著作権重要判例要旨[トップに戻る]







利用許諾契約の解釈(6)-錯誤無効の成否-
「菓子のおまけフィギュア事件」
平成161125日大阪地方裁判所(平成15()10346等)/平成170728日大阪高等裁判所(平成16()3893 

【コメント】本訴は、原告が、被告に対し、被告が製造販売する菓子類のおまけとなる各種のフィギュアの模型原型を原告が製造し、これを被告に提供するに当たり、両者の間で複数の著作権使用許諾契約を順次締結し、許諾料(ロイヤルティ)や違約金について定めていたところ、被告が原告に対し商品の製造数量について過少報告をし、また、未払いのロイヤルティがあると主張して、上記各契約に基づくロイヤルティ及び約定違約金の支払を請求した事案です。一方、反訴は、被告が、原告に対し、前記各著作権使用許諾契約の一部について、上記各契約は,フィギュア模型原型が著作物であり、原告が著作権を有していることを前提として締結されたものであるが、実際にはフィギュア模型原型は著作物ではないから、錯誤により無効であるなどと主張して、被告が原告に対して支払ったロイヤルティの一部につき、不当利得返還を請求した事案です。 

【原審】

 
本件各契約の違約金支払規定は、被告が模型原型が著作物であり原告がその著作権を有しあるいは管理しているとの錯誤に陥っていたことを理由として、無効となるかについて
 
以上の認定事実によれば、原被告間の本件各契約において、ロイヤルティ支払方式が採られた理由は、模型原型が原告の著作物であることを前提に、その使用料を支払うという趣旨からそうなったものではなく、新たな商品開発を行うに当たり、いかなる模型原型を制作するか決する権限を原告に与え、販売数量の多寡による利益と不利益を原告へのロイヤルティに反映させ、原告に、より優れた模型原型を制作するように動機付けを与える趣旨であったというべきである。
 チョコエッグは予想以上に販売が伸び、そのため本件契約C以降は契約書を取り交わすことになり、当該契約書の前文には、模型原型が著作物であってその権利を原告が有していることが明記された。しかし、そうであるとしても、前記認定の契約当初からの経緯に照らすと、CBが、模型原型が著作物であり、その著作権を原告が有し又は管理していることを前提として、著作物の使用料としてロイヤルティを支払う方式を採ったとは考えられない。むしろ、模型原型が著作権法上の著作物に該当するか否かにかかわらず、原告がより優れた模型原型を制作し、それによって被告の菓子等の売上が増加した場合に、被告のみならず原告もそれによる利益を享受し得るようにする点に、ロイヤルティ方式を採る趣旨があったとみる方が、前記認定の原被告間の契約をめぐる経緯に合致するというべきである。
 
さらに、契約書には、虚偽の数量報告をした場合には、報告しなかった数量分についてロイヤルティの2倍に相当する違約金を支払う旨の規定(違約金支払規定)が入れられたが、その趣旨は、ライセンシーによる報告数量の真実性を担保するため、予めロイヤルティよりも多い金額を違約金として定めたものと認められ、原告に著作権が帰属することからそのような違約金支払規定を置いたとは認められない
 
以上によれば、本件各契約の違約金支払規定の合意において、模型原型が著作物であり、原告が著作権を有しあるいは管理していることが要素となっていたということはできない。したがって、本件模型原型に著作物性が認められないとしても、あるいは原告が著作権を有しても管理してもいなかったとしても、そのことをもって本件各契約、とりわけその中の違約金支払規定が、錯誤により無効となるものではない
 
被告は、契約書において、模型原型を著作物とし、原告が著作権を管理所有していることが前文に明記されるとともに、違約金支払規定が加えられたことからすれば、本件各契約、その中でも違約金支払規定は、模型原型が著作物であって原告がその著作権を管理所有していることを、契約(合意)の本質(要素)とするものである、したがって、模型原型が著作物ではなく原告がその著作権を管理所有していない以上は、被告には契約(合意)の本質(要素)に錯誤があることとなるから、本件各契約、その中でも違約金支払規定は無効であると主張する。
 
しかし、契約の本質(要素)は、契約書等の文言のみならず、当該契約が締結されるに至った過程等を踏まえて、当事者の合理的意思解釈から決定されるべきである(どんな些細な事柄であっても錯誤がある以上は無効が主張できるとすることは取引の安全性を著しく害することとなる。)。本件各契約における契約書において、模型原型が著作物であって、その著作権を原告が管理又は所有していることを根拠として、違約金支払規定が入れられたことをうかがわせる事情はない上、仮にこれが契約の本質(要素)となっていたのであれば、平成141月のアリス・コレクションに関して第三者から著作権等の侵害であるとの指摘を受けたときに、あるいは同年5月の妖怪シリーズの造形師が被告との間ではロイヤリティ方式ではなく買取方式を採っていることが判明したときに、この点について原告に問い合わせるなどするはずのところ、被告はそのような行動を一切起こしていない。
 したがって、被告の主張は失当である。

【控訴審】

 
このような違約金支払規定は,著作権等の知的財産権に係る使用許諾契約に特有のものではなく,例えばフランチャイズ契約など,製造又は販売数量及び額に基づいて支払うべき金額が決定する契約類型において,製造又は販売数量及び額の算定が支払義務者の自主的な報告に委ねられている場合には,自主的な報告の真実性を担保するために,しばしば定められるものである(公知の事実)。
 
(略)
 
また,前記のとおり,本件妖怪フィギュアに係る模型原型は,著作物に該当するといえるから,本件契約HないしKの締結について,そもそも被告に錯誤はない。
 
(略)
 
むしろ,前記認定の経過によれば,被告は,製造数量について虚偽の報告をしていたことが発覚し,原告から多額の違約金を請求され,しかも,チョコエッグ・クラシックの製造,販売の差止めを求める仮処分申立てがされたことから,上記違約金の支払や製造,販売の差止めを免れるために,初めて,それまで全く問題にしていなかった本件模型原型の著作物性を否定するようになったことが強くうかがわれ,このことからも,本件模型原型の著作物性は,本件各契約の要素となっていなかったことが明らかである。
 
また,被告は,制作請負契約ではなく対価の支払方式であるとしても,本件模型原型が著作物でないのであれば,対価の水準は1%以下になっていたはずであると主張するが,このことを裏付けるに足りる客観的証拠は全くなく,かえって,前記認定のとおり,原告の制作したフィギュアは高い評価を受けていたことからすれば,本件模型原型が著作物に当たらないことを前提としても,対価の水準は相当程度高くなっていた蓋然性が高いと考えられる。被告の上記主張は,採用することができない。











相談してみる

ホームに戻る