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映画の著作物の消尽理論
「中古ソフト(家庭用テレビゲーム機用ゲームソフト)販売事件」
平成140425日最高裁判所第一小法廷判決平成13()952/平成130329日大阪高等裁判所(平成11()3484 

【コメント】本件は、上告人らが、上告人らを発売元として適法に販売され、小売店を介して需要者に購入され、遊技に供された家庭用テレビゲーム機用ゲームソフトを購入者から買い入れて中古品として販売している被上告人らに対し、当該ゲームソフトの中古品の頒布の差止め及び廃棄を請求した事案です。

 
「著作権法の制定された昭和45年当時,劇場用映画については,映画館等で公に上映されることを前提に,映画製作会社や映画配給会社がオリジナル・ネガフィルムから一定数のプリント・フィルムを複製し,これを映画館経営者に貸し渡し,上映期間が終了した際に返却させ,あるいは,指定する別の映画館へ引き継がせることにより,映画館等の間を転々と移転するという,いわゆる配給制度による取引形態が,慣行として存在していた。そして,映画製作会社は,配給制度を通じた公の上映によって劇場用映画の製作に投下した資金を回収しており,個々のプリント・フィルムは,劇場公開により多額の収益を生み出すものとして,高い経済的価値を有する状態にあった。」等、原審が適法に確定した事実関係のもと、以下のように述べて、「本件各ゲームソフトが,上告人らを発売元として適法に販売され,小売店を介して需要者に購入されたことにより,当該ゲームソフトについては,頒布権のうち譲渡する権利はその目的を達成したものとして消尽し,もはや著作権の効力は,被上告人らにおいて当該ゲームソフトの中古品を公衆に再譲渡する行為には及ばない。」と結論づけました。

 
なお、消尽理論を考えるに当たって参考になる箇所が多々ありますので、本事件の控訴審判決も併せて掲載します。 


【最高裁】

 
特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国の国内において当該特許に係る製品を譲渡した場合には,当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力は,当該特許製品を再譲渡する行為等には及ばないことは,当審の判例とするところであり(最高裁平成971日第三小法廷判決),この理は,著作物又はその複製物を譲渡する場合にも,原則として妥当するというべきである。けだし,()著作権法による著作権者の権利の保護は,社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないところ,()一般に,商品を譲渡する場合には,譲渡人は目的物について有する権利を譲受人に移転し,譲受人は譲渡人が有していた権利を取得するものであり,著作物又はその複製物が譲渡の目的物として市場での流通に置かれる場合にも,譲受人が当該目的物につき自由に再譲渡をすることができる権利を取得することを前提として,取引行為が行われるものであって,仮に,著作物又はその複製物について譲渡を行う都度著作権者の許諾を要するということになれば,市場における商品の自由な流通が阻害され,著作物又はその複製物の円滑な流通が妨げられて,かえって著作権者自身の利益を害することになるおそれがあり,ひいては「著作者等の権利の保護を図り,もつて文化の発展に寄与する」(著作権法1条)という著作権法の目的にも反することになり,()他方,著作権者は,著作物又はその複製物を自ら譲渡するに当たって譲渡代金を取得し,又はその利用を許諾するに当たって使用料を取得することができるのであるから,その代償を確保する機会は保障されているものということができ,著作権者又は許諾を受けた者から譲渡された著作物又はその複製物について,著作権者等が二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。
 
ところで,映画の著作物の頒布権に関する著作権法261項の規定は,文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(1948626日にブラッセルで改正された規定)が映画の著作物について頒布権を設けていたことから,現行の著作権法制定時に,条約上の義務の履行として規定されたものである。映画の著作物にのみ頒布権が認められたのは,映画製作には多額の資本が投下されており,流通をコントロールして効率的に資本を回収する必要があったこと,著作権法制定当時,劇場用映画の取引については,前記のとおり専ら複製品の数次にわたる貸与を前提とするいわゆる配給制度の慣行が存在していたこと,著作権者の意図しない上映行為を規制することが困難であるため,その前段階である複製物の譲渡と貸与を含む頒布行為を規制する必要があったこと等の理由によるものである。このような事情から,同法26条の規定の解釈として,上記配給制度という取引実態のある映画の著作物又はその複製物については,これらの著作物等を公衆に提示することを目的として譲渡し,又は貸与する権利(同法26条,2119号後段)が消尽しないと解されていたが,同法26条は,映画の著作物についての頒布権が消尽するか否かについて,何らの定めもしていない以上,消尽の有無は,専ら解釈にゆだねられていると解される。
 
そして,本件のように公衆に提示することを目的としない家庭用テレビゲーム機に用いられる映画の著作物の複製物の譲渡については,市場における商品の円滑な流通を確保するなど,上記()()及び()の観点から,当該著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は,いったん適法に譲渡されたことにより,その目的を達成したものとして消尽し,もはや著作権の効力は,当該複製物を公衆に再譲渡する行為には及ばないものと解すべきである。
 
なお,平成11年法律第77号による改正後の著作権法26条の21項により,映画の著作物を除く著作物につき譲渡権が認められ,同条2項により,いったん適法に譲渡された場合における譲渡権の消尽が規定されたが,映画の著作物についての頒布権には譲渡する権利が含まれることから,譲渡権を規定する同条1項は映画の著作物に適用されないこととされ,同条2項において,上記のような消尽の原則を確認的に規定したものであって,同条12項の反対解釈に立って本件各ゲームソフトのような映画の著作物の複製物について譲渡する権利の消尽が否定されると解するのは相当でない

【控訴審】

 … 本件各ゲームソフトは、小売店を経由して最終ユーザーに譲渡され、いったん市場に適法に拡布されたものということができ、そうすると、権利消尽の原則という一般的原則により、被控訴人らは、少なくとも最終ユーザーに譲渡された後の譲渡につき頒布禁止の効力を及ぼすことができないというべきである。
 
以下にその理由を述べる。
 
著作権法の領域において消尽の原則が適用されるのは同法も当然の前提とする商品取引の自由という原則に基づく。
 
特許権に権利消尽の原則が認められることは一般に承認されている。
 
特許権の消尽理論は、特許権の効力を特許製品の流通過程に及ぼすことが自由競争ないしは取引の安全を害することとなることから、特許権者と一般公衆の利益との調整を特許製品が流通に置かれる時点で考慮するものということができる。特許制度の目的は、権利者に独占的な実施を認めることによりその利益を保証して発明へのインセンティヴを増すことにあるが、その効力は常に公共の利益とのバランスにより決定されなければならず、商品が転々流通することは産業発展にとって必須であるので、特許権がそれを阻害するような制度であってはならないという優れて政策的な判断から権利消尽の原則という理論が肯定される(最高裁判所平成971日判決[BBS事件]参照)。
 
すなわち、特許権は、発明の保護及び利用を図ることにより発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的として認められたものであり、特許発明の保護範囲を明確にした上で公開するという方法で、一方では特許発明者に公開の代償として一定期間の独占的利用権を与えてこれを保護することにより研究開発のインセンティブを図り、他方、万人がこれを共通の知識資源として研究開発する道を開いて自由競争を行わせることにより、産業上の技術の発達を図る点が眼目であって、特許法による発明の保護は社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないものである。そして、資本主義経済の繁栄と拡大の前提をなす所有権の絶対と自由契約を内容とする自由な商品生産・販売市場の維持、保護は、産業の発達と経済の繁栄を達成するという社会公共の利益の重要な前提をなしている。
 
しかるところ、特許制度自体、研究開発上の自由競争を促すことにより産業の発達と経済の繁栄との達成を目的とするものであって、特許権それ自体の保護が自己目的化することは避けなければならない。したがって、第一に、自由な商品生産・販売市場を阻害する態様となる限りにおいて権利消尽の原則が認められ特許権の効力が否定されるのは、市場経済の本質に根ざし、特許法も当然の前提とする商品取引の自由という原則に基づくもので、特許法の明文の法律の規定の有無にかかわらない論理的帰結であり、第二に、特許権の効力を権利者以外の行為に及ぼすことが自由な商品生産・販売市場を阻害する態様となる限りにおいて権利消尽の原則が働くのであるから、特許権の権利者及び特許権の権利者以外の者の行う生産、使用、譲渡等の具体的行為態様の如何により権利消尽の原則の適用の有無が定まり、特許権の内容である生産、使用、譲渡等をする権利の効力を及ぼすことの有無が定まることとなる。
 
著作権においても、ことは同様であって、有形的な商品取引の行われる場合、すなわち著作物自体又は著作物の有形的再製物(複製物。以下単に「複製物」という。)につき商品取引の行われる場合、自由な商品取引という公共の利益と著作者の利益との調整として、消尽の原則が適用されると解するのが相当である。
 
けだし、(1)著作権法による著作物の保護は、社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないものであるところ、(2)一般に譲渡においては、譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得するものであり、著作物又はその複製物が市場での流通に置かれる場合にも、譲受人が目的物につき著作権者の権利行使を離れて自由にこれを利用し再譲渡などをすることができる権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものであって、仮に、著作物又はその複製物について譲渡等を行う都度著作権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、著作物又はその複製物の円滑な流通が妨げられて、かえって著作権者の利益を害する結果を来し、ひいては「著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与する」(法1条参照)という著作権法の目的に反することになり、(3)他方、著作権者は、著作物又はその複製物を自ら譲渡するに当たっては、著作物の利用の対価を含めた譲渡代金を取得することができ、また、著作物の利用を許諾するに当たっては、著作権料を取得することができるのであるから、著作権者が著作物を公開することによる代償を確保する機会は保障されているものということができ、したがって、著作権者から譲渡された著作物又はその複製物について、著作権者がその後の流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないということができる(前記最高裁判所判決参照)からである。
 
すなわち、著作権法は、著作物の公正な利用に留意しつつ、著作者の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とするものであり、そもそも、「思想及び感情を創作的に表現したものであって、文学、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」である著作物自体、公衆に広く公開・利用・鑑賞されることを本来的目的として包含しており、その内実に沿った利用を認める一方、著作者の権利を保護することにより、創作のインセンティブを図り、もって社会と公衆の文化の発展を図る点が眼目であって、著作権法による著作物の保護は社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないものである。そして、資本主義経済の繁栄と拡大の前提をなす所有権の絶対と自由契約を内容とする自由な商品生産・販売市場の維持、保護は、右社会公共の利益の大きな部分を占めるものであり、現代資本主義市場経済の下における著作権の保護は、自由な商品生産・販売市場の発展のうちにその実現が保障される関係となっている。
 
したがって、第一に、自由な商品生産・販売市場を阻害する態様となる限りにおいて権利消尽の原則が認められ著作権の効力が否定されるのは、市場経済の本質に根ざし、著作権法も当然の前提とする商品取引の自由という原則に基づくもので、著作権法の明文の法律の規定の有無にかかわらない論理的帰結であり、第二に、著作権の効力を権利者以外の行為に及ぼすことが自由な商品生産・販売市場を阻害する態様となる限りにおいて権利消尽の原則が働くのであるから、著作物の権利者及び著作物の権利者以外の者の行う頒布等の具体的行為態様の如何により権利消尽の原則の適用の有無が定まり、著作権の各種支分権のうち、自由な商品生産・販売市場を阻害する態様となり得る頒布等の権利の効力を及ぼすことの有無が定まることとなる。
 
被控訴人らは、著作物については物に化体された表現物に着目した取引が行われるとして、特許権との違いを強調し、権利消尽の原則に関するBBS事件最高裁判決の法理が著作物一般に適用されるべきでないと主張するが、著作物の性質上、物に化体された表現物に着目した取引が行われることは当然としても、そのことを根拠として権利消尽の原則の適用を排除することはできないというべきである。このことは、後記のとおり、平成11年改正後の法26条の2WIPO著作権条約、各国の立法例において、著作物一般について権利消尽の原則が採用されていることに照らしても明らかである。
 
被控訴人らは、現行著作権法の条文の構造、法26条の立法趣旨、法26条の23の制定経過等に照らして、本件各ゲームソフトに消尽論を適用する余地はないと主張するので、検討する。
 
前記のとおり、第一に、権利消尽の原則が認められるのは、著作権法も当然の前提とする商品取引の自由という原則に基づくもので、著作権法の明文の法律の規定の有無にかかわらない論理的帰結であり、第二に、著作物の権利者及び著作物の権利者以外の者の行う頒布等の具体的行為態様の如何により権利消尽の原則の適用の有無が定まり、著作権の各種支分権のうち、自由な商品生産・販売市場を阻害する態様となり得る頒布等の権利の効力を及ぼすことの有無が決せられるものと解される。
 
したがって、26条所定の頒布権は、その権利内容からして自由な商品生産・販売市場を阻害する態様となり得るから、当然に権利消尽の原則という一般的原則に服するものであり、ただ、具体的行為態様において、自由な商品生産・販売市場を阻害するものでない場合には、例外的に権利消尽の原則の適用を免れることになると解するのが相当である。
 
被控訴人らの主張が、法26条所定の頒布権は権利として例外なく当然に権利消尽の原則が適用されないという趣旨であれば、頒布権が譲渡の権利をも内容とすることを無視するものであって、相当でない。このことは、特許法において、特許権が特許発明にかかる物等の生産、使用、譲渡等をする権利を内容としている旨の明文の規定(特許法68条、23項)があるにもかかわらず、権利消尽の原則の適用が排除されないということによって裏付けられる。すなわち、特許権も、譲渡等の権利を内容としているからこそ、自由な商品生産・販売市場を阻害する態様となり得て権利消尽の原則の適用が肯定されるのであり、同様に、法26条所定の頒布権も、譲渡の権利をも内容とするからこそ、自由な商品生産・販売市場を阻害する態様となり得て権利消尽の原則の適用が肯定されることになるのである。
 
そこで、次に、本件各ゲームソフトについて、例外的に権利消尽の原則の適用が排除される余地はないかどうかを検討する。
 
現行著作権法の制定経過は、前記で認定のとおりであって、法26条所定の頒布権は、映画著作権の内容として頒布権の規定を置いていなかった旧著作権法の改正に際し、映画の著作物について頒布権を認めていたベルヌ条約ブラッセル規定(1948年)に即応する必要があったところから、昭和45年に成立した現行著作権法において導入されたものであるが、その当時、我が国の社会的事実として、劇場用映画に関する配給制度(映画製作会社や映画配給会社がオリジナル・ネガフィルムから少数のプリント・フィルムを複製し、これを映画館経営者に貸し渡すにとどめて、上映期間が終了した際に返却させ、あるいは、指定する別の映画館へ引き継がせるという取引慣行実態)が存在したのであって、このような取引実態を前提として、映画の著作物に頒布権を認めても取引上の混乱が少ないと考えられた結果、右の立法がなされたものと認められる。
 
また、法26条と同時に制定された法2119号は、「頒布」の定義として、「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあっては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含むものとする。」と規定し、映画の著作物を含む著作物一般に関する「頒布」概念としての前段頒布と映画の著作物だけに関する「頒布」概念としての後段頒布とを定めている。
 
しかし、後記の平成11年の改正に至るまでは、現行著作権法には、権利の消尽に関する規定は存在しなかった。
 
なお、現行著作権が制定された昭和45年当時、放送事業者によって製作されたフィルム、ビデオテープは存在したが、本件のようなゲームソフトは存在していなかった。
 
昭和59年の著作権法の改正により、映画の著作物を除く著作物の著作権者に貸与権を認める旨の規定(26条の2)が設けられ、さらに、平成11年法律第77号による改正により、右の貸与権の規定が26条の3に繰り下げられ、新たに譲渡権に関する現行の法26条の2が設けられた。この規定は、映画の著作物を除く著作物一般について、著作権者に「その著作物をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利を占(管理人注:「専」)有する。」として、譲渡権を認めるとともに(1項)、この譲渡権は、譲渡権を有する者により譲渡された複製物等には及ばないことを明記し、譲渡権が第一譲渡によって消尽することを明らかにしている(2項)。
 
前者の昭和59年の改正は、貸レコード業が昭和56年に登場して急速に全国に広がり、その利用者の多くが借りたレコードからテープに録音するため、レコードの売上げが減少し、著作者、実演者、レコード製作者の経済的利益に影響を与えるという事態が生じたことを契機として、貸レコード以外の著作物の複製物の貸与も対象とする一般的な内容の権利として貸与権の規定が設けられたものである。また、後者の平成11年の改正は、1996年(平成8年)12月に採択されたWIPO著作権条約が著作物一般に頒布権を認めたことから、我が国の著作権法においても、著作物一般に頒布権を認める必要があるとの判断により、前記の規定が新設されたものである。
 
ベルヌ条約に定められた頒布権が第一頒布後の消尽を否定するものであることを示唆する資料はなく、むしろ、ベルヌ条約上頒布権は第一頒布に限定されることを示唆する資料が存在する。すなわち、WIPOにおけるベルヌ条約議定書の検討のための事務局文書では、「この規定の頒布権とは著作物の最初の公衆への頒布行為に適用されるのみであり、一旦頒布された後の再頒布には及ばない」と説明されており(平成72月著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ検討経過報告―マルチメディアに係る制度上の問題について)、少なくともベルヌ条約上の頒布権が第一頒布後の消尽を否定するものであるとはいい難い。
 
また、各国の立法例をみると、控訴人らが主張するように、多くの国では、映画の著作権を含む著作権一般について頒布権を認める場合には、第一譲渡ないし公衆への最初の提供によって消尽するとの法制が採られていることが認められる。
 
以上の諸点を総合すると、26条所定の頒布権には本来権利消尽の原則が働くが、前記のような配給制度に該当する商品取引形態(後段頒布)は、流通に置かれる取引の態様からして自由な商品生産・販売市場を阻害する態様とならないといえるから、権利消尽の原則の適用されない例外的取引形態というべきであり、このような取引については右の原則は適用されず、著作者の権利が及ぶと解するのが相当であり、昭和45年に法26条により映画の著作物について頒布権が導入されながら、その消尽について何らの規定もされなかったのは、劇場映画に関する配給制度という我が国特有の取引形態を前提とすれば、そのような映画の著作物に頒布権を認め、その消尽について特段の定めをしなくても、取引上の混乱を生じることはないと考えられた結果であるということができる。
 
すなわち、映画の著作物についても、第一譲渡により適法に公衆に拡布された後にされた譲渡のように、およそ前記の配給制度が予想していないような場合(前段頒布)には、前記で説示した原則どおり頒布権は消尽し著作権の効力が及ばないものと解し、配給制度に相応した後段頒布についてのみ権利消尽の原則の適用されない頒布権を認め、公に上映する目的で映画の著作物の複製物が譲渡又は貸与された場合には、著作者の権利が及ぶと解するのが相当である。平成1012月の著作権審議会第一小委員会のまとめその他立法担当者等の見解において、映画の著作物の頒布権が消尽しないという趣旨をいう部分は、右のことを前提としたものとして了解することが可能である。
 
また、法26条の頒布権に含まれる貸与権も、権利消尽の原則によって否定される対象とならないというべきである。けだし、前記昭和59年の貸与権規定の制定経過に明らかなとおり、貸与権は、複製権と密接な関係を有し、複製利用を内容とする著作権の特質を反映した権利というべきところ、このような貸与権が第一譲渡により消尽するとすれば、一回の許諾に対応した対価のみで複数の複製を許諾したのと同様の結果を招くことになり、不当だからである。
 
この点につき、被控訴人らは、法26条所定の頒布権に、消尽するものと消尽しないものの二種類を認めることは許されないと主張するが、右に説示したところに照らすと、被控訴人らの主張は理由がない。
 
また、被控訴人らは、法26条の23の譲渡権及び貸与権の規定の新設に際し、映画の著作物が明文で除外されたことの反対解釈として、映画の著作物の頒布権は例外なく消尽しないと解すべきであると主張する。
 
右の立論は、形式論理としては一理あり、これをむげに否定することはできないけれども、立法者としては、消尽しない頒布権が認められる映画の著作物の範囲を明確にすることを避け、これを解釈に委ねて立法的に解決することを留保したものと考えることが可能であって、前記のような解釈が十分成り立つというべきである(この点については、本件のような紛争を防止するためにも、前記の映画の著作物の概念をも含めて、早期に立法的解決が図られるべきである。)。
 
以上によれば、本件各ゲームソフトについて、権利消尽の原則の適用が排除される余地はないということになり、被控訴人らの前記主張は採用することができない。
 
(略)
 
また、本件各ゲームソフトの各パッケージに中古販売を禁止する旨が記載されているが、このような記載により中古業者がユーザーから新品又は中古品のゲームソフトを購入した後にした販売の効力(所有権移転等の効力)を法律上否定できないことは明らかであり、また、権利消尽の原則は、取引の客観的態様・性質により適否が定まるものであって、取引当事者の個別的意思表示よりその適否が左右されるものでないから、右記載により権利消尽の原則の適用を排除し得ない。
 
新品又は中古品のゲームソフトを購入したユーザーが、これを中古業者に売却して出捐した資金の一部を回収した上、新たに新品又は中古品のゲームソフトを業者から購入する(業者が販売する)ことは、後者の購入が経済的に貸与の機能を果たすといえる面がないではないが、前者の売却と後者の購入とは別の物品について行われている上、いずれも所有権移転行為であることはいうまでもないから(自由な商品生産・販売市場を阻害しないということは法律上の問題として考えられるべきである。)、権利消尽の原則が適用されることに変わりはない。
 
ゲームソフトの複製物は、大量に生産され、直接、大衆に対し大量に販売され、本件各ゲームソフトは、一次卸店を通じて、卸店、小売店を経由して最終ユーザーに譲渡されたのであるから、劇場用映画におけるような例外的商品取引形態でなく、いったん市場に適法に拡布されたものということができ、そうすると、権利消尽の原則という一般的原則により、被控訴人らは、少なくとも最終ユーザーに譲渡された後の譲渡につき頒布禁止の効力を及ぼすことができないというべきである。











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