著作権重要判例要旨[トップに戻る]







譲渡契約の解釈-放送権譲渡の意味-
「特撮映画『怪傑ライオン丸』等放送権譲渡事件」平成141024日東京地方裁判所(平成12()22624/平成150807日東京高等裁判所(平成14()5907
 

【原審】

 本件契約により被告ピープロから原告に対し譲渡された本件作品の「放送権」には,有線放送及び衛星放送を行う権利が含まれるか
 本件契約2条に定められた「放送権」に有線放送及び衛星放送を行う権利が含まれるかどうかは,当該契約の当事者である原告と被告ピープロ及び同Aの契約の際の意思内容により決するものであるが,その意思内容を判断するに当たっては,本件契約2条の契約書の条項全体との関係,対価との相当性,契約締結当時における著作権法の規定,有線放送・衛星放送の状況や業界慣行等の諸事情に加えて,本件契約締結に至った経緯や本件契約締結後における契約当事者の行動内容等をも総合的に考慮して判断するのが相当である。
 (略)
 
上記によれば,本件契約の「放送権」の文言については,契約書中に定義されていないので,契約の際の当事者の合理的意思を認定すべきところ,本件契約において対価として定められた1000万円という金額で,本件作品131話分すべてにつき,特に放映条件,放映期間の定めなく地上波放送のみならず衛星放送及び有線放送を行う権利も譲渡したと解することは,その前後における契約での対価の額とあまりにかけ離れたことになり,また,本件契約締結当時の著作権法が「放送」と「有線放送」とを明確に区別して規定していること,有線放送については本件契約締結当時既に地域メディアとしての機能を果たす規模で行われていたものの,大勢としては難視聴地域の解消のための無線放送の同時再送信を行うものが多かったこと,衛星放送については放送自体がまだ行われていなかったことが,それぞれ認められる。また,被告Aは,本人尋問において,本件契約の締結の際には,有線放送,衛星放送については認識になかった旨を明確に供述しているものであって,これらの事情を総合すれば,本件契約の「放送権」は地上波放送のみを指すものであって,有線放送や衛星放送を行う権利は含まれていないと解するのが,契約当事者の意思に合致するというべきである。
 
そもそも原告は,本件契約において,有線放送を行う権利をも譲渡の対象にしたいと考えていたのであれば,契約書に「放送権」とのみ記載するだけでなく,有線放送を行う権利も譲渡対象となっている旨を明記することが容易にできたはずであるのに,それをしていないのであって,この点に照らしても,本件契約の対象については,上記のように認定するのが相当である。

【控訴審】

 当裁判所も,原判決と同じく,衛星放送権も有線放送権も,本件契約において譲渡の対象とされた「放送権」に含まれていると認めることができず,控訴人の放送権侵害を理由とする損害賠償請求は理由がない,と判断する。…
 
本件契約書第2条は,「乙(判決注・被控訴人ピープロ)は甲(判決注・控訴人)に対し,作品(判決注・本件作品)の著作権のうち,下記の権利を本書の日付をもって譲渡する。「作品の日本国内全域における放送権」…」と規定している。
 
ここにいう「放送権」を,どのような意味内容を有するものと解釈すべきか,が本件における最大の争点である。
 
本件契約書中には,「放送権」の意味についての定義規定はない。そのため,この解釈に当たっては,著作権法の関連規定の内容,関連する事項についての,本件契約を締結した当事者の意思,本件契約に至る経緯等を総合的に考慮する必要がある
 
本件契約は,昭和53年(月日は不明)に締結されたものである。著作権法は,本件契約成立後,現在までの間に,何度かの改正を経ている。本件契約締結当時の著作権法(昭和53年法律第49号(昭和531014日施行)による改正前後の著作権法)は,…と規定している。これらの規定によれば,本件契約成立当時の著作権法は,「放送」の語を,無線通信の送信を行うことを意味する語として,「有線放送」の語と明確に区別し,著作物を「放送」する権利である「放送権」を,「有線放送する権利」である「有線放送権」と,明確に区別して用いている,ということができる。
 
…によれば,我が国で衛星放送が開始されたのは,平成元年6月であり,本件契約成立当時は,衛星放送技術試験の実験が開始されたばかりの段階にすぎなかったことが認められる。
 
上に認定したところによれば,本件契約にいう「放送権」の語に,当然に「有線放送権」及び「衛星放送権」が含まれている,と解することができないことは,明らかというべきである。控訴人は,「衛星放送権」は,著作権法上無線放送の一つであるから,当然に「放送」の概念に含まれる,と主張する。しかしながら,ここでの問題は,本件契約における「放送権」の語の解釈である。著作権法において,衛星放送が無線放送の中に入るとしても,そのことから,直ちに,本件契約が締結された昭和53年当時に行われていなかった衛星放送も,本件契約の対象とされていた,ということになるわけのものではないことは,論ずるまでもないことである(逆に,著作権法において,「放送」の中に有線放送は入らないものとされているということだけで,有線放送は本件契約の対象外である,ということになるわけのものでもないことも,当然である。)。
 
本件契約は,被控訴人ピープロの有する本件作品の著作権の一部である「放送権」を,特に放送条件,放送期間の定めなく譲渡することを内容とするものであり,本件作品の著作権に極めて重大な制限を加えるものであるから,その譲渡対象の範囲の認定は厳格に行い,一定以上の疑問が残るものについては範囲に入らないとするのが,著作権法の立法趣旨に合致する契約解釈である,というべきである。
 
これを前提にした場合,上に認定した事情の下で,本件契約にいう「放送権」に「有線放送権」あるいは「衛星放送権」が含まれている,というためには,それを認めるに足るだけの相当に積極的な根拠が必要であり,趣旨が明確でない場合には,限定的に解釈するのが相当である,というべきである。
 
(略)
 …によれば,控訴人は,放送に関連する業務を行う株式会社であることが認められる。このような控訴人にとって,本件契約を締結する際に,本件作品の放送に関するすべての権利を譲り受けようとするのであれば,本件契約書にその趣旨を明記することは容易であったはずである。すなわち,本件契約当時の著作権法上,「放送」とは別に「有線放送」の概念が明記されていたのであるから,本件契約による譲渡の対象に有線放送を含めるのであれば,そのことを契約書に明記することは十分に可能であったということができる。また,本件契約当時に衛星放送が行われていなかったとしても,将来発生する放送形態をも含め放送に関するすべての権利を含み得るように,契約書上に明記することも十分に可能であったというべきである。前記のとおり,本件契約成立に至る交渉において,控訴人は,被控訴人ピープロに対して相当に強い立場に立ち得る状況にあったのであるから,控訴人が,上記のことを契約書に明記させることは極めて容易であったということができる。それにもかかわらず,本件契約書には,そのことが明記されていないのであるから,そのことによって生じた不明確さによる不利益は控訴人において甘受すべきである,といわれても,やむを得ない,いうべきである。
 
上述のとおり,「衛星放送権」も,「有線放送権」も,本件契約における「放送権」に含まれると認めることはできないから,放送権侵害を理由とする控訴人の被控訴人らに対する損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないことが明らかである。これと同旨の原判決は,正当である。











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