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ドキュメンタリー映画に関する覚書の解釈が争われた事例
「久高島ドキュメンタリー映画覚書事件」
平成200716日東京地方裁判所(平成19()11418 

【コメント】本件は、久高島の年中行事や祭りを題材としたドキュメンタリー映画(「本件映画」)の製作に参加した原告が、本件映画の製作に参加した被告乙及び同人が代表取締役を務める被告映民社に対して、同人らの間でした本件覚書合意に基づき、@本件映画のプリント、ネガ原版及びその素材の使用の差止め、A本件映画のプリント、ネガ原版及びその素材の一切を撮影の現場となった沖縄県の久高島の地域住民の自治組織である久高区に交付すること、及びB本件映画のプリント、ネガ原版などを使用して作成したDVD原版及び製品を廃棄することを、それぞれ求めた事案です。

 
原告の上記請求を基礎付ける「本件覚書合意」とは、原告及び被告乙との間で取り交わされた、本件映画の製作方法等についての覚書に基づく合意のことで、この本件覚書に署名した者は、原告、被告乙及び仲介者として署名した丁のみでした(被告映民社の記名押印はありませんでした)。さらに、本件覚書には、次のとおりの条項(「本件条項」)が記載されていました。

 
本映画は,映画製作に携わった何人も,版権,著作権,所有権,利用権を主張しない。完成した映画のプリント,原版およびその素材は,後世沖縄久高島の研究に役立たせるために,久高島ないししかるべき公の機関に提供するものとする。それをどこにすべきかは,実行委員会が甲,乙を加えて協議し,趣旨にかなった最善の措置を決める。」 


 [被告乙に対する請求の可否について]
 
原告は,本件覚書の本件条項を根拠に,被告乙に対し,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材の使用の差止めを請求している。
 
しかしながら,本件条項のうち原告の上記請求部分を基礎付ける記載は,…で認定したとおり,「本映画は,映画製作に携わった何人も,版権,著作権,所有権,利用権を主張しない。」というものであり,この記載に基づいて,被告乙が,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材を使用しないという具体的な義務を負わされたものと解釈することは困難であり,他にこの解釈を首肯し得るに足る証拠もないから,原告の上記主張は失当といわざるを得ない。
 
したがって,原告が,被告乙に対して,本件条項に基づき,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材の使用の差止めを請求することはできないというべきである。
 
原告は,本件条項を根拠に,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材を,地域住民の自治組織である久高区に交付するよう請求している。
 しかしながら,本件条項のうち原告の上記請求部分を基礎付ける記載は,…で認定したとおり,「完成した映画プリント,原版およびその素材は,後世沖縄久高島の研究に役立たせるために,久高島ないししかるべき公の機関に提供するものとする。それをどこにすべきかは,実行委員会が甲,乙を加えて協議し,趣旨にかなった最善の措置を決める。」というものであり,本件映画のプリント,ネガ原版等の提供先としては,久高島の自治組織である久高区又は適切な公的機関と例示するのみで,具体的な提供先を規定せず,具体的な提供先は,本件映画実行委員会,原告及び被告乙の協議によって決定するという内容であることが明らかである。
 
そして,本件において,本件映画のプリント,ネガ原版等の提供先をいずれにするかについて,原告及び被告乙の間では争いがあり,また,前記で認定したとおり,上記の者の間でその協議も持たれていないのであるから,本件条項に規定された本件映画のプリント,ネガ原版及び素材の提供先が久高区に特定されたものということはできない
 
したがって,被告乙が,本件条項により,本件映画のプリント,ネガ原版等を久高区に交付すべき義務を負っているということはできず,原告の上記の請求を認めることはできない。
 
以上のとおり,原告は,被告乙に対して,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材の使用の差止め,並びに本件映画のプリント,ネガ原版及び素材を久高島の地域住民の自治組織である久高区に交付することを請求することはできない。

 
[被告映民社に対する請求の可否について]
 
原告は,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材の使用の差止めと,本件映画のDVD原版及びDVD製品の廃棄を請求している。
 
しかしながら,…で認定したとおり,本件覚書には,契約当事者として,原告及び被告乙の署名,押印が存するのみであり,被告映民社の記名捺印はなく,他に被告映民社が本件覚書合意の当事者であったと認めるに足る証拠はないのであるから,被告映民社が本件覚書合意に基づき,何らかの債務を負担することはないというべきである。
 
(略)
 
したがって,原告は,本件覚書合意に基づき,被告映民社に対して,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材の使用の差止め,並びに本件映画のDVD原版及びDVD製品の廃棄を求めることはできない。











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