著作権重要判例要旨[トップに戻る]







黙示の利用許諾を認定した事例(5)
「一橋大学博士論文事件」平成220329日知的財産高等裁判所(平成21()10053 

【コメント】本件は、被控訴人と共に「本件各原著」を共同執筆した控訴人が、被控訴人において、本件各原著の一部を控訴人に無断で使用して「被控訴人各論文」(「本件博士論文」の一部を構成するもの)を作成した上、経済学博士の学位請求のために本件博士論文を被控訴人の単独名義の論文として一橋大学に提出し、これを国立国会図書館等において一般の閲読に供させたことは、本件各原著に係る控訴人の著作権(複製権)及び著作者人格権(氏名表示権及び公表権)を侵害すると主張して、被控訴人に対し、被控訴人各論文の発行等の差止め、国立国会図書館等に対する被控訴人各論文の閲読禁止措置の申出、日本経済新聞への謝罪広告の掲載等を求めた事案です。

 
原判決は、被控訴人各論文をその一部に含む本件博士論文における本件各原著の複製及び本件博士論文を被控訴人の単独名義の論文として一橋大学に提出しこれを国立国会図書館等において一般の閲読に供させたことにつき、控訴人の承諾があったものと認め、控訴人の本件各請求をいずれも棄却したため、控訴人は、これを不服として本件控訴に及んだものです。 


 もっとも,原審における控訴人の供述は,承諾の事実を真っ向から否定するのに対し,これに対する被控訴人の供述は,承諾の事実を前提にするものの,その具体性に欠けるきらいもないわけではないが,…によれば,平成121120日,控訴人が被控訴人に宛てて送信した本件電子メールの文面は,「Y様:学会のときにちょっとお話しましたが,我々の共同論文2本(貴兄担当分と小生担当分)を,早いところ,どのジャーナルでも良いからpublishしてしまいませんか(高望みせずに)? publicationが宙ぶらりんですと,いつまでも貴兄の博士論文が出版できませんから。しばらくたっていますから,一度,お会いして,方針を決めたいと思いますが,ご都合は如何でしょうか。X」というものであって,被控訴人が本件博士論文を出版する前に,控訴人と被控訴人とで共同して本件各原著を出版することを提案しているものであって,その提案の前提として,被控訴人が本件博士論文を一橋大学に提出していることを理解し,かつ,本件博士論文が国立国会図書館等において一般の閲読に供されるものとなることを了承していたことも考慮に入れていることが,当該文面上から明らかであるばかりでなく,本件博士論文の提出については,控訴人に何ら異論がなかったことも明らかであるから,これをもってしても,控訴人において,被控訴人が本件博士論文に控訴人との共同研究に係る本件各原著を収録することを承諾していた事実を優に推認し得るものといわなければならない
 
(略)
 また,本件博士論文は,控訴人及び被控訴人による本件各原著のみならず,被控訴人,A教授及び控訴人による共同研究論文,被控訴人及びB教授による共同研究論文並びに被控訴人及びC教授による共同研究論文をも利用するものであるところ,被控訴人がA教授,B教授及びC教授からこれらの共同研究論文を本件博士論文において利用することにつき明示又は黙示の承諾を得ていることは,前記引用に係る原判決の認定するとおりであって,被控訴人が控訴人のみに承諾を求めないで本件博士論文に本件各原著を利用したと認めるべき特段の事情のない限り,本件各原著についても,控訴人にその利用の承諾を求めていたとの事実を推認させるばかりでなく,その承諾を得ていればこそ,本件博士論文に本件各原著を利用することになったものであると推認させるものということができるところ,その推認を妨げる特段の事情を認めるに足りる確たる証拠はない。
 
したがって,控訴人の当審における主張は,本件博士論文における本件各原著の利用を控訴人が承諾したとの上記推認を何ら左右するものではないといわざるを得ない。











相談してみる

ホームに戻る