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CAD図面の著作物性
CAD図面作成事件平成210709日大阪地方裁判所(平成19()13494 

【コメント】本件は、被告から委託を受けてP1が作成した光電スイッチ等の製品のCAD図面(「本件CAD図面」)の著作権を承継したとする原告が、被告において、本件CAD図面を複製又は翻案して被告CAD図面を作成したなどとして、著作権侵害を理由に、被告に対し、損害賠償等を求めた事案です。

 
本件における最大の争点は、「本件CAD図面の著作物性」ですが、ここで、P1は、本件CAD図面を作成するに際し、被告から交付された被告製品のカタログ(「本件カタログ」)に依拠するとともに、所定の本件CAD図面については、被告から交付された被告製品の現物にも依拠したという事実がありました。 


 本件CAD図面の著作物性について
 著作権法は,「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定めており(211号),思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体でないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作権法によって保護することはできず,これを著作物ということはできない
 
原告は,創作1ないし11eを具備することを根拠として本件CAD図面が著作権法上保護される著作物であると主張しているので,まず,上記観点に照らして創作1ないし11eが本件CAD図面の著作物性を根拠づけるものといえるかについて総括的に検討し,続いて,個別の本件CAD図面について,その著作物性を判断するために必要な検討を加えることとする。
 
(創作1について)
 原告は,創作1について,@本件CAD図面では図形を構成する線が数値を有している,A3次元の被告製品を2次元の平面に表現し直した点及び製品のどの方向を正面として投影するかという点にP1の個性が現れている,B本件CAD図面の作成経緯やコマンド(命令語)の違いがオブジェクトコードに現れていると主張し,以上の点を著作物性を基礎づける事実として主張する。
 
しかし,@については,本件CAD図面において「図形を構成する線が数値を有する」という原告の主張の趣旨は必ずしも明らかではないが,図形を構成する個々の線が,それぞれ長さ,方向,位置といった数値データと関連づけられているという意味であるとすれば,このことはCAD図面の属性そのものであって,そのような意味で「図形を構成する線が数値を有する」としても,このことは,紙などに直接図を描くことを超えて,CAD図面の創作性を基礎づけるものではなく,何らP1の個性を現すものとはいえない。
 Aについても,3次元の物体を2次元の平面に表現すること自体は,CAD図面に限らず通常のありふれた作図方法であるし,そもそもP1が本件CAD図面を作成する際に依拠した本件カタログも,3次元の被告製品が2次元で表現されていたものであるから,P1が被告製品を2次元に表現して本件CAD図面を作成したこと自体に創作性を認めることはできない。
 
Bについても,P1は,本件CAD図面を作成するに当たり,オブジェクトコードを直接記述したのではなく,作図画面を見ながら本件CAD図面を作図したことが明らかであり,オブジェクトコードはその作図の結果をソフトウェアが機械的にコード化したにすぎないのであるから,作図された本件CAD図面とは別にオブジェクトコードそのものをP1の表現と見ることはできない。
 
以上のとおり,創作1は,本件CAD図面の著作物性を根拠づけるものとは認められない。
 
(創作2について)
 
原告は,創作2について,P1が被告製品の機能や形状を取捨選択して本件CAD図面を作成したと主張する。
 
しかし,被告製品の「機能」を取捨選択したということが,本件CAD図面の表現の創作性との関係でいかなる意味を持つか明らかではない。しかも,本件CAD図面には被告製品の形状,寸法等が記載されているだけで,機能が記載されているとは認められないから,P1が被告製品の機能を取捨選択して本件CAD図面を作成したとは認められず,この点を本件CAD図面の創作性を基礎づけるものとすることはできない。
 
他方,被告製品の形状を取捨選択したという点については,カタログないし製品自体に依拠するとしても,商品形状のどの部分を省略又は簡略化し,どの部分を省略せずに描き又はより詳細に描くかは,CAD図面を作成する者にとって選択の幅があると考えられるところであり,被告製品をCAD図面で表現するに当たっても,その表現いかんによっては創作性を認めるべき余地があるものと考えられる。そこで,この点は,本件CAD図面それぞれの創作性に関する原告の個別的主張を踏まえて検討し,表現上の創作性の有無を判断することとする。
 
(創作3について)
 
原告は,創作3について,実際には存在しない凹凸などを描き,製品の質感・光沢・製品価値を表現したと主張する。
 この点については,カタログないし商品の現物に依拠するとしても,実際には存在しない凹凸を描くなどして,製品の質感・光沢等のイメージを強調する表現をする場合,CAD図面を作成する者にとって表現方法の選択の幅があると考えられるところであり,その表現内容いかんによっては創作性を認める余地があるものと考えられる。そこで,この点は,本件CAD図面それぞれの創作性に関する原告の個別的主張を踏まえて検討し,表現上の創作性の有無を判断することとする。
 
(創作4について)
 
原告は,創作4について,下位バージョンへの対応を可能とするため,本件CAD図面を詳細に表現していると主張する。
 
この点については,CAD図面のどの部分をどの程度詳細に描くかについて,CAD図面を作成する者にとって選択の幅があると考えられるところであり,その表現内容いかんによっては創作性を認める余地があるものと考えられる。  
 
そこで,この点は,本件CAD図面それぞれの創作性に関する原告の個別的主張を踏まえて検討し,表現上の創作性の有無を判断することとする。
 
(創作5について)
 
原告は,創作5について,被告製品の必要部分の寸法値を独自に創作したと主張する。
 
しかし,P1は,被告から被告製品のCAD図面の作成を請け負ったのであるから,P1が被告から交付された本件カタログや被告製品に基づかずに寸法値を独自に「創作」することはにわかに考えられず,本件カタログに記載されていない被告製品の寸法値を,被告製品の現物を確認して採寸したり,本件カタログから判明する部分の寸法値や図面から算定したものと推認することができるが,そのような採寸・算定行為及びこれによる数値に基づいてCAD図面を作成することに表現上の工夫を認める余地はないから,原告が創作5として主張する事情をもって創作性を認める根拠とすることはできない。
 
(略)
 
(創作11aについて)
 
原告は,創作11aについて,設計図面のような三角法に則った投影で遠近を明確にして2.5次元的な表現を試みたと主張する。
 
この点については,三角法に則った投影で遠近を明確にして2.5次元的に表現することは,設計図を作図する際に通常用いられる作図法というべきであるが,その表現いかんによっては創作性を認める余地があるとも考えられる。したがって,この点は,本件CAD図面それぞれの原告の個別的主張を踏まえて検討し,表現上の創作性の有無を判断することとする。
 
(創作11bについて)
 
原告は,創作11bについて,P1が,本件CAD図面を作成するに当たり,図形を平面図・正面図・側面図・詳細図等のひとつの画面(1ファイル)で構成したと主張する。
 
しかし,上記各図をまとめて1ファイルに収めるか,それぞれ別ファイルに収めるかは,アイデアの範疇に属するものであって,表現ではないことが明らかである。また,本件カタログにおいても被告製品の平面図,正面図,側面図等がまとめて掲載されており,本件CAD図面において同一製品の複数の図面を1ファイルで構成したこともこれと同種のありふれたアイデアであって,それ自体にP1の個性は現れておらず,表現上の創作性を認めることはできない。
 
したがって,創作11bは,本件CAD図面の著作物性を根拠づけるものではない。
 (略)
 
[本件CAD図面の著作物性の検討方法]
 
以上に検討したとおり,原告が主張する創作15ないし1011b,11c,11d,11eは,いずれもアイデアそのものであって表現に当たらないものであるか,表現であっても極めてありふれたものにすぎず,それ自体として創作性のある表現であることを基礎づけるものとはなり得ないものである。しかし,創作2ないし4及び11aに関しては,その表現内容いかんによっては,創作性を認める余地がある。そこで,以下,個別の本件CAD図面を確認して表現上の創作性の有無を判断することとする。
 
ところで,前記前提事実のとおり,P1は,被告から交付された本件カタログ及び一部被告製品の現物に依拠して本件CAD図面を作成したものである。そうすると,本件カタログに描かれている被告製品の図面が図形の著作物に当たるか否かはともかく,本件CAD図面のうち上記図面を通常の作図方法に従って再現した部分には創作性を認める余地がなく,これに新たに付与された創作的部分のみについて著作権が生ずるものと解される。したがって,本件CAD図面が本件カタログに描かれている被告製品の図面の内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したものにすぎないものであるか,又は何ら創作的な部分を付与したものでなければ,本件CAD図面が著作権による保護の対象とはならない。また,P1は,一部被告製品にも依拠して本件CAD図面を作成したものである。したがって,本件CAD図面のうち被告製品の現物を通常の作図法に従って再現した部分にも創作性が認められず,これに新たに付与された創作的部分のみについて著作権が生じることは,上記同様である。
 
この点,原告は,本件CAD図面は,プリント出力される以前にコンピューター内で完成しているコンピューター創作物であり,本件カタログとは表現形式が全く異なるから,本件カタログは本件CAD図面の著作物性の有無を判断する対象とはならないと主張する。
 
しかし,本件において創作性を認める余地のある創作2ないし4及び11aは,いずれもCAD図面に係るデータ構成上の創意工夫ではなく作図上の創意工夫であることが明らかであり,P1は本件カタログの被告製品の図面に依拠して本件CAD図面を作成したのであるから,本件CAD図面と本件カタログの図面を対比するのは当然というべきである。
 
また,本件CAD図面は,主として,CADによって設計業務を行う際にCAD化された被告製品の設計図への取込みを可能にすることを目的として作成されたものであるから,被告製品の形状,寸法等を把握できるよう,通常の作図法に従い正確に描かれている必要があるから,具体的な表現に当たってP1が個性を発揮することができる範囲は広くないといえる。
 
そうすると,本件CAD図面と本件カタログの図面に相違部分があったり,本件CAD図面に本件カタログにはない図が追加されていたとしても,当該相違部分や追加された図が通常の作図法とは異なる方法で表現されているなど,P1の個性の現れを基礎付ける具体的な事実が立証されない限り,その部分に表現上の創作性を認めることはできないというべきである。
 
以下,個別の本件CAD図面について,上記の観点に照らして創作2ないし4及び11aに関する原告の主張を検討し,著作物性を判断することとする。
 
[個別の本件CAD図面の検討]
 @ 本件CAD図面A−1
 
本件CAD図面A−1は,本件カタログ133頁の「A−1」(製品形状は138頁に記載)に対応する図面である。
 原告は,本件CAD図面A−1の製品側面図(左から2番目,4番目,6番目の図面)について,P1が固有の形状を創作した(創作23)と主張する。
 
確かに,本件カタログには本件CAD図面A−1の製品側面図に対応する図はない。しかし,このような製品側面図を追加すること自体はアイデアの範疇に属するものであって,それ自体を著作権法で保護することはできない。
 
そして,その具体的な表現方法を見ても,上記製品側面図はスリットの側面を横幅の広い略台形の形状で描いたというものにすぎず,その表現方法はありふれたものであるし,これが通常の製図法とは異なる方法で表現されているなどの具体的な立証もされていないのであるから,この点に表現上の創作性を認めることはできない。そして,他に,本件CAD図面A−1が表現上の創作性を有することについて,具体的な主張立証はされていない。
 
したがって,本件CAD図面A−1を著作権法上保護される著作物と認めることはできない。
 
(略)
 
以上に検討したとおり,本件CAD図面は,いずれも表現上の創作性を具備しているとはいえないから,著作権法上保護される著作物と認めることはできない。











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