著作権重要判例要旨[トップに戻る]







60条の適用解釈が問題となった事例
「早大名誉教授エスキース事件」
平成120830日東京地方裁判所(平成11()29127/平成130918日東京高等裁判所(平成12()4816 

【コメント】本件は、「本件エスキース」に関する著作者の遺族であり、かつ、著作権を承継した原告が、本件エスキースを掲載した書籍、雑誌を被告が発行したことが著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為(著作権法60条)等を侵害する行為に当たる旨主張して、被告に対し、当該書籍、雑誌の発行の差止め、損害賠償等を求めた事案です。

 
なお、「エスキース」とは、「建築家が建築物を設計するに当たり、その構想をフリーハンドで描いたスケッチ」を意味します。 


【原審】

 本件広告について判断する。
 …によれば、被告が本件雑誌に掲載した本件広告は、本件エスキースが、その色調の濃度を大幅に薄くした上で、A4版の頁全面にわたって下絵として使用され、その上に、本件書籍に関する広告(書籍の題号、紹介文、構成、内容の要約、企画者、監修者の表示、定価、注文方法等)が頁全面にわたって重ねて印刷されていることが認められる。
 
被告の右行為は、本件エスキースの表現を大幅に改変したものというべきであるから、著作者が存しているとするならばその同一性保持権の侵害となるべき行為に当たる
 
この点につき、被告は、このような広告方法は社会的に許容されており、やむを得ないと認められる改変に当たる旨主張する。しかし、本件エスキースの上に広告文を重ねることについて、合理的な理由を見出すことはできず、結局、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないものということはできない。また、著作者ないしその遺族の了解を得ないまま右のような改変を行うことが社会的に広く行われていることを認めるに足りる証拠はない。なお、右行為が過失に基づくことも明らかである。
 
本件広告において本件エスキースを使用するに際し、著作者であるEの名を表示していないから、被告の右行為は、著作者が存しているとするならばその氏名表示権の侵害となるべき行為に当たる。なお、右行為が過失に基づくことも明らかである。
 
この点につき、被告は、本件広告の対象である本件書籍を見れば、著作者名が直ちに判明するから、著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれもなく、公正な慣行にも反しない旨主張する。しかし、本件広告を見た者が必ず本件書籍を見るとは限らないから、右行為が右利益を害するおそれがないとはいうことができない。また、被告は、本件エスキースは無記名である旨主張するが、弁論の全趣旨によれば、本件エスキースの公衆への提示の際にEの氏名が表示されていたことは明らかである。したがって、被告の主張は採用できない。
 
本件エスキースの切除掲載について判断する。
 
…によれば、右掲載においては、本件エスキースの上下左右の一部分がそれぞれ帯状に切除されているが、その切除幅は左右下部においては本件エスキース全体の縦、横の長さの50分の1以下であり、上部の切除幅も全体の縦の長さの20分の1以下であり、上部では建築物屋根上の三本の柱状構築物の先端が一部切除されているが、建築物全体に比べると、極くわずかな部分であることが認められる。
 
右事実によれば、本件エスキース一の一部切除は、著作者が存しているとするならば、社会通念に照らし、その名誉感情が害されるほどの表現上の変更ということはできず、同一性保持権の侵害となるべき行為には当たらない

【控訴審】

 
控訴人は,人格権は属人的権利であり財産権のように相続人が自由に行使できるものではないのであるから,死亡した著作者の人格権に由来する権利の侵害を主張するのであれば,誰もが一般的に人格を毀損すると感ずるような使用であるか,故人が生前に同様な使用を拒否した事例があるか,本人の意思が文書等により明示されているかの場合に限られるべきであるとし,控訴人の行為は,著作権法60条ただし書にいう「当該著作者の意を害しないと認められる場合」に該当すると主張する。
 
しかしながら,上記認定のとおりの,本件エスキースの全面に広告を重ねて印刷して公表する行為は,これが著作者の承諾なくなされた場合,著作者にとって,いわば自己の作品の全面に無断で落書きされたに等しいものであるから,著作者に著しい不快感を与えることは明白であり,著作権法60条ただし書にいう「当該著作者の意を害しないと認められる場合」に該当しないことが明らかである。











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