著作権重要判例要旨[トップに戻る]







学術的な書籍全体の翻案性が問題となった事例
「書籍『企業主義の興隆』vs.『ヒューマン・キャピタリズム』事件」
平成120128日東京地方裁判所(平成7()23527/平成130328日東京高等裁判所(平成12()1268 

【原審】

 被告書籍全体による原告書籍全体の翻案
 
右のとおり、被告書籍全体を原告書籍全体と対比したとき、両書籍には着想において共通する部分が存在するが、両書籍の各主題は必ずしも同じではなく、それぞれの主題の位置づけ及び論述の構成も異なる。
 
さらに、右のとおり、各対比箇所ごとの対比においても、被告の論述が原告の論述の翻案であると認められる部分は存在しない。
 
したがって、全体として両書籍の表現形式は異なるというべきであり、このことに…を総合すると、被告書籍は、原告書籍の成果をその基礎の一部とするものではあるが、全体として全く別の著作物であり、被告書籍が原告書籍の翻案であるとは認められない。

【控訴審】

 控訴人書籍全体としての翻案権の侵害について
 
[2-1]控訴人書籍と被控訴人書籍が、日本の企業経営の現状を一つの経済体制ととらえ、これを人間重視の視点から「企業主義」又は「ヒューマン・キャピタリズム」と表現して、それぞれの主題とし、外国の企業経営や資本主義及び社会主義との比較、検討を行っているなどの点で共通点が見られる一方、具体的な章立て及び論述の順序、構成等を異にしていることは、原判決記載のとおりであるから、これを引用する。
 
[2-1]控訴人は、控訴人書籍のような経済学の論文の翻案権の侵害の成否に関しては、ある学説を説得的に展開するための例示の仕方や論理展開の仕方等が問題とされるべきであるとし、具体的には、46箇所の対比箇所をたどることで、控訴人書籍の基本的枠組みが浮かび上がり、被控訴人書籍がその翻案であることが明らかとなる旨主張する。
 
確かに、控訴人書籍は、控訴人も序文で自認するように、いわゆるアカデミズムの立場での経済学論文とはいえないものの、日本の企業体制について、諸外国の企業体制との対比、歴史的な成り立ちの検討等を通じて分析を加え、筆者なりの視点からの特徴点を提示するとともに、その理論的な説明の体系化を試みたものということができ、日本経済ないし日本社会に関する学術論文と位置づけることができる。そして、その論理展開の特徴として、控訴人の通商産業省(当時)における勤務等を通じて得た知見に基づく具体例を豊富に提示している点を挙げることができる。
 
このような控訴人書籍の性格にかんがみ、本件において、被控訴人書籍が控訴人書籍の翻案であるというためには、控訴人書籍中で一定の結論を導くための具体例等として記述された個別の記述部分を取り上げて被控訴人書籍の記述部分と対比した上で、当該記述内容を前後の文脈及び書籍全体の論理展開の中に位置づけ、分析の切り口、事実の提示、その評価、結論に至る論理の運び等の総体としての創作性において、その表現形式上の本質的な特徴を被控訴人書籍が備えるかどうかを判断し、被控訴人書籍から控訴人書籍の著作物としての表現形式上の本質的な特徴を直接感得することができることを要するというべきである(最高裁昭和55328日第3小法廷判決参照)。そして、個別の記述内容それ自体を対比しても共通点が見いだせなかったり、共通点があっても、その論理展開上の位置づけが全く異なっていたり、その論理展開がごくありふれたものとして学術に属する著作物としての創作性を基礎づけるに足りない場合には、被控訴人書籍から控訴人書籍の著作物としての表現形式上の本質的な特徴を直接感得することはできないといわなければならない。
 
そこで、以下、このような観点に基づいて、控訴人の主張に係る46箇所の対比箇所について、@表現内容の共通性の有無及び程度、A共通する表現内容の前後の文脈ないし書籍全体における論理展開上の位置づけの類似性並びにB当該共通する表現内容及びその論理展開が著作物としての創作性を基礎づけるに足りるものかどうかについて、下記[2-3]において個別に検討し、さらに、これらの対比箇所ごとの検討結果を踏まえた書籍全体としての翻案権の侵害の成否を下記[2-4]で総合的に検討することとする。
 
[2-3]対比箇所に係る記述部分の論理展開上の位置づけの検討
 
(略)
 
[2-4]以上の検討に基づき、書籍全体としての翻案権の侵害の成否について検討する。
 
上記[2-3]のとおり、控訴人の指摘する全46箇所の対比箇所について、その前後の文脈及び書籍全体の論理展開上の位置づけを検討しても、その大部分は、当該記述自体において共通した内容を見いだせないか、又は、共通点があったとしても、論理展開上の位置づけが全く異なるものというべきである。共通する内容の記述がほぼ同一の論理展開の中に位置づけられている記述部分についても、他の同様の書籍に同様の視点からの分析が示されていたり、控訴人書籍の著作当時既に活発に議論されていたテーマに関するありふれた着眼点からの記述であって、控訴人書籍の創作的な特徴を示すものということはできない。なお、対比箇所Nの中世の日本武士の習慣に触れた例証が比較的独創性の高い記述であることは前示のとおりであるとしても、控訴人書籍において重要性の乏しい記述部分にすぎず、さらに、前示認定の両書籍の主題や章立て等の相違も併せ考慮すると、他の対比箇所における上記のような共通点等を総合しても、被控訴人書籍が控訴人書籍の学術に属する著作物としての表現形式上の本質的な特徴を備えるということはできないというべきである。
 
よって、書籍全体としての翻案権の侵害をいう控訴人の主張は理由がないというべきである。











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