著作権重要判例要旨[トップに戻る]







著作権の「二重譲渡」が問題となった事例
「ケネス・ハワード
Von Dutch』著作権譲渡登録抹消請求事件平成191026日東京地方裁判所(平成18()7424/平成200327日知的財産高等裁判所(平成19()10095 

【コメント(全体)】本事件では、原審及び控訴審を通して、著作権の二重譲渡の一方当事者が当該著作権の移転につき相手方に対抗要件の欠缺を主張し得る法律上の利害関係を有する第三者であるか否か、又は著作権の二重譲渡の一方当事者が相手方の対抗要件の欠如を主張し得ない「背信的悪意者」に該当するか否かが主要な論点として争われましたが、事件の背景(事実関係)が非常に込み入っており複雑であったためか、原審と控訴審で判断が割れました。 

【コメント(原審)】本件は、原告が本件著作権を有するとして、本件譲渡登録の登録名義人である被告に対し、原告が本件著作権を有することの確認を求めると共に、本件著作権に基づく妨害排除請求として、主位的に、本件著作物について原告に対する真正な登録名義の回復を原因とする著作権譲渡登録手続をすることを求め、予備的に、本件譲渡登録の抹消登録手続をすることを求めた事案です。

 本ケースの背景(前提事実)は、次のとおりです。


原告は、日本、アメリカ合衆国、その他の国において、「Von Dutch」の文字標章等を用いて、被服等を製造、販売するアメリカ法人であり、一方、被告は、韓国法人であるヴォンダッチオリジナル社の代表取締役を名乗り、「Von Dutch」の文字標章やFlying Eyeballと称される図柄より成る標章等を使用した被服等の日本への輸入、販売等に関与している者である。

ケネス・ハワードは、即興で様々なものにペインティングを施す「ピンストライピング」という技法を確立した者であり、本件著作物を創作し、これを自身の作品にサインとして用いるなどした。また、ケネス・ハワードは、自身の活動において、「Von Dutch」のニックネームを用いており、同人の作品は、本件著作物及び上記ニックネームと共に広く知られるようになった。

ケネス・ハワードは、平成4年(1992年)に死亡した。B及びCは、ケネス・ハワードの子であり、その相続人として、「VON DUTCH」及び「FLYING EYEBALL」のデザイン商標、「Flying Eyeball」のデザイン著作権、ケネス・ハワードの作品に関するシンボル、ロゴ、ドメイン名、その他ケネス・ハワードのすべての知的財産権を共同相続した。

B及びCは、平成12331日、株式会社上野商会との間で、次の内容の契約(以下「本件譲渡契約1」という。)を締結した。
 B及びCは、上野商会に対し、対価50万米ドルで、ケネス・ハワードの全知的財産権を譲渡する。
 
・上野商会は、B及びC、あるいはその指定する者に対し、対価50万米ドルを、次のとおり2回に分けて支払う。
  
@    40万米ドルから合意済みの経費、料金及び本件譲渡契約1に関連して売主に既に支払った金員を差し引いた金額をクロージング日(平成12331日又はその他当事者らの間で合意する日)に支払う。
  
A    10万米ドル(以下「本件留保金」という。)については、クロージング日から3年後に売主(B及びC)に対して支払う。

上野商会は、本件譲渡契約1に基づく対価の支払として、B及びCに対し、平成12331日に各10万米ドルずつ、同年410日に各10万米ドルずつをそれぞれ支払った。

上野商会と原告(当時の原告代表者は、Dである。)は、平成14515日、上野商会が原告又はその指名人に対し、総額40万米ドルの対価(50万米ドルから本件留保金相当額である10万米ドルを控除した残額)で、ケネス・ハワードの全知的財産権を譲渡することなどを内容とする契約(以下「本件譲渡契約2」という。)を締結した。

原告は、平成1464日、上野商会に対し、本件譲渡契約2に基づく対価40万米ドルを支払った。

本件著作権につき、被告名義の本件譲渡登録が存する

被告は、原告が本件譲渡契約1及び本件譲渡契約2により本件著作権の譲渡を受けたこと自体を争い、さらに、被告が平成1768日にB及びCから、ケネス・ハワードの全知的財産権の譲渡を受け(以下、この譲渡契約を「本件譲渡契約3」という。)、同年1125日には上記譲渡に基づき、本件譲渡登録を了したとして、原告が本件著作権を有することを争っている。


準拠法について

 
相続人が,その相続に係る不動産持分について,第三者に対してした処分に権利移転の効果が生ずるかどうかという問題に適用されるべき法律は,平成18年法律第78号による改正前の法例(以下「法例」という。)102項により,その原因である事実の完成した当時における目的物の所在地法であって,相続の準拠法ではない(最高裁平成638日第3小法廷判決)。上記判例の趣旨に照らせば,本件著作権の譲渡は,アメリカ合衆国カリフォルニア州で出生した同国国民であった亡ケネス・ハワードの相続財産の処分であるものの,本件著作権の譲渡について適用されるべき準拠法は,相続の準拠法ではない。
 
そして,著作権の譲渡について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては,譲渡の原因関係である契約等の債権行為と,目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し,それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。
 
著作権移転の原因行為である譲渡契約の成立及び効力について適用されるべき準拠法は,法律行為の準拠法一般について規定する,法例71項により,第1次的には当事者の意思に従うべきところ,著作権譲渡契約中でその準拠法について明示の合意がされていない場合であっても,契約の内容,当事者,目的物その他諸般の事情に照らし,当事者による黙示の準拠法の合意があると認められるときには,これによるべきである(東京高等裁判所平成13530日判決参照)。
 
本件についてみると,B及びCと上野商会との間の本件譲渡契約1については,同契約に係る契約書において,日本法を準拠法とする旨の合意(10条)が存するから,本件譲渡契約1については,日本法が準拠法となる。他方,B及びCと被告との間の本件譲渡契約3については,著作権登録申請書に添付された譲渡証明書(同書面には準拠法の記載がない。)が提出されているだけで,これに関する契約書の存在が明らかではなく,同契約中で準拠法についての明示の合意がされていると認めることはできない。しかしながら,本件譲渡契約3が,アメリカ合衆国国民であるB及びCが,韓国国民である被告に対し,我が国国内において効力を有する本件著作権を含むケネス・ハワードから承継した知的財産権を譲渡することを内容とするものであること,被告は,Eとの本件パートナーシップ契約に基づき,当時,日本国内において,「Von Dutch」ブランドに関する事業を行っていたこと,被告は,日本国内(大阪市内)に事務所を有していたことなどに照らすと,日本法を準拠法とする旨の黙示の合意が成立したものと推認するのが相当である。

 
【管理人注:上記部分は、控訴審で次のように変更されています(なお、変更箇所中「A及びB」とは上記「B及びC」と同一人物です):「本件についてみると,A及びBと上野商会との間の本件譲渡契約1については,同契約に係る契約書において,日本法を準拠法とする旨の合意(10条)が存するから,本件譲渡契約1については,日本法が準拠法となる。他方,A及びBと被控訴人との間で締結された旨被控訴人が主張している本件譲渡契約3については,準拠法に関する記載のない本件譲渡証明書及び単独申請承諾書以外には,同契約に関して締結された契約書等の書面は提出されておらず,準拠法についての明示の合意がされていると認めることはできない。しかし,被控訴人は,本件譲渡契約3について,アメリカ合衆国国民であるA及びBが,韓国国民である被控訴人に対し,我が国国内において効力を有する本件著作権を含むケネス・ハワードから承継した知的財産権を譲渡することを内容とするものである旨主張していること,被控訴人は,当時,日本国内において,「VON DUTCH」ブランドに関する事業を行っていたこと,被控訴人は,日本国内(大阪市内)に事務所を有していたことなどに照らすと,本件譲渡契約3の成否及びその効力については,日本法を準拠法とすることが,当事者の合理的意思に合致するものと認めるのが相当である。」】

 著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法は,保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である。すなわち,一般に,物権の内容,効力,得喪の要件等は,目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされる(法例10条)。その理由は,物権が物の直接的利用に関する権利であり,第三者に対する排他的効力を有することから,そのような権利関係については,目的物の所在地の法令を適用することが最も自然であり,権利の目的の達成及び第三者の利益保護という要請にも最も適合することにあると解される。著作権は,その権利の内容及び効力がこれを保護する国の法令によって定められ,また,著作権の利用について第三者に対する排他的効力を有するから,物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様に考えるべきである(前記東京高等裁判所判決参照)。
 
そして,本件著作物の著作者であるケネス・ハワードはアメリカ合衆国国民であったので,文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約3(1)()及び著作権法63項により,本件著作物は,我が国の著作権法の保護を受ける。
 そうすると,本件著作権の物権類似の支配関係の変動については,保護国である我が国の法令が準拠法となる

◆被告が,原告への本件著作権の移転につき対抗要件の欠缺を主張し得る法律上の利害関係を有する第三者であるか否かについて

 
[B及びCから上野商会への本件譲渡契約1について]
 
前記で認定した事実によれば,B及びCと上野商会とは,本件著作権について,その譲渡契約である本件譲渡契約1を有効に締結したものといえる。
 
そして,著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ちに生じるものとされている我が国の法令の下においては,本件譲渡契約1が締結されたことにより,本件著作権は,B及びCから上野商会に移転したものというべきである。
 
(略)
 
[B及びCから被告への本件譲渡契約3について]
 前記で認定した事実によれば,B及びCと被告とは,本件著作権について,その譲渡契約である本件譲渡契約3を有効に締結したものといえる。
 
そして,著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ちに生じるものとされている我が国の法令の下においては,本件譲渡契約3が締結されたことにより,本件著作権は,B及びCから被告に移転したものというべきである。
 
(略)
 
以上によれば,B及びCから上野商会に対する本件著作権の譲渡とB及びCから被告に対する本件著作権の譲渡とは二重譲渡の関係にあり,上野商会又はその転得者と被告とは対抗関係に立つものと認められる。
 
よって,原告が上野商会から本件著作権を承継していたとしても,我が国著作権法上,被告は,原告への本件著作権の移転につき,対抗要件の欠缺を主張し得る法律上の利害関係を有する第三者(著作権法77条)に該当するから,原告は,被告に対し,本件著作権の移転について登録(対抗要件)を了しない限り,本件著作権の移転を対抗することはできない。本件において,原告は,本件著作権の移転について登録を了していないから,被告に対する本訴請求はいずれも理由がない
 加えて,被告は,本件著作権の移転について,本件譲渡登録を了したから,我が国の著作権法上,被告に対する本件著作権の移転が確定的に有効となり,他方,原告は本件著作権を喪失することになるから,この点においても,被告に対する本訴請求はいずれも理由がない。

◆被告が背信的悪意者であるとの主張について

 原告は,…などを主張し,これらの事情に照らせば,被告は,原告が本件著作権の正当な承継者であることを熟知しながら,原告の努力によって培われた本件著作物の価値にただ乗りし,原告に本件著作権を高値で買い取らせるなどの意図をもって本件譲渡契約3を締結し,本件譲渡登録を経た,いわゆる背信的悪意者と評価されるべき者であり,本件著作権の移転登録の欠缺を主張するにつき,正当な利益を有する第三者に当たらない旨主張する。
 
(略)
 
…で述べたところによれば,本件証拠のみでは,被告が背信的悪意者であると断ずるには足りないものと言わざるを得ない。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。

【コメント(控訴審)】本件は、控訴人が、本件譲渡登録の登録名義人である被控訴人に対し、控訴人が本件著作物に係る著作権(「本件著作権」)を有することの確認を求めると共に、本件著作権に基づく妨害排除請求として、主位的に、本件著作物について控訴人に対する真正な登録名義の回復を原因とする著作権譲渡登録手続をすることを求め、予備的に、本件譲渡登録の抹消登録手続をすることを求めた事案です。

 
原判決は、@本件著作物を創作したケネス・ハワードの子であり、本件著作権を共同相続したA及びB(原審では「B及びC」と表示された者。以下同じ)から株式会社上野商会に対する本件著作権の譲渡と、A及びBから被控訴人に対する本件著作権の譲渡とは、二重譲渡の関係にあり、上野商会又はその転得者(控訴人)と被控訴人とは対抗関係に立つから、被控訴人は、控訴人への本件著作権の移転につき、対抗要件の欠缺を主張し得る法律上の利害関係を有する第三者(著作権法77条)に該当する、A控訴人は、被控訴人に対し、本件著作権の移転について登録(対抗要件)を了しない限り、本件著作権の移転を対抗することはできないところ、控訴人は、本件著作権の移転について登録を了していない、B被控訴人は、本件著作権の移転について、本件譲渡登録を了したから、被控訴人に対する本件著作権の移転が確定的に有効となり、他方、控訴人は本件著作権を喪失した、C被控訴人が背信的悪意者であるとは認められない、などと認定判断し、控訴人の請求をすべて棄却しました。控訴人は、これを不服として、本件控訴を提起しました。

 
控訴審では、次のような変更がありました。

A及びBは、被控訴人からの積極的な働きかけに応じて、平成1768日ころ、被控訴人にケネス・ハワードの全知的財産権(いかなる著作権や更新を含む。)を譲渡した旨の記載のある本件譲渡証明書に署名し、さらに、同年104日ころ、被控訴人が単独で著作権の登録申請を行うことについて承諾する旨の記載のある「登移転登録の単独申請の承諾」と題する書面(以下「単独申請承諾書」という。)に署名した。

被控訴人は、平成171125日、本件譲渡証明書及び単独申請承諾書に基づき、本件譲渡登録を了した。

なお、A及びB、被控訴人に対し、ケネス・ハワードの全知的財産権を譲渡することについて、同人から代金その他の対価を受領したことはない


【控訴審】

◆被告が,原告への本件著作権の移転につき対抗要件の欠缺を主張し得る法律上の利害関係を有する第三者であるか否かについて

 
本件譲渡契約3の成否について
 
本件譲渡証明書は,A及びBと被控訴人との間において,被控訴人がA及びBに代わって,アメリカにおいて生じていた,本件譲渡契約1をめぐるA及びBと上野商会間の紛争を処理するなどの目的で作成されたものであり,ケネス・ハワードの全知的財産権を移転する意思は存在しなかったものと認定するのが相当である。したがって,本件譲渡契約3(被控訴人が,A及びBから,本件著作権を含むケネス・ハワードの全知的財産権を譲り受ける旨の契約)は,譲渡に係る意思は存在しないのであるから,有効に成立していない。また,仮に,同契約が外形上成立していると見る余地があったとしても,虚偽表示により無効というべきである(民法941項)。
 
このように認定した理由は,以下のとおりである。
 
前記によれば,被控訴人の主張に係る本件譲渡契約3は,被控訴人が,A及びBに対し何ら対価の支払をすることなく,A及びBからケネス・ハワードの全知的財産権の譲渡を受けるという内容であったことが認められる。なお,本件譲渡証明書及び単独申請承諾書以外には,同契約に関して作成された契約書等の書面は提出されていない。
 
ところで,…に照らせば,ケネス・ハワードの全知的財産権は数千万円前後の価値を有するものとして取引されているということができる。
 
そうすると,本件譲渡契約3において,A及びBが,何らの対価の支払も受けることなく,被控訴人に対し,一方的に,ケネス・ハワードの全知的財産権を譲渡したとすることは経験則に反するというべきである。
 
前記によれば,被控訴人が本件譲渡登録を了した後に締結した本件サブライセンス契約では,被控訴人が,Dに対し,A及びBから許諾を受けたケネス・ハワードの全知的財産権の独占的実施権を再実施許諾することについて,被控訴人がA及びBの承諾を求める義務がある旨規定されていたことが認められる。
 
そうすると,被控訴人は,本件譲渡登録後も,A及びBからケネス・ハワードの全知的財産権の譲渡を受けたのではなく,ケネス・ハワードの全知的財産権がA及びBに留保されることを前提として,行動していたということができる。
 
前記によれば,被控訴人は,遅くとも平成1777日までに,A及びBから,本件譲渡契約1をめぐる上野商会との間の紛争に関して有するA及びBの権利の譲渡を受けたとして,上野商会に本件譲渡契約1を解除する旨通知し,同社及び控訴人に対する訴訟をアメリカの裁判所に提起したことが認められる(なお,A及びBから被控訴人に対する上記権利の譲渡に関し,契約書等の書面は提出されていない。)。そして,上記権利の譲渡とA及びBによる本件譲渡証明書の署名とは,時期的に密着したものと推認される。
 
以上の事情を総合考慮すると,A及びBは,被控訴人にケネス・ハワードの全知的財産権を譲渡するとの意思を有していたものではなく,被控訴人にアメリカにおける紛争の解決を託すべく,本件譲渡契約1をめぐる上野商会との間の紛争に関する権利を信託的に譲渡する目的で,本件譲渡証明書及び単独申請承諾書に署名したにすぎず,被控訴人も,A及びBからケネス・ハワードの全知的財産権の譲渡を受ける意思を有していたものではなく,本件譲渡契約1をめぐるA及びBと上野商会との間の紛争等を解決するための依頼を受けたにすぎないと認めるのが自然である

◆被控訴人が背信的悪意者であるか否かについて

 
前記のとおり,A及びBから被控訴人に対する本件著作権の譲渡はなされていないというべきであるが,念のため,仮にA及びBから被控訴人に対する本件著作権の譲渡があったとして,被控訴人が背信的悪意者であるか否かを検討する。
 
(略)
 …を総合考慮すると,被控訴人は,控訴人が本件著作権の正当な承継者であることを熟知しながら,控訴人の円滑な事業の遂行を妨げ,又は,控訴人に対して本件著作権を高額で売却する等,加害又は利益を図る目的で,A及びBに働きかけて本件譲渡証明書及び単独申請承諾書に署名させ,本件譲渡登録を経由したものと推認することができ,したがって,被控訴人は背信的悪意者に該当するものと認めるのが相当である。
 
以上によれば,被控訴人は,控訴人への本件著作権の移転につき,対抗要件の欠缺を主張し得る法律上の利害関係を有する第三者(著作権法77条)には該当しない。











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