著作権重要判例要旨[トップに戻る]







適法引用の要件(5)
「石風呂の研究論文無断転載事件」
昭和610428日東京地方裁判所(昭和58()13780 

【コメント】本件は、原告ら(「故D」の妻及びその子)が、被告らの行為(「故D」は、「Eと石風呂」及び「温室考」と題する論文(「本件両論文」)の著作者であるところ、「被告C」が、被告第一法規から、「豊後の石風呂」と題する著書を刊行し、その第19頁から第37頁の間に、本件両論文を、被告C著作にかかるものとして、原文のまま転載した行為)により、夫又は父の著作にかかる論文を被告Cの著作物と表示されたことにより、それぞれその名誉を著しく毀損され、多大な精神的苦痛を被ったなどと主張して、被告らに対し、不法行為による損害賠償等の支払いなどを求めた事案です。 

 被告Cが、被告第一法規から豊後の石風呂を刊行したこと、その第19頁から第37頁の間に本件両論文が原文のまま転載されていることは、当事者間に争いがない。
 
豊後の石風呂への本件両論文の転載の態様について、以下検討する。
 
…によれば、豊後の石風呂は、… 本編として、一「はじめに」、二「温室考」(第19頁ないし第24頁)、三「Eと石風呂」(第25頁ないし第37三七頁)、…の10編からなつており、序文の二編には執筆者名が記載されているが、他には一切執筆者名は記載されておらず、その表紙には「C著」と記載され、また奥付けには、著者として被告Cの氏名及びその紹介が記載されていて、序文を除きすべて被告Cが著作したかの如き体裁となつていること、右本編中の一「はじめに」の末尾第18頁には、「今となつては、故D博士から玉稿をいただくすべもないので、博士の古稀記念著作集の石風呂探求五篇の中から、二篇をえらび、巻頭を飾らしていただくことにした。ちなみに同書は、去る昭和51815日、D博士古稀記念著作集刊行会によつて、D博士古稀記念著作集神道・神社・生活の歴史の書名で発行されたものである。」との記述はあるが、右二編の題名の指摘もなく、本件両論文が右記述されているところの故D著作の二編であるとは、一読して容易に理解しうる体裁とはなつていないことが認められる。また、…によると、日本自身社も、豊後の石風呂を読んだ後、温室考が被告C著作にかかるものと考え、同被告に対し、右論文の日本自身への転載の依頼を行つていることが認められる。
 
これらの事情を勘案すると、豊後の石風呂中に転載された本件両論文は、その転載の態様から、一般の読者をして、被告C著作にかかるものと解されてしまうものというべきである。
 
ところで、被告らは、本件両論文の豊後の石風呂への転載は、著作権法第32条第1項の適法引用に該当し、被告らの行為に違法性はない旨主張する。しかしながら、同条の趣旨に照らせば、引用が同条に定める要件に合致するというためには、少くとも引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができること、右両著作物の内容が前者が主、後者が従の関係にあると認められることを要すると解すべきであり、他人の著作物を自己の著作物としてもしくは自己の著作物と誤解されてしまう体裁で自らの著作物中に取り込むことは、適法な引用ということはできないところ、認定事実によると、本件両論文は、他の被告C著作にかかる部分と明瞭に区別して認識できるとはいえず、また本件両論文がその余の部分に対して従たる関係にあるものともいえないから、その余の点につき判断を加えるまでもなく、被告らの適法引用の抗弁は採用しえない。











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