著作権重要判例要旨[トップに戻る]







ゲームキャラクターの能力値を書き込めるプログラムの同一性保持権侵害性が問題となった事例
「ゲーム『三国志V』能力値付加プログラム事件」
平成70714日東京地方裁判所(平成5()13071/平成110318日東京高等裁判所(平成7()3344 

【コメント】本件は、被告の製造頒布するフロッピーディスクに記憶されているプログラム(「被告プログラム」)が、原告の著作物である「本件著作物」(「三国志V」と題するコンピュータ用シミュレーションゲームプログラム)についての同一性保持権を侵害するとして、原告が被告に対し、被告プログラムが記憶されたコンピュータ用記憶媒体の製造頒布の差止めを請求した事案です。 

【原審】

 
…によれば、以下のとおり認められる。
 
本件著作物には、プログラムとして、メインプログラム、データ登録用プログラム及びチェックルーティンプログラムが含まれ、データとして、原告が作成した既入力のデータファイル及びユーザーが作成するデータファイルが含まれているところ、ユーザーが作成するデータは「NBDATA」というファイルに書き込まれる仕組みになっている。
 
「NBDATA」は出荷時に何も書き込まれていないのではなく何の能力値も設定されていないことを示すデータが書き込まれており、そのデータは、新武将等を設定することを望むユーザーにより1から100までの能力値に書換えることが予定されているものである。
 本件著作物において、登場人物に関し能力要素毎に設定される能力値には予め記憶、蓄積されたものもあるが、これはコンピュータに対する指令を組み合わせたものではなく、ゲームそれ自体のプログラムにしたがって処理されるデータである。
 
「NBDATA」において、新武将等の能力値は、ユーザーが設定するものであり、原告が各登場人物毎の能力を能力値として表現しているとはいえず、またその能力値はプログラムの表現として表されたものとはいえない
 
本件著作物において、新武将等の能力値を1から100までと制限することは、プログラムの仕様またはアイデアの領域に属するものであり、そのような仕様またはアイデアからはいくつかのプログラム表現が可能であり、これがプログラム表現として表れてくるのは、新武将等の能力値を1から100までと制限するための記述がなされているデータ登録用プログラムに内蔵されているチェックルーティンプログラムにおいてである。
 
被告プログラムは、本件著作物に含まれるデータ登録用プログラムに代わる別個のプログラムで、ユーザーに提供されるデータ登録用プログラムである。
 
被告プログラムは、ユーザーが「NBDATA」に能力値を書込む作業が行えるようにしたもので、被告プログラムを使用して、ユーザーが新武将等を登録し100を超える能力値を設定しても、原告著作物のメインプログラム、データ登録用プログラム、チェックルーティンプログラムが改変されるものではない(争いがない。)。
 
以上の事実を前提に改変行為の有無を検討するに、本件において原告は、被告プログラムがフロッピーディスク上の「NBDATA」に100を超える能力値を与えて「三国志V」をプレイするときに原告が予定した範囲外の展開となるところから、「NBDATA」に100を超える能力値を書き込むことをもって改変行為と主張する。
 
他方、被告プログラムを使用して、ユーザーが新武将等を登録し100を超える能力値を設定しても、それによって、本件著作物に含まれるプログラム(メインプログラム、データ登録用プログラム及びチェックルーティンプログラム)が改変されるものでないことは前記のとおり争いがなく、「NBDATA」そのもののデータは、前記のとおりユーザーにより書換えが予定されているものであり、原告も「NBDATA」ファイルに100を超える能力値を書き込むことを「NBDATA」ファイルの改変として同一性保持権の侵害を主張するものでない。
 
被告プログラムにより、チェックルーティンプログラムの規則外の能力値が設定されれば、原告が本件著作物を作成したときに設定した能力値の意味が変わり、ゲーム展開やストーリーが原告の当初予定した範囲を越える場合があることは当然予想されるところである。また、能力値自体は、それがゲームの進行において、原告が予定した範囲を越えてその展開を変えるものとしての意味を有していても、データであると考えられる。
 
ところで、著作権法においては「プログラムの著作物」とは「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう」(同法2110号の2)とされている。したがって、本件著作物のプログラムを実行してプレイした結果展開されるストーリーは、指令を組み合わせたものとしてのプログラムの著作物ということはできないし、データもプログラムの著作物ではないから、被告プログラムを使用してフロッピーディスク上の「NBDATA」に100を超える能力値を書き込むことをもって、本件著作物の同一性を侵害する改変行為であるということはできない

【控訴審】

 
まず…によれば、以下の事実関係を認めることができる。
 
本件著作物には、プログラムとして、メインプログラム、データ登録用プログラム(控訴人登録プログラム)及びチェックルーティンプログラムが含まれ、データとして、控訴人が既に作成済みのデータファイル及びユーザーが作成するデータファイルが含まれているところ、ユーザーが作成する新君主、新武将及びそれらの能力値のデータは、「NBDATA」というファイルに書き込まれる仕組みになっている。
 
出荷時の「NBDATA」は、何の能力値も設定されていないことを示すデータが書き込まれているファイルとして提供されており、そこに設定される能力値の最大値は100であることが、本件著作物のスタートアップマニュアルに記載されている。
 本件著作物で、ユーザーによって設定される新君主、新武将の能力値及びあらかじめ記憶、蓄積されている既成の君主等の能力値のデータが、本件著作物中のメインプログラムに読み込まれ、これがプログラムの分岐要素となってゲームの次の処理が行われる
 
本件著作物において、新君主、新武将の能力値を1から100までと制限しているのは、新君主、新武将の能力値の入力範囲を1から100までに制限するための記述がある控訴人登録プログラム内蔵のチェツクルーティンプログラムにおいてである。
 
被控訴人プログラムは、控訴人登録プログラムに代わる別個のプログラムで、ユーザーに提供されるデータ登録用プログラムである。
 
以上の事実関係を前提にして検討するに、「NBDATA」のデータは、本件著作物におけるプログラム全体の流れによれば、控訴人登録プログラムによって入力され作成されるものであり、ユーザーが「NBDATA」上に作成した新君主、新武将のデータを用いてゲームをしようとする場合には、本件著作物におけるプログラムは、本件著作物中の既存のデータとともに「NBDATA」上のデータを解析してゲームを進行させることになる。「NBDATA」上のデータは、本件著作物におけるプログラムが規定している一定の書式に従って記載されるものと認められるが、この書式上のデータが本件著作物におけるメインプログラムによって読み込まれ、同プログラムは次に移行すべき動作を解析するものということができる。
 
したがって、「NBDATA」にデータが入力され記載されたときには、「NBDATA」の書式は、その中の数値(パラメーター)を本件著作物におけるメインプログラムに渡す役割を果たし、右プログラムの一部となって動作するものと認めるべきものである。そして、右書式中に記載された数値も右プログラムに取り込まれ、これに包含されて動作内容を規定するものとなるのであって、「NBDATA」に控訴人登録プログラムの使用以外の方法によりこの数値を入力すること、さらには、この入力手段を提供することが、本件著作物におけるプログラムの改変に当たるものと評価すべき場合のあることも、直ちに否定することはできない
 
そこで、本件において、被控訴人プログラムに基づいて「NBDATA」にデータを入力し、メインプログラムを作動させることが、本件著作物におけるプログラムの改変に該当することになるか否かを検討する。
 
まず、新君主、新武将の能力値の入力を100までに限定する控訴人登録プログラムを使用しないで「NBDATA」に能力値を入力する作業についてみれば、「NBDATA」自体はプログラムの著作物に当たるものではないので、本件著作物の同一性保持権の侵害に当たるものではないことは明らかである。
 
次に、100を超える能力値が入力された「NBDATA」を使用してメインプログラムを作動させることが、本件著作物の同一性保持権の侵害に当たるか否かについては、本件著作物がシミュレーションゲームに関するものであり、本来、その表現態様が種々に変化することが予定されているものであって、メインプログラムの動作の枠内でという客観的制約があるにしても、ユーザーが自由に作動させることによりゲーム展開が千変万化するものであることから、本件著作物の表現がいかなる範囲まで包含するものであるのかが明らかにされないままに、100を超える能力値が使用されることのみをもって、直ちに同一性保持権の侵害に当たるものと認めることはできない
 
そこで、本件著作物が表現する範囲についての検討が必要となるが、この関係で、控訴人は、「NBDATA」のデータ入力範囲を限定した配慮の一つにゲームバランスがあると主張し、この主張の当否によっては、本件著作物の表現の範囲も明らかになる可能性があり得る。しかしながら、本件ゲームはそのプログラムに従って種々様々に展開するものであるところ、控訴人が主張するゲームバランスの具体的内容、すなわち、控訴人が主張するゲームバランスを構成する本件著作物の具体的表現内容は、その主張によっても必ずしも明確ではなく、被控訴人プログラムによって「NBDATA」ファイルにおける能力値が、控訴人登録プログラムによるものを超えて設定され、メインプログラムに渡された場合の本件ゲーム展開により、どのように具体的に改変されるに至るのかの事実関係は、本件全証拠によっても明らかではない。
 
控訴人は、本件著作物において、十分なゲームバランスに基づく魅力的なゲーム展開の実現を意図したものであって、「NBDATA」に100を超える能力値を入力して本件ゲームをプレイすると控訴人の予定した範囲外のゲーム展開になると主張するところ、そのような内心の意図があったとしても、本件ゲームはもともとユーザーの自由な選択に基づいて多様に展開することが特色となっているものであり、右主張のようなゲーム展開が具体的にどのような範囲のものを指すのかは、客観的に明らかになっているとはいえない。仮に、その範囲が、控訴人プログラムにより新君主、新武将の能力値100までを「NBDATA」に入力した場合に表現される範囲に限られる旨の主張であると解しても、後記のとおり、「NBDATA」に100を超える能力値が入力された場合でも、極端な能力値が入力されたときを除いては、メインプログラムがこれを受け容れて動作し、ユーザーの自由な選択に基づく作動に従ってゲームが様々に展開していくものであり、100を超える能力値を入力した場合のゲーム展開が、能力値100以内である場合のそれと明確な差異があるとは認め難い。したがって、控訴人の右主張をもってしても、本件著作物の具体的表現がどのように改変されるに至るかの事実関係が明らかになるものではない。
 
以下、右の結論に至った理由を、更に控訴人の主張との関係において説明する。
 
なるほど、…によれば、被控訴人プログラムにより一定限度を超えた能力値設定が行われた場合に、前記のようなゲーム展開になることは認められる。しかしながら、この点も、次の理由により、被控訴人プログラムによって本件著作物が改変されるものと認めるべき根拠とならないというべきである。
 
すなわち、本件著作物におけるプログラムには、一定限度を超えるデータを入力しようとしても受け付けないというチェックルーティンプログラムが控訴人登録プログラムに内蔵されて組み込まれているが、控訴人登録プログラムを用いる以外の方法での新君主、新武将の作成、登録を不可能にするガード、あるいは、控訴人登録プログラム以外のプログラムで作成された「NBDATA」の数値を受け付けないというガードは組み込まれていない。本件著作物におけるプログラムは、控訴人登録プログラムを使用しないで入力された「NBDATA」の数値も排斥せずに、すなわちガードを掛けないでそのままメインプログラムのパラメーターとして受け付けて処理する仕組みになっている。パーソナルコンピューター操作に慣れたユーザーは、当時一般に頒布されていた「エコロジー」(商品名)に代表されるようなMS−DOSのデバッグ汎用ツールを使用すれば、控訴人登録プログラムを使用せずに新君主、新武将の作成、登録を行い、その能力値を入力することができるものであり、本件ゲームに限らず、新たなゲームキャラクターの作成方法を解説する雑誌記事等も、本件著作物創作の平成4年より以前から一般に出回っていたことが認められる。
 
したがって、「NBDATA」における新君主、新武将の能力値を入力するのに、本件ゲームを購入したユーザーが控訴人登録プログラムを用いるか否かは、本件著作物におけるプログラムを作動させる際においては、ユーザーの自由になし得る範囲のものであったというべきである。旧来の著作物とは異なり、著作権法上の著作物として新しく加えられたコンピュータープログラムに対し、具体的にいかなる範囲の同一性保持権を認めるかにつき一般的な共通認識が必ずしもない段階においては、著作者の意思表明もその範囲画定の際の有力な事情となると解されるが、本件著作物におけるプログラムの右のような仕様からみても、前述のように様々に展開するゲーム展開を処理するプログラムの改変禁止範囲の限界(同一性保持権で保護されるべき範囲)についての著作権者である控訴人の意向は、ユーザーに対して明確にかつ絶対的なものとしては伝わっていなかったというべきであり、このことは、右プログラムの表現内容の範囲が客観的に明らかでないことを裏付けるものである。
 また、本件著作物のサブマニュアルに「(新君主、新武将の)各能力の最大値は100です。」と記載されていることが認められるが、この記載自体で、本件著作物の具体的表現の範囲が明らかにされているとはいえない。すなわち、本件著作物に添付のサブマニュアル「三國志英雄譚」において、「勝利に至るまでの決まったルートは、シミュレーションにはありません。プレイするたびに新しい方法が発見されます。…決まった道筋はありません。先の見えない物語をあなた自身が創っていってください。」との記載があり、本件著作物のパッケージの裏面にも、「新君主に加えオリジナルの武将が60人も作成でき、自分だけの物語を楽しむことも可能です。」と記載されていることが認められるところであって、これらの記載も併せてみると、能力の最大値は100である旨の右サブマニュアルの記載が、ゲーム展開にいかなる意味を持つのかは、明らかでない。
 
これらの事情に、ゲーム展開の内容の上においても前述のように本件著作物のゲーム展開についての具体的な表現内容が明らかでないことをも合わせてみると、本件著作物の改変の対象が特定されているものということはできないといわざるを得ない。
 
なお、前記におけるように被控訴人プログラムによって228以上の能力値を入力した場合、本件ゲームが停止することがあることは、…により認めることができる。しかしながら、この点は、新君主、新武将の能力値の登録内容が本件ゲームのプログラムが正常に動作する範囲外のものであったことの一時的現象である。この一時的現象により、再作動後のパーソナルコンピューターの作動あるいは本件著作物の作動に影響を及ぼす場合には、本件プログラムを改変するものと評価することも可能であろうが、本件においては、右によっても、本件著作物におけるプログラム自体が改変されるものではないし、さらには右のような影響が生じるものとも認めることはできない(ゲーム停止という事態が生じるに至ったのが、控訴人が提供しているものではない被控訴人プログラムを使用して能力値を入力したユーザーの行為によったものであることは、ユーザー自身で自覚し得るものであるから、ユーザーの責任においてゲームを再開すれば足りるものである。)。
 
したがって、この現象が生じることをもってしても、被控訴人プログラムによる能力値の設定が、本件著作物におけるプログラムによるゲーム展開の表現に関する本件著作物の改変に当たるものということはできない。
 
以上のとおりであるから、控訴人登録プログラムを使用せず被控訴人プログラムを使用して「NBDATA」に能力値を入力することを可能にさせることをもって、本件著作物の改変に当たるものする控訴人の主張は、その前提を欠くことになり、被控訴人プログラムが本件著作物を改変するものとは認めることができない











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