著作権重要判例要旨[トップに戻る]







CSデジタル放送サービス事業者の注意義務
「中国ドラマCSデジタル放送事件平成210430日東京地方裁判所(平成20()3036/平成211028日知的財産高等裁判所(平成21()10044 

【コメント】本件は、原告(中国において放送事業を営むことを目的とする中国法人)が、電気通信役務利用放送事業者である「被告亜太」及びその委託を受けた「被告スカパー」が、原告が著作権を有するテレビドラマ(「本件ドラマ」)のCSデジタル放送(通信衛星(CS)を利用したデジタル多チャンネル放送)を行い、本件ドラマの著作権(公衆送信権)を侵害した旨主張して、被告らに対し、著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償を、被告亜太に対し、本件ドラマの放送の差止めを求めた事案です。

CSデジタル放送においては、次のようなプロセスを経て、放送番組が公衆によって受信される:@放送番組の制作・編集等(電気通信役務利用放送事業者が自己の放送番組の制作・編集等を行う)→A放送信号の圧縮符号化(電気通信役務利用放送事業者によって制作・編集等がされた放送番組の映像、音声の原信号(「ベースバンド信号」)は、通信衛星を通じて放送するために機械的に圧縮符号化される)→B放送信号の高次元多重化・変調処理(複数のチャンネルの信号が機械的に1本の放送波にまとめられ(高次元多重化)、1本となった放送波は機械的に通信衛星まで伝送可能な高周波の放送波に変調処理される)→Cアップリンク(変調処理された放送波は大型パラボラアンテナによって電気通信事業者が保有する通信衛星に向けて発射される)→Dダウンリンク(アップリンクされた放送波を受け取った通信衛星は受け取った放送波を地上に向けて打ち返す)→E各家庭での受信・視聴

本件CS放送サービスでは、被告スカパーが、電気通信役務利用放送事業者(「被告亜太」)から上記Aの業務の委託を、電気通信事業者であるジェイサットから上記B及びCの業務の委託をそれぞれ受けて行っていた。被告スカパーによる当該AないしCの業務(以下「放送番組送出業務」という。)は、ベースバンド信号を電気通信役務利用放送事業者から回線を通じて受信し、通信衛星へアップリンクするまで、機械的かつ同時的(リアルタイム)に行われており、電気通信役務利用放送事業者が放送番組のベースバンド信号を回線で被告スカパーに送信すると、リアルタイムで各家庭での同番組の受信・視聴が可能になる

被告スカパーは、被告亜太との間で、被告亜太が電気通信役務利用放送事業者として本件CS放送サービスで提供する放送番組に係る放送番組送出業務及び運用業務(顧客管理業務、広告宣伝等の普及促進業務等)を被告スカパーに委託する旨の委託契約(「本件委託契約」)を締結した。「本件放送」は、本件委託契約に基づいて、本件CS放送サービスの785チャンネルにおいて行われた有料放送である。

 
ここでの争点は、以上のような事実関係の下で、本件放送による本件著作権(公衆送信権)の侵害について被告スカパーに過失があるかどうか、という点です。


【原審】
 そうすると,本件放送のプロセスにおいて被告スカパーが行った放送番組送出業務は,上記のような機械的な処理であって,被告亜太が制作・編集した放送番組である本件ドラマの内容を公衆によって受信されることを直接の目的として行ったものとはいえないから,被告スカパーが本件放送の主体であると解することはできない
 次に,被告スカパーは,本件CS放送サービスを運営し,また,本件委託契約により,被告亜太から運用業務(顧客管理業務,広告宣伝等の普及促進業務等)の委託を受けていたのであるから,被告スカパーは,被告亜太が本件CS放送サービスの785チャンネルで提供する放送番組名や放送番組の内容の一部を認識していたものと認められる。
 
しかし,被告スカパーは,被告亜太が提供する放送番組の制作,編集等について関与していなかったことに照らすならば,被告スカパーが,被告亜太から運用業務の委託を受けていたからといって,個々の放送番組の具体的な内容やその著作権の帰属等について十分に知り得る立場にあったとまでいうことはできない。
 
また,本件放送がされた平成175月当時,本件CS放送サービスのチャンネル数は合計295であったこと,そのうち,785チャンネルだけをみても1日当たりの放送番組数は40数番組であったことに照らすならば,本件放送がされた当時の1日当たりの放送番組数はかなりの多数に及んでいたものと推認されるから,被告スカパーが本件CS放送サービスで放送される個々の放送番組の内容の詳細を把握し,当該放送番組を放送した場合に著作権侵害となるかどうかを調査,確認することは極めて困難であったことが認められる。
 
そうすると,被告スカパーは,個別の放送番組の放送前に,その内容に著作権侵害等の法令違反が存在することを現に認識し,あるいは,著作権者等関係者からの警告等を受けるなどして著作権侵害等の法令違反が存在する具体的な可能性を認識していた事情がある場合であれば格別,そのような事情のない場合には,個別の放送番組ごとに,その放送前に,当該放送番組が放送された場合に著作権侵害となるかどうかを調査,確認すべき注意義務を負うものではないと解される。
 
しかるに,本件放送について,被告スカパーが,その放送前に著作権侵害等の法令違反が存在することを現に認識していたことを認めるに足りる証拠はなく,また,被告スカパーは,本件放送前はもとより,本件放送がされた期間中も,原告から,本件ドラマの放送が本件著作権の侵害に当たる旨の通知あるいは警告を受けたことがなかったのであるから,被告スカパーにおいて,本件放送前に,本件ドラマが放送された場合に著作権侵害となるかどうかを調査,確認すべき注意義務を負っていたものということはできない。

【控訴審】

 
被告スカパーの本件ドラマの放送に係る事前調査確認義務等違反の有無
 
被告スカパーには,以下のとおり,本件ドラマの放送について,事前調査確認義務違反,無断放送防止義務違反の過失はない。
 すなわち,@電送機能を有する電気通信事業者である被告スカパーは,被告亜太との間で締結した本件委託契約に基づいて,被告亜太が電気通信役務利用放送事業者として本件CS放送サービスで提供する放送番組に係る放送番組送出業務及び運用業務の委託を受けたが,本件委託契約上,被告スカパーが当該放送番組の制作,編集等について関与することは想定されておらず,また,A本件放送のプロセスにおいて,被告スカパーが行った放送番組送出業務は,本件委託契約に基づいて,被告亜太から本件ドラマの信号(ベースバンド信号)を回線を通じて受信し,これを機械的に圧縮符号化し,電気通信事業者であるジェイサットからの委託に基づいて,圧縮符号化された信号を機械的に高次元多重化・変調処理し,ジェイサットの保有する通信衛星へ伝送可能な放送波にした上で,その放送波を通信衛星まで伝送したというものであり,被告亜太から受信した本件ドラマの信号(ベースバンド信号)を瞬時かつ機械的に処理してリアルタイムでそのまま通信衛星に向けて伝送したものである。
 
上記のような受託事業を実施している被告スカパーは,著作権者等(著作権等と主張する者を含む。)から,相当な期間を置いた上,個別的具体的な放送番組の内容(全部又は一部)について著作権侵害のおそれがある旨,しかるべき根拠を示した資料等に基づいて指摘,通知又は警告等がされたような場合はさておき,そのような特段の事情がない限り,電気通信役務利用放送事業者が本件CS放送サービスを通じて提供する個々の放送番組の内容等について,あらかじめ,個別具体的かつ直接的に把握した上で,当該放送番組に第三者の有する著作権の侵害があるか否かを調査確認する注意義務を負うことはないものと解するのが相当である。
 
そして,本件においては,上記のような特段の事情はないというべきであるから,被告スカパーは,事前調査確認義務違反,無断放送防止義務違反の過失があると認めることができない。











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