著作権重要判例要旨[トップに戻る]







「特掲」の程度
「『どこまでも行こう』・『記念樹』/
JASRAC事件」平成151226日東京地方裁判所(平成15()8356 

 被告は,原告が法28条の権利を有しない旨主張するので,この点について検討する。
 
被告は,昭和4091日,原告から,同年1015日から著作権の全存続期間を信託期間として,本件信託契約約款により,原告の有する総ての著作権並びに将来取得することあるべき著作権の信託を引き受ける旨の契約を締結した。本件信託契約約款1条本文において,委託者は「其ノ有スル総テノ著作権並ニ将来取得スルコトアルベキ総テノ著作権」を信託財産として受託者に移転する旨規定されている。そして,原告は,昭和42228日,被告に対し,甲曲及びその歌詞の著作権を信託する旨の作品届を提出した。
 612項は,「著作権を譲渡する契約において,法27条又は28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは,これらの権利は,譲渡した者に留保されたものと推定する。」旨規定している。原告が被告に甲曲の著作権を信託譲渡した昭和40年当時の旧著作権法においては,2条に「著作権ハ其ノ全部又ハ一部ヲ譲渡スルコトヲ得」と規定されているだけであったが,現行著作権法が施行される際,附則9条によって,旧法の著作権の譲渡その他の処分は,附則151項の規定に該当する場合を除き,これに相当する新法の著作権の譲渡その他の処分とみなす旨定められたため,法612項の推定規定は,旧法時代に行われた著作権譲渡契約にも適用される。
 612項は,通常著作権を譲渡する場合,著作物を原作のままの形態において利用することは予定されていても,どのような付加価値を生み出すか予想のつかない二次的著作物の創作及び利用は,譲渡時に予定されていない利用態様であって,著作権者に明白な譲渡意思があったとはいい難いために規定されたものである。そうすると,単に「将来取得スルコトアルベキ総テノ著作権」という文言によって,法27条の権利や二次的著作物に関する法28条の権利が譲渡の目的として特掲されているものと解することはできない。この点につき,法28条の権利が結果的には法21条ないし法27条の権利を内容とするものであるとして,単なる「著作権」という文言に含まれると解釈することは,法612項が法28条の権利についても法27条の権利と同様に「特掲」を求めている趣旨に反する。
 また,現行の著作権信託契約約款によれば,委託者は,その有するすべての著作権及び将来取得するすべての著作権を信託財産として受託者に移転する旨の条項(3条)のほか,委託者が別表に掲げる支分権又は利用形態の区分に従い,一部の著作権を管理委託の範囲から除外することができ,この場合,除外された区分に係る著作権は,受託者に移転しないものとする旨の条項がある(4条)。そして,この「別表に掲げる支分権及び利用形態」とは,@演奏権,上演権,上映権,公衆送信権,伝達権及び口述権,A録音権,頒布権及び録音物に係る譲渡権,B貸与権,C出版権及び出版物に係る譲渡権,D映画への録音,Eビデオグラム等への録音,Fゲームソフトへの録音,Gコマーシャル放送用録音,H放送・有線放送,Iインタラクティブ配信,J業務用通信カラオケであり,二次的著作物に関する法28条の権利については明記されていない
 他方,被告は,法28条の権利をも譲渡の対象とするのであれば,著作権信託契約約款に,例えば,社団法人日本文藝家協会の管理委託契約約款のように,「委託者は,その有する著作権及び将来取得する著作権に係る次に定める利用方法で管理委託契約申込書において指定したものに関する管理を委任し,受託者はこれを引き受けるものとする。(1)著作物又は当該著作物を原著作物とする二次的著作物の出版,録音,録画その他の複製並びに当該複製物の頒布,貸与及び譲渡(2)著作物又は当該著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆送信,伝達,上映,上演及び口述(3)著作物の翻訳及び映画化等の翻案」という条項によって,明確に「特掲」することが可能である。
 以上によれば,原告の法28条の権利が明示の合意により,被告に譲渡されたことを認めるに足りない
 また,原告が,編曲を許諾していない二次的著作物の自由な利用までも被告に容認していたと認めるに足りる証拠はなく,他に原告の有する法28条の権利が黙示の合意により被告に譲渡されたことをうかがわせる事実はない
 
かえって,@被告において,編曲著作物の届出方法が定められ,原著作物の著作権がある作品については,原著作物の著作権者の承認を証明する文書が必要とされ,被告において,編曲審査委員会及び理事会に諮って,当該編曲著作物が被告の管理する二次的著作物として妥当なものであるかどうかを決定すること,A被告発行の「日本音楽著作権協会の組織と業務」と題する説明書において,「編曲や翻訳等を認める権利はJASRACに譲渡されていないので,著作権法第61条により,これらの権利は当然著作者なり,著作権者なりに留保されていることに気を付ける必要がある。」と記載されていること等の事実によれば,少なくとも原著作物の著作権者の許諾なくして編曲され編曲著作物として届出されていない二次的著作物に関する権利についてまで信託契約の対象とする意思は,原告のみならず,被告にもなかったものと認められる。
 逆に,原著作物の著作権者の許諾なくして編曲された二次的著作物に関する権利が信託契約の対象となり,被告に譲渡されたものであるとすると,編曲権を侵害する二次的著作物が放送等により利用された場合に,被告が編曲権を侵害する二次的著作物に当たらないと判断したときには,これと異なる見解を有する原著作物の著作権者が何らの権利も行使することができないこととなる。現に,本件において,被告は,フジテレビやポニーキャニオン等の利用者に対し,乙曲について利用許諾を与えて使用料を徴収していたのであるから,被告が利用者に対し法28条の権利を行使して利用差止めや損害賠償等の請求をすることは期待し難く,原著作物の著作権者の保護に欠ける不当な結果となりかねない。
 したがって,少なくとも法27条の権利(編曲権)を侵害して創作された乙曲を二次的著作物とする法28条の権利は,被告に譲渡されることなく原告に留保されているということができる。











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