著作権重要判例要旨[トップに戻る]







ビジネスソフトの表示画面の侵害性が問題となった事例
「ビジネスソフト『サイボウズ』vs.『アイオフィス』事件」
平成140905日東京地方裁判所(平成13()16440 

 ソフトウェアにおける表示画面は,これを見る利用者に,画面全体を一体のものとして認識されるものであるから,それが「思想又は感情を創作的に表現したもの」として著作物に該当するかどうかは,画面全体を基準として判断すべきものである(…)。
 
著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することであるから,ある物が既存の著作物の複製に当たるといえるためには,これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感得することができる程度に再現されていることを要する。したがって,既存の美術の著作物に依拠して作成された物があるとしても,その物が,思想,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製に当たらない
 また,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいう。したがって,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案に当たらない
 
本件において,仮に原告ソフトの表示画面に画面全体として何らかの著作物性が肯定される場合には,これに依拠して作成された他社等のソフトウェア(以下「他社ソフト」という。)の表示画面がその複製ないし翻案に当たるかどうかを判断するに当たっては,原告ソフトの各表示画面における画面全体としての創作的特徴が他社ソフトの対応する表示画面においても共通して存在し,他社ソフトの表示画面から原告ソフトの表示画面の創作的な特徴が直接感得できるかどうかを判断すべきものである。そして,この場合,原告ソフトの表示画面の特徴的構成の一部分が他社ソフトの表示画面においても共通して見られる場合であっても,@共通する当該一部分のみでは画面全体としての創作的特徴を基礎付けるには足りないときや,あるいは,A他社ソフトの表示画面に原告ソフトにない構成部分が新たに付加されていることにより,表示画面の全体的構成を異にすることとなり,これを見る者が表示画面全体から受ける印象を異にすることとなったときは,他社ソフトの表示画面から原告ソフトの表示画面全体としての創作的特徴を直接感得することができないから,他社ソフトの表示画面をもって原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない
 
(略)
 
前述のとおり,原告ソフトは,会社や部署などのグループによる作業を効率化するために,ユーザー間のコミュニケーションや情報の共有を行えるようにする「グループウェア」と呼ばれるビジネスソフトウェアであって,「スケジュール」「行き先案内板」「施設予約」「掲示板」「共有アドレス帳」「プロジェクト管理」「電子会議室」等の複数のアプリケーションの機能を備えたものである。
 一般に,ビジネスソフトウェアは,表計算や文書作成など特定の計算処理や事務的作業を行うことを目的とするものであって,その表示画面も,コンピュータへの指令や数字・文字等の情報を入力するためか,あるいは計算の結果や作成された文書等を利用者が閲覧するためのものである。このような表示画面は,作業の機能的遂行や利用者による操作や閲覧の容易性等の観点からその構成が決定されるものであって,当該ビジネスソフトウェアに要求される機能や利用者の利便性の観点からの制約があり,作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲は限定的なものとならざるを得ない。また,本件の原告ソフトにおける「スケジュール」「行き先案内板」「施設予約」「掲示板」「共有アドレス帳」等のアプリケーションについては,コンピュータの利用が行われるようになる前から,企業や学校等においては,黒板やホワイトボード等を用いた予定表,掲示板や帳簿等を用いた施設予約簿などが存在しており,また,システム手帳等も存在していたから,過去に利用されていたこのような掲示板,帳簿等の書式の慣行を引き継ぐ必要から来る制約というものも存在する
 
このような点を考慮すると,原告ソフトの表示画面については,各表示画面における書式の項目の選択やその並べ方などの点において,作成者の知的活動が介在する余地があり,作成者の個性が創作的に表現される可能性がないとはいえないが,上述のような多様な制約が存在することから,作成者の思想・感情を創作的に表現する範囲は限定されており,創作的要素が認められるとしても画面における部分的な範囲に存在するにとどまるものというべきである。
 そうすると,仮に,他社ソフトの表示画面に,原告ソフトの表示画面において認められる創作的要素のうちの一部が共通して認められるとしても,原告ソフトにおける他の創作的要素が他社ソフトの表示画面に存在しない場合や,原告ソフトに存在しない新たな要素が他社ソフトの表示画面に存在するような場合には,表示画面全体としては,他社ソフトの表示画面から原告ソフトの表示画面の創作的表現を直接感得することができないという事態も,十分に考えられるところである。
 これを要するに,原告ソフトの表示画面については,仮にこれを著作物と解することができるとしても,その創作的表現を直接感得することができるような他者の表示画面は,原告ソフトの表示画面の創作的要素のほとんどすべてを共通に有し,新たな要素も付加されていないようなものに限られる。すなわち,仮に原告ソフトの表示画面を著作物と解することができるとしても,その複製ないし翻案として著作権侵害を認め得る他者の表示画面は,いわゆるデッドコピーないしそれに準ずるようなものに限られるというべきである。
 (略)
 以上のとおり,原告ソフトの表示画面については,個々の表示画面をもって,創作性を有する思想・感情の表現として,著作物に該当すると認めることができるかどうかは検討すべき点があるが,その点をひとまずおくとしても,原告ソフトの表示画面と被告ソフトの対応する表示画面との間で共通する点は,いずれもソフトウェアの機能に伴う当然の構成か,あるいは従前の掲示板,システム手帳等や同種のソフトウェアにおいて見られるありふれた構成であり,両者の間にはソフトウェアの機能ないし利用者による操作の便宜等の観点からの発想の共通性を認め得る点はあるにしても,そこに見られる共通点から表現上の創作的特徴が共通することを認めることはできない。したがって,原告ソフトにおける個々の表示画面をそれぞれ著作物と認めることができるかどうかはともかく,いずれにしても,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案に当たるということはできない。











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