著作権重要判例要旨[トップに戻る]







伝記的作品の翻案性
「伝記文学『コルチャック先生』vs.舞台劇『コルチャック先生』事件」
平成130828日大阪地方裁判所(平成11()5026/平成140619日大阪高等裁判所平成13()3226 

【原審】

 
97年公演に係る本件舞台劇が原告著作を翻案したものであるといえるためには、本件舞台劇が、原告著作に依拠して創作されたものであり、かつ、原告著作の創作性のある部分における表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものであることが必要である。
 
ところで、原告著作は、歴史上実在する人物の生涯を、各種の史料によりながら記述した伝記の範疇に属する文学作品であるといえる。このように歴史上実在する人物の伝記についても、著作権が成立し、その翻案があり得ることはもちろんである。しかしながら、史実や史料の記載は客観的な事実であって、たとえその発見が独自の研究や調査の結果によるものであったとしても、それ自体に著作権が及ぶものではない。したがって、原告著作の表現上の本質的な特徴を本件舞台劇から直接感得することができるか否かは、原告著作が、史実や史料を踏まえてコルチャックの生涯をどのように表現している点に創作性のある表現上の特徴が見られるのか、また、本件舞台劇はそのような原告著作の創作性のある表現上の本質的な特徴を直接感得し得るのものといえるかを検討する必要があるというべきである。
 (略)
 
しかし、コルチャックの生涯については、原告著作が平成212月に発刊される以前から、外国においては多数の文献が公表され、映画も製作されている。本件において証拠として提出されている主たるものは、…であり、それらによれば、前記の基本的な筋は史実であって、原告著作の創作によるものではないと認められる。また、前記のようなコルチャックの人物像は、前記著作においても同様に描かれているところであって、原告著作のみに見られる創作的な人物像というわけではない。
 
したがって、前記のような基本的な筋や人物像に、原告著作における創作性のある表現上の特徴を認めることは相当でなく、原告著作の創作性は、前記のような筋や人物像の具体的な表現の仕方にあるというべきである。
 
(略)
 
前記のとおり、原告著作は、コルチャックの生涯を、コルチャック自身が残した日記その他の資料に基づき、時代背景を交えて客観的に記述したものであって、コルチャックの生涯を描いた著作としては、我が国で最初に出版されたものである。その意味で、原告著作は、我が国におけるコルチャック研究の先導的役割を果たしたものということができる。
 
しかし、コルチャックの生涯を記した文献は、諸外国においては、原告著作が著される前から既に多数のものが出版されており、映画も数本が製作されていた状況にあり、またコルチャック自身の著作も多数公刊されているのであって、原告著作もそれらの成果に基づいて成立しているものである。
 
そして、原告著作に描かれたコルチャックの生き方や、その人間像は、前記のとおり、原告著作以前に出版されていた文献等にも見られるものである。
 
したがって、それらの先行文献等と比較した場合の原告著作の創作性は、既存の多数の文献等の中から、原告にとって重要と考える記述やエピソードを抽出し、相互に関連づけてコルチャックの生涯を描き出した、その選択と配列及び具体的な表現方法にあるというべきであって、個々の記述やエピソードに97年公演の本件舞台劇と重複する部分があったとしても、それだけで本件舞台劇が原告著作の翻案であるとすることはできない
 
(略)
 
翻案といえるためには、後行の著作物が先行の著作物に依拠して創作されたというだけでなく、後行の著作物において、先行の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できることが必要であって、この要件は、両方の著作物を対比することによって客観的に判断すべきものである。…
 
(略)
 
しかし、著作権法上の「翻案」に当たるか否かは、前記のとおり、先行の著作物と後行の著作物の表現を客観的に対比して判断すべきものであって、先行著作物が後行著作物の「原作」と表示されたからといって、直ちに著作権法上の翻案となるわけではない。…

【控訴審】

 言語の著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,ここに同一性を維持しつつ,直接感得することのできる表現上の本質的な特徴とは,創作性のある表現上の本質的な特徴をいい,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の言語の著作物と同一性を有するにすぎない著作物を創作する行為は,翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁判所平成13628日判決参照)。
 
(略)
 
ところで,原告著作,本件舞台劇に描かれているコルチャックの生涯の大枠ないし客観的人物像については,…においても同様の生涯の大枠ないし客観的人物像が描かれているところであって,上記内容,表現に関する限り,コルチャックに関する著述・製作に関わる者にとり,基礎的な事実として一般に認識されているものと考えられ,上記生涯の大枠ないし客観的人物像において,原告著作のみに見られる表現上の本質的な特徴があるとはいえず,前記相違点を考慮すると,表現上の本質的特徴の同一性があるとはいえない。
 
(略)
 以上のとおりであって,本件舞台劇の各場面のうち,「プロローグ トレブリンカ」,第2幕の15「別れ」及び同17「かなたへの旅立ち」の3場面は原告著作の翻案であると認められるが,その余の場面については原告著作の翻案であるとは認められず,したがって,また,本件舞台劇全体が原告著作の翻案であるとも認められない











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