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パブリシティ権侵害の判断基準(5)
「ジャニーズアイドルグループ書籍無断出版事件」平成250426東京地方裁判所(平成21()26989/平成251016日知的財産高等裁判所(平成25()10052 

【コメント】本件は、原告らが、被告が原告らを被写体とする写真を掲載した書籍を出版・販売し、これにより、原告らの肖像等が有する顧客吸引力を排他的に利用する権利及びみだりに自己の容貌等を撮影されず、また、自己の容貌を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益が侵害されたと主張して、それぞれ、被告に対し、不法行為による損害賠償金等の支払を求めるとともに、上記侵害のいずれかに基づく書籍の出版及び販売の差止め並びにその廃棄を求めた事案です。

【原審】

※【 】は、控訴審で補正(追加)された箇所。

1 争点1(被告が本件各写真を本件各書籍に掲載する行為が,原告らの肖像が有する顧客吸引力を排他的に利用する権利を侵害するか否か)について,判断する。
(1) 人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下,この権利を「パブリシティ権」という。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方,肖像等に顧客吸引力を有する者は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると,肖像等を無断で使用する行為は,①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,③肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である(最高裁平成2422日第一小法廷判決参照)。
(2) 前提となる事実に,…を総合すれば,原告H,原告I,原告J,原告K及び原告Lは嵐のメンバーであり,原告M,原告N,原告O,原告P,原告Q及び原告RはKAT-TUNのメンバーであるところ,嵐及びKAT-TUNは,いずれも本件各書籍が出版されたころから現在に至るまで人気のあるアイドルグループであることが認められるから,原告らの肖像等は,顧客吸引力有するものと認められる。
(3) そこで,被告が本件各写真を本件各書籍に掲載する行為が,原告らのパブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となるか否かについて,検討する。
ア 本件書籍1について
() …によれば,次の事実が認められる。
 (略)
() 本件書籍1は,その題名を「H コンプリートお宝フォトファイル」とし,表表紙に「秘蔵お宝写真150カットで綴る情熱のメモリー」との記載があるように,原告Hを主な被写体とする写真を大量に掲載した写真集である。
 
すなわち,本件書籍1は,表紙のほか,112頁全てにわたり,主に原告Hを被写体とするカラー写真162枚を掲載したものであり,しかも,頁の大部分は,写真だけか,写真の脇に短い記述を添えただけのものである。そして,各章(「Introduction」,「PART1」ないし「PART4」及び「SPECIAL PART」)の冒頭には見出しとともに前文があるが,いずれの前文も,写真を掲載した各章の導入としての意義があるというにとどまり,これを超えて,独立した意義があるということはできない。また,「Column①」及び「Column②」の各コラムには比較的まとまった文章があるが,その具体的な内容と掲載された写真との間に格別の関連はないから,掲載された写真が,上記コラムの内容を補足するものということはできず,かえって,本件各写真の枚数やその取り扱われ方等に照らすと,上記コラムは,本件各写真の添え物であって独立した意義があるとは認められない。
 これらの事情に照らすと,本件書籍1は,本件各写真を鑑賞の対象とすることを目的とするものというべきである。
 そうすると,被告が本件各写真を本件書籍1に掲載する行為は,原告Hの肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,専ら原告Hの肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものであるから,原告Hのパブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となるというべきである。
 (略)
(4) これに対し,控訴人は,本件各書籍において文章は独立した意味のない添え物ではなく,本件各書籍は,肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用したものではないので,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえない旨種々主張する。
 しかし,上記(3)認定の本件各書籍における本件各写真の大きさや枚数等の掲載態様,コラム等の文章の内容や分量,本件各写真とコラムとの関連性の程度等に照らすと,控訴人の種々主張する点は,いずれも本件各書籍への本件各写真の掲載が,被控訴人らの肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,専ら上記被控訴人らの肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものであるとの認定を左右するものとはいえない。
 よって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
2 次いで,争点3のうち,パブリシティ権の侵害により原告らが受けた損害の額について,判断する。
(1) 被告が本件各写真を本件各書籍に掲載する行為は,原告らのパブリシティ権を侵害するものであるところ,パブリシティ権は,先に判示したように,肖像等が有する商品の販売等を促進する顧客吸引力を排他的に利用する権利であるから,原告らは,それぞれ,被告の行為により,本件各書籍の出版に当たり,それぞれを被写体とする写真の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭に相当する額の損害を受けたものと認められる。
 
控訴人は,本件各書籍の出版に当たり,被控訴人それぞれを被写体とする写真の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭に相当する額の損害は,控訴人による本件各書籍の出版,販売から通常生ずべき損害ではない旨主張する。
 しかし,パブリシティ権を侵害する態様で被控訴人それぞれを被写体とする写真を使用する場合には被控訴人それぞれから許諾を得る必要があるところ,パブリシティ権が肖像等それ自体の商業的価値に基づくものである以上,通常,上記の許諾を得るためにはその対価の支払が必要となるものと認められる。そして,無許諾で上記のような写真が使用されれば,被控訴人らは上記の許諾の対価を得られなくなる以上,被控訴人それぞれを被写体とする写真の使用を許諾する場合に被控訴人それぞれが通常受領すべき金銭に相当する額は,控訴人による本件各書籍の出版,販売から通常生ずべき損害であるといえる
 よって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
(2) そこで,原告らが,本件各書籍の出版に当たり,それぞれを被写体とする写真の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭の額についてみる。
ア …によれば,次の事実が認められる。
 (略)
イ 【()】 上記ア認定の事実によれば,●(省略)●は,原告らの肖像写真により構成する写真集の出版等を許諾した場合に,出版社から,●(省略)●を受領しているから,本件各書籍の出版に当たり,原告らがそれぞれを被写体とする写真の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭の額は,本件各書籍の本体価格の10%に相当する額に発行部数を乗じた金額を下らないものと認められる。
() 控訴人は,被控訴人らの正規の写真集に係る契約における使用料率等は,印税や写真集への出演料等とされているものもある上に,ジャニーズ事務所やそのグループ会社間のものも含まれているほか,ジャニーズ事務所の許諾を得て制作された被控訴人らの写真集では,出版社が指定するロケ地に被控訴人らを派遣し,要求されるポーズをとらせるといった付加価値が提供されており,出版社から支払われる金員にはこれらに対する報酬が含まれるので,上記使用料率等は被控訴人らに支払われる肖像等の使用料を適切に反映したものではないとか,仮に出版社等から被控訴人らに使用料等が支払われるとしても,そのうちの一定額は,仲介手数料等としてジャニーズ事務所に徴収されるのであるから,被控訴人らの正規の写真集に係る契約書の内容は,本件各書籍で被控訴人らの肖像等が使用されたことによって被控訴人らが被った損害の額を算定する際の参考にはならないなどと種々主張する。
 しかし,被控訴人らの正規の写真集に係る契約書は,それぞれ専ら被控訴人らの肖像を利用する写真集の出版に関わるものである上に,その契約内容に照らしても,支払われた対価は,その名目に関わらず,被控訴人らの肖像等の使用に対して支払われたものであるものと認められる。
 また,被控訴人らの提出した被控訴人らの正規の写真集に係る契約書には,ジャニーズ事務所のグループ会社ではない出版社との間のものも含まれている。
 さらに,出版社が指定するロケ地に被控訴人らを派遣すること等が,被控訴人らの正規の写真集に係る契約における使用料率等に反映されていることを裏付ける的確な客観的証拠はない。
 仮に出版社等から被控訴人らに支払われた使用料等の一定額が仲介手数料等としてジャニーズ事務所に支払われたとしても,それは被控訴人らとジャニーズ事務所との間の問題であって,これが本件各書籍で被控訴人らの肖像等が使用されたことによって被控訴人らが被った損害の額に影響を及ぼすものとはいえない
 
そして,控訴人が他に種々主張する点も,いずれも上記()の認定を左右するものではない。
 以上に加え,本判決の認定する使用料率が10%であり,被控訴人らの正規の写真集に係る契約におけるものより低率であることも併せ考えると,控訴人の上記主張はいずれも採用することができない。
() 控訴人は,本件各書籍は,一流のライターに委託して作成された相当量のコラム等を掲載しており,本件各書籍における被控訴人らの肖像等の寄与度は被控訴人らの正規の写真集における寄与度よりも低いなどと主張する。
 しかし,前記1認定のとおり,控訴人が本件各写真を本件各書籍に掲載する行為は,被控訴人らの肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,専ら上記被控訴人らの肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものである上に,本判決の認定する使用料率が10%であり,被控訴人らの正規の写真集に係る契約書におけるものより低率であることも併せ考えると,本件各書籍にコラム等が掲載されているからといって,前記()の認定が左右されるものではなく,控訴人の上記主張を採用することはできない。
() 控訴人は,損害金を算定するに当たっては,本件各書籍の発行部数でなく,実売部数を基礎とすべきである旨主張する。
 しかし,控訴人は被控訴人らの許諾を受けない限り本件各書籍を発行することができない以上,控訴人が本件各書籍を発行すること自体が被控訴人らのパブリシティ権の侵害行為となるものと解される上に,被控訴人らの正規の写真集に係る契約においても発行部数に応じて対価が定められていることに照らすと,控訴人の上記主張を採用することはできない。】
ウ …によれば,次の事実が認められる。
 (略)
エ 本件各書籍の本体価格は,いずれも定価1300円であるところ,上記ウ認定の事実によれば,本件各書籍の発行部数は,本件書籍128000部,本件書籍224000部,本件書籍319000部,本件書籍425000部,本件書籍531000部,本件書籍639000部,本件書籍72万部,本件書籍82万部,本件書籍946500部,本件書籍1045000部,本件書籍1169000部,本件書籍1212500部であるから,原告らがそれぞれを被写体とする写真の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭の額,すなわち,本件各書籍の本体価格の10%に相当する額に発行部数を乗じた金額は,次のとおりである。
 (略)
(3) 以上に基づき,各原告らが受けた損害の額を算定する。
 (略)
3 そこで,争点2(被告が本件各写真を撮影し,これを本件各書籍に掲載する行為が,みだりに自己の容貌等を撮影されず,また,自己の容貌を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益を侵害するか否か)について,判断する。
 原告らは,被告の行為により,上記利益を侵害され,その結果,被告が本件各書籍を出版するについて,その肖像写真,氏名及びグループ名等の使用を許諾した場合に得ることができる利益に相当する額及び弁護士費用相当損害金の損害を受けたと主張する。
 ところで,仮に被告が本件各写真を撮影し,これを本件各書籍に掲載する行為が原告らの上記利益を侵害するものであるとしても,このことから,直ちに,原告が写真等の使用を許諾した場合に得ることができる利益に相当する額及び弁護士費用相当損害金の損害を受けることにはならず,本件において,原告らが上記のような損害を受けたことを認めるに足りる証拠もない。
 したがって,原告らの上記利益の侵害を理由とする損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
4 争点4(原告らが被告に対し本件各書籍の出版及び販売の差止め並びに廃棄を請求することができるか否か)について,判断する。
 弁論の全趣旨によれば,被告は,本件各書籍の販売を継続していることが認められ,また,被告は,本件各書籍を出版,販売することが原告らのパブリシティ権を侵害するものではないと主張しているから,これらの事情によれば,被告は,今後,本件各書籍を出版してこれを販売し,又は占有する本件各書籍を販売するおそれがあるものと認められる。
 そして,パブリシティ権が人格権に由来する権利の一内容を構成するもの【であり,かつ,顧客吸引力を排他的に利用する権利をその内容とすること】に鑑みれば,原告らは,被告に対し,原告らのパブリシティ権の侵害の停止又は予防のために,本件各書籍の出版及び販売の差止め並びに被告が占有する本件各書籍の廃棄を求めることができるというべきである。
 【控訴人は,平成14年判決に照らすと,権利侵害により生ずべき損失が金銭賠償によっては回復が困難であるという特別な事情がない限り,パブリシティ権に基づく書籍等の出版,販売の差止めは許されないと解すべきであるなどと主張する。
 しかし,平成14年判決は,名誉権ないしはプライバシーの利益等に基づく書籍の出版等の差止めに関する事案であり,本件とは事案を異にするので,控訴人の上記主張はその前提を欠くというほかないし,上記のパブリシティ権の性質に照らしても,控訴人の上記主張を採用することはできない。】

【控訴審】

 当裁判所も,控訴人が本件各写真を本件各書籍に掲載する行為は被控訴人らのパブリシティ権を侵害するものであるので,被控訴人らの請求は,原判決の認容した額の限度での損害金及び遅延損害金の支払請求,本件各書籍の出版及び販売の差止請求並びに控訴人の占有する本件各書籍の廃棄請求につき理由があるものと判断する。
 
その理由は,次のとおり原判決を補正するほかは,原判決…記載のとおりであるから,これを引用する。











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