著作権重要判例要旨[トップに戻る]







デザイン発注者の過失責任を認定した事例
胃腸薬パンシロン図柄使用事件」平成110708日大阪地方裁判所(平成9()3805 

【コメント】本件は、「原告著作物」の著作者(訴外【C】・フランス国籍)が1968年に死亡し、同人の権利は、同人の子に相続により承継され、さらにその子である原告により相続により承継されたところ(従って、現在、原告が原告著作物の権利者である)、被告が販売を開始した胃腸薬「パンシロントリム」(「被告医薬品」)の包装箱及び同箱に収められた薬効・使用説明書に、原告が原告著作物の複製ないし二次的著作物であると主張する「被告図柄」が印刷使用等されたとして、被告に対し著作権侵害に基づく損害賠償の請求等を求めた事案です。

 
本ケースにおいては、次のような事実関係がありました。

被告はデザイン会社であるコア・グラフィスに対し、契約にて、被告医薬品のパッケージ、ラベル、パンフレット等のデザインの作成を委託した。

コア・グラフィスの代表者であるEは、ペンタグラム社から発行されていた「IDEAS ON DESIGN」というデザイン集に所載の【F】画を参考にして被告図柄を作成した。当該デザイン集には、「All rights reserved C Pentagram Design Limited 1986」との表示があった。このデザイン集には、【F】画が掲載されている同じページの左肩部分に原告著作物Cが登載されており、その下に【F】画の説明として、「ロンドンのデザイナーズ アンド アートディレクターズ協会の21周年記念に再登場。昔のデュボネの広告でおなじみのキャラクターで、すでに引退していたのだが、盛装してお祝いに。オリジナルのアーティストは、【C】。この新キャラクターも、大切なグラスを手離していないことに、彼が満足してくれるといいのだが。」と記載されている。

コア・グラフィスの代表者であるEは、被告図柄を【F】画を参考にして作成したことから、その著作権表示主体であるペンタグラム社の著作物使用許諾を得るべく、国内外の著作物使用許諾に関する交渉業務や著作権調査業務を行っているピーピーエス社に対し、ペンタグラム社から【F】画の使用許諾を得るよう交渉を依頼した。そこでピーピーエス社は、ニューヨークにある子会社(パシフィック・プレス・サービス)を通じてペンタグラム・ニューヨークに使用許諾交渉を行い、さらにペンタグラム・ロンドンにも確認を取ったところ、ファックスにて、ペンタグラム社からパシフィック・プレス・サービスに対して、「デザイナー・アンド・アート・ディレクターズ協会のためのペンタグラムのデザインは、デュボネのオリジナルを借りたものであり、我々は、イメージ又は著作権について、権利を持っていません(We do not have any claim to the image or copyright)」との回答があった。これに対して、ピーピーエスの担当者であるGから、Eには、口頭で、使用許諾が得られた旨の回答があり、その後の請求書にて、「ペンタグラムイメージ借用許可リサーチフィー」として、3900円の請求がなされ、「当社小会社Pacific Press NYのHが電話にてOKを確認(ペンタグラムNYがペンタグラムロンドンに確認しOKとなる)」との添書がなされた。Eは、Gに対し、当該請求金額以外にペンタグラムへの著作物使用料の支払の要否を尋ねたところ、それ以上は不要である旨の回答があった。

被告は、Eに対し、被告図柄を最終的に採用するに当たり、当該デザインが第三者の著作権等を侵害することがないかどうか確認をとったところ、Eは、上記の結果を踏まえて、問題がない旨回答した。なお、被告には、Eがペンタグラム社のデザイン集所載の【F】画を参考にして被告図柄を作成したことは伝えられておらず、被告の側では特にEに確認することなく、被告図柄が同人のオリジナル作品であると考えていた。

そこで、被告とコア・グラフィスとの間で、被告医薬品に関する商品及びパンフレット等のデザイン作成を被告がコア・グラフィスに委託する旨の契約が締結された。その中では、当該デザインに関して第三者から著作権侵害等の訴えが提起された場合、被告が指示した商品名及びキャッチコピーに関する問題は被告が、その他のデザインに関する問題はコア・グラフィスが責任を持って解決し、相手方に累を及ぼさない旨の条項が設けられた。また、Eには、デザイン料として100万円ないし200万円程度の定額の対価が支払われた。

しかし、被告医薬品に被告図柄を使用するについて、原告に対する原告著作物の使用許諾手続はとられていなかった。また、Eは、ピーピーエス社に対して、ペンタグラム社から【F】画の使用許諾を得るよう求めただけであり、原告から原告著作物Cの使用許諾を得るよう求めたことはなかった

 
なお、本ケースにおいて、被告の過失の有無を判断する前提として、裁判所は、「被告図柄を被告医薬品の包装箱等に使用した被告の行為は、二次著作物に関する原告の複製権(著作権法28条、21条、11条)を侵害したものというべきである」と認定しています。
※「原告著作物C」→(依拠・複製)→「【F】画」→(依拠)→被告図柄
 =「被告図柄は、少なくとも原告著作物Cの二次著作物というべきである」→「被告図柄を被告医薬品の包装箱等に使用した被告の行為は、二次著作物に関する原告の複製権を侵害したものというべきである」 


 以上認定の事実に先に認定した事実を併せ考慮すれば、Eが参考にした乙1には、【F】画と共に原告著作物Cが掲載されており、その頁には【F】画のオリジナルは右原告著作物である旨の説明文もあるのであるから、たとえEが直接参考にしたのが【F】画のみであっても、右原告著作物と類似する被告図柄を作成し、使用するに当たっては、【F】画に関するペンタグラム社の使用許諾のみならず、右原告著作物に関する権利者の使用許諾をも得ることが必要であると気付くことは可能かつ容易であり、そのための措置を講じる注意義務があったというべきである。したがって、それにもかかわらずEは、ピーピーエス社に対し、ペンタグラム社に対する使用許諾を依頼したに過ぎず、原告に対する使用許諾については何ら措置を講じなかったのであるから、Eには過失があるというべきである。
 
この点について被告は、ピーピーエス社は著作権処理の専門業者であり、Eはそのピーピーエスに対して著作権の帰属の調査と使用許諾の取得について依頼し、使用許諾が得られた旨の回答を受け取ったのであるから、Eに過失はないと主張する。確かにペンタグラム社からピーピーエス社になされた回答書の内容に照らせば、GがEに対して単に使用許諾が得られた旨の連絡をしたにとどまるというのは不可解な面もあるが、そもそもEがピーピーエス社に対して依頼したのは、【F】画についてペンタグラム社の使用許諾を得ることのみであって、原告から使用許諾を得るための依頼はしていないのであるから、ペンタグラム社の関係で使用許諾が得られた旨の連絡を受けて、それによってすべての著作権関係の使用許諾が得られたと判断した点においてすでにEには過失があるというべきである。
 
以上を前提に、被告の過失について検討する。
 
この点について被告は、自らは単なるデザインの発注者にすぎず、デザイナーのEが何を参考として被告図柄を作成したものかは知らなかったし、Eからは被告図柄が第三者の著作権を侵害するものではないことを確認することに加え、万一、第三者から著作権侵害を理由とする訴えが提起された場合には、すべてコア・グラフィスが責任を負うこととしたのであり、被告としては、これ以外に著作権に関する確認の方法を持っておらず、被告の立場においてなすべき注意はすべて尽くしたと主張する。
 
そこで検討するに、まず、本件で被告図柄を作成したのはコア・グラフィスであり、原告著作物Cの二次著作物を作成してデザイン料を得るためには、コア・グラフィス自身、自らのために、原告著作物Cに関する使用許諾を得るべき立場にある。しかし、さらに、コア・グラフィスが作成した被告図柄を大量に複製して使用するのは被告自身なのであるから、被告もまた、被告図柄を被告医薬品に使用するに当たって、自ら他人の著作権を侵害しないよう調査し、場合によっては使用許諾を得る措置を講じる注意義務を負っているというべきである。もちろん、被告が右注意義務を尽くすに当たっては、第三者に委託することも差し支えなく、本件ではそれがコア・グラフィスに委託されていると見られるわけであるが、右に述べたところからすれば、コア・グラフィス(E)が著作権侵害の有無を調査し、使用許諾を得るための措置を講じる行為は、自己の注意義務を尽くすための行為であるとともに、被告の注意義務を尽くす行為を被告から委託を受けて代行するという性質も有するものであるから、被告は、コア・グラフィス(E)が右行為を行うに当たって、しかるべき注意を尽くすよう指揮・監督すべき義務があると解すべきである。
 この点について被告は、コア・グラフィスは外部の独立したデザイン会社であり、コア・グラフィスに対して何ら指揮権や支配権を持っていないと主張するが、右に述べたところからして採用できない。
 
しかるところ、デザイン会社がパッケージ等のデザインを行うに当たって、他人のデザインを参考にするのは一般にあり得ることであり、だからこそ被告もEに対して被告図柄が第三者の著作権を侵害することはないかとの確認をしたものと考えられるのであるが、前記認定事実によれば、被告は、わずかに右の点を簡単にEに確認したにとどまり、それ以上にEがどのようなデザインに依拠して被告図柄を作成し、どのような著作権の使用許諾手続をとったのかといった点について、何ら確認・調査していないことが認められるのであるから、被告は尽くすべき注意義務を尽くしていないといわざるを得ない。
 
この点について被告は、契約書において、被告図柄が第三者の著作権を侵害した場合の責任はコア・グラフィスが負う旨の条項があることを指摘するが、これは被告とコア・グラフィスとの間でのみ意味を持つにすぎず、著作権者に対する関係で注意義務が軽減されることの根拠となり得るものではない
 
以上より、被告には、被告商品の包装箱等に被告図柄を使用して原告の著作権を侵害するについて、過失がある











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