著作権重要判例要旨[トップに戻る]







建築設計図の著作物性(5)
「マンション建替え図面事件」平成26117日東京地方裁判所(平成25()2728/平成27525日知的財産高等裁判所(平成26()10130
 

【コメント】本件は、原告が、マンションの区分所有者であった被告らが、同マンションの建替えに際し、被告会社らと共同して、原告が作成した原告図面に依拠して本件建物(新マンション)の設計図である被告図面を制作し、もって原告が有する原告図面の著作権(複製権ないし翻案権)を侵害したと主張して、所定の損害金等の支払を求めた事案です。 


【原審】

1 争点(1)(被告図面は原告図面に依拠して制作された複製物ないし翻案物か)について
(1) 原告は,被告図面は原告図面に依拠して制作された複製物ないし翻案物であると主張するので,以下この点につき検討する。
 (略)
(2) 上記認定事実を基に検討する。
ア 本件において,原告は,原告図面における,①建物形状,②建物配置,③柱配置,④施設配置,⑤店舗形状及び寸法,⑥1階診療所(鍼灸院)形状及び寸法,⑦駐輪場の形状及び寸法,⑧エレベーター寸法,⑨バルコニーの形状及び寸法(2階~9階平面図),⑩エレベーター及び階段の位置(2階~9階平面図),⑪柱と梁の外部露出形状(2階~9階平面図),⑫住戸配置(2階~9階平面図),⑬住戸用メーターボックスの設置(2階~9階平面図),⑭屋外階段とオペラ通りとの間の吹き抜けの位置及び寸法(3階~9階平面図),⑮住戸用廊下形式及び形状(4階~9階平面図),⑯断面図に示された階数,柱間寸法,バルコニーの出寸法等につき,これらが被告図面に複製ないし翻案されたとして著作権侵害を主張するものであるから,上記①ないし⑯につき,原告図面における具体的な表現において,まず,著作物性が認められることが必要となる。
 ところで,著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法211号)と規定しており,当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならないと解される。
 また,当該作品等が創作的に表現されたものであるというためには,厳密な意味での作成者の独創性が表現として表れていることまでを要するものではないが,作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要するものであって,表現が平凡かつありふれたものである場合には,作成者の個性が表現されたものとはいえず,創作的な表現ということはできないというべきである。
 そして,原告図面は,本件建物の設計図面であるから,著作権法101項に例示される著作物中の「地図又は学術的な性質を有する図面,図表,模型その他の図形の著作物」(著作権法1016号)にいう「学術的な性質を有する図面」に該当するものと解されるところ,「学術的な性質を有する図面」としての設計図の創作性は,作図の対象である物品や建築物を設計するための設計思想の創作性をいうものではなく,作図上の表現としての工夫に作成者の個性が表現されている場合に認められると解すべきであって,設計思想そのものは,アイデアなど表現それ自体ではないものとして著作権法の保護の対象とはならないというべきである。
イ これを本件についてみると,前記において,原告が原告図面の創作性として主張する点は,いずれも原告図面の作図の対象である本件建物に具現化された原告の設計思想にすぎないというべきである。
 また,原告図面のような建築設計図面は,一般に,建物の建築を施工する工務店等が設計者の意図したとおり施工できるように建物の具体的な構造を通常の製図法によって表現したものであって,建築に関する基本的な知識を有する施工担当者であれば誰でも理解できる共通のルールに従って表現されているのが通常であり,作図の対象である建築物の設計思想を忠実に建築設計図面として表現しようとすれば,対象物の寸法,構造,形状が同一の設計図面を作成することになる以上,図面の表記も同一とならざるを得ないのであるから,作図上の表現の選択の幅はほとんどないといわざるを得ない。そして,原告図面に係るマンションは,通常の住居・店舗混合マンションであり,しかも旧マンションであるメゾンAを等価交換事業として本件土地上に建て替えることを予定したものであるところ,このようなマンションは,敷地の面積,形状,予定建築階数や戸数,道路,近隣等との位置関係,建ぺい率,容積率,高さ,日影等に関する法令上の各種の制約が存在するほか,住居スペースの広さや配置等は旧マンションにおける住居面積,配置,住民の希望や,建築後建物の日照条件等に依ることもあり,建物形状や配置,柱や施設の配置を含む構造,寸法等に関する作図上の表現において設計者による独自の工夫の入る余地はほとんどなく,本件におけるメゾンA建替え後のマンションである本件建物も,本件土地の特殊な形状や法令上の規制,メゾンAの原状や被告Aらの要望等に基づいて,自ずとその建物形状等や配置,構造のみならず,その寸法関係の大枠も定まるものであるから,原告図面は,そのような制約の下,ごく普通の表記法に従って作成された設計図にすぎないと認められる。
 したがって,原告が主張する創作性は,いずれも原告図面の作図上の工夫ということはできないし,原告図面を精査しても,他に表現の創作性といえるような作図上の工夫があると認めることはできない。
 さらに,原告が原告図面と被告図面との共通点であると主張する前記ないしの点は,いずれも,設計思想の特徴というアイデアが共通であるにすぎず,前記記載のとおりの原告図面の内容にも照らせば,前記ないしの点につき,原告図面における作図上の工夫や図面による表現それ自体の創作性に係るものがあるものとは認められないから,著作物性があるとはいえないというべきである。
ウ なお,原告は,原告図面の対象物である本件建物そのものの創作性若しくは本件建物の設計思想上の工夫を主張していることから,原告は本件建物そのものの著作物性を問題としている余地があるので,念のため検討するに,仮に,作図の対象となる建築物に「建築の著作物」若しくは「美術の著作物」等として著作物性が認められる場合に,その図面にその対象物の創作性が再生されていれば,作図上の工夫のない図面でも著作物性が認められる余地があるとしても,本件においては,前記のとおり,原告図面は設計図面とはいっても極めて概略的な図面であり,特に原告図面の断面図は,建物断面図を縦横線と各住居等の場所を寸法等で示したものにすぎず,各階の平面図についても,同様に部屋の位置やバルコニー,屋外避難階段の存在が示されるのみであって,およそ完成後のマンションを観念することが不可能な図面にすぎず,原告図面のみに基づいては本件建物を完成させることはできないから,そもそも,原告図面には完成後の建築物が表現されているものということはできないというべきである。
 したがって,本件建物の創作性を前提として原告図面の著作物性を認めることもできないというほかない。

【控訴審】

 当裁判所も,被控訴人図面は,控訴人図面の著作権を侵害する複製物ないし翻案物に当たるとは認められず,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 認定事実については,原判決…のとおりであるから,これを引用する。
2 上記認定事実に基づいて,検討する。
(1) 著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法211号)と規定しており,当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならないと解される。
 また,当該作品等が創作的に表現されたものであるというためには,厳密な意味での作成者の独創性が表現として表れていることまでを要するものではないが,作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要するものであって,表現が平凡かつありふれたものである場合には,作成者の個性が表現されたものとはいえず,創作的な表現ということはできないというべきである。
 そして,控訴人図面は,本件建物の設計図面であるから,著作権法101項に例示される著作物中の「地図又は学術的な性質を有する図面,図表,模型その他の図形の著作物」(著作権法1016号)にいう「学術的な性質を有する図面」に該当するものと解されるところ,建築物の設計図は,設計士としての専門的知識に基づき,依頼者からの様々な要望,及び,立地その他の環境的条件と法的規制等の条件を総合的に勘案して決定される設計事項をベースとして作成されるものであり,その創作性は,作図上の表現方法やその具体的な表現内容に作成者の個性が発揮されている場合に認められると解すべきである。もっとも,その作図上の表現方法や建築物の具体的な表現内容が,実用的,機能的で,ありふれたものであったり,選択の余地がほとんどないような場合には,創作的な表現とはいえないというべきである。
(2) これを本件についてみると,まず,作図上の表現方法については,一般に建築設計図面は,建物の建築を施工する工務店等が設計者の意図したとおり施工できるように建物の具体的な構造を通常の製図法によって表現したものであって,建築に関する基本的な知識を有する施工担当者であれば誰でも理解できる共通のルールに従って表現されているのが通常であり,作図上の表現方法の選択の幅はほとんどないといわざるを得ない。そして,控訴人図面をみても,その表現方法自体は,そのような通常の基本設計図の表記法に従って作成された平面的な図面であるから,表現方法における個性の発揮があるとは認められず,この点に創作性があるとはいえない。
 次に,控訴人設計図における具体的な表現内容をみると,控訴人図面に係るマンションは,通常の住居・店舗混合マンションであり,しかも旧マンションを等価交換事業として建て替えることを予定したものであるところ,このようなマンションは,一般的に,敷地の面積,形状,予定建築階数や戸数,道路,近隣等との位置関係,建ぺい率,容積率,高さ,日影等に関する法令上の各種の制約が存在し,また,等価交換事業としての性質上,そのような制約の範囲内で,敷地を最大限有効活用するという必要性がある上,住居スペースの広さや配置等は旧マンションにおける住居面積,配置,住民の希望や,建築後の建物の日照条件等に依ることもあり,建物形状や配置,柱や施設の配置を含む構造,寸法等に関する作図上の表現において設計者による独自の工夫の入る余地は限られているといえる。
 (略)
 もっとも,上記住民の希望に沿った建物の全体形状,寸法及び敷地における建物配置並びに建物内部の住戸配置,既存杭を前提とした場合の合理的な位置の選択の幅は狭いとはいえ,各部屋や通路等の具体的な形状や組合せ等も含めた具体的な設計については,その限定的な範囲で設計者による個性が発揮される余地は残されているといえるから,控訴人の一級建築士としての専門的知識及び技術に基づいてこれらが具体的に表現された控訴人図面全体については,これに作成者の個性が発揮されていると解することができ,創作性が認められる。ただし,以上に説示したところからすれば,本件においては設計者による選択の幅が限定されている状況下において作成者の個性が発揮されているだけであるから,その創作性は,その具体的に表現された図面について極めて限定的な範囲で認められるにすぎず,その著作物性を肯定するとしても,そのデッドコピーのような場合に限って,これを保護し得るものであると解される。
 そこで,次に,控訴人図面と被控訴人図面とを具体的に比較検討する。
(3) 控訴人図面と被控訴人図面の各階における部屋や通路等の具体的な形状及び組合せを対比すると,両図面は,以下の点において類似し,又は,相違する。
 (略)
(4) 以上のとおり,控訴人図面と被控訴人図面とを比較すると,建物の全体形状に所以する各階全体の構造や,Aと基本的に同様の配置とすることに所以する内部の各部屋の概略的な配置は類似するものの,各部屋や通路等の具体的な形状及び組合せは異なる点が多くあり,もともと控訴人図面の各部屋や通路の具体的な形状及び組合せも,通常のマンションにおいてみられるありふれた形状や組合せと大きく相違するものではないことを考慮すれば,控訴人図面及び被控訴人図面が実質的に同一であるということはできない。そうすると,控訴人図面と被控訴人図面とが,その基本となる設計与条件において共通する点があるとしても,具体的に表現された図面としては異なるものであるといわざるを得ず,被控訴人図面が控訴人図面の複製権又は翻案権を侵害しているとは認められない











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