著作権重要判例要旨[トップに戻る]







二次的著作物の侵害性判断(3)
「書籍『チーズはどこへ消えた?』vs.『バターはどこへ溶けた?』事件」平成131219日東京地方裁判所(平成13()22103 

【コメント】本件は、債務者らが「債務者書籍」(題号:『バターはどこへ溶けた?』)を出版し、販売する行為は、債権者甲の有する著作権並びに債権者扶桑社の有する出版権及び編集著作権を侵害すると主張して、債権者らが債務者らに対して、出版等の差止め及び債務者書籍の廃棄を求めた事案の仮処分事件です。

 
本件における事実関係は、概ね、次のとおりです。
米国在住の丙は、‘Who Moved My Cheese ?(「原著作物」)を著作した。米国の出版社であるペンギン・パットナム社は、丙との間で出版契約を締結し、原著作物の出版権を取得した。

債権者扶桑社は、ペンギン・パットナム社との間で出版契約を締結し、原著作物を日本語に翻訳し、出版する権利を取得した。債権者扶桑社は、この契約に基づき、債権者甲に原著作物の翻訳を依頼し、債権者甲の翻訳により、原著作物の日本語訳版である「チーズはどこへ消えた?」と題する著作物(「本件著作物」)を日本国内において出版した。 


 一般に,言語の著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいい,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には翻案に当たらないと解するのが相当である(最高裁平成13628日第1小法廷判決参照)。
 
そして,本件著作物は丙の著作に係る原著作物の二次的著作物(著作権法2111号)に当たるところ,二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ,原著作物と共通する部分には生じないと解するのが相当である(最高裁平成9717日第1小法廷判決参照)。
 
上記によれば,債務者書籍が債権者甲の著作権を侵害するか否かは,債務者書籍の具体的な表現から本件著作物において新たに付与された創作的な表現部分の本質的な特徴を感得できるかどうかによることになる。
 
そこで,債権者らが債務者らが本件著作物を翻案した根拠として指摘する部分について,著作権侵害が認められるか否かを具体的に検討する。

◆以上のような一般的な基準に基づき、具体的には、次のような認定が行われました。以下は、その認定の一部です。

「全体の構成及び第1部に相当する「ある集まり」の場面設定」について:「債権者らの指摘する事実のうち,本件著作物と債務者書籍がともに3部構成をとっていること,第1部に相当する「ある集まり」の章の場面設定が地方都市出身者の久々の同窓会であり,そこである本が話題になって,語り手がその内容を他の出席者に聞かせる点において共通すること自体は,原著作物に由来するものであって,本件著作物において新たに付与された創作的部分に当たらないから,これにつき著作権侵害は成立しない。」

「本編のストーリー設定」について:「債権者らの指摘する,登場人物の構成及び数,登場人物がものを生産しないで探し回っているという設定自体は,原著作物に由来するものであって,本件著作物において新たに付与された創作的部分に当たらないから,著作権侵害は成立しない。」

ある場面を構成する具体的な表現については、例えば、次のように、その具体的な記述部分を指摘しながらその創作性と翻案性を検討していきました。
 
・「どのみちチーズがある場所も行く道もわかっているのだ。」(本件著作物による創作的な表現部分と認定)
 
・「チーズがどこから来るのか,誰が置いていくのかはわからなかった。ただそこにあるのが当然のことになっていた。」(本件著作物による創作的な表現部分と認定)
 
そして、債務者書籍におけるこれらに対応する以下の表現部分は、「上記の本件著作物の各表現部分に類似し、かつ本件著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる」と認定した上で、「したがって,上記の限度では,債務者書籍は本件著作物を翻案したものということができる。」としています。
 
・「どのみちバターのある場所も行き方もわかっているのだし,」
 
・「バターがどこからくるのか,だれが置いていくのかはわからなかった。ただそこにあるのが当然のことになっていた。」

◆そして、次のように結論づけています:

 
「そして,上記の翻案が認められる表現部分の中には,表現が全く同一のものや登場人物の名前ないしチーズかバターかが違うだけでその他の表現が同じ部分が少なからず存在すること,債務者書籍中には「最近,世界中の人が感動した一冊の本があります。ここに,その話に似ているようで,よく読むと,まったく異なる一つの物語があります。」(表紙の扉部分),「なにやら似たような話が世の中に出まわっておると聞いて,」(76行目)といった本件著作物の存在を意識した記載があることからすれば,債務者書籍が本件著作物に依拠していることは明らかである。
 
したがって,以上を総合すると,債務者書籍は,上記で挙げた具体的な表現部分において,債権者甲の本件著作物についての著作権(翻案権)を侵害するものと認められる。」 












相談してみる

ホームに戻る