う旨を合意し,これを同年6月末日までに支払ったことが認められるから,被告エイベックスの未払契約金は12840万円であったと認められる。
 そして,前記1のとおり,本件解除をもって本件専属契約は終了したと認められる。本件専属契約10(1)によれば,契約金は,「権利譲渡の対価及び本件アーティスト活動の遂行の対価を含む本契約上に定める行為等一切の対価として」支払うものとされているから,契約金が契約時点において既に発生しており,契約書にいう支払期日は単にその支払日を定めたものとみるのは相当でない。そして,本件専属契約における存続事項(24条)には契約金の支払についての10(1)①は挙げられていないから,上記の未払契約金債務12840万円は解除の効果により消滅したものというべきである。もっとも,前記1のとおり,被告エイベックスの本件専属契約違反により本件解除がされたのであり,被告エイベックスの違反行為がなければ,本件専属契約は継続し,原告シージェスは未払契約金を取得できたものと認められるから,原告シージェスは,被告エイベックスに対し,同額を債務不履行に基づく損害賠償として請求することができるというべきである。
 したがって,原告シージェスの債務不履行に基づく損害賠償請求は,12840万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23810日から商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(2) 債務不履行に基づく損害賠償としての逸失利益の額について
ア まず,原告シージェスは,被告エイベックスが,平成227月以降,JYJの日本におけるアーティスト活動を行わせることはなくなったと主張した上で,同月以降,本件専属契約が解除されるまでの8か月間分の逸失利益を主張する。
 そこで検討するに,前記1(1)ケのとおり,被告エイベックスは,平成2291日以降,JYJの日本におけるアーティスト活動について,マネジメント業務を行うことはなかったことが認められる。しかし,…によれば,JYJは,平成227月以降,同年8月に開催された「a-nation '10」の出演以外に日本におけるスケジュールはなかったものの,同年7月及び8月には,アメリカ及び韓国でのスケジュールがあったことが認められ,このようなスケジュールに照らすと,被告エイベックスが,同年7月及び8月,JYJの日本におけるアーティスト活動について,マネジメント業務を行わなかったとは認められない。
 そうすると,原告シージェスの逸失利益を算定する期間は,平成2291日から本件解除の効力が発生した日の前日である平成23223日までと認めるのが相当である。
イ また,原告シージェスは,JYJが活動した期間に対応するアーティスト印税と利益分配金の額をもって,逸失利益の算定数値とすべき旨主張する。
 そこで検討するに,アーティスト印税はJYJの実演活動の対価であり,利益分配金はJYJのコンサート等の出演に関する利益分配である。そうすると,アーティスト印税は,JYJのアーティスト活動にかかわらず,CD等の売上に応じて発生するものであり,上記の逸失利益の算定期間において,CD等の発売が具体的に予定されていたにもかかわらず,被告エイベックスが行わなかったなどの事情があればともかく,そのような事情が認められない本件においては,算定数値とするのは相当ではないというべきである。
 そして,平成224月分以降の利益分配金が合計378432573円であったことに当事者間に争いがない。そこで,JYJの活動期間を5か月(平成224月~同年8月)として,上記の利益分配金額を5で除した数値に,逸失利益の算定期間(52328)を乗じて,逸失利益を算定すると,44060万円(1万円未満切り捨て)となる。
 (計算式)(378432573円/5)×(52328)=44060万円(1万円未満切り捨て)
ウ したがって,原告シージェスの債務不履行に基づく損害賠償請求は,44060万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23810日から商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(3) コンサート活動の妨害を理由とする不法行為の成否及び損害額について
ア まず,コンサート活動の妨害を理由とする不法行為の成否について検討する。
() 前提事実のとおり,①ザックは,関係者に対し,平成2367日横浜アリーナにおいて,JYJのコンサートを開催する旨を通知した。しかし,被告エイベックスは,横浜アリーナに対し,原告シージェスとの間で本件専属契約を締結しており,日本においてJYJのマネジメント業務を独占的に行う権利があるので,JYJは被告エイベックスを介することなく日本でアーティスト活動を行うことはできないなどとして,会場の利用を許可しないよう要求した。そのため,横浜アリーナは,ザックに対し,興行権等の帰属を巡って係争中であることが確認されたため,イベントの円滑な開催が困難な状態にあるなどとして,横浜アリーナの利用申込みを承認することができない旨を通知した。②そこで,ザックは,さいたまアリーナに会場を変更したところ,被告エイベックスは,さいたまアリーナに対し,会場の利用を許可しないよう要求した。そのため,さいたまアリーナは,ザックに対し,会場の利用を許可しない旨を通知するとともに,そのホームページにおいて,お知らせとして,出演が予定されているアーティストの契約に関する問題が存在する中で,ザックに対して会場の利用を許可することは適切でないと判断した旨を掲載した。③そのため,ザックは再び会場を変更し,原告シージェスとザックは,国技館において,国技館コンサートを開催した。
() 以上のとおり,ザック及び原告シージェスは,被告エイベックスが施設管理者である横浜アリーナ及びさいたまアリーナに対して会場の利用を許可しないよう要求し,横浜アリーナ及びさいたまアリーナが会場の利用を許可しなかったため,会場の変更を余儀なくされたものである。
 そして,前記1のとおり,本件解除をもって本件専属契約は終了したと認められるから,被告エイベックスは,虚偽の事実を告知するなどして,原告シージェスのコンサート活動を妨害したものと認められる。
 そうすると,被告エイベックスが原告シージェスのコンサート活動を妨害したことについて,不法行為が成立するというべきである。
() したがって,被告エイベックスは,原告シージェスに対し,不法行為に基づき,コンサート活動の妨害に係る損害を賠償する責任がある。
イ 続いて,コンサート活動の妨害に係る損害額について検討する。
() まず,国技館コンサートの利益について検討する。
a チケット売上に係る利益について検討するに,…によれば,チケット売上は,186273750円(=9750円〔諸手数料を含む。〕×19105名)であることが認められる。また,…によれば,コンサート開催に係る費用は,別紙認定支出表のとおり,126756981円であると認められるから,コンサートのチケット売上に係る利益は,59516769円である。
 (略)
b グッズ売上に係る利益について検討するに,…によれば,グッズ売上は,3500円(税込)の記念Tシャツ及び2500円(税込)のストラップ付きパンフレットを販売し,合計47762500円であったこと,受託販売として売上の30%が利益になること(販売費用はコンサート開催に係る費用に計上)がそれぞれ認められるから,グッズ売上に係る利益は14328750円であると認められる。
c したがって,国技館コンサートに係る利益は73845519円である。
() 続いて,さいたまアリーナでコンサートを行った場合の想定利益について検討する。
a チケット売上に係る想定利益を検討するに,…によれば,さいたまアリーナの収容人数は18000名であり,昼と夜の2部制とし,18500円のチケットを16000名分,7500円のチケットを2000名分発売することを予定であったことが認められるから,チケットの想定売上は30200万円であると認められる。また,…によれば,コンサート開催に係る想定費用は,別紙支出表のさいたまアリーナ欄記載のとおり,14247万円であると認められるから,チケット売上に係る想定利益は,15953万円であると認められる。
b グッズ売上に係る想定利益について検討するに,…によれば,さいたまアリーナのコンサートでは,3500円(税込)の記念Tシャツ及び2500円(税込)のストラップ付きパンフレットを販売する予定であったこと,国技館コンサートの実績では1名平均2500円のグッズを購入していたことがそれぞれ認められ,さいたまアリーナでの動員見込みが36000名であることに照らすと,グッズの想定売上は9000万円であると認められる。そして,…によれば,グッズ売上に係る想定費用として,グッズ制作費(売価の7割=6300万円)に加え,輸入関税,運搬費,アルバイト人件費,会場コミッション等の費用約900万円が見込まれていたことが認められるから,グッズ売上に係る想定費用は7200万円であると認められる。
 そうすると,グッズ売上に係る想定利益は1800万円であると認められる。
c したがって,さいたまアリーナでコンサートを行った場合の想定利益は17753万円である。
() 以上のとおり,さいたまアリーナでコンサートを行った場合の想定利益は17753万円であり,国技館コンサートに係る利益は73845519円であるから,その差額である103684481円がコンサート活動の妨害に係る損害であると認められる
 そして,弁論の全趣旨によれば,原告シージェス及びザックとは,JYJのコンサートに係る利益について,その配分をそれぞれ2分の1とする合意があったと認められるから,原告シージェスの損害額は5184万円(1万円未満切り捨て)であると認められる。
ウ したがって,原告シージェスのコンサート活動の妨害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求は,5184万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23810日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(4) 著作隣接権侵害を理由とする不法行為の成否及び損害額について
ア まず,本件専属契約の規定について検討する。
 本件専属契約では,①契約の期間中に行われたJYJのアーティスト活動の遂行による一切の著作物に係る著作権,実演家の権利等の権利は,地域及び期間の制限なく,その発生と同時に独占的に被告エイベックスに帰属,もしくは原告シージェス又はJYJから被告エイベックスに独占的に譲渡され(7(1)),②被告エイベックスは,契約の期間中,原告シージェスと別途協議の上,7条に基づき被告エイベックスの保有する権利の行使,第三者許諾,譲渡をすることができるが,契約終了後においては,地域,範囲,期間の制限なく,自由な判断により当該行使,第三者許諾,譲渡を行うことができる(8条),③被告エイベックスは,契約の期間中,原盤等の利用行為にかかる規格,種類,内容等の一切の事項について,原告シージェスと別途協議の上,決定することができるが,契約終了後においては,地域,範囲,期間の制限なく,自由な判断により当該決定を行うことができる(6(2)),④被告エイベックスは,原告シージェスに対し,JYJの実演活動の対価として,著作隣接権又は著作権が存続する期間中,アーティスト印税を支払う(10(1)②),6(2)7条,8条,10(1)②等の規定について,契約終了後も有効に存続する(24条)などと規定されている。
イ 以上のとおり,本件専属契約では,被告エイベックスが,契約終了後においても,契約の期間中に行われたJYJのアーティスト活動の遂行による著作権,実演家の権利等の権利を保有するとされ,これを前提とした規定を設けられている。
 そうすると,原告シージェスは,別紙著作物目録記載のCD及びDVDについて,実演家の権利を保有することはないから,その余について判断するまでもなく,原告シージェスの著作隣接権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
 また,原告シージェスは,実演家の権利を有さなくとも,被告エイベックスが本件解除後にJYJのCD等を発売する行為が不法行為である旨主張するけれども,その根拠は不明であるといわざるを得ないから,理由がない。
ウ これに対し,原告シージェスは,本件解除により,上記アの各規定が効力を失う旨主張する。
 しかしながら,本件専属契約は,当事者の契約違反があった場合の解除について規定しながら(17(2)),上記アの各規定を設けているのであるから,当事者の契約違反を理由とする解除によっても,上記アの各規定の効力が失われることはないと解するのが相当である。本件専属契約において,被告エイベックスが契約終了後も著作権,実演家の権利等の権利を保有することなどが規定されているのは,被告エイベックスの投下資本の回収を企図するものであると解されるが,他方で,被告エイベックスは,原告シージェスに対し,契約終了後においても,アーティスト印税を支払う旨が規定されている(10(1)②)のであるから,上記アの各規定が当事者間の公平に反するなどということもできない
 また,原告シージェスは,実演家の権利を有することを前提として,別紙著作物目録記載のDVDについて,①映画の著作物だとしても,本件解除によって許諾の効力が失われた(著作権法912項参照),②法の予定している映画の著作物ではない,③実演家の権利を消尽させる条項の適用はないと主張するけれども,上記イのとおり,原告シージェスは実演家の権利を有していないのであるから,原告シージェスの主張は理由がない。
 さらに,原告シージェスは,別紙著作物目録記載のDVDについて,映画の著作物だとしても,JYJが共同著作者である旨主張する。しかしながら,映画の著作物の著作者は「制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」であって(著作権法16条),実演家であるJYJが「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」とはいい難いし,その立証もないから,原告シージェスの主張は理由がない。
(5) 原告シージェスの請求のまとめ
 (略)
(6) 名誉毀損の成否,損害額及び名誉回復措置の必要性について
ア 被告エイベックスは,本件公表を行って,本件摘示事実を摘示したのであり,本件摘示事実には原告甲の前科に関する事実も記載されていたから,本件摘示事実の摘示が名誉毀損に当たることは明らかである。
 これに対し,被告エイベックスは,平成22916日以前において,様々な新聞及び週刊誌の報道により,「原告C-JeSの代表者が,担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していた」ことは広く知れ渡っていたのであるから,原告甲の社会的評価は既に相当程度低下していたといえ,本件摘示事実の摘示により,原告甲に新たな社会的評価の低下をもたらさない旨主張する。
 しかしながら,前記1(1)アのとおり,サンケイスポーツ新聞が,平成22529日,原告甲について,「人気韓流スターの元マネージャーだったが,このスターを脅迫して実刑判決を受けたことがあり,暴力団とのつながりもあるという」との記事を掲載したことが認められるものの,それ以外には,平成22916日以前において,原告甲の前科に関する事実の報道があったことを認めるに足りる証拠はない。かえって,…によれば,スポーツニッポン,デイリースポーツ及びサンケイスポーツ新聞は,同月17日,本件公表が行われたことを報道する記事において,原告甲の前科に関する事実の報道を行ったことが認められる。
 以上のとおり,平成22916日以前においては,原告甲の前科に関する事実の報道はスポーツ新聞の1件だけであったのであるから,原告甲の前科に関する事実が社会に広く知れ渡っていたということはできないのであり,本件摘示事実の摘示により,原告甲の社会的評価が低下したと認めるのが相当である。
イ また,被告エイベックスは,本件摘示事実は,原告甲が担当アーティストを恐喝し,強要罪で実刑判決を受け服役していたという重大な刑事事件に関するものであり,実刑判決を受けたのが著名なアーティストであるJYJの韓国における所属プロダクションの代表者ということも相まって,多くの人々が関心を持った事件であったとして,事実の公共性が認められる旨主張する。
 しかしながら,JYJが日本においても著名なアーティストであっても,原告甲は,JYJと基本専属契約を締結した原告シージェスの代表者にすぎないのであり,原告シージェスの代表者としてJYJを通じて社会に及ぼす影響力の程度を考慮したとしても,さほど社会的な影響力があるとはいい難いのであるから,その前科に関する事実が公共の利害に関する事実であるとは認められない
 そうすると,その余について判断するまでもなく,本件摘示事実の摘示について違法性が阻却されるとは認められない。なお,本件摘示事実には「恐喝」との摘示があるが,これが事実と異なることは別紙認定犯罪事実の記載に照らして明らかである。
 したがって,被告エイベックスは,原告甲に対し,本件摘示事実の摘示により,不法行為責任を負うというべきである。
ウ 続いて,名誉毀損に係る慰謝料額について検討するに,本件摘示事実には,原告甲の前科に関する事実の摘示があることに加え,「恐喝」との誤った摘示があること,原告甲が暴力団と関係があるのではないかと推知させる記載(「現時点での暴力団との関係こそ明らかではないものの」)があること,他方で,原告甲は原告シージェスの代表者として摘示されているにとどまり,実名は摘示されていないこと,本件公表(本件摘示事実の摘示)がその後もエイベックスGHDのホームページに掲載されていることなどに照らすと,名誉毀損に係る慰謝料としては100万円を認めるのが相当である。
エ また,民法723条に基づく名誉回復等の措置請求について検討するに,上記ウのとおり,本件公表(本件摘示事実の摘示)の内容は,一部事実と異なる等の点があるものの全く事実の基礎を欠くものではないこと,原告甲の実名が記載されているものではないこと,本判決が確定すれば被告エイベックスの親会社であるエイベックスGHDのホームページにおける本件公表(本件摘示事実の摘示)の記載が削除されることが予想されることなどを考慮すると,名誉回復等の措置として原告甲の求める謝罪広告までを認めるのは相当でない。
 よって,原告甲の名誉回復等の措置請求は理由がない。
オ 以上のとおり,原告甲の不法行為に基づく損害賠償請求は,100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23810日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから棄却する。また,原告甲の民法723条に基づく名誉回復等の措置請求は,理由がないから棄却する。











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