著作権重要判例要旨[トップに戻る]







国内放送海外視聴サービス提供事業者の侵害主体性
「ビデオデッキレンタルシステム『ロクラクU』事件」
平成210127日知的財産高等裁判所(平成20()10055等) 

【コメント】本件は、被控訴人(いずれも放送事業者)が、「ロクラクUビデオデッキレンタル」との名称で行う控訴人の事業は、ハードディスク・レコーダー「ロクラクU」21組のうち、日本国内に設置した1台でテレビ放送に係る放送波を受信・録画し、利用者に貸与又は譲渡した他の1台で当該利用者に日本国内で放送されるテレビ番組の視聴を可能にするサービス(「本件対象サービス」)であって、控訴人の同事業に係る行為は、被控訴人がそれぞれ著作権・著作隣接権を有し又は有していた「本件番組」・「本件放送」に係る音又は影像をそれぞれ複製する行為に該当するから、本件番組についての複製権、本件放送に係る音又は影像についての複製権をそれぞれ侵害するものであるとして、控訴人に対し、本件番組等を複製の対象とすることの差止め等を求めた事案です。

 
本件における最大の争点は、「控訴人による複製行為の有無(本件サービスにおいて控訴人は本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているか)」(「争点(1)」)です。この点、原判決は、本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行う者は控訴人であるものと認定しました。 


 当裁判所は,争点(1)について,控訴人が本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているものと認めることはできない,すなわち,控訴人の本件サービスは,利用者の自由な意思に基づいて行われる私的使用のための複製を容易にするための環境,条件等の提供行為にすぎないものと判断し,したがって,その余の各争点について判断するまでもなく,被控訴人らの請求は全部理由がないから,原判決中,控訴人敗訴部分を取り消した上,当該取消しに係る被控訴人らの請求及び附帯控訴をいずれも棄却するものである。
 
(略)
 
本件サービスの開始後における親機ロクラクの設置状況については,前記のとおり,当事者双方に争いのあるところであるが,仮に,被控訴人らが主張するとおり,親機ロクラクが控訴人の管理・支配する場所に設置されているとしても,次項において認定判断するとおり,本件サービスにおいて控訴人が本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製(以下「本件複製」という。)を行っているものと認めることはできないから,以下,当該設置状況については,利用者が親機ロクラクを自己の管理・支配する日本国内の場所(留守宅等)に設置することを選択した場合(以下「利用者が親機ロクラクを自己管理する場合」という。)を除き,すべて控訴人の管理・支配する場所に設置されているものと仮定して検討することとする。
 
被控訴人らは,@本件サービスの目的,A機器の設置・管理,B親機ロクラクと子機ロクラクとの間の通信の管理,C複製可能なテレビ放送及びテレビ番組の範囲,D複製のための環境整備,E控訴人が得ている経済的利益を総合すれば,控訴人が本件複製を行っていることは明らかである旨主張するので,以下,上記の事実関係等を前提に,本件サービスにおいて控訴人が本件複製を行っているものと認めることができるか否かについて,被控訴人らの上記主張に即して検討する。
 
[本件サービスの目的について]
 
(略)
 [機器の設置・管理について]
 
被控訴人らは,本件サービスにおいては,控訴人が,親機ロクラクとテレビアンテナ等の付属機器類とから成るシステムを一体として設置・管理している旨主張する。
 
しかしながら,被控訴人らが主張する上記事実は,控訴人が本件複製を行っているものと認めるべき事情たり得ない。その理由は,次のとおりである。
 
すなわち,本件サービスの利用者は,親機ロクラクの貸与を受けるなどすることにより,海外を含む遠隔地において,日本国内で放送されるテレビ番組の複製情報を視聴することができるところ,そのためには,親機ロクラクが,地上波アナログ放送を正しく受信し,デジタル録画機能やインターネット機能を正しく発揮することが必要不可欠の技術的前提条件となるが,この技術的前提条件の具備を必要とする点は,親機ロクラクを利用者自身が自己管理する場合も全く同様である。そして,この技術的前提条件の具備の問題は,受信・録画・送信を可能ならしめるための当然の技術的前提に止まるものであり,この技術的前提を基に,受信・録画・送信を実現する行為それ自体とは異なる次元の問題であり,かかる技術的前提を整備し提供したからといって直ちにその者において受信・録画・送信を行ったものということはできない。ところで,親機ロクラクが正しく機能する環境,条件等を整備し,維持するためには,その開発・製造者である控訴人において親機ロクラクを設置・管理することが技術上,経済上,最も確実かつ効率的な方法であることはいうまでもないところ,本件サービスを受ける上で,利用者自身が,その管理・支配する場所において親機ロクラクを自ら設置・管理することに特段の必要性や利点があるものとは認め難いから,親機ロクラクを控訴人において設置・管理することは,本件サービスが円滑に提供されることを欲する契約当事者双方の合理的意思にかなうものということができる。そして,そうであるからといって,前述したとおり,このことが利用者の指示に基づいて行われる個々の録画行為自体の管理・支配を目的とする根拠となり得るものとみることは困難であるし,相当でもない。
 
さらに,控訴人において親機ロクラクを管理する場合,控訴人においてその作動環境,条件等(テレビアンテナとの正しい接続等)を整備しない限り,親機ロクラクが正しく作動することはないのであるから,テレビアンテナ等の付属機器類を控訴人が設置・管理することも,本件サービスが円滑に提供されることを欲する契約当事者双方の意思にかなうものであることは前同様であるが,前同様の理由によりこれをもって利用者の指示に基づいて行われる個々の録画行為自体の管理・支配を目的とする根拠となり得るものとみることは困難であるし,相当でもない。
 
他方,本件サービスにおけるテレビ番組の録画及び当該録画に係るデータの子機ロクラクへの移動(送受信)は,専ら,利用者が子機ロクラクを操作することによってのみ実行されるのであるから,控訴人が親機ロクラクとその付属機器類を設置・管理すること自体は,当該録画の過程そのものに対し直接の影響を与えるものではない
 
そうすると,控訴人が親機ロクラクとその付属機器類を一体として設置・管理することは,結局,控訴人が,本件サービスにより利用者に提供すべき親機ロクラクの機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境,条件等を,主として技術的・経済的理由により,利用者自身に代わって整備するものにすぎず,そのことをもって,控訴人が本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない
 
[親機ロクラクと子機ロクラクとの間の通信の管理について]
 
(略)
 
[複製可能な放送及びテレビ番組の範囲について]
 
(略)
 
[複製のための環境整備について]
 
被控訴人らは,@本件サービスにおいては,子機ロクラクを用い,これが示す手順に従わなければ,親機ロクラクにアクセスしてテレビ番組の録画や録画されたデータのダウンロードを行うことができず,また,A控訴人は,親子機能を実現するための特別のファームウェアを開発して,これを親子ロクラクに組み込み,かつ,控訴人のサーバ等を経由することのみによって録画予約等が可能となるように設定しており,さらに,B親子ロクラクは,本件サービス又はこれと同種のサービスのための専用品とみることができる旨主張する。
 
しかしながら,これらの事情は,いずれも,利用者が親機ロクラクを自己管理する場合(控訴人が本件複製を行っているものとみることができない場合)であっても同様に生じる事態を指摘するものにすぎないから,これらの事情をもって,控訴人が本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない
 
[控訴人が得ている経済的利益について]
 
被控訴人らは,控訴人が,@初期登録料(3000円),A毎月のロクラクUのレンタル料(本件Aサービスにつき8500円,本件Bサービスにつき6500円),B毎月の「ロクラクアパート」の賃料(2000円)の名目で,利用者から本件サービスの対価を受領している旨主張する。
 しかしながら,本件サービスは,機器(親子ロクラク又は親機ロクラク)自体の賃貸借及び親機ロクラクの保守・管理等を伴うものであるから当然これに見合う相当額の対価の支払が必要となるところ,上記によれば,上記@及びAの各金員は,録画の有無や回数及び時間等によって何ら影響を受けない一定額と定められているものと認められるから,当該各金員が,当該機器自体の賃料等の対価の趣旨を超え,本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価の趣旨をも有するものとまで認めることはできず(なお,被控訴人NHKの番組を視聴する場合には,上記の料金とは別に受信契約の締結が必要となる旨控訴人サイトに記載されている。),その他,当該各金員が本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価の趣旨をも有するとまで認めるに足りる証拠はない。
 また,仮に,控訴人が上記Bの金員を受領しているとしても,それが,「ロクラクアパート」の賃料の趣旨を超え,本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価の趣旨をも有するとまで認めるに足りる証拠はない。
 
以上からすると,控訴人が上記@ないしBの各金員を受領しているとの事実をもって,控訴人が本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価を得ているものということはできない
 
以上のとおり,被控訴人らが主張する各事情は,いずれも,控訴人が本件複製を行っているものと認めるべき事情ということはできない。
 
加えて,上記のとおりの親子ロクラクの機能,その機能を利用するために必要な環境ないし条件,本件サービスの内容等に照らせば,子機ロクラクを操作することにより,親機ロクラクをして,その受信に係るテレビ放送(テレビ番組)を録画させ,当該録画に係るデータの送信を受けてこれを視聴するという利用者の行為(直接利用行為)が,著作権法301項(同法1021項において準用する場合を含む。)に規定する私的使用のための複製として適法なものであることはいうまでもないところである。そして,利用者が親子ロクラクを設置・管理し,これを利用して我が国内のテレビ放送を受信・録画し,これを海外に送信してその放送を個人として視聴する行為が適法な私的利用行為であることは異論の余地のないところであり,かかる適法行為を基本的な視点としながら,被控訴人らの前記主張を検討してきた結果,前記認定判断のとおり,本件サービスにおける録画行為の実施主体は,利用者自身が親機ロクラクを自己管理する場合と何ら異ならず,控訴人が提供する本件サービスは,利用者の自由な意思に基づいて行われる適法な複製行為の実施を容易ならしめるための環境,条件等を提供しているにすぎないものというべきである。
 
かつて,デジタル技術は今日のように発達しておらず,インターネットが普及していない環境下においては,テレビ放送をビデオ等の媒体に録画した後,これを海外にいる利用者が入手して初めて我が国で放送されたテレビ番組の視聴が可能になったものであるが,当然のことながら上記方法に由来する時間的遅延や媒体の授受に伴う相当額の経済的出費が避けられないものであった。しかしながら,我が国と海外との交流が飛躍的に拡大し,国内で放送されたテレビ番組の視聴に対する需要が急増する中,デジタル技術の飛躍的進展とインターネット環境の急速な整備により従来技術の上記のような制約を克服して,海外にいながら我が国で放送されるテレビ番組の視聴が時間的にも経済的にも著しく容易になったものである。そして,技術の飛躍的進展に伴い,新たな商品開発やサービスが創生され,より利便性の高い製品が需用者の間に普及し,家電製品としての地位を確立していく過程を辿ることは技術革新の歴史を振り返れば明らかなところである。本件サービスにおいても,利用者における適法な私的利用のための環境条件等の提供を図るものであるから,かかるサービスを利用する者が増大・累積したからといって本来適法な行為が違法に転化する余地はなく,もとよりこれにより被控訴人らの正当な利益が侵害されるものでもない。
 
したがって,本件サービスにおいて,著作権法上の規律の観点から,利用者による本件複製をもって,これを控訴人による複製と同視することはできず,その他,控訴人が本件複製を行っているものと認めるに足りる事実の立証はない。
 
なお,クラブキャッツアイ事件最高裁判決は,スナック及びカフェを経営する者らが,当該スナック等において,カラオケ装置と音楽著作物たる楽曲が録音されたカラオケテープとを備え置き,ホステス等の従業員において,カラオケ装置を操作し,客に対して曲目の索引リストとマイクを渡して歌唱を勧め,客の選択した曲目のカラオケテープの再生による演奏を伴奏として他の客の面前で歌唱させ,また,しばしば,ホステス等にも,客とともに又は単独で歌唱させ,もって,店の雰囲気作りをし,客の来集を図って利益を上げることを意図していたとの事実関係を前提に,演奏(歌唱)の形態による音楽著作物の利用主体を当該スナック等を経営する者らと認めたものであり,本件サービスについてこれまで認定説示してきたところに照らすならば,上記判例は本件と事案を異にすることは明らかである。

 ⇒最高裁判例参照











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