著作権重要判例要旨[トップに戻る]







出版契約における条項違反が問題となった事例
童話絵本シリーズ出版契約違反事件平成120120日東京地方裁判所(平成7()1751等)/平成120831日東京高等裁判所(平成12()922 

【コメント】本件は、被告の所定の行為が出版権設定契約中の「二次的使用条項」に違反するとして、原告が、被告に対し、契約違反(債務不履行)に基づく損害賠償金(財産的損害及び慰謝料)等の支払いを求めた(本訴)のに対し、原告の所定の行為が当該出版権設定契約中の「排他的使用許諾条項」に違反するとして、被告が、原告に対し、契約違反(債務不履行)に基づく損害賠償金等の支払いを求めた(反訴)事案です。

 本件における、当事者の主張は、概ね次のとおりです。

(本訴:原告の主張)
原告と被告は、原告の著作に係る童話絵本シリーズ(以下「永岡図書」という。)について、原告が被告に出版権を設定し、被告は当該出版権に基づいて永岡図書を出版・販売し、原告に定価の6パーセントの著作物使用料を支払うことなどを内容とする契約(「本件契約」)を締結した。本件契約には、「永岡図書が翻訳・ダイジェスト・演劇・映画・放送・録音・録画など二次的に使用される場合、原告はその使用に関する処理を被告に委任し、被告は具体的条件について原告と協議のうえ決定する」との条項(「二次的使用条項」)が設けられていた。原告と被告は、平成43月、本件契約について、著作物使用料を定価の7パーセントに引き上げるなどの変更をする旨の合意をした。
被告は、原告の許諾を得ずに、中華人民共和国所在の訴外「人民出版」との間で、人民出版が永岡図書のうち所定の「名作アニメシリーズ」の中国語版を中華人民共和国において出版し販売することを許諾する旨の契約を締結した。被告は、さらに、原告の許諾を得ずに、台湾所在の訴外「笛藤出版」との間で、笛藤出版が永岡図書全巻の中国語版を台湾において出版し販売することを許諾する旨の契約を締結した。また、被告は、原告の許諾を得ずに、インドネシア共和国所在の訴外「エレックスメディア社」との間で、エレックスメディア社が永岡図書全巻のインドネシア語版を同国において出版し販売することを許諾する旨の契約を締結した。以上の被告の行為は、本件契約の二次的使用条項に違反する

(反訴:被告の主張)
本件契約には、「原告は、永岡図書と明らかに類似すると認められる内容の著作物もしくは永岡図書と同一書名の著作物を出版し、あるいは他人をして出版させない」との条項(「排他的使用許諾条項」)が設けられている。
原告は、ブティック社をして、自らの著作に係る所定の童話絵本(「ブティック図書」)を出版させた。ブティック図書はいずれも、対応する永岡図書と同一の書名の著作物であるから、これらをブティック社に出版させた原告の行為は、本件契約の排他的使用許諾条項に違反する。また、ブティック図書のうち所定のものは、永岡図書と明らかに類似すると認められる内容の著作物であるから、これらを出版させた原告の行為は、この点からも本件契約の排他的使用許諾条項に違反する。 


【原審】

 
[本件契約の二次的使用条項の趣旨について]
 
本件契約の二次的使用条項は「永岡図書が翻訳・ダイジェスト・演劇・映画・放送・録音・録画など二次的に使用される場合、原告はその使用に関する処理を被告に委任し、被告は具体的条件について原告と協議のうえ決定する」というものであるところ、右条項が、永岡図書を二次的に使用する権利、すなわち著作権法上の翻案権(同法27条)が著作者たる原告に留保されることを前提とした上で、右二次的使用を第三者に許諾等する際の事務処理につき、原告がこれを被告に委任することとしつつ、右事務処理に当たっての受任者たる被告の義務として、二次的使用を許諾等する場合には、その具体的条件についてあらかじめ委任者たる原告と協議し、その同意の下でこれを決定して右事務処理を行わなければならないことを定めた趣旨のものであることは、右条項自体の文言及び本件契約のその他の条項の内容に照らして明らかというべきである。
 
被告は、右条項は永岡図書の二次的使用に関する処理につき被告が原告から包括的委任を受けるという内容の条項であるから、二次的使用を許諾等する場合の具体的条件について原告と協議するまでの必要性に乏しい場合には、原告と協議をすることなく被告の判断で右具体的条件を決定して許諾等を行うことも許容される旨主張するが、右のような解釈は、明らかに右条項の文言に反し、何ら合理的根拠のないものであって、失当というほかない。
 
[本件各海外出版契約の締結に当たって、被告が本件契約の二次的使用条項に基づく義務を履行したか否かについて]
 まず、平成5810日に締結された人民出版との契約に関しては、被告があらかじめ原告と何らかの協議を行ったという事実について、被告からの具体的な主張はなく、証拠上もこれを認めることができない。したがって、被告が二次的使用条項に基づく前記のような義務を履行したということができないのは、明らかである。
 
次に、平成6516日に締結された笛藤出版との契約及び同年815日に締結されたエレックスメディア社との契約に関して、被告は、…記載のとおり右各契約の締結についてあらかじめ原告から許諾を得たから二次的使用条項への違反はない旨主張するところ、Cはその証人尋問において、平成62月、原告に対し電話で「永岡図書につき、アジア地域から翻訳出版の引き合いがきているので、話を進めてよいか。」との連絡をしたところ、原告から「進めてもらって結構です。Bさんのほうにお任せします。」との回答を得たことを供述しており、また、Bは、その本人尋問及び陳述書において、平成62月か3月ころ、原告に対し電話で右Cと同じ内容の連絡をしたところ、原告から「そちらのほうでやってもらって結構です。」との回答を得たことをそれぞれ供述しているものの、右両名の供述する電話でのやりとりの内容は、右程度の抽象的なものにとどまるもので、契約の相手方や契約の期間、許諾料、発行部数等の具体的な契約条件については全く話をしなかったというのである。原告と被告の間には、前記のとおり、被告において永岡図書の二次的使用を第三者に許諾等する場合にはその具体的条件についてあらかじめ原告と協議しその同意の下でこれを決定するという二次的使用条項を含む本件契約が締結されているものであり、右の電話でのやりとりのころ、原告が海外渡航等の理由により長期間不在となることが予定されていたわけではなく、また、アジア地域での翻訳出版につき緊急に事務手続を進めなければならないといった事情も存在しなかった(かえって、原告本人の供述によれば、当時、原告は、既に台英社に対して台英本の出版を許諾していたことから、契約の相手方等について関心を有していたと認められる。)のであるから、CBから右のような抽象的な内容の問い合わせがあったのに対し、原告が口頭で前記のような回答をしたとしても、右電話でのやりとりの内容及び前後の経緯からみて、原告においては、永岡図書のアジア地域における二次的使用について、被告が今後第三者との交渉を進めていくことにとりあえずの了解を与えたにすぎないと認められるのであって、被告主張のように、右電話でのやりとりによって、被告に対し、以後のアジア地域全般における永岡図書の二次的使用に関し原告の個別的な了解なしに具体的条件を決定して契約を締結するという包括的な権限を与えたとは、到底認めることはできない
 
右のとおり、C及びBと原告との間の電話でのやりとりにより、笛藤出版との契約及びエレックスメディア社との契約の締結について、被告が二次的使用条項に基づく義務を履行したという被告の主張は採用することができず、また、証拠上、他の機会に被告が原告と右各契約の締結に関してあらかじめ何らかの協議を行ったという事実を認めることもできないから、被告は右各契約の締結に関して二次的使用条項に基づく前記のような義務を履行したということはできない。
 
以上によれば、被告は、本件各海外出版契約を締結するにつき、本件契約の二次的使用条項に基づく義務を履行しなかったものというべきである。
 
(略)
 
[反訴について]
 
…の事実のうち、ブティック図書がいずれも対応する永岡図書と同一の書名の著作物であることは当事者間に争いがない。したがって、原告がブティック社をしてブティック図書を出版させたことが、原告に「永岡図書と同一書名の著作物を他人をして出版させない」という義務を負担させている本件契約の排他的使用許諾条項と抵触することは明らかである。
 (略)
 
…によれば、以下の事実が認められる。
@被告は、本件契約に基づき、昭和61年から平成6年までの間に永岡図書各巻を順次発行した。
A原告は、平成元年にブティック社との間でブティック図書の出版を許諾する旨の契約を締結し、ブティック社は、同年から平成7年までの間にブティック図書各巻を順次発行した。
B被告の社内では、ブティック図書が出版されている事実はその発行の当初から認識されており、本件契約の排他的使用許諾条項との関係でこれを問題視する意見もあったが、永岡図書の出版に関して原告との良好な関係を維持するという観点から、被告は、平成84月に本件反訴を提起するまで、ブティック図書の出版につき原告に抗議をするなどの行動をとることはなかった
C平成42月、被告の対応に不満を持った原告が、被告に対し、永岡図書のうち契約書を作成していなかった「名作アニメシリーズ」の第31巻以降について、その後の出版の中止を申し入れるという事態が生じたが、出版の継続を望むBらが原告を説得した結果、契約条件の一部を請求原因記載のとおりに変更して出版を継続するということで決着することとなった。その際、原告と被告との間では、ブティック図書の出版について特に問題とされることはなかった
 以上のとおり、被告は、平成元年の出版当初から原告の著作に係るものとしてブティック図書各巻がブティック社から順次出版されていることを認識し、しかも、これらブティック図書の書名や内容についても了知し、原告との関係において本件契約の排他的使用許諾条項への抵触の問題があることも十分に認識しながら、永岡図書の出版に関して原告との良好な関係を保つという営業上の判断から、あえてブティック図書の出版について問題としないまま、これを長期間にわたって放置してきたのであり、しかも、平成42月に原告との間で本件契約の契約条件の一部を変更する旨の合意をした際にも、原告によるブティック図書の出版については何ら問題とすることなく、むしろ、原告の不満を収めて永岡図書の出版を継続させることを優先して、原告に支払うべき著作物使用料の率を引き上げるという原告に有利な内容の合意をしているのである。
 
右のようなブティック図書の出版に対する被告の対応を総合すると、被告は、原告に対し、遅くとも平成42月の前記合意の際に、原告がブティック社にブティック図書を出版させることについて、黙示的な許諾を与えたものと認めるのが相当である。
 以上によると、その余の点について判断するまでもなく、原告は、ブティック社にブティック図書の出版を許諾したことにより、被告に対し契約違反の責任を負うものとはいえない。

【控訴審】


【コメント】控訴審において控訴人(本訴原告)は、次のような主張をしました:「被控訴人は、株式会社トーハン(以下「トーハン」という。)を介して、笛藤出版との契約をした。トーハンは、右契約を成立させることにつき、控訴人の承諾を取ったことも取ろうとしたこともないから、これは、被控訴人とトーハンの共同不法行為である。被控訴人とトーハンは、この共同不法行為によって、800万円を笛藤出版から領得した。このことは、取りも直さず、控訴人に対して800万円の損害を与えたことになるものである。 

 控訴人は、当審において、笛藤出版との契約について、被控訴人とトーハンが共同不法行為をしたとの主張をする。右不法行為の主張は、原審においてされていなかった主張であるから、控訴人は、新たな請求をするものと解すべきである。
 
しかし、本件契約の存在を前提として、なお、トーハン及び被控訴人の行為を不法行為とすべき事実については、その主張も、これを認めるに足りる証拠もない。
 
被控訴人に、本件契約の二次的使用条項に基づく義務の不履行があったことは、原判決認定のとおりであるけれども、債務不履行と不法行為とでは注意義務の内容その他の成立要件が異なるのであって、右条項によって負った義務の不履行が直ちに不法行為となるものではない。また、控訴人は、トーハンが控訴人に本件契約の承諾を取ろうとしたこともないと主張するが、被控訴人は、本件契約の二次的使用条項により、永岡図書の二次的使用に関する処理を控訴人から委任されていたのであるから、第三者であるトーハンが、受任者である被控訴人と交渉し、委任者に対する承諾をとろうとしなかったとしても、そのことをもって直ちにそれが不法行為となるということはできない
 
また、債務不履行をした者ないし不法行為をした者が利得をしたとしても、それがすべて債権者ないし被侵害者の損害となるものではない。本件についてこれをみると、永岡図書については、本件契約により、被控訴人の出版権が設定され、排他的使用許諾条項も存在したから(ブティック図書の出版について被控訴人が許諾を与えたとしても、それはブティック図書に限られた許諾であって、排他的使用許諾条項自体がこれによって失効するわけではない。)、控訴人は、永岡図書ないしこれに明らかに類似すると認められる内容の著作物を自ら出版し、又は第三者をして出版させることができなかったのであって、それが可能となるのは、相応の許諾料の支払等により被控訴人の許諾が得られた場合に限られたであろうことは自明である。したがって、本件においても、被控訴人の利得したものが、すべて控訴人の損害となるものではないこともまた、明らかである。
 
…によれば、笛藤出版との契約においては、著作物使用料は800万円であったが、被控訴人が取得したものは、そこから台湾における税金160万円を控除した640万円から、更にトーハンの手数料80万円を控除した560万円であったことが認められる。右事実に照らせば、控訴人の主張する損害を、債務不履行によるものとみるにせよ、不法行為によるものとみるにせよ、その金額を、笛藤出版との契約における著作物使用料が800万円であることを根拠として、原判決が認容した金額である2689340円を超えるとすることはできないものというべきである。











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