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適法引用の要件(12)
絵画鑑定証書事件」平成26530日東京地方裁判所(平成22()27449 

【コメント】本件は、画家である亡Dの絵画につき、原告A及び原告Cが、Dの絵画の著作権を相続により取得して各2分の1の割合で共有するとして、被告に対し、絵画の鑑定証書の裏面にDの絵画の複製物を添付している被告の行為−(被告は、絵画の所有者がその所有する絵画を売買等する際に、それらの者から依頼を受けるなどして、Dの作品について「鑑定証書」と題する書面を作成し、ホログラムシールが貼付された鑑定証書の裏面に、作品のカラーコピーをパウチラミネート加工して添付していた(以下「本件行為」といい、鑑定証書の裏面に添付される絵画のカラーコピーを「本件コピー」という。)−は、原告らが共有する著作権(複製権)を侵害するものであると主張して、当該鑑定証書の作成頒布の差止めなどを求めた事案です。

 著作権法321項適用の可否について
(1) 著作権法は,公表された著作物は,公正な慣行に合致し,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で引用して利用することができると規定されているところ(同法321項),他人の著作物を引用して利用することが許されるためには,引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり,かつ,引用の目的との関係で正当な範囲内,すなわち,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要であるから,「引用」に当たるか否かの判断においては,他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか,その方法や態様,利用される著作物の種類や性質,当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを総合考慮すべきである。そして,旧著作権法とは異なり,現行著作権法321項における「引用」として適法とされるためには,利用者が自己の著作物中で他人の著作物を利用した場合であることは要件ではないと解すべきである。
(2) 上記観点から,本件行為につき,著作権法321項所定の「引用」としての利用として許されるか否かについて検討する。
 前記認定のとおり,Dの作品に関する鑑定証書を作成するに当たり,鑑定証書に対象となった原画のカラーコピーを添付することについて,被告は,鑑定証書はそこに添付されたカラーコピーの原画が真作であることを証するために作成されるものであることから,鑑定証書の鑑定対象となった原画を,多数の同種画題が存する可能性のある中で特定し,かつ,当該鑑定証書自体が偽造されるのを防止する目的で行っていると認められること,そして,その目的達成のためには,鑑定の対象である原画のカラーコピーを添付することが最も確実であることから,これを添付する必要性,有用性が認められること,著作物の鑑定の結果が適正に保存され,著作物の鑑定業務の適正を担保することは,贋作の存在を排除し,著作物の価値を高め,著作権者等の権利の保護を図ることにもつながるものであることなどを併せ考慮すると,著作物の鑑定のために当該著作物の複製を利用することは,著作権法の規定する引用の目的に含まれるというべきである。
 そして,本件行為について,原画を複製したカラーコピーは,ホログラムシールを貼付した表面の鑑定証書の裏面に添付され,表裏一体のものとしてパウチラミネート加工されており,原画をカラーコピーした部分のみが分離して利用に供されることは考え難く,鑑定証書自体も,絵画の所有者の直接又は間接の依頼に基づき1部ずつ作製されたものであり,絵画と所在を共にすることが想定されているということができ,これら鑑定証書が原画とは別に流通している実態があることについての的確な証拠もないことに照らせば,鑑定証書の作製に際して,原画を複製したカラーコピーを添付することは,その方法ないし態様としてみても,社会通念上,合理的な範囲内にとどまるものというべきである。
 しかも,以上の方法ないし態様であれば,原画の著作権を相続した原告らの許諾なく原画を複製したカラーコピーが美術書等に添付されて頒布された場合などとは異なり,原告らが絵画の複製権を利用して経済的利益を得る機会が失われるなどということも考え難い
 以上を総合考慮すれば,被告が,鑑定証書を作製するに際して,その裏面に本件コピーを添付したことは,著作物を引用して鑑定する方法ないし態様において,その鑑定に求められる公正な慣行に合致したものということができ,かつ,その引用の目的上でも,正当な範囲内のものであると認めるのが相当である。
 そうすると,本件行為は著作権法321項所定の「引用」として適法なものであるということができる。
(3)ア この点に関して原告らは,被告が著作権者である遺族の許諾なく行う本件行為は公正な慣行に合致するものではないから,適法引用の要件を充たさない旨主張する。
 しかし,前記で認定したとおり,被告の作成する鑑定証書と同程度の大きさの鑑定証書を発行し,絵画のコピーを添付するとの取扱いについては,著作権者の許諾を得ているとするところとそうでないとするところもみられるほか,許諾を得ているとするところでも,結局許諾のないままに行っているとするものもあることなどからすると,原画のカラーコピーを鑑定証書に添付するにつき,著作権者である遺族の許諾を得て鑑定証書に本件コピーを添付するという公正な慣行が存在すると認めることはできないというべきである。
 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
イ また,原告らは,「引用」は,紹介,参照,論評等の目的で行われるものであり,自己の著作物と利用される他人の著作物との間に紹介,参照,論評等の関係がなければ,適法引用には該当しない旨主張する。
 しかし,前記(1)のとおり,現行著作権法において「引用」は,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われることが要件であり,「引用」として適法とされるためには,利用者が自己の著作物中で他人の著作物を利用した場合であることは要件ではないと解すべきであるところ,本件行為について,引用の目的上正当な範囲内で行われたと認められることについても前記のとおりである。
 
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。











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