著作権重要判例要旨[トップに戻る]







電子掲示板運営者に対する差止請求の可否
「『2ちゃんねる』対談記事無断書き込み事件」
平成160311日東京地方裁判所(平成15()15526/平成170303日東京高等裁判所(平成16()2067 

【コメント】本件は、漫画家である原告及び出版社である原告株式会社小学館が、「本件書籍」に収録された対談記事について著作権を共有するところ、被告が運営するインターネット上の電子掲示板「2ちゃんねる」に、上記対談記事が無断で転載されて送信可能化され、自動公衆送信されたことにより、原告らの送信可能化権、公衆送信権が侵害されたと主張し、被告に対し、当該対談記事の送信可能化及び自動公衆送信の差止めを求めるとともに、原告小学館の削除要請にもかかわらず、被告が転載された当該対談記事の削除を怠ったことで原告らに損害が発生したと主張し、被告に対し、損害賠償を請求した事案です。

 
本ケースでの主要な論点は、被告が運営するインターネット上の電子掲示板に、他人の著作物が発言者(第三者)によって無断で転載されて、送信可能化・自動公衆送信されている場合に、当該電子掲示板の運営者である被告に対し、著作権法1121項に基づき当該著作物の送信可能化及び自動公衆送信の差止めを求めることができるか(著作権侵害を教唆、幇助し、あるいはその手段を提供する行為に対して、一般的に差止請求権を行使し得るか)という点です。 


【原審】

 
原告らは,本件各発言が著作権侵害を構成するものである以上,本件電子掲示板を設置,運営し,削除について最終的な権限及び責任を有する被告に対して,本件各発言の自動公衆送信又は送信可能化の差止めを請求することができると主張する。しかし,以下に述べるとおり,原告らの上記主張を採用することはできない。
 
著作権法1121項は,著作権者は,その著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる旨を規定する。同条は,著作権の行使を完全ならしめるために,権利の円満な支配状態が現に侵害され,あるいは侵害されようとする場合において,侵害者に対し侵害の停止又は予防に必要な一定の行為を請求し得ることを定めたものであって,いわゆる物権的な権利である著作権について,物権的請求権に相当する権利を定めたものであるが,同条に規定する差止請求の相手方は,現に侵害行為を行う主体となっているか,あるいは侵害行為を主体として行うおそれのある者に限られると解するのが相当である。けだし,民法上,所有権に基づく妨害排除請求権は,現に権利侵害を生じさせている事実をその支配内に収めている者を相手方として行使し得るものと解されているものであり,このことからすれば,著作権に基づく差止請求権についても,現に侵害行為を行う主体となっているか,あるいは侵害行為を主体として行うおそれのある者のみを相手方として,行使し得るものと解すべきだからである。この点,同様に物権的な権利と解されている特許権,商標権等についても,権利侵害を教唆,幇助し,あるいはその手段を提供する行為に対して一般的に差止請求権を行使し得るものと解することができないことから,特許法,商標法等は,権利侵害を幇助する行為のうち,一定の類型の行為を限定して権利侵害とみなす行為と定めて,差止請求権の対象としているものである(特許法101条,商標法37条等参照)。著作権について,このような規定を要するまでもなく,権利侵害を教唆,幇助し,あるいはその手段を提供する行為に対して,一般的に差止請求権を行使し得るものと解することは,不法行為を理由とする差止請求が一般的に許されていないことと矛盾するだけでなく,差止請求の相手方が無制限に広がっていくおそれもあり,ひいては,自由な表現活動を脅かす結果を招きかねないものであって,到底,採用できないものである。
 
(略)
 
上記の各事実に照らせば,本件各発言について送信可能化を行って本件各発言を自動公衆送信し得る状態にした主体は本件発言者であって,被告が侵害行為を行う主体に該当しないことは明らかである。
 
そうすると,原告らは,被告に対して本件各発言の送信可能化又は自動公衆送信の差止めを請求することはできないものというべきである。
 
(略)
 
原告らは,また,本件電子掲示板の利用者が発言の書き込みをする際に,氏名,メールアドレス等を記載する必要がなく匿名で行うことができること,著作権侵害の発言について削除要請があっても必ずしも削除されるとは限らず,書き込みをした本人であってもスレッドに掲載された発言の削除を行うことは許されていないことといった本件電子掲示板の特徴に照らすと,被告に対して差止請求を認めなければ著作権侵害に対する救済を欠くことになり,不当であるなどとも,主張する。
 
しかし,まず,著作権侵害に限らず,匿名で権利侵害を行っている者に対して差止請求を認めるべきかどうか,認めるとしてどのような方法で差止めを可能ならしめるかは,基本的には立法政策の問題であって,電子掲示板における表現において,匿名での権利侵害行為がなされたからといって,侵害の主体ということができない電子掲示板の設置者ないし自動公衆送信装置の設置者に対して,特段の法規上の根拠も要することなく,差止請求権を行使することができると解することは,到底できない。殊に,憲法上自由な表現活動が保障されている下においては,表現活動に対する抑制行為は厳に謙抑的であることが求められるものであり,このような点に照らしても,原告らの主張するところは,差止請求の相手方を解釈によって無制限に拡張することにつながるもので,到底採用することができない。
 
もっとも,発言者からの削除要請があるにもかかわらず,ことさら電子掲示板の設置者が,この要請を拒絶して書き込みを放置していたような場合には,電子掲示板の設置者自身が著作権侵害の主体と観念されて,電子掲示板の設置者に対して差止請求を行うことが許容される場合もあり得ようが,そのような事情の存在しない本件において,被告に対する差止請求を認める余地はない。

【控訴審】

 
自己が提供し発言削除についての最終権限を有する掲示板の運営者は,これに書き込まれた発言が著作権侵害(公衆送信権の侵害)に当たるときには,そのような発言の提供の場を設けた者として,その侵害行為を放置している場合には,その侵害態様,著作権者からの申し入れの態様,さらには発言者の対応いかんによっては,その放置自体が著作権侵害行為と評価すべき場合もあるというべきである。
 
(略)
 
インターネット上においてだれもが匿名で書き込みが可能な掲示板を開設し運営する者は,著作権侵害となるような書き込みをしないよう,適切な注意事項を適宜な方法で案内するなどの事前の対策を講じるだけでなく,著作権侵害となる書き込みがあった際には,これに対し適切な是正措置を速やかに取る態勢で臨むべき義務がある掲示板運営者は,少なくとも,著作権者等から著作権侵害の事実の指摘を受けた場合には,可能ならば発言者に対してその点に関する照会をし,更には,著作権侵害であることが極めて明白なときには当該発言を直ちに削除するなど,速やかにこれに対処すべきものである。
 
本件においては,上記の著作権侵害は,本件各発言の記載自体から極めて容易に認識し得た態様のものであり,本件掲示板に本件対談記事がそのままデジタル情報として書き込まれ,この書き込みが継続していたのであるから,その情報は劣化を伴うことなくそのまま不特定多数の者のパソコン等に取り込まれたり,印刷されたりすることが可能な状況が生じていたものであって,明白で,かつ,深刻な態様の著作権侵害であるというべきである。被控訴人としては,編集長からの通知を受けた際には,直ちに本件著作権侵害行為に当たる発言が本件掲示板上で書き込まれていることを認識することができ,発言者に照会するまでもなく速やかにこれを削除すべきであったというべきである。にもかかわらず,被控訴人は,上記通知に対し,発言者に対する照会すらせず,何らの是正措置を取らなかったのであるから,故意又は過失により著作権侵害に加担していたものといわざるを得ない。
 
被控訴人は,一人で数百にものぼる多数の電子掲示板を運営管理し,日々,刻々とこれに膨大な量の書き込みが行われるため,すべての書き込みに目を通すことは到底不可能であるから,個々の著作権侵害の事実を把握することはできない,と法廷で繰り返し強調していたが,仮に被控訴人の主張することが事実であったとしても,著作権者等から著作権侵害の事実の通知があったのに対して何らの措置も取らなかったことを踏まえないままにこのように主張するのは,自らの事業の管理態勢の不備をいう意味での過失,場合によっては侵害状態を維持容認するという意味での故意を認めるに等しく,過失責任や故意責任を免れる事由には到底なり得ない主張であるといわざるを得ない。
 
以上のとおりであるから,被控訴人は,著作権法112条にいう「著作者,著作権者,出版権者・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に該当し,著作権者である控訴人らが被った損害を賠償する不法行為責任があるものというべきである。なお,著作権者が発言者に対して著作権侵害に係る発言の削除の要請をするのが容易であるならば,掲示板の運営者が著作権侵害をしていると目すべきでないこともあり得ようが,本件掲示板においては,発言者の実名,メールアドレスなどの発信者情報を得ることはできず,本件各発言の削除要請が容易であるとは到底いうことができない。
 
この点に関連し,被控訴人は,本件掲示板の発信者は,IPログから追跡可能であると主張する。被控訴人の主張は,IPアドレスの記録によって発信者が特定できるとの趣旨と理解できるが,IPアドレスによって特定されるのは当該発言がいずれのプロバイダーから発信されたかにとどまり,発言者までの特定は当該プロバイダーが厳格に管理している個人情報を得て初めて可能になるものであることは,公知の事実である。被控訴人の上記主張をもってしても,被控訴人の著作権侵害による責任についての上記判断を左右することができない。
 
また,被控訴人は,本件掲示板の運営者として,削除依頼は削除依頼掲示に記載すべきものとするガイドラインを設定しており,これ以外の方法による削除要請を受理しなくともよいかのごとく主張するが,これは,被控訴人が一方的に取り決めた通告方法にすぎず,本件掲示板に何ら特別な関係を持たない控訴人らに法的な効力を及ぼすことはできない被控訴人は,少なくとも,著作権者と称する者から通知があった場合には,その通知者が連絡を取れる実在の者であることが明らかに分かり,かつ,当該発言を読んで明らかに著作権侵害の可能性が高いと判断されるときには,発言者にその旨を通知して対応策を問い合わせる必要がある。なお,被控訴人は,ファクシミリや電子メールを読んでおらず,内容証明郵便も家族が受領して自らは見ていないと主張するが,信用することができない。仮に,被控訴人が上記のとおり一人による事業で管理態勢が不十分であるため,自己に対する電子メールや内容証明郵便も読むことができないのが事実であるとしても,これによって,不法行為責任等の判断において被控訴人が有利に評価されることはあり得ない
 
(略)
 
前記のとおり本件各発言は自動公衆送信されていたものである。現在のところは,本件掲示板に掲載されておらず,一般人に対し自動送信される状態にないが,これは,被控訴人が本件各発言の公開を保留しているにすぎず,将来送信可能化される可能性のあることは明らかであるから,本件各発言の自動公衆送信又は送信可能化について控訴人らが請求する差止請求は理由がある。











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