著作権重要判例要旨[トップに戻る]







一般不法行為の成否-容認事例A-
「北朝鮮映画無許諾放送事件@」平成201224日知的財産高等裁判所(平成20()10012 

 控訴人らの損害賠償請求(予備的請求)について
 
前記で説示したとおり,本件各映画著作物は著作権法の保護を受ける著作物には当たらないところ,仮に本件各映画著作物に対して著作権法に基づく保護が与えられないとしても,控訴人らは,同著作物の利用について民法709条の法律上保護される利益を有しており,被控訴人による本件無許諾放映は,控訴人らの有する法的利益を侵害するものとして不法行為を構成すると主張するので,以下,この点について検討する。
 
(略)
 
上記の認定事実によれば,本件映画は上映時間が約1時間17分間の劇映画であり,その内容等に照らし,相当の資金,労力,時間をかけて創作されたものといえるから,著作物それ自体として客観的な価値を有するものと認められる。また,北朝鮮文化省は,控訴人輸出入社が北朝鮮映画の著作権を保有するものであるとしていること,控訴人輸出入社は,本件映画のオリジナルフィルムを所有し,その複製物を控訴人カナリオ企画に提供していること,控訴人輸出入社は,本件映画著作権基本契約の対象でもある1972年に製作された劇映画「花を売る少女」について,著作権者としてフランスの映画会社と版権の売買契約を締結し,その複製物を同映画会社に提供していること等の事実を総合すれば,本件映画が製作された1986(昭和61)年当時はともかく,遅くとも本件映画著作権基本契約が締結された平成14年当時には,控訴人輸出入社は北朝鮮国内において本件映画を独占的に管理支配していたものと推認することができる。
 
そして,控訴人カナリオ企画は,本件映画著作権基本契約に基づき,控訴人輸出入社から本件映画を含む本件各映画著作物について,日本国内における上映,複製,頒布及び放送についての独占的な許諾権を付与され,本件映画の複製物の提供を受けていたことからすれば,控訴人カナリオ企画は日本国内において本件映画の利用について独占的な管理支配をし得る地位を得ていたものと認めることができ,このことに,本件映画が上記のとおり著作物として客観的な価値を有するものであり,経済的な利用価値があること,控訴人カナリオ企画は,別紙一覧表のとおり放送局に対して本件各映画著作物に属する作品の放送を許諾することにより現実に利益を得ていたことを併せ考慮するならば,控訴人カナリオ企画が上記地位に基づいて本件映画を利用することにより享受する利益は,法律上の保護に値するものと認めるのが相当である。
 これに対し,控訴人輸出入社は,日本国内に営業所等を一切有しておらず,本件各映画著作物の日本国内における利用は専ら控訴人カナリオ企画に委ねられ,同控訴人に対し,自らは利用に関する権利を行使しないことを約していることからすれば,控訴人輸出入社については,本件映画の日本国内における利用について法律上保護に値する利益を有するものとは認められない
 
そこで,以上に説示したところを前提とし,さらに進んで,被控訴人による本件無許諾放映が,控訴人カナリオ企画が本件映画の利用により享受する利益に対する違法な侵害に当たるかどうかにつき,検討する。
 
本件映画は,控訴人カナリオ企画が管理支配をしているそれ自体が客観的な価値を有し,経済的な利用価値のある映画であり,その製作に当たっては相当の資金,労力,時間を要したものであること,控訴人カナリオ企画は,北朝鮮がベルヌ条約に加入した後も,控訴人輸出入社から利用許諾を得た本件各映画著作物に含まれる作品について,別紙一覧表のとおり,テレビ番組における放映を許諾し,使用料を得ていたものであり,本件映画についても,同一覧表「放送者名」欄記載の放送者に対しては利用許諾をすることにより使用料収入を得られる作品であると推認できること,控訴人カナリオ企画は,本件無許諾放映により本件各映画著作物に含まれる作品のビデオカセット及びDVDの販売ができない状況になっていること,本件無許諾放映は,報道を目的とするニュース番組の中で行われたものであるが,被控訴人にとってはスポンサー収入の対象となる営利事業であること,本件無許諾放映の時間は約210秒間であり,本件映画全体の上映時間からすれば,わずかな一部の利用といえなくもないが,約220秒間のテレビ番組中で2分間を超える放映をすることは,それ自体としては相当な時間の利用であるといえること,本件無許諾放映における本件映画の利用態様を見ると,本件映画の映像は「韓国軍をカンフーで」とのニュースにおける構成要素の一部という扱いではなく,同ニュースの大部分が本件映画の映像により構成されており,専ら本件映画の内容を紹介するという映画本来の利用方法による利用であるといえること等の事実に照らすならば,被控訴人ら主張の放映目的を考慮に入れたとしても被控訴人の本件無許諾放映は社会的相当性を欠いた行為であるとの評価を免れず,本件無許諾放映は,控訴人カナリオ企画が本件映画の利用により享受する利益を違法に侵害する行為に当たると認めるのが相当である。
 
これに対し,被控訴人は,著作権法により保護されない著作物は原則として自由に利用できるものであり,仮にその利用について一般不法行為が成立する余地があるとすれば,著作物の単なる利用に止まらず,公序良俗違反といえる程に強い反社会性や違法性を有する場合に限定されるべきであると主張する。
 
しかしながら,著作物は人の精神的な創作物であり,多種多様なものが含まれるが,中にはその製作に相当の費用,労力,時間を要し,それ自体客観的な価値を有し,経済的な利用により収益を挙げ得るものもあることからすれば,著作権法の保護の対象とならない著作物については,一切の法的保護を受けないと解することは相当ではなく(なお,被控訴人は,著作権法により保護されない著作物の利用については不法行為法上の保護が及ばないとするのが立法者意思である旨主張するが,かかる立法事実を認めることはできない。),利用された著作物の客観的な価値や経済的な利用価値,その利用目的及び態様並びに利用行為の及ぼす影響等の諸事情を総合的に考慮して,当該利用行為が社会的相当性を欠くものと評価されるときは,不法行為法上違法とされる場合があると解するのが相当である。
 
したがって,不法行為が成立するのは著作物の利用が公序良俗に反する場合に限定されるとの被控訴人主張は採用することができない。
 
被控訴人は,平成15415日放送の「ザ!情報ツウ」における北朝鮮制作映画の使用について,控訴人カナリオ企画に使用許可を求め,その対価として78750円(税込み)を支払った。しかし,北朝鮮がベルヌ条約に加入したことに伴い,文化庁が我が国は北朝鮮に対しベルヌ条約上の保護義務を負わないとの見解を表明したことから,同見解に従い,本件無許諾放映を行ったことが認められる。以上の経緯に照らすならば,被控訴人は北朝鮮著作物の有する経済的価値を認めていたものの専らベルヌ条約の解釈のみに依拠して本件無許諾放映に及んだものであるから,少なくとも過失があることを免れることはできないものというべきである。
 
以上に検討したとおり,本件無許諾放映は控訴人カナリオ企画に対する不法行為を構成するものと認められるところ,控訴人らは,本件無許諾放映により許諾料相当額の損害を被ったと主張する。
 
しかしながら,許諾料相当額の損害は,排他的な利用権である著作権の侵害があった場合に認められるものであり,著作権法による保護が認められない本件映画について,著作権の認められる著作物と同様の損害を認めることは相当ではない。そして,本件における控訴人カナリオ企画の損害は,その性質上その額を立証することが極めて困難なものに当たると認められるから,民事訴訟法248条を適用し,金10万円をもって損害額と認める。
 
また,本件事案の性質,難易,認容額その他本件に現われた諸事情を考慮すれば,被控訴人の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の損害は,金2万円と認めるのが相当である。

【コメント】以上の判示部分については、その後、最高裁(平成231208日最高裁判所第一小法廷(平成21()602)で、明らかな法令違反があるとして、上記被控訴人敗訴部分が破棄されました。 











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