著作権重要判例要旨[トップに戻る]







並行輸入された映画ビデオの頒布権侵害の成否が問題となった事例
「ディズニー映画ビデオカセット並行輸入事件」
平成60701日東京地方裁判所(平成5()4948 

【コメント】本件は、原告が映画「101DALMATIANS」(日本名「101匹ワンチャン」。以下「本件映画」という。)のビデオカセット(「本件ビデオカセット」)1,000本をアメリカから輸入し、これを日本国内において販売しようとしていたところ、被告らがアメリカから並行輸入された本件ビデオカセットの販売が違法である旨の本件文書を配付したことにより、原告が本件ビデオカセットの販売活動を妨害されたとして、被告らに対し、本件ビデオカセットを販売すれば得られたであろう利益額の損害賠償を求めた事案です。

 
本ケースの争点は、アメリカから並行輸入された本件ビデオカセットの販売行為が、ディズニー社の有する本件映画の著作権(頒布権)を侵害するものであるか否かという点です。 


 [映画の頒布権について]
 ディズニー社は、前記のとおり、本件映画についての我が国の著作権法による保護を受けることができるところ、我が国の著作権法26条は、映画の著作物の著作権者が映画の著作物又はその複製物を上映し、頒布する権利を専有することを認めているのであり、したがって、本件映画の著作権者であるディズニー社が本件映画の複製物であるビデオカセット等について我が国において頒布権を有していることは明らかである。
 
原告は、前記のとおり、劇場用公開を前提としない映画のビデオカセットについて頒布権を認めるべきではない旨主張する。
 
現在の著作権法が映画の著作物についてのみ著作者が頒布権を専有する旨規定した(261項)のは、ベルヌ条約のブラッセル規定が映画の著作物について頒布権を設けていたことと共に、映画は、劇場での上映を意図して製作され、オリジナルをもとにして複製された何本かのプリントが著作権者である映画製作会社から貸与の許諾を受けた劇場、映画館の間を転々と移転するという流通の形態がとられているのが常態であり、このような映画特有の流通を確保し、著作権者である映画製作会社を保護することも目的としていたものと解される。
 
しかし、著作権法は、2120号(管理人注:現19号)において「頒布」について「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与すること」と定義し、261項では、劇場用映画の特定の形態の頒布権のみを著作者に専有させるというような限定をしていないのであって、劇場用映画の複製であるビデオカセットを公衆に販売する行為も261項所定の頒布権の対象となることは明白である。原告の前記主張は採用することができない。

 
[並行輸入ビデオカセットの販売について]
 
ディズニー社が本件映画又はその複製物について我が国内における頒布権を有していることは前記のとおりである。したがって、原告が本件ビデオカセットを日本において販売することは、前記のとおり原告が本件ビデオカセットの日本における販売について本件映画の著作権者であるディズニー社の許諾を得ていない以上、ディズニー社の本件映画の著作権(頒布権)を侵害するものである。
 ところで、本件ビデオカセットは、前記のとおり、アメリカ合衆国においてディズニー社の許諾のもとに製造、販売されたものであり、原告がこれを購入した米国法人から輸入したいわゆる並行輸入品であるところ、原告は、ディズニー社は既に本件ビデオカセットの販売による利益を得ており、したがって、原告がアメリカ合衆国において販売された本件ビデオカセットを日本国内において販売しても何ら著作権者の利益を害することにはならず、著作権(頒布権)侵害は成立しない旨主張する。
 
しかし、我が国には、映画の著作物の複製物であるビデオカセットを著作権者の許諾を得ずに頒布する行為が、右のような並行輸入品であることによって、当然に、著作権(頒布権)の侵害とならないとする明文の法令も、確立した判例もない
 
そもそも、著作権法が21条から28条の各種の著作権を著作者が専有するものと定めたのは、著作者が自らそれらの権利を排他的に行使することによって、又は、各権利を他人に譲渡しあるいは各権利の行使を許諾することによって、その相当な対価を得ることができるようにして著作者の権利の保護を図ろうとしたものである。
 
…によれば、映画の著作権者である映画会社は、現在では、世界各国における映画の劇場公開時期、自ら又は他人に許諾して行うビデオカセットの販売時期等を計画的に決め、映画製作のために費やした多額の資金の回収及び利潤の確保を図っているところ、例えば、ある国において劇場公開後に発売されたビデオカセットが劇場未公開ないし劇場公開中の国へ大量に並行輸入されると、当該国における劇場公開による映画の興行に大きな打撃を与える結果となったり、当該国において著作権者に対価を支払って映画のビデオカセットを製造販売する事業を営む者に対しても看過できない損害を与える結果となる可能性があることが認められ、映画の著作権者である映画会社が各国における劇場公開時期、ビデオカセット販売時期等を計画的に調整する一環として、ベルヌ条約により我が国が保護の義務を負う映画の著作物について我が国の著作権法26条所定の頒布権を行使することは、著作権法が目的とした著作者の権利の保護の手段として予定されたところに含まれるものである。
 
本件ビデオカセットは、アメリカ合衆国で本件映画の著作権者の許諾を得て製造販売されたものであるから、同国著作権法109条(a)項あるいはファーストセールドクトリンの法理の適用により、同国の国内においてはその後の頒布、流通に制限はなかったものと解されるが、右許諾が我が国内での頒布を含んだ許諾で、我が国における頒布も予測した対価が支払われていることを認めるに足りる証拠はない以上、アメリカ合衆国における前記許諾を理由に、並行輸入された本件ビデオカセットの頒布が我が国における頒布権を侵害しないとすることはできない
 
右のように解することは、並行輸入される映画のビデオカセットの通商を制限し、同じ映画のビデオカセットの価格競争を限られたものとし、我が国内でその映画のビデオカセットに接することのできる時期が他の国よりも遅くなり、我が国内で通常接することのできる映画のビデオカセットの版が限定される等の状況を一部においてもたらすことも予想されるが、それらの状況が著作権者の権利の保護を図るあまり文化的所産の公正な利用に対する配慮を欠いたことになるとも、文化の発展に寄与しない結果を生ずるものとも解されない。
 
したがって、一般に外国で著作権者の許諾を得て製造販売された映画のビデオカセットの並行輸入品であることから、右並行輸入品を我が国において販売することが右著作権者が我が国で有する頒布権を侵害しないとも、また、本件ビデオカセットを我が国で販売することが本件映画の著作権者が我が国で有する頒布権を侵害しないともいうことはできない。
 
以上によれば、被告らが、アメリカ合衆国等で製作された映画のビデオカセットを並行輸入して日本国内において販売する行為が違法である旨の本件文書を配布したことは、アメリカ合衆国法人である著作権者から許諾を得て業として日本国内において本件映画のビデオカセットを製造販売している者の行為として、何らの違法もないものであり、右行為が違法であることを前提とした原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。











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