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出版許諾契約における更新拒絶が問題となった事例
「‘生命の實相’関連書籍出版利用認請求事件」平成2627日東京地方裁判所(平成25()4710/平成261015日知的財産高等裁判所(平成26()10026

【原審】

2 争点2(本件更新拒絶の有効性)について
(1) 原告は,本件出版使用許諾契約の約款第3条によれば,更新拒絶は,被告単独でなく代理人である生長の家とともにその意思表示をすべき義務があり,生長の家の意思に反した本件更新拒絶は無効である,などと主張する。
 本件出版許諾契約は,原告と,被告の代理人である生長の家との間で,被告のためにすることを明示して締結されたものでありその約款第3条には,「期間満了の3ヵ月前までに,甲(代理人を含む。),乙いずれかから文書をもって終了する旨の通告がない限り,この契約と同一条件で,順次自動的に同一期間づつ延長せられるものとする。」との条項があるところ(上記条項中,「甲」は被告,「乙」は原告,「代理人」は生長の家である。),上記条項中の「甲(代理人を含む)」にいう「(代理人を含む)」との文言は,生長の家が契約当事者本人である被告の「代理人」として3条所定の通告を行う場合があることを意味するものと解され,上記文言を根拠として,更新拒絶は被告と生長の家の連名で行うことを必要とすると解釈することは,文理上明らかに困難である。
 
したがって,原告の解釈は失当であり,被告は,単独で本件出版許諾契約の更新拒絶の意思表示をなし得るものである。
(2) 本件出版許諾契約は3年ごとに更新される期間の定めのある契約であるが,前身である本件昭和49年契約から数えて30年以上にわたって更新されてきたことなどを考慮すれば,被告の更新拒絶権も無制限のものではなく,正当な理由がない場合には権利濫用として許されない場合があり得るというべきである。
 しかし,当裁判所は,原告には復刻版の印税の支払につき本件昭和49年契約の債務不履行があり,原被告間の信頼関係は既に破壊されていると認められることから,本件更新拒絶は権利濫用に当たらないと判断する。以下,説明する。
(3) 証拠等によれば,以下の事実が認められる。
 (略)
(4) 以上によれば,原告は,本件更新拒絶2がなされた平成2124日時点において,被告に支払うべき復刻版の印税2740万円の未払があり,被告から平成21113日付け「『履行催告』兼『契約解除』の通知」によりその支払を催告されるもその支払をしなかったのであるから,このことは,本件昭和49年契約の債務不履行として本件昭和49年契約を解除するに十分な事実であるし,本件書籍については本件出版許諾契約に切り替えたことにより形式的には本件昭和49年契約の対象外となっているものの,原被告間の信頼関係を破壊するに十分な事実であるから,本件出版使用許諾契約の更新拒絶の理由としても十分な事実というべきである。
 
その後,被告による前訴第1事件の提起によりようやく50万円のみは回収できたが,それまでに被告は少なからぬ労力や弁護士費用を費やすこととなったのであり,また,2690万円については,前訴において消滅時効の援用がなされたため起算日に遡って債権がなかったことになったが(民法144条),多額の不払により信頼関係が破壊された事実までもなかったことになるものでもない。
(5) 原告は,復刻版の著作権は亡Pないしその相続人に帰属すると信じて,復刻版の印税は亡Pないしその相続人に支払ってきたのであり,原告がそのように信じたことには正当な理由があったなどとるる主張するが,復刻版の著作権が被告に帰属していることは前記のとおりであり,本件全証拠によっても,原告がそのように信じたことに正当な理由があったとは認められない。
 Pの遺産分割協議書において,亡Pの遺産として「復刻版 実相」が挙げられているとしても,そのことは,亡Pの相続人らの認識を示すものにすぎず,上記認定を左右するものではない。
 その他,上記不払の事実にもかかわらず本件更新拒絶を権利濫用とすべきほどの事情は認められない。
3 以上によれば,本件更新拒絶はいずれも有効であるから,原告は本件出版使用許諾契約に基づく本件書籍の著作物利用権を有しない。

【控訴審】

2 争点2(本件更新拒絶が手続要件を充足するものであるか否か)について
(1) 本件出版使用許諾契約書の約款3条は,「第1条による乙(判決注・控訴人)に対する出版使用許諾期間は,本契約締結の日から3年間とする。この期間満了の3ヵ月前までに,甲(判決注・被控訴人)(代理人を含む。),乙いずれかから文書をもって終了する旨の通告がない限り,この契約と同一条件で,順次自動的に同一期間づつ延長せられるものとする。」と規定するところ,控訴人は,上記規定の「甲(代理人を含む)」との文言は,被控訴人による更新拒絶には,代理人である生長の家を関与させ,事前に生長の家と協議し,その意見を聞く必要のあることを規定したものであり,被控訴人が本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するについては,被控訴人単独ではなく,生長の家とともに意思表示をすべき義務があるにもかかわらず,本件更新拒絶は,被控訴人単独でされたものであるから,約款3条に定める要件を欠き,無効である旨主張する。
 (略)
 また,本件出版使用許諾契約の約款3条には,「この期間満了の3ヵ月前までに,甲(代理人を含む。),乙いずれかから文書をもって終了する旨の通告がない限り,この契約と同一条件で,順次自動的に同一期間づつ延長せられるものとする。」との規定が,8条には,「本著作物の改訂版又は増補版の発行については,甲(代理人を含む)乙協議のうえ決定する。」との規定があるところ,上記規定中の「(代理人を含む。)」との文言は,生長の家が契約当事者本人である被控訴人の「代理人」として3条所定の通告をしたり,8条所定の改訂版又は増補版の発行についての協議を行う場合があることを意味するものと解され,上記文言を根拠として,被控訴人が本件書籍の出版その他の利用の管理の決定を行う権限を生長の家に委譲したものと解釈したり,3条所定の通告,すなわち更新拒絶の意思表示は,被控訴人と生長の家の連名で行うことを必要とするものと解釈したりすることは,文理上困難である。控訴人は,被控訴人が本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するについては,生長の家とともに意思表示をすべき義務があるとする根拠として,約款に「甲は,本著作物に係る著作権を,寄附行為に基づき基本財産として保全し,宗教法人「生長の家」以外の第三者には著作権管理を委任しないものとする。」(122項)との規定があることも挙げるが,上記規定は,その文言に照らし,被控訴人が生長の家以外の第三者には本件書籍についての著作権管理を委任しないことを約するものにすぎず,著作権者である被控訴人の著作物に対する固有の管理権について制限する趣旨までも含む規定であると解することはできないから,上記規定があるからといって,本件出版使用許諾契約において,更新拒絶の意思表示を行うについては,被控訴人と生長の家との連名で行うことが合意されていたものと認めることはできない。
(3) したがって,本件更新拒絶が,これが被控訴人の単独による意思表示であるからといって,無効となることはない。
3 争点3(正当事由の要否)について
(1) 控訴人は,約款3条は,自動更新を前提とした規定であって,3年間という契約期間は契約を終了するのもやむを得ないといえる事情が発生した場合に限り契約を終了させることができることを前提に定められたものと解すべきであるから,本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するについては,相手方当事者に重大な契約違反があるなど正当な事由を要する旨主張する。
(2) …及び弁論の全趣旨を総合すると,本件出版使用許諾契約の締結に至る経緯について以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
 (略)
(3) ところで,本件出版使用許諾契約の約款3条は,「第1条による乙に対する出版使用許諾期間は,本契約締結の日から3年間とする。この期間満了の3ヵ月前までに,甲(代理人を含む。),乙いずれかから文書をもって終了する旨の通告がない限り,この契約と同一条件で,順次自動的に同一期間づつ延長せられるものとする。」と規定し,その文言上は,当事者の一方が契約の更新拒絶をするにつき,文書をもって通告を要することのほかは,3か月以上の予告期間を設けるのみで,更新拒絶事由を特に定めていない
 そして,上記(2)認定事実によれば,①控訴人と被控訴人とは,いずれも生長の家の創始者である亡Aの提唱により,又は同人の寄附行為により,亡Aの宗教的理念の実現に資する活動を目的として設立された法人であって,亡Aの存命中は,新刊の発行に際しても,書籍の編成,校正,装丁,定価,印税率やその支払方法等について,亡Aから控訴人に対して具体的な指示がされ,控訴人は亡Aの指示に則って,著作物の出版や印税の支払等を行ってきたものの,亡Aが昭和60617日に死亡した後は,生長の家の内部において,それまでの亡Aの著作に係る著作物に関する著作権の帰属や出版契約の内容等について疑問が提起されるなどしたこと,そのため,亡Aの著作に係る著作物の著作権の帰属を明確にし,出版契約の内容を見直すこととなり,まず,亡Aの相続人らと生長の家との間,亡Aの相続人らと被控訴人との間で,著作権の帰属を調整,確認したこと,その後,生長の家の関与の下,出版契約の内容(契約に用いる契約書の内容)についても検討した上で,本件書籍の著作権者である被控訴人と控訴人は,本件書籍について,それぞれ本件出版使用許諾契約を締結したこと,その結果,亡Aの生前に被控訴人と控訴人との間で締結された本件昭和49年契約においては,契約存続期間の定めのない独占的排他的使用権の設定を内容とする契約であったものが,本件出版使用許諾契約においては,3年間の契約存続期間の定めのある非独占的排他的使用権の設定を内容とする契約に改められたことが認められる。加えて,本件全証拠によるも,本件昭和49年契約から本件出版使用許諾契約に契約内容が変更され,契約存続期間を3年間とし,しかも,契約の更新拒絶をするについて期間満了の3か月前までの文書による通告を要するほかは,更新拒絶事由の存在を特に要求していない約款を採用するにつき,控訴人や被控訴人から,異論が述べられたなどの事情はうかがわれない。
 以上の本件出版使用許諾契約の約款3条の文言,本件出版使用許諾契約が非独占的排他的使用権の設定を内容とする契約期間の定めのあるものであり,出版社である控訴人は,著作物の複製並びに頒布の責任を負い(2条),著作物の製作・販売・宣伝に要する費用は控訴人が負担する(51項)ものの,著作物の定価・造本・増刷の時期及び宣伝・販売の方法は控訴人において決定し(9条),控訴人は印税を支払えば,出版使用許諾の消滅後も,著作物を,消滅時の在庫分に限り,頒布することができる,あるいは,被控訴人から在庫する著作物の代価の賠償を受けることができるものとされていること(15条)などその内容,並びに,本件出版使用許諾契約を締結するに至る上記経緯に照らせば,控訴人と被控訴人との間において,当事者の一方が契約の更新を拒絶するについて,正当事由,すなわち,やむを得ない事由を要すると合意されていたものとは認められず,また,当事者間における合意がないにもかかわわらず,本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するには正当事由を要すると解すべきであるともいえない
  (略)
(5) 以上によれば,本件出版使用許諾契約において,当事者の一方は,信義則や権利の濫用法理など,いわゆる一般条項による制約を受けることがあることは格別,そうでない限り,約款3条の定める,契約期間満了の3か月前までの文書による通告を行うことにより,本件出版使用許諾契約の更新を拒絶することができるというべきである。
4 争点5(本件更新拒絶は信義則違反又は権利の濫用にわたるものとして無効とされるべきものか否か)について
(1) 控訴人は,被控訴人による本件更新拒絶は,信義則に違反するか,又は更新拒絶権の濫用にわたるものとして,無効とされるべきである旨主張するので,この点について検討する。
(2) …及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
 (略)
(3) 控訴人の主張する事情について
ア 「生命の實相」頭注版のリニューアル問題について
 (略)
イ 復刻版の印税の未払問題について
() 控訴人は,控訴人において,復刻版の著作権が亡Aないしその相続人らに帰属するものであると認識し,その印税について,被控訴人に対する未払はないものと判断したことには合理的かつ正当な理由があるから,被控訴人が,復刻版の印税の未払を理由として,本件出版使用許諾契約の更新を拒絶することは許されない旨主張する。
() しかしながら,前記で認定したとおり,控訴人の復刻版の未払ついては,控訴人は被控訴人に対し復刻版の未払印税として2740万円の支払義務があったが,うち2690万円については消滅時効が完成し,未払印税50万円及び遅延損害金の支払義務があることが確定判決で認められている。
 前記3で認定したとおり,本件更新拒絶には正当な理由を必要としないことに鑑みると,控訴人に復刻版の印税の未払があったことが確定判決で認められている以上,被控訴人が本件更新拒絶を行う際に,復刻版の印税の未払を理由としたことが,信義則に反し,あるいは,権利の濫用にわたるということは困難である。
() 更に,念のため控訴人の挙げる個々の事情について検討してみても,以下のとおり,それによって本件更新拒絶が信義則に反し,権利の濫用にわたるということはできない。
 (略)
(4) 以上検討したところによれば,控訴人の挙げる点は,いずれの点をとっても,また,これらを総合考慮しても,被控訴人による本件更新拒絶が信義則に反するものである,あるいは,権利濫用にわたるものであると認めるに足りない。
 そして,本件全証拠によるも,本件更新拒絶を信義則に違反する,あるいは,権利濫用にわたるものとして無効とすべき事情があるとは認められない。
 したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
5 以上によれば,本件出版使用許諾契約は,本件更新拒絶により,いずれも終了したものと認められる。











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