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契約の履行を確定する納入物の完成度が問題となった事例
パチスロ液晶画面表示用シーンデータ加工業務委託事件」平成201225日東京地方裁判所(平成18()24821 

【コメント】本件は、原告と被告との間で締結された、回胴式遊技機(いわゆるパチスロ)の液晶画面表示用として「機動戦士ガンダム」の劇場版アニメーション映画の一部の映像を3次元コンピュータグラフィクス(3DCG)によるシーンデータに加工するための開発委託基本契約及び各個別契約について、原告が被告に対し、上記各契約に基づき納入したシーンデータに対応する未払の対価の支払とともに、商法512条の報酬請求として受託業務に該当しない作業の対価の支払等を求めた事案です。

 
原告と被告とは、被告が原告に委託する回胴式遊技機に関する開発業務に関し、開発委託基本契約(「本件基本契約」)を締結し、その「対象業務」の内容、仕様、対価、対価の支払方法、「納入物」の納期、納入方法については、本件基本契約に定めるもののほか、業務委託の都度締結される「個別契約」において定めるものとされていました(本件基本契約と個別契約とによって特定される対象業務を「本件業務」という。)。

 
なお、本件基本契約には、次のような規定がありました。

前文:『エピクロス株式会社(以下「甲」という。)(管理人注:本件の「被告」)と株式会社スタジオMC(以下「乙」という。)(管理人注:本件の「原告」)とは、甲が乙に委託する回胴式遊技機に関する開発業務「以下「対象業務」という。)に関し、その基本的事項について次の通り契約を締結する。』

『第7条(作業内容と範囲)
 
1.乙は、「個別契約」に定める仕様に従って「対象業務」を実施する。
 
〔省略〕』

9条:『第9条(検査)
 
1.甲は、「納入物」の納入を受けた後、仕様その他の甲所定の検査基準に基づいて「納入物」を検査し、その結果を納期の翌日から起算して30日後(〔省略〕以下「検査期限」という。)までに書面(FAX、Eメールを含む。)により乙に通知する。なお、「検査期限」の翌日から起算して3日(〔省略〕)以内に当該通知が乙に到達しなかった場合、「納入物」は「検査期限」に検査に合格したものとみなす。
 
2.「納入物」が前項の検査基準を満たす場合には、「納入物」は前項の検査に合格したものとする。
 
3.乙は、「納入物」が第1項の検査に合格しない場合、当該「納入物」を修補して、甲に対し、甲乙協議の上定めた納期までに無償で納入する義務を負う。但し、不合格の原因が乙の責に帰すべき事由によらない場合は、修補作業に要する対価は有償とし、甲乙別途協議の上、これを決定する。
 
〔省略〕
 
5.全ての「納入物」が検査に合格した日をもって、「対象業務」は完了したものとみなす。』 


 本件各契約の基本的性質について
 本件基本契約は,その前文(「エピクロス株式会社(以下「甲」という。)と株式会社スタジオMC(以下「乙」という。)とは、甲が乙に委託する回胴式遊技機に関する開発業務(以下「対象業務」という。)に関し、その基本的事項について次の通り契約を締結する。」)にあるとおり,被告が原告に対して一定の業務を委託(準委任)するものであるものの,本件各契約の目的がいわゆるパチスロに使われる映像の制作(本件業務)であることからすると,基本的には,被告が原告に発注して原告がこれを請けた「請負」の業務の範疇にあるものとして理解されるべきである。
 
もっとも,その具体的な内容については,本件個別契約(1)及び(3)による合意を含め,詳細に取り決められており,本件基本契約の条項を概観すると,9条(検査)において,被告の実施する検査に「合格」しない限り,原告においてさらなる納入の義務を負い,対象業務が完了しない規定が置かれている。この規定は,本件業務の委託者(発注者)である被告自身の行う検査が原告の債務の履行の有無を決めるものであることから,本件業務のいわば到達点について,その検査に先行して,被告の明確な指示のもとに,原告と被告の間で共通の認識ができていることを前提としたものと解することができる
 
実際に,前記の本件各契約の締結に至るまでの経過に照らしてみると,契約締結に先行して,原告と被告の間において,本件業務に関する作業が先行し,かつ,数多くのミーティングが開かれていることが認められる。そうすると,本件各契約とその履行過程を検討するには,当事者間における契約の書面によって条項化されていない事実上の了解事項や折衝状況などを吟味することが欠かせないものというべきである。
 
本件各契約の基本的な性質については,それ自体を抽象的に論ずることにあまり意味はないものの,請負的な性格を有する業務の委託契約であって,しかもその完成に至るまでに,原告の作業や修正作業などに対する被告の的確な指示(ディレクション)が必要であり,このような原告と被告のいわば共同の作業によって契約の履行が完遂されるものと理解できる。
 
以下においては,このように本件各契約を理解する観点から,判断するものとする。
 
(略)
 そこで,本件各契約における本件業務の履行の状況を検討するには,本件シーンデータの個々の制作作業がどの程度に仕上がれば,個別にみた本件業務の完成に至るといえるかを確定する必要があり,その意味において,「本件仕様」の内容が問題となる。
 
(略)
 
しかしながら,これらのうち,本件元映像にできる限り似せること以外の事項については,上記の本件業務の完成度を計ることとは関連性が薄いものといわざるを得ない。おそらく,原告の上記主張は,本件基本契約7条の文言や本件個別契約(1)及び(2)の各1条の文言のとおり,対象業務としての本件業務の実施にあたって,「仕様」に従っている限り,原告としての責を果たしたことになるとの理解によるものと思われる。しかしながら,本件基本契約9条の検査を前提としてみれば,本件シーンデータごとの被告による具体的な指示(ディレクション)がされることの反面として,原告において,それに応じた水準の作業や修正作業がされることが求められるものというべきである。
 
(略)
 
そうすると,本件業務における完成度を計るための「仕様」を表現するとすれば,被告の具体的な指示を前提として,原告において,本件元映像にできる限り似せることである,としかいいようのないものである。
 
(略)
 原告は,本件業務に伴い,被告のため,原告の営業であるアニメーション等の企画制作等の範囲内の作業として,本件追加作業を行っており,これが原告の責に帰すべき事由によらない作業であることから,本件基本契約93項,商法512条により,原告と被告との間に本件受委託契約が成立していると主張する。
 
しかしながら,本件追加作業は,現に本件各契約が成立している当事者間において,本件業務を遂行するに際し,これに伴って行われた作業であり,このような作業が本件各契約とは別個の合意によって,その対価が根拠付けられるとすることは,当事者の基本的な意思解釈としても,通常,考え難いところである。そして,本件基本契約93項の文言上も,所定の検査を経て不合格となり,その不合格の原因につき原告に帰責事由のない場合,双方が協議をして決定すると定めており,本件追加作業は,いずれも検査の不合格を経たといえるものか明らかではない。
 
そして,他に本件受委託契約が成立したことを認めるに足りる証拠はなく,原告の被告に対する本件追加作業に係る対価請求としての主位的請求その2は,その余の点を検討するまでもなく,理由がない。











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