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「物のパブリシティ権」は認められるか
「競走馬名パブリシティ権事件」
平成160213日最高裁判所第二小法廷判決(平成13()866 

 本件は,本件各競走馬を所有し,又は所有していた1審原告らが,本件各競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの経済的価値を独占的に支配する財産的権利(いわゆる物のパブリシティ権)を有することを理由として,1審被告に対し,1審被告が1審原告らの承諾を得ないで本件各ゲームソフトに本件各競走馬の名称等を使用したことにより上記財産的権利を侵害したと主張して,本件各ゲームソフトの製作,販売,貸渡し等の差止め及び不法行為による損害賠償を請求する事案である。
 
原審は,前記事実関係の下で,次のとおり判示し,1審原告らの各差止請求を棄却し,損害賠償請求については,1審原告らのうちの14名(以下「14名の1審原告ら」という。)の各請求の一部を認容し,その余の1審原告らの各請求を棄却した。
(1) 競走馬の名称等には,著名人の名称等が有するのと同様の顧客吸引力を有するものがあり,そのような場合には,その名称自体等に経済的価値がある。この競走馬の名称等が有する経済的価値を保護するためには,商標法,不正競争防止法等の現行の知的財産関係の法律が認める権利や救済方法だけでは不十分であり,競走馬の所有者は,競走馬の名称等が有する経済的価値(無体的価値)を独占的に支配する無体財産権(物のパブリシティ権)を有するものと解すべきであって,これを保護しなければならない。現に,競走馬の所有者が,ゲームソフトを製作し,販売する会社との間で,その所有する競走馬の名称等の使用を許諾するにつき,使用料の支払を受ける旨の契約を締結している例があることからも,現在,競走馬等の物のパブリシティ権を一定の要件の下に承認し,これを保護するのを相当とする社会的状況が生まれているというべきである。したがって,顧客吸引力を有する競走馬の名称等を第三者がその所有者に無断で使用するなどして上記の無体財産権を侵害した場合には,不法行為が成立し,損害賠償請求権が発生する。
(2) もっとも,上記の無体財産権は,現段階においては,排他性を有する権利とまではいえないから,差止請求を認めることはできない。
(3) 本件各競走馬のうち,中央競馬のいわゆるG1レースに出走して優勝した競走馬19頭については,その名称に顧客吸引力があると認められるから,これらの競走馬を所有し,又は所有していた14名の1審原告らは,上記各競走馬の名称が有する経済的価値を独占的に支配する無体財産権を有する。したがって,1審被告が本件各ゲームソフトに上記各競走馬の名称を無断で使用したことは,上記無体財産権を侵害した不法行為を構成するから,1審被告は,14名の1審原告らに対し,損害賠償責任を負う。
 
しかしながら,原審の上記判断のうち,上記(2)については結論において是認することができるが,その余の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 1審原告らは,本件各競走馬を所有し,又は所有していた者であるが,競走馬等の物の所有権は,その物の有体物としての面に対する排他的支配権能であるにとどまり,その物の名称等の無体物としての面を直接排他的に支配する権能に及ぶものではないから,第三者が,競走馬の有体物としての面に対する所有者の排他的支配権能を侵すことなく,競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの競走馬の無体物としての面における経済的価値を利用したとしても,その利用行為は,競走馬の所有権を侵害するものではないと解すべきである(最高裁昭和59120日第二小法廷判決参照)。本件においては,前記事実関係によれば,1審被告は,本件各ゲームソフトを製作,販売したにとどまり,本件各競走馬の有体物としての面に対する1審原告らの所有権に基づく排他的支配権能を侵したものではないことは明らかであるから,1審被告の上記製作,販売行為は,1審原告らの本件各競走馬に対する所有権を侵害するものではないというべきである。
(2) 現行法上,物の名称の使用など,物の無体物としての面の利用に関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている。
 
上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても,物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき,法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく,また,競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については,違法とされる行為の範囲,態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において,これを肯定することはできないものというべきである。したがって,本件において,差止め又は不法行為の成立を肯定することはできない
(3) なお,原判決が説示するような競走馬の名称等の使用料の支払を内容とする契約が締結された実例があるとしても,それらの契約締結は,紛争をあらかじめ回避して円滑に事業を遂行するためなど,様々な目的で行われることがあり得るのであり,上記のような契約締結の実例があることを理由として,競走馬の所有者が競走馬の名称等が有する経済的価値を独占的に利用することができることを承認する社会的慣習又は慣習法が存在するとまでいうことはできない
(4) 以上によれば,1審原告らは,1審被告に対し,差止請求権はもとより,損害賠償請求権を有するものということはできない。

【コメント】参考になる部分を含んでいますので、本件の第一審平成120119日名古屋地方裁判所(平成10()527も参照してください。 











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