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写真フィルムの所有権の帰属が問題となった事例(2)
「雑誌『サライ』掲載写真デジタル化事件」平成190530日東京地方裁判所(平成17()24929 

【コメント】本件は、フリーランスの写真家である原告が、被告からの依頼に基づき、被告発行の雑誌「サライ」のために、設定されたテーマに従って撮影した写真のポジフィルムを被告に交付していたところ(原告が被告に交付したポジフィルムを「本件交付ポジフィルム」という。)、被告が、本件交付ポジフィルムの一部を紛失したことにより、原告の当該ポジフィルムについて有する所有権を侵害したと主張して損害賠償金等の支払を求めたのに対し、被告が、本件交付ポジフィルムの所有権は、当初より被告に帰属し、原告に帰属していないとして、所有権侵害を否認して争った事案です。 

 以上の事実に基づいて検討すると,原告が,ポジフィルム購入時点から,本件交付ポジフィルムの所有権を取得していたものと認められ,当初より被告が所有していた旨の被告主張を採用することはできない。理由は,以下のとおりである。
 
まず,原告と被告間において締結された,原告が写真を撮影し,撮影された写真が写されているポジフィルムを被告に引き渡すことを内容とする合意の法的性質が,原告が主張するような準委任契約であるのか,被告が主張するような請負契約であるのかについては,その合意の法的性質によって,直ちにポジフィルムの所有権の帰属が導かれるものではないことから,この点をひとまず措くとして,上記合意は,写真という著作物をポジフィルムの形で引き渡すことを内容とするものであり,ポジフィルム自体の所有権と,そこに化体されている著作物である写真の著作権とが別個に考えられるのであるから,費用の負担状況,サライ掲載後の報酬等の支払などの諸事情を考慮した上,原告と被告間の合意において,ポジフィルム自体の所有権をいずれに帰属させることを内容としていたのかを合理的に解釈するのが相当である。
 
そこで,原告と被告間の取引についてみると,上記のとおり,被告は,フィルム代及び現像代,交通費,打合せ飲食費等の費用について,原告から請求された金員を経費として支払っていたのであるが,実際に納品された具体的なポジフィルムとの関係で,原告がすべてのフィルム代を請求し,これが支払われていたか否かは,必ずしも判然としない。
 また,上記のとおり,当該写真がサライに掲載された場合には,1頁当たり25000円,表紙に掲載された場合には,5万円が,原告に対して支払われたが,これらの支払は,写真の掲載量を基準にした支払であること,上記金額は,二次使用又はそれ以上の複数回の使用を予定して設定されていると考えられる,被告提供に係る「小学館フォトサービス(SPS)」の使用料金額(雑誌での使用について15750円,ポスターやカレンダーでの使用について51500円)とほぼ同程度であること,原告が,第三者からサライ掲載写真1点についての二次使用の申入れを受けた際に,許諾料として4万円の提示が原告にされ,原告も了承したことなどに照らせば,上記支払金額は,写真の著作物の複製許諾料(複製許諾の対価)であったと考えるのが相当である。
 
そして,著作物についての著作権と所有権とは,別個に帰属し得るものであるが,著作権者は,当該著作物の所有権を有しない場合,保有する著作権の行使において,事実上,大幅な制約を受けることになるのであるから,当該著作物が,二次使用等が予想される写真の著作物である場合,上記制約を受ける著作権者に対する対価,報酬等の有無なども,所有権の帰属に関する当事者の意思を検討する際の考慮要素になると考えられる。原告と被告間の合意においては,経費としての支払と,上記のとおり,掲載された場合の許諾料の支払があるものの,それ以上に,ポジフィルムの所有権が被告に帰属することを考慮した,対価,報酬等の金員の支払がされたとは認められず,上記の各支払が当該趣旨を含むことをうかがわせる事情も認められない。
 
さらに,被告は,平成151110日以降,原告から,度々,本件交付ポジフィルムの返還要求を受け,その都度,倉庫を探すなどして対応に努め,原告に対し,返還が遅れたことを詫びるなどした上,自らの所有物であること等を何ら告げずに当該ポジフィルムを返還しているところ,このような被告の対応は,本件交付ポジフィルムの所有権が被告にあるとの認識とは明らかに相反するものといえる。…
 
なお,本件契約書の条項においては,上記のとおり,納品されたポジフィルムを被告においてどのように管理するかについて,あらかじめ写真家の了承を得ることが明確な合意内容とされていることからすると,被告の内部においても,同ポジフィルムの所有権が当然に被告にあるとの共通の認識が形成されていなかったことがうかがえるところである。
 
以上からすれば,原告と被告間で,原告がポジフィルムを購入した時点よりその所有権を被告に帰属させる旨の合意が形成されていたものとは認められず,そうであれば,原告は,当該ポジフィルムを購入した時点において,その所有権を取得しているのであり,そこに,自らの写真による表現を化体して,本件交付ポジフィルムとしていると解されるから,本件交付ポジフィルムの所有権は,原告に帰属すると認めるのが相当である。
 
(略)
 
この被告の行為(管理人注:本件交付ポジフィルムの一部を紛失したこと)は,原告の本件紛失ポジフィルムについての所有権を侵害する不法行為を構成するものと認められる。











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