著作権重要判例要旨[トップに戻る]







原画に着色したものの二次的著作物性
「絵本『地球の秘密』着色事件」平成211022日大阪地方裁判所(平成19()15259 

【コメント】本件で問題となった「文化社版」の作成経緯は、概ね次のとおりです。

[本件原画]→([P4ノート])→[英語版(最初の着色:水彩画)][財団版(水彩画)][文化社版(パステル画)]

P4は、平成31225日、地球環境問題をテーマとした絵本の線画(本件原画)を完成させ、一部に色鉛筆で彩色を施したが、同月27日死亡した(当時12歳)。

被告夫妻(P4の両親)が、本件原画のコピーを同級生や教師に配付したところ、環境教育に有益であるとして、平成42月、H町教育委員会において冊子にしたもの(P4ノート)を作成し、町内の学校に配付するようになった。その後、P4ノートは評判となり、全国に配付されるようになった。

海を救おうキャンペーン実行委員会は、P4ノートの存在を知り、平成45月に国連本部で開かれる地球サミット世界子供環境会議で展示することを計画した。P4ノートは一部にしか彩色されていなかったため、本件原画を元に、着色することとなり、P5らが水彩で着色したもの(水彩原画)を作成し、これを製本出版した(英語版)。

地球環境平和財団は、英語版で使用した上記水彩原画をもとに、日本語版を出版した(この財団出版物の原画である日本語版水彩原画を「財団版」という)。

英語版や財団版は、日本国内外において高い評価を受け、その一部のカットが、平成4年版環境白書の表紙に使用されたり、教科書や参考書、試験問題の題材として採用されたりした。

被告P2P4の母親)は、かねてから、P4の作成した本件原画を元にした本を書店や図書館に置けるものにしたいという希望を有していた。また、財団版の表紙の表現に不自然な点(木の幹が白であることなど)や矛盾した点(地平線の下に雲があることなど)や、P4ノートの当初の彩色(P4自らの着色)を忠実に再現できていない箇所があると感じていた。そのため、被告P2は、改めて、P4の意図した配色を推測、尊重した上、本件原画を着色し直し、出版したいと考えていた。そうしたところ、被告出版文化社から、財団版を元にして新たな絵本を出版する企画を持ちかけられ、これに応じることとした。

被告出版文化社の出版企画事業部長であるP6は、デザイン関係の業者を数名あたった後、原告を紹介され、平成169月、原告に電話を掛け、着色作業を依頼した。そして、平成161013日から同月19日にかけて、本件原画の線画のコピーにパステルによる着色作業が行われ、新たな版のためのパステル原画が作成された

被告出版文化社は、平成161225日、上記パステル原画に解説文やP4の写真などを掲載したものを出版した(この文化社出版物の原画であるパステル原画を「文化社版」という)。なお、文化社出版物の奥付には、「著者P4」「制作・監修P2」と記載されていた。 


 原告は,文化社版は,わずかしか彩色されていないP4ノートの原画のコピーに,原告が着色して作成されたものであるから,文化社版は,P4ノートの二次的著作物であると主張する。
 
たしかに,文化社版は,前記のとおり,P4ノートの原画のコピーに原告が着色したものであるが,前記のとおり,P4ノートの原画から,全く,独自の着色を行うものではなく,財団版の着色を元にして,これを改めて着色し直そうとするものであったことが認められ,そのことは,一見して,文化社版と財団版の配色の多くが一致していることからも裏付けることができる。
 
したがって,文化社版がP4ノートを原著作物とするものであったとしても,文化社版の創作性の有無については,原告の着色行為により,財団版に対して創作性が付加されたか否かが検討されるべきである。
 
(略)
 
財団版と文化社版の表紙だけをみても,これまでに検討した以外に,微妙な色彩の相違点を認めることができる。しかし,これらの僅かな相違点が,着色の技法に基づくもので,しかも,その技法が特別なものではない限り,これらの相違点をもって,新たな創作性の付加があったと認めることはできないというべきである(被告夫妻が,改めて別のイラストレーターに本件原画への着色を依頼し,パステルを画材として選択し,文化社版の作成と同じ方針により着色しようとした際,文化社版と同一もしくは類似の彩色が一切できなくなってしまうことは不合理というべきである。)。
 
また,文化社版の着色においては,原告の着色行為の前提となった配色は,基本的に財団版の配色を踏襲するという方針に従っており,しかも,この方針は,原告が自ら定めたものではなく,被告P2の強い意向であったことが認められ,この方針の範囲内に入る着色行為については,原告の創作性の付加を認めることができない
 
原告としては,前記方針を超えた部分において,その個性を現すことにより,創作性を付加した部分に限り二次的著作物としての著作権の発生を認めることができるが,そのような箇所の主張,立証はない。
 
(略)
 また,原告は,柔らかい質感にするため,パステルを使用し,さらに本件原画の線を生かすようにしたと主張する。画材の選択や,画材を使用するにあたっての技法が,創作意図をよく表現することができているとしても,特別な画材を使用しているわけでなく,通常の技法にとどまる限り,これらの事実のみをもって,新たな創作性の付加があったと認めることはできない
 
(略)
 
文化社版の着色に際し,パステルを選択することを発案したのが,原告であるか被告P2であるかについて,争いがあるが,前記で述べたとおり,文化社版の着色にあたっては,財団版の配色を基本とし,不自然な箇所などを修正し,できるだけ,P4ノートを忠実に再現し,P4の遺志を実現することを目的していたことが認められる。
 そして,P4ノートの着色は,一部ながら,色鉛筆で着色されていたことからすると,これを市販の絵本とするために,P4ノートの原画に着色するにあたり,色鉛筆による色調に比較的類似するパステルを選択するということは,上記事情を前提とする限り,ありふれた画材の選択というべきであって,パステルを選択したのが仮に原告の発案であったとしても,そのことにより新たな創作性が付加されたということはできない
 
たしかに,パステルを選択したことにより,ふんわりとした感じが出ており,文化社版の方が,財団版に比べ,P4の思想にふさわしい色彩表現となったということは可能である。また,被告P2自身が,そのできばえについて,満足していたことからも窺える。しかし,このような効果は,パステルという画材を選択し,プロのイラストレーターである原告が,従来からある技法を駆使して着色したことによるものであり,通常得られる効果の範囲を超えるものとはいえず,そこに新たな創作性の付加を認めることはできない
 
さらに,パステル画に適した用紙として,コットマン水彩紙を選択したのは原告であるが(被告夫妻,同出版文化社も争わない。),用紙を選択したことにより新たな創作性が付加されたと認めることはできない











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