著作権重要判例要旨[トップに戻る]







譲渡契約の解釈(8)-「買取り方式」が問題となった事例-
「プレイステーション用プログラム開発委託事件」
平成160423日東京地方裁判所(平成15()6670/平成180412日知的財産高等裁判所(平成17()10051 

【コメント】本件において、原告は、「本件各プログラム」の著作権はいずれも原告に帰属し、被告がこれらのプログラムをゲーム機及びゲーム機用ソフトに使用する行為は、原告の有する上記著作権を侵害する行為に当たると主張して、損害賠償を請求するとともに、著作者人格権に基づきこれらのプログラムの改変の禁止等を求めました。

 
本件においては、次のような事実関係がありました。

原告は、被告が家庭用ビデオゲーム機「プレイステーション」を開発・製作し、平成612月から販売するに際し、被告からの委託に基づき、外部委託のプログラマーとして、平成512月末ころから平成108月ころにかけて,別紙目録17記載の各プログラム(本件各プログラム)をプログラム3712の順に製作し、被告に納入した。

契約書@の作成:原告と被告は、遅くとも平成6126日ころまでに、原告及び被告代表者がそれぞれ記名押印した上、1万円の収入印紙を貼付した同月1日付けの「業務委託契約書」と題する書面(「契約書@」)を作成した。
 ※この契約書@においては、原告を甲、被告を乙とした上で、次の条項が置かれていました。
『第8
甲が,本契約における業務の履行に際して特許権・実用新案権・意匠権または著作権等知的所有権の対象となるべき発明・考案・創作または著作を行った場合,その帰属はすべて乙にあるものとする。』
『第9
本契約に定めのない事項,又は本契約の諸条件の解釈等についての疑義を生じた場合は,甲・乙誠意をもって協議の上,信義に則って解決するものとする。』
『第10
本契約の修正・変更は,文書による甲・乙の合意がない限り効力を有しないものとする。』

合意書の作成:原告と被告は、プログラム5の製作委託に関し、平成6428日ころ、原告及び被告代表者がそれぞれ記名押印した同日付けの「合意書」と題する書面を作成した。
 
※この合意書においては、「199411日付にて,Aと株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントとの間で締結した業務委託契約書(以下「原契約」という)を,以下の通り延長することに関し双方合意したので,同契約第9条及び第10条の規定に基づきここに本書を取り交わす。」と記載されていました。

契約書Aの作成:原告と被告は,プログラム6及び7の製作委託に関し、平成7221日ころ、原告及び被告代表者がそれぞれ記名押印した上、1万円の収入印紙を貼付した平成61111日付けの「業務委託契約書」と題する書面(「契約書A」)を作成した。
 
※この契約書Aにおいては,原告を甲、被告を乙とした上で、次の条項が置かれていました。
『第9
甲が本契約における業務の履行に際して,特許権・実用新案権・意匠権等の工業所有権,又は著作権等知的所有権の対象となるべき発明・考案・創作又は著作を行った場合,それらの諸権利はすべて何等の制限なく原始的且つ独占的に乙に帰属するものとする。』

プログラム1及び2の製作(開発・納入・対価の支払い)後の、平成10717日ころ、被告は、平成951日付けの「契約書」と題する書面(「契約書B」)を原告に送付し、押印を求めた。ところが、原告は、契約書Bに押印して返送することはせず、同契約書の内容について変更を希望する旨の平成10831日付け書簡を被告宛に送付した。 


【原審】

 上記認定に係る各事実によれば,被告会社においては,本件各プログラムのようなプログラムについては,委託者に著作権等一切の権利を帰属させるとともに,受託者に対して著作者人格権を行使しないことを前提に,月額の報酬に開発期間を乗じた総額を報酬として支払うのが通例であったところ(いわゆる「買い取り方式」),原告もこれに沿った見積書を出した上でプログラム3の開発に着手し,原告被告間で作成された契約書@,合意書及び契約書Aの各記載どおり,平成61月ころから平成105月ころにかけて,順次プログラム3712を開発して被告に納入する一方で,プログラム35については概ね月額100万円,プログラム6及び7については月額110万円の報酬を受け取ったものである。また,プログラム1及び2についても,契約書こそ作成されなかったものの,前者については月額150万円,後者については月額180万円の報酬を受け取ったばかりか,少なくとも,プログラム2改訂版を納入した後である平成10717日ころまでは,対価の額についても本件各プログラムに関する権利の帰属についても,証拠上,何ら異議を述べた形跡がない
 
上記によれば,プログラム35については,遅くとも平成64月ころには,これら3つのプログラムを併せて開発期間を7ヶ月間,報酬を合計700万円(100万円×650万円×2)とする旨の開発委託契約が,プログラム6及び7については,遅くとも平成72月ころには,これらのプログラムを併せて開発期間を8ヶ月間,報酬を合計880万円(110万円×8)とする旨の開発委託契約が,プログラム1については,平成86月ころに,開発期間を2ヶ月間,報酬を合計309万円(150万円×2+消費税)とする旨の開発委託契約が,プログラム2については,開発期間延長の合意を経た上,遅くとも平成102月ころには,開発期間を11ヶ月間,報酬を合計2079万円(180万円×11+消費税)とする旨の開発委託契約が,それぞれ原告と被告の間で成立したものと認められる。また,これら各開発委託契約の成立と同時に,本件各プログラムの著作権を成立と同時に原告から被告に移転する旨の譲渡契約が成立し,これに加えて,原告に留保される著作者人格権についても,被告がこれをプレイステーションに関連する利用のために改変する行為に対してはこれを行使しない旨の合意が,順次成立したものと認められる。
 
そうすると,本件各プログラムの著作権が,職務著作の規定(著作権法152項)に基づき被告に移転したかどうかはさておいても,少なくとも上記の各譲渡契約に基づき,これらプログラムの著作権は成立と同時に順次被告に移転し,被告に帰属しているものと認められる。また,被告が本件各プログラム(の少なくとも一部)についてした改変が,被告の主張するように著作権法2023号ないし4号の適用を受ける「改変」であるかどうかはさておいても,被告がこれらプログラムをプレイステーションに関連する利用のために行ったものであることは明らかであるから,これらの改変は,少なくとも原告と被告の間に成立した上記著作者人格権不行使の合意の範囲内の改変であるものと認められる。
 
したがって,本件各プログラムの著作権が原告に原始的に帰属したまま,被告に移転していないことを前提とし,著作権侵害に基づく損害賠償を求める原告の請求は,理由がない。また,本件各プログラムの著作者人格権の侵害を根拠に,これら各プログラムの改変の禁止を求める原告の請求も,理由がない。

【控訴審】

 
本件各プログラムに関する著作権譲渡契約の成否について
 
プログラムの開発委託契約に基づいて開発されたプログラムの著作権につき,受託者に発生した著作権を委託者に譲渡するのか,受託者に留保するのかは,契約当事者間の合意により自由に定めることのできる事項である。
 
この点,プログラム35に関する契約書@の8条には,「甲が,本件契約における業務の履行に際して…著作権等知的所有権の対象となるべき…著作を行った場合,その帰属はすべて乙にあるものとする。」と規定され,プログラム6及び7に関する契約書Aの9条には,「甲が本件契約における業務の履行に際して,…著作権等の知的所有権の対象となるべき…著作を行った場合,それらの諸権利はすべて何等の制限なく原始的且つ独占的に乙に帰属するものとする。」と規定されている。これらの規定を合理的に解釈すれば,開発されたプログラムにつき発生した著作権は,その発生と同時に被控訴人に譲渡されることを定めたものと解される
 
控訴人は,開発されたプログラムの著作権が被控訴人に譲渡される旨の合意はなく,契約書@及びAの上記記載は実際の合意とは異なると主張するが,被控訴人との交渉経緯に関する控訴人の陳述が採用できないものであることは,前記のとおりであり,そのほかに契約書@及びAの上記記載と異なる合意の存在を認めるに足りる証拠はない。
 
したがって,プログラム37については,著作権譲渡契約の成立があったものというべきである。
 
以上に対して,プログラム1については,契約書が作成されておらず,また,プログラム2についても,契約書の原案は作成されたものの押印には至っていないため,プログラム1及び2に関する著作権譲渡契約が成立しているか否かにつき,更に検討する。
 プログラム1及び2については,契約書は作成されていないものの,前記認定のとおり開発委託契約自体は成立しており,その時期は,プログラム1については平成86月ころ,プログラム2については遅くとも平成102月ころである。この当時の経緯をみると,プログラム1については,平成865日ころ委託を受けて開発業務に着手し,同年730日ころ納入しており,プログラム2については,平成9217日ころ委託を受けて同年5月ころ開発業務に着手し,平成10427日ころその時点の成果物を納入しているが,この間の全過程を通じてみても,先のプログラム37に関する開発委託契約と異なる取扱いは,報酬月額をプログラム1につき150万円,プログラム2につき180万円としたことを除けば,認められない。したがって,プログラム1及び2の開発委託契約における合意内容は,報酬月額を除き,従前と同様の契約内容とするものであったというほかなく,プログラム37に関して開発委託契約と著作権譲渡契約とは一体の契約書をもって取り扱われてきたことに照らせば,プログラム1及び2についても,開発委託契約の成立時に著作権の帰属についても合意があったと認めるのが相当である。そして,契約成立当時,当事者間において著作権の帰属につき従前と異なる特段の合意がされていない以上,著作権の帰属についても従前と同様とする旨の合意が成立したというべきである。
 
これに対して,控訴人は,プログラム2に関する契約書の作成につき控訴人が異議を述べたことをもって,著作権譲渡契約が成立していないことの根拠の一つとしているが,プログラム2に関する契約書案が控訴人に送付されたのは,控訴人がプログラム2を納入した後の平成10717日ころであり,控訴人がその内容に対して異議を述べたのは同年831日付け書簡によるものである。このような契約成立後の事情は,契約成立時の合意内容に関する一つの参考とはなるものの,上記に認定したような委託から納入までの一連の事実に照らせば,プログラム2についても著作権譲渡契約が成立したと認められるのであり,控訴人がプログラム2の納入後に異議を述べたことをもって,著作権譲渡契約が成立したとの認定は左右されるものではないというべきである。
 
また,控訴人は,本件各プログラムに関する著作権譲渡契約の無効を主張するが,同契約について錯誤,詐欺取消による無効が認められないことは,開発委託契約について説示したところと同様であり,公序良俗違反についても,以下の理由から認めることができない。
 
すなわち,控訴人は,本件各プログラムに関する著作権譲渡契約が公序良俗に違反する根拠として,下請法415号及び独占禁止法を挙げるが,本件各プログラムの開発委託に関して控訴人と被控訴人との間で定められた対価は,プログラム35について月額100万円,プログラム6及び7について月額110万円,プログラム1について月額150万円,プログラム2について月額180万円であり,これに基づき控訴人に支払われた報酬額は,プログラム35について700万円,プログラム6及び7について880万円,プログラム1について309万円,プログラム2について2079万円であり,これらを総計すると3968万円となる。これらが本件各プログラムの開発委託の対価のみならず著作権譲渡の対価を合わせたものであるとしても,本件各プログラムの著作権の有する価値と比べて著しく低額であるとは証拠上認めることができず,本件各プログラムの著作権譲渡契約が下請法415号に違反するということはできない。
 
また,控訴人がフリーのプログラマーとして豊富な経験を有し,被控訴人以外の委託者からの業務委託も数多く受けてきたことに照らせば,控訴人の被控訴人に対する取引依存度が高いとはいえず,控訴人にとって,被控訴人との取引がなくなることをおそれて著しく不利な条件であっても受け入れざるを得ないような状況にはなかったというべきであるから,被控訴人が控訴人との関係において公取委告示にいう「優越的地位」にあったということはできない。したがって,本件各プログラムに関する著作権譲渡契約は,独占禁止法に違反するとはいえない。

[参考:下請法415]

「親事業者は,下請事業者に対し製造委託等をした場合は,次の各号(役務提供委託をした場合にあつては,第1号及び第4号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。五 下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。」 












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