著作権重要判例要旨[トップに戻る]







テレビ放送用番組の映像とパチンコ機の映像の翻案性が問題となった事例
「パチンコ機‘名奉行金さん’事件」
平成26430日東京地方裁判所(平成24()964 


【コメント】本件は、テレビ放映用番組として製作された「遠山の金さんシリーズ」のうちの合計3(以下「原告著作物」という。)の著作権を有し、「遠山の金さん」の商標権(「本件商標権」)を有する原告東映が、パチンコ機「CR松方弘樹の名奉行金さん」(以下「被告商品」という。)を製造販売していた被告らに対し、著作権法1121項又は商標法361項に基づき、所定の被告商品の部品(「被告部品」)の交換又は提供の差止めを求めるとともに、所定の原告らが、原告らの連帯債権として、被告らに対し、連帯して、民法709条、719条、著作権法1142項又は商標法382項に基づき、損害賠償金等の支払を求めた事案です。 


 争点(著作権侵害の成否)について
(1) 映画の著作物における創作性・類似性の判断手法について
ア 創作性の判断手法
 著作権法上,映画の著作物についての定義規定はないが,同法23項で「この法律にいう『映画の著作物』には,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物を含むものとする。」とされているから,「視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」ており,かつ,「物に固定され」ている「著作物」であれば,映画の著作物ということができる。
 本件において,原告が著作権侵害を主張する著作物(原告著作物)は,原告松方映像61,原告松方映像222,原告松方映像(女ねずみ)213つである。これらは,いずれも視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,テレビドラマ映像として映像媒体に固定され,それぞれの映像を全体としてみれば創作性が認められ,著作物といえるから,映画の著作物ということができる。
 原告らは,被告映像と原告著作物で類似性を有する構成要素(ストーリー構成,シーン映像,衣装等)を取り出し,その類似性を主張する。
 著作物の創作的表現は,様々な創作的要素が集積して成り立っているものであるから,原告作品と被告作品の共通部分が表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを判断する際に,その構成要素を分析し,それぞれについて,表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを検討することは,有益であり,かつ必要なことであって,その上で,作品全体又は侵害が主張されている部分全体について,表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを判断することは,正当な判断手法ということができる(知財高裁平成2488日判決[釣りゲーム事件])。
 そこで,原告著作物について,その構成要素について検討することとするが,その際,原告著作物はそれとは別個に観念される脚本や音楽とは別個の著作物と観念され,それらの二次的著作物と解されるから(著作権法16条),原著作物と共通の構成要素部分については除外して,二次的著作物において新たに付加された構成要素について検討すべきである。
 また,この点に関連して,被告らは,遠山金四郎が片肌を脱ぐ演技は,俳優の松方弘樹が,独自に研究研鑽を重ねて創出したものであり,俳優の演技に関する権利は,オリジナルなものであれば,当該俳優に属人的に帰属しており,俳優に著作隣接権が認められていることに照らすと,当該演技が固定された映画の著作物の著作権侵害の判断においては,俳優に属人的に帰属する演技に係る創作的表現の共通性を基に判断すべきではない,などと主張する。
 しかし,実演家である松方弘樹の実演をどのような演出,美術,カメラワークの下で録画し,映像として表現していくかについては,実演家の演技が映像表現に直結しているわけではなく,映画の著作物の著作者(著作権法16条)が関与しており,著作者が映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは,映画製作者に著作権が帰属するものである(同法291項)。このように,実演家が考案した演技であっても,これを当該映画における演出,美術,カメラワークの下で映像化した場合には,当該映画自体については,映画製作者が著作権を有するものであり,本件において,原告東映は,松方弘樹の実演の映像を含む原告松方映像61全体について著作権を有するものである。
 映画の著作物の著作権は,その創作的な表現を考案したのが当該映画の著作物の著作者(例えば監督)であるか,それ以外の,例えば俳優,助監督,美術,大道具,小道具,衣装などの関与者であるかを問わず,映画製作者に帰属するのであって,撮影担当者の考案した(最終的に監督の了解を経た)カメラワークを創作性の判断において特に除外しないのと同様,俳優の考案した(最終的に監督の了解を経た)演技を創作性の判断から除外する必要はない
 前記のとおり,原作や脚本に由来する部分など,映画の著作物が二次的著作物となる場合において原著作物に由来する部分については映画製作者の著作権は及ばないが(著作権法16条),映像を離れて実演家の演技に著作権が発生するわけではないから,原作者や脚本家のような原著作者の権利が実演家に留保されることはない
 被告らの主張は採用できない。
イ 類似性の判断手法
 被告映像が原告著作物に類似するか否かは,原告らが侵害を主張する被告映像とそれに対応する原告著作物の部分について検討する必要がある。
 たとえ,原告著作物が全体としては著作物性を有するとしても,原告らがその侵害を主張する部分について表現上の創作性が認められなければ,著作権侵害は成立しない
 すなわち,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法211号参照),アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらない(最高裁平成13628日判決[江差追分事件]参照)。
 そこで,被告映像と原告著作物との間で同一性を有すると主張する部分(侵害を主張する部分)が表現上の創作性がある部分といえるか,創作性のある部分について,被告映像から原告著作物の本質的特徴を感得できるか(類似性)について,以下,原告著作物の構成要素に即して検討する。
(2) 被告映像と原告著作物の類似性
ア 被告金さん物語映像の全体のストーリー構成の類似性について
 原告らは,被告金さん物語映像の構成は,原告松方映像61の物語の構成と共通のストーリー構成をしているところ,全体のストーリー構成には原告東映の創作性が表れていると主張する。
 しかし,原告松方映像61のストーリー自体は,脚本に由来するものであって,二次的著作物である原告松方映像61の創作性ある表現とはいえない。
 また,原告らの主張するストーリー構成の類似は,概要,「北町奉行である遠山金四郎が,市井の一般人(金さん(金次))に身をやつして悪事を秘密裏に探り出し,事件の真相と黒幕を突き止める。金さんが悪党の屋敷に乗り込み,立ち回りの途中で自らの肩の桜吹雪の刺青を見せる。北町奉行所のお白州で,悪事をしらばっくれる悪党に対し,遠山奉行が,片肌脱いで桜吹雪の刺青を見せつける。悪党は驚愕し,観念する。極刑を言い渡した遠山奉行は,「これにて一件落着」と言う。」というものであるが,このストーリー構成は,昭和32年の舞台「遠山桜江戸ッ子奉行」,昭和44年の舞台「いれずみ判官遠山の金さん」,昭和36年の漫画「遠山金四郎」にも同様のストーリー構成がみられ,いわゆる遠山金四郎ものによくあるアイデアの類似にすぎず,創作性ある表現の類似とはいえない。
イ 立ち回りシーンの類似性について
() 主要な登場人物
 原告らは,原告松方映像61の立ち回りのシーンと,被告金さん物語映像及び被告立ち回りリーチ映像について,「主要な登場人物として松方弘樹演じる金さんが登場する」ことを類似点と主張する。
 しかし,遠山金四郎が主要な登場人物であること,松方弘樹が金さん(遠山金四郎)を演じることは原告松方映像61の創作性ある表現とはいえず,創作性ある表現の類似とはいえない。
() 場面・セット
 原告らは,「悪党達が密談を行っている部屋及び当該部屋に隣接する庭が,主要な場所となる」こと,「この庭は,建物や塀等に囲まれた内庭のようになっている」ことを類似点と主張する。
 しかし,このような設定上の抽象的な表現のみでは,創作性ある表現の類似とはいえない。
(ウ) 衣装等
 原告らは,「金さんは,江戸の町人の格好をした上,頬かむりをしている。金さんは,悪党共の密談の場を暴きに来たにも関わらず,手ぶらのままであり,また特段防具なども身につけず,無防備な格好をしている」ことを類似点と主張する。
 しかし,遠山金四郎が江戸の町人のような格好をした上で頬被りをし,手ぶらで防具を身につけていないという表現は,昭和29年の「鉄火奉行」,昭和30年の「次男坊判官」,昭和32年の「勢揃い桃色御殿」,昭和56年の「江戸を斬るY」などにも見られた表現であり,創作性ある表現の類似とはいえない。
 もっとも,原告松方映像61の立ち回りシーンとこれに対応する被告映像の具体的映像表現を対比するに当たり,遠山金四郎の衣装が類似していることは,その類似性を高める要素となっている。この点は後記()で判断するが,少なくとも衣装の類似だけでは創作性ある表現の類似とはいえない。
() ストーリー展開・台詞・演技等
a 原告らは,「悪党達が密談を行っている部屋に隣接する庭に,金さんが頬被り姿で登場する。敵に囲まれる。悪党達は家来達に対し,金さんの殺害を命じる。金さんは日本刀を抜き身にした数多くの家来達に囲まれ,実際に襲われるが,最初は素手で数人の家来達を薙ぎ倒す。」ことが類似点と主張する。
 しかし,ストーリー自体は,脚本に由来するもので,原告松方映像61の創作性ある表現とはいえないことは前記のとおりである。
 そして,原告らは,類似性の根拠となるべき,映画の著作物において新たに付加された個々の映像表現(カメラワーク等)についてそれ以上具体的に主張していないから,原告東映の創作性ある表現の類似があるとは認められない。
b 原告らは,「(金さんが)叱るように『静かにしろい,静かによぉ!』との台詞を言い,家来達を黙らせる。江戸言葉で決め台詞を威勢よく言いながら,片肌を脱ぎ,肩から肘にかけてびっしりと彫られた桜の刺青を見せる。」ことが類似点と主張する。
 ストーリー自体は脚本に由来するものであるし,台詞は脚本とは一部表現が異なる部分はあるものの(例えば,原告松方映像61の「静かにしろい,静かによぉ!」との台詞は,脚本には存在しない。),その程度の差異によって,原告松方映像61の台詞に創作性があるものとは認められない。
 しかし,具体的な映像表現として,原告松方映像61の立ち回りの桜吹雪披露シーンと,被告金さん物語映像の桜吹雪披露シーン及び被告立ち回りリーチ映像とを,カメラワーク,アングル,カット,遠山金四郎の衣装,松方弘樹の演技など,両映像から受ける総合的な印象において対比すると,両映像の与える総合的な印象は相当に類似している。
 特に,桜吹雪の刺青を見せる際に,@まず身体右側を画面前に向け,右腕を右袖の中に入れ,A身体右側を画面前に向けた姿勢で,右手を開いた状態で右手の甲が外になる向きで,右手を右襟元から出し,そのまま右手を下ろし(被告金さん映像の桜吹雪披露シーン及び被告立ち回りリーチ映像においては,下ろした右手を拳にしているか否かは画面上明らかでない。),B左後方を振り返りながら,右腕を振り上げ,右肩及び右腕全体を着物から出し,前を向きながら,右腕を振り下ろして片肌を脱ぎ,右肩の桜吹雪の刺青を披露する,C人物(金さん)の背景には,建物の外壁及び窓が映されており,人物の衣装は着流しに頬被りをしており,カメラワークは,終始人物を中心に捉えている,という点は,見る者に相当強い印象を与える映像であり,この点の一致は,両者の与える印象の類似性に強い影響を与えている。
 これらの映像表現は,脚本を映画の著作物に翻案する過程において新たに加えられた創作的な表現であり,原告東映の保有する原告松方映像61の著作権によって保護されるべき創作性ある表現の類似といえる
 「右手を右袖に入れ,襟元から出して右の片肌を脱ぐ」という動作は,他の映像表現においても見られるものであるが,上記の4つの特徴を兼ね備えた特徴的な映像表現が,本件松方作品製作前に存在していた証拠はない。
c 原告らは,「その後,本格的な立ち回りが始まる。金さんは,途中で悪党の1人が使っている日本刀を奪い,峰打ちをするために刀を返す。この際,金さんの顔と反対に返される刀との双方が映るような構図で撮影されている。右手と左手を離して刀を握っている。」ことを類似点と主張する。
 刀を峰に返すこと自体は脚本に由来するものであるが,原告らの指摘するカメラワークは,映画の著作物の製作過程で新たに付加された映像表現である。しかし,この程度の類似では,原告松方映像61の創作性ある表現の類似とはいえない。右手と左手を離して刀を握っていることも,創作性ある表現の類似とはいえない。
d 原告らは,「(金さんが)悪党を次々と倒し,悪党を追い詰めていく。悪党は峰打ちされているだけで,死ぬわけではないが,皆峰打ちをされると倒れ込む。また,迫力を示すために,峰打ちで叩く効果音も,実際の刀で切ったとき(の効果音)と同様のものが用いられている。金さんは切りつけた後,その余韻を感じる恍惚の表情を一瞬見せる」ことを類似点と主張する。
 峰打ちされた悪役が倒れ込むことや効果音の選択はありふれたもので,映像表現としてみても,創作性ある表現の類似とはいえない。
 金さんが切りつけた後,その余韻を感じる恍惚の表情を一瞬見せる点は,映画の著作物の製作過程で松方弘樹の演技によって新たに付加された映像表現であるが,創作性ある表現の類似とまではいえない。
 (略)
ウ お白州シーンの類似性について
() 登場人物
 原告らは,原告松方映像61のお白州のシーンと,被告金さん物語映像及び被告白州リーチ映像との対比について,「松方弘樹演じる遠山奉行が登場する」ことを類似点と主張する。
 しかし,遠山奉行が登場すること,松方弘樹が「遠山奉行」を演じることは原告松方映像61の創作性ある表現とはいえないから,創作性ある表現の類似とはいえない。具体的な演技,カットの類似性については,後記()で判断する。
() 場面・セット
 原告らは,「場面は,遠山金四郎が北町奉行を務める北町奉行所。お白州の場は,奉行所の建物内の高座と建物外の玉砂利敷の庭に分かれ,その間は階段でつながっている。建物内の高座には遠山奉行が,玉砂利敷の庭には筵が敷かれ,悪党らと証人が座っている。遠山奉行から見て,正面に悪党らが,正面右側に証人等が座っている」こと,襖の上部に「破邪顕正」(被告白州リーチ映像)又は「至誠一貫」(原告松方映像61)という四字熟語の書かれた額があること,襖の前に侍が2人いることを類似点と主張する。
  「北町奉行所のお白州の場面を設け,お白州の場は,奉行所の建物内の高座と建物外の玉砂利敷の庭に分かれ,建物内の高座には遠山奉行が,玉砂利敷の庭には筵が敷かれ,悪党らと証人が座っている。遠山奉行から見て,正面に悪党らが座っている」という表現,襖の上に「破邪顕正」等の言葉の書かれた額があるという表現は,昭和56年の「江戸を斬るY」,昭和30年の「次男坊判官」,昭和29年の「鉄火奉行」などにも見られた表現であり,原告松方映像61の創作性ある表現の類似とはいえない。
 「遠山奉行から見て,正面右側に証人等が座っている」点も,ありふれた表現であって創作性ある表現の類似とはいえない。
 「襖の前に侍が2人いる」点は,昭和56年の「江戸を斬るY」にも類似の表現が見られ,ありふれた表現であって創作性ある表現の類似とはいえない。
() 衣装等
 原告らは,史実と異なり,遠山奉行が紺色の長裃を着用していること,遠山奉行が着ている長裃に「丸に三引」(円の中に横三本線)の家紋が入っていることが,類似点であると主張する。
 しかし,遠山奉行が長裃を着用していること,長裃に「丸に三引」の家紋が入っていることは,昭和28年の「金さん捕物帖 謎の人形師」,昭和30年の「次男坊判官」,昭和59年の「ねずみ小僧怪盗伝」,昭和32年の「勢揃い桃色御殿」,昭和33年の「大暴れ東海道」などにも見られた表現であり,原告松方映像61の創作性ある表現の類似とはいえない。
 原告松方映像61の衣装と,被告金さん物語映像及び被告白州リーチ映像の衣装は,紺地に白の家紋が入っている点で,上記の各映像のどれにも増して酷似していることは確かであるが,衣装の類似だけであれば,原告松方映像61の創作性ある表現の類似とまではいえない
() ストーリー展開・台詞・演技
a 原告らは,要旨「『北町奉行・遠山左衛門尉様,ご出座〜』との掛け声がかかる。真ん中の襖が開き,遠山奉行が登場する。遠山奉行が『一同のもの,面を上げい』と言うと,悪党らと,その右側にいる証人はゆっくりと正面を見る。遠山奉行が画面に大写しにされ,『で,調べによれば……』と言い,吟味を開始する。否定する悪党ら。にやけ顔の悪党。証人が悪党の悪行を訴えるのに対して,悪党は悪事をしらばっくれ,口々に騒ぎ立てる」といった点を類似点と主張する。
 しかし,その大半は脚本に由来するもので原告松方映像61の創作性ある表現とはいえない。また,原告松方映像61と被告金さん物語映像及び被告白州リーチ映像を対比すると,原告松方映像61では,殺人事件の詮議となっているのに対し,被告白州映像では幕府転覆の企ての詮議となっているほか,原告松方映像61では,悪党らが「確たる証拠を出せ」等と騒ぎ立てるのに対し,被告白州リーチ映像では,悪党らは,「怪しいのはあいつだ!」「金次の野郎を出しやがれ」と金次の出頭に絞って騒ぎ立てている。このように両者は詮議の内容や悪党の発言内容が異なっており,両映像が台詞の一部や脚本に表れないカメラワーク,アングル,カット等において類似していることを考慮しても,原告松方映像61の創作性ある表現の類似とまではいえない。
b 被告金さん物語映像の桜吹雪披露シーンについて
 原告らは,要旨「遠山奉行が直前とは打って変わった江戸言葉で啖呵を切りながら,長裃を蹴って前ににじり寄り,片肌脱いで桜吹雪の刺青を見せつけ,悪党による悪事を全て自分の眼で確認していることを明かし,悪党をにらみつける」といった点を類似点と主張する。
 ストーリー自体は脚本に由来するものであるが,具体的な映像表現として,原告松方映像61のお白州での桜吹雪披露シーンと,被告金さん物語映像の桜吹雪披露シーン及び被告白州リーチ映像とで,カメラワーク,アングル,カット,遠山金四郎の衣装,松方弘樹の演技など,両映像から受ける総合的な印象を対比すると,両映像の与える総合的な印象は相当に類似している。
 特に,原告松方映像61のお白州での桜吹雪披露シーン及び被告金さん物語映像の桜吹雪披露シーンにおいて,桜吹雪の刺青を見せる際に,@まず身体右側を画面前に向け,右腕を右袖の中に入れ,A身体右側を画面前に向けた姿勢で,右手の5本の指を開いた状態で右手の甲が外になる向きで,右手を右襟元から出し,そのまま右手を下ろし(被告金さん映像の桜吹雪披露シーンにおいては,下ろした右手を拳にしているか否かは画面上明らかでない。),Bその後,左後方を振り返りながら,右腕を振り上げ,右肩及び右腕全体を着物から出し,前を向きながら,右腕を振り下ろして片肌を脱ぎ,右肩の桜吹雪の刺青を披露する,C人物(遠山奉行)の背景には,襖の不規則な斜め縞模様が映されており,人物の衣装は裃であり,カメラワークは,終始人物を中心に捉えている,という点は,見る者に相当強い印象を与える映像であり,この点の一致は,両者の与える印象の類似性に強い影響を与えている。
 これらの映像表現は,脚本を映像化する映画の著作物の製作過程において新たに加えられた創作的な表現であり,原告東映の保有する原告松方映像61の著作権によって保護されるべき創作性ある表現の類似といえる
 「右手を右袖に入れ,襟元から出して右の片肌を脱ぐ」という動作は,他の映像表現においても見られるものであるが,上記の4つの特徴を兼ね備えた特徴的な映像表現が,本件松方作品製作前に存在していた証拠はない。
c 被告白州リーチ映像の桜吹雪披露シーンについて
 原告松方映像61のお白州での桜吹雪披露シーン及び被告白州リーチ映像の桜吹雪披露シーンは,桜吹雪の刺青を見せる際に,@まず身体右側を画面前に向け,右腕を右袖の中に入れ,Bその後,左後方を振り返りながら,腰付近から右腕を振り上げ,右肩及び右腕全体を着物から出し,前を向きながら,右腕を振り下ろして片肌を脱ぎ,右肩の桜吹雪の刺青を披露する,C人物(遠山奉行)の背景には,襖の不規則な斜め縞模様が映されており,人物の衣装は裃であり,カメラワークは,終始人物を中心に捉えている,という点で類似している。
 しかし,被告白州リーチ映像においては,@遠山奉行が右腕を右袖の中に入れた後,画面がホワイトアウトし,次の場面ではB遠山奉行は腰付近から右腕を振り上げ,右肩及び右腕全体を着物から出し,右腕を振り下ろしており,原告松方映像61にあった,A身体右側を画面前に向けた姿勢で,右手を開いた状態で右手の甲が外になる向きで,右手を右襟元から出し,そのまま右手を下ろした後,右手を拳にする,という特徴的な動作が画面上に表現されていない。
 この点は,他の3点の特徴とあいまって,見る者に相当強い印象を与える映像表現であったところ,この点が再現されていない被告白州リーチ映像は,原告松方映像61の創作性ある表現の類似とまではいえない。
d 原告らは,要旨「お白州にいる悪党は驚愕し,その後観念する。その後,悪党らに打ち首等の極刑を言渡し,悪党等を引っ立てる。最後に,遠山奉行は『これにて一件落着』と言う」といった点を類似点と主張する。
 しかし,ストーリー自体は脚本に由来するものであり,映像表現としてみても,創作性ある表現の類似とまではいえない。
エ 被告掛け声演出について
 原告らは,被告掛け声演出は,原告松方映像61のお白州シーンにおいて松方弘樹演じる遠山奉行の出す「おうおうおう!」という掛け声と類似すると主張する。
 しかし,被告掛け声演出には,原告松方映像61において掛け声と一体として映像化されていた松方弘樹演じる遠山奉行の表情やカメラワーク等が存在しないのであり,両音声がその台詞のみならず台詞回しにおいても類似するところがあることを考慮しても,創作性ある表現の類似とはいえない。
オ 被告くのいちリーチ映像について
 原告らは,原告松方映像61に登場する池上季美子演じる「お紺」と,被告くのいちリーチ映像に登場する生稲晃子演じる「お蝶」とは,「くのいち(女忍者)」の格好をして登場する点,密偵として悪党等の悪事に関する情報を遠山奉行に伝える役目を持っている点,黒い装束を基本とし,頬被りに赤い布をねじりこみ,服の裏地に赤い布を配した姿格好をしている点で類似すると主張する。
 お紺がくのいちであり密偵であるという設定自体は,脚本に由来するもので,原告松方映像61の創作性ある表現の類似とはいえない。
 頬被りに赤い布をねじりこみ,服の裏地に赤い布を配した姿格好をしている点も,昭和59年の「ねずみ小僧怪盗伝」にも見られるもので,怪盗の衣装をくのいちの衣装に採用したことはアイデアであって,原告松方映像61の創作性ある表現の類似とはいえない。
 (略)
ケ 小括
() 上記検討によれば,原告松方映像61と被告映像の共通部分のうち,立ち回り中及びお白州での桜吹雪披露シーンの表現については表現上の創作性が認められる。
 他方,被告映像には,立ち回りに至るまでのストーリーが映像表現を含めて大きく異なっている。
 (略)
 創作的表現において類似する部分は,両映像におけるいわばクライマックスに相当する部分であって,ストーリー上も重要な部分であり,そうであるからこそ,被告立ち回りリーチ映像,被告白州リーチ映像において抜き出されているものと考えられる。
 しかし,類似部分と非類似部分の分量の差を考えると,被告映像全体が原告松方映像61全体の翻案であると判断することはできない。
() 本件において著作権侵害が認められるのは,一まとまりとしての立ち回りでの桜吹雪披露シーン及びお白州での桜吹雪披露シーンに限られるというべきである。
 原告松方映像61における立ち回り中及びお白州での桜吹雪披露シーンと,これと対応する被告映像の当該部分を対比すると,被告映像の上記部分は,俳優の演技,人物の背景,人物の衣装,カメラワークを含めて,原告松方映像61の上記部分の表現の本質的特徴を直接感得させるものであると認められる。
 そして,上記部分に限っていえば,被告映像において原告松方映像61から新たに加えた創作的表現があるとは認められないから,被告映像のうち上記部分は,原告松方映像61の対応する部分を有形的に再製したものであって,複製したものと認められる。
(3) 依拠性について
ア 被告らは,被告映像は被告らが独自に創作した原作に基づき映画化したものであり,原告著作物に依拠したものではないと主張する。
イ 本件松方作品は,昭和63年から平成10年にかけて全202話)が放映され,その視聴率は平均14.0%,最大21.9%に及び,地上波のローカル局やCS放送で再放送もなされている。
 このことからすれば,被告らにおいても本件松方作品にアクセスしていたことが推認される。
 そして,被告映像において,本件松方作品と同じく松方弘樹が遠山金四郎を演じ,かつ,被告映像と原告松方映像61とは,創作性ある表現とは認められないものの,別紙比較対照表のとおり,桜吹雪披露シーン以外のストーリー,場面・セット,衣装(史実と異なる「丸に三引」),桜吹雪の刺青の柄等においても類似している。
 以上によれば,被告映像は,原告松方映像61に依拠して製作されたものと認めるのが相当である。
ウ 被告らは,周知の遠山金四郎の物語を参考にして脚本を作成し,時代劇等によく用いられるセット,小道具,衣装等を利用し,松方弘樹を主演に起用すれば,概ね本件松方作品のような作品となり,本件松方作品と別個独立に遠山金四郎を題材とする映像作品が作成可能であったと主張するが,上記の多数の類似点に照らすと,被告映像が本件松方作品と独立に創作されたとは到底認め難い。
(4) 以上によれば,被告映像の桜吹雪披露シーンは原告松方映像61の桜吹雪披露シーンの複製であり,被告映像の収載された被告商品の製造は原告東映の複製権(著作権法21条)を侵害し,被告商品の販売や被告部品の交換又は提供は原告東映の頒布権(同法26条)を侵害するものと認められる(原告らは頒布権侵害を明示して主張してはいないが,その請求する損害の内容からみて頒布権侵害を主張する趣旨であると解するのが相当である。)。











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