著作権重要判例要旨[トップに戻る]







幼児用教育教材の翻案権侵害の成否が問題となった事例
「書籍『頭脳開発シリーズ』vs.『新頭脳開発シリーズ』事件」
平成160331日東京高等裁判所(平成16()39 

 翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいい,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実,事件若しくは素材など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成13628日第一小法廷判決参照)。
 
控訴人らが新シリーズについての共有著作権を有するか否かについてはそもそも争いがあるが,この点はさておき,まず,本件各書籍と新シリーズ対応書籍との表現上の本質的な特徴の同一性について検討する。
 
(略)
 [本件書籍1について]
 
本件書籍1と新シリーズ「入学準備 新かんじ」の構成が,…の点において類似するとしても,これらの点は,思想又はアイデアにすぎず,表現とはいえない。すなわち,シールを用いて作業する点はアイデアにすぎず,表現とはいえない。また,漢字の読み書きの学習方法や,その学習に先立ってまず漢字に親しみを持たせるという点は,漢字の学習を目的とする幼児用教育教材に関する思想又はアイデアというべきものであって,表現には当たらない。なお,本件書籍1と新シリーズ「入学準備 新かんじ」を比較すると,「木」,「山」及び「川」の字を学習する頁,身体の部分,自然及び学校に関連する漢字を学習する頁並びにカレンダーの頁など,対応する頁における絵の具体的表現そのものは,大きく異なっており,前者に接する者が後者の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない。
 
[本件書籍2について]
 
本件書籍2と新シリーズ「入学準備 新かずととけい」の構成が,…の点において類似するとしても,これらの点は,思想又はアイデアにすぎず,表現とはいえない。すなわち,時計の仕組み及び数と時計の関係についての学習方法や時計について理解させるための設問をどのような順序で設けるかという点は,数や時計の学習を目的とする幼児用教育教材の構成に関する思想又はアイデアにすぎず,表現には当たらない。なお,本件書籍2と新シリーズ「入学準備 新かずととけい」を比較すると,対応する頁における時計の絵やイラストなどの具体的表現そのものは,大きく異なっており,前者に接する者が後者の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない。
 [本件書籍3ないし7について]
 
本件書籍3ないし7と新シリーズ「新めいろおけいこ」の構成が,…の点において類似するとしても,これらの点は,思想又はアイデアにすぎず,表現とはいえない。すなわち,迷路遊びによって,鉛筆の使い方を身につけたり,目と手の協応作業の訓練をし,洞察力,集中力を養うという点は,本件書籍3ないし7を構成する目的そのものであり,幼児用教育教材の構成に関する思想又はアイデアにすぎず,表現には当たらない。なお,本件書籍3ないし7と新シリーズ「新めいろおけいこ」(2歳ないし6歳)を比較すると,類似する絵は存在せず,前者に接する者が後者の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない。
 
[本件書籍8ないし10について]
 
本件書籍8ないし10と新シリーズ「新きりえこうさく」の構成が,…の点において類似するとしても,これらの点は,思想又はアイデアにすぎず,表現とはいえない。すなわち,各年齢ごとにどのようなはさみの使い方等を訓練させるかという点は,幼児用教育教材に関する思想又はアイデアにすぎず,表現には当たらない。
 
…すなわち,控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアにすぎず,表現それ自体とはいえないから,これらの点が類似していても,翻案とはいえない。また,控訴人らの指摘する箇所のほとんどは,絵の素材が異なるため具体的表現も全く異なっている。さらに,絵の素材が同一のものについても,素材自体は表現とはいえず,また,その具体的表現は異なっている。さらに,名称や文章の類似をいう点については,同じことがらを説明するためのありふれた短い表現であって,表現上の創作性がない。加えて,本件書籍8ないし10は,色彩も鮮やかで裏のページにも絵や模様があるなど,新シリーズ「新きりえこうさく」等とは絵の色彩や配置等が異なる
 
以上のとおり,控訴人らが主張する本件各書籍と新シリーズ対応書籍との類似点は,思想,アイデア若しくは素材など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分における類似をいうものにすぎないから,仮に,これらの点が類似していても,翻案には当たらない。そして,本件各書籍の表現と新シリーズ対応書籍の表現は,表現上の本質的特徴の同一性を有するとはいえず,本件各書籍に接する者が新シリーズ対応書籍の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる箇所は見当たらない。
 
なお,本件各書籍と新シリーズ対応書籍それぞれの表紙裏に記載されている「この本のねらいと構成」は,まさに書籍として表現するにあたっての思想又はアイデアを記したものにすぎないから,仮に,この内容が類似していても,翻案には当たらない。また,年齢別,分野別としたこと,1枚ずつ外して使えるものとしたこと,シールを利用したこと及びボードをつけたこと等控訴人ら主張のノウハウは,本件シリーズや新シリーズを制作するにあたってのアイデアにすぎず,表現それ自体ではないから,この点が類似していても,翻案には当たらない。
 
控訴人らは,本件シリーズと新シリーズの名称が類似していること,本件シリーズの発行と同時に新シリーズの発行が停止されたこと,本件シリーズに掲載された書籍一覧表には,新シリーズの書籍が混在して記載されていること及び控訴人会社と被控訴人との交渉経過等を翻案の根拠として主張する。しかしながら,翻案に該当するためには,本件各書籍と新シリーズ対応書籍における表現上の本質的な特徴の同一性が存在することが必要であって,表現上の本質的な特徴の同一性に関係しない,シリーズの名称や当事者間の交渉経過等の上記事情は,翻案に当たるか否かの判断に何ら影響を与えないものであるから,控訴人らの上記主張は理由がない。
 
したがって,控訴人らが新シリーズについて共有著作権(翻案権)を有するか否かにかかわらず,本件各書籍が新シリーズ対応書籍の翻案に当たるということはできない。











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