著作権重要判例要旨[トップに戻る]







翻訳小説の複製権侵害の成否
「『
サン・ジェルマン・デ・プレの夜vs.サンジェルマン殺人狂騒曲』事件」平成30227日東京地方裁判所(昭和59()11837/平成40924日東京高等裁判所(平成3()835 

【原審】

 
複数の翻訳文が存在する場合、基にした原書が同一である限り、互いに他を複製したものでなくとも、内容や用語自体の多くが同一の表現となることは、むしろ当然ともいえるのであり、右の点に同一の部分があるからといつて、それだけで直ちに両者のどちらかが他を複製したものと認めることはできない(。)

【控訴審】

 
まず、複製権の侵害の点についてみるに、著作物の複製とは、「既存の著作物に依拠し、その内容及び形体を覚知させるに足りるものを再製することをいう」ものと解される(最高裁昭和5397日第一小法廷判決)から、右見地から、以下検討する。
 
本件訳書が控訴人翻訳原稿に部分的に依拠しているものと推認し得ることは、既に前項に認定判断したとおりであるから、進んで、本件訳書が、控訴人翻訳原稿の全体についてその内容及び形体を覚知させるに足りるものか否かについて、以下、両者の翻訳文に即して検討することとする。
 
本件原書の翻訳上の基本的態度が、控訴人においては、原文に絶対的に忠実であることを最も重視するのに対し、被控訴人のそれが、読者の理解を第一とする結果、原文からの拘束を極めて緩やかに解することは、既に前項に認定したとおりであり、かかる翻訳上の基本的態度の相違に基づき、控訴人翻訳原稿においては、原文に付加、削除を加えず、かつ、原文の表現形式を尊重する結果、原文が長文であれば、訳文も長文となる傾向を有するのに対し、本件訳書においては、本件原書をハードボイルド小説と捉え、読者の理解の得られ易さを第一とする結果、原文に対する付加、削除を必要に応じて行うとともに原文の長文も短文に分解して翻訳する傾向を有するなど、両者は、その基本的構造、語調、語感を大きく異にすることは、控訴人翻訳原稿と本件訳書を読み比べれば、一見して明らかであり、この点は、控訴人においても認めるところである。
 
(略)
 以上のように、控訴人翻訳原稿と被控訴人の本件訳書とは、右両者の翻訳に対する基本的態度の根本的な相違を反映して、訳文の基本的構造、語調、語感を大きく異にしているものであり、かかる相違は、その基本的性格の故に、控訴人翻訳原稿に依拠したと推認される部分的訳語、訳文の存在を考慮しても、これによって何らの影響を受けるものではないことは、前記具体例の対比をみれば明らかというべきである。
 
してみると、本件訳書には、個々の訳語、訳文において、控訴人翻訳原稿に依拠したと推認するのが相当な部分があるとしても、訳書全体を対比するならば、右の依拠した部分は、両訳文間の基本的構造、語調、語感における大きな相違に埋没してしまう結果、本件訳書が控訴人翻訳原稿を全体として、内容及び形体において覚知せしめるものとまではいえない、といわざるを得ない。











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