著作権重要判例要旨[トップに戻る]







パブリックドメインとなった映画の輸入販売業者の注意義務
「黒澤映画DVD輸入販売/東宝事件①」平成220617日知的財産高等裁判所(平成21()10050 

【コメント】本件は、映画の著作物の著作権を有すると主張する被控訴人(1審原告。以下「原告」という。)が、控訴人(1審被告。以下「被告」という。)に対し、被告が同映画を複製したDVD商品を海外において作成し、輸入・販売しており、被告の同輸入行為は原告の著作権(複製権)を侵害する行為とみなされる(著作権法11311号)として、同DVD商品の製造等の差止め及び損害賠償等を求めた事案です。原審が、被告による著作権侵害行為を認定した上で、差止等の請求を全部認容したところ、被告が控訴したものです。 

 当裁判所は,本件各映画の著作者については,監督を務めた者が著作者の一人であり,その後当該監督の著作権は映画会社に譲渡されたと認められ,その著作権の存続期間は満了していないから,原告の著作権に基づく差止等の請求は理由があるが,被告が,その著作権の存続期間が満了したものと考えた点に過失はなく,損害賠償責任を負わないから,原告の損害賠償請求は理由がないと判断する。
 
(略)
 
前記のとおり,原告が有する本件各映画の著作権の存続期間は満了していないから,本件DVDは,輸入の時において国内で作成したとしたならば本件各映画の著作権の侵害となるべき行為によって作成された物に該当する。
 
したがって,被告が本件DVDを国内で頒布する目的をもって輸入した行為は,原告の著作権を侵害する行為とみなされる(著作権法11311号)。
 
(略)
 
[被告の故意又は過失の有無について]
 
被告は,著作権の存続期間が満了してパブリックドメインとなった映画の販売等を業として行っていることが認められる。なお,原判決は,このような事業を行う者としては,自らが取り扱う映画の著作物の著作権の存続期間が満了したものであるか否かについて,十分調査する義務を負っているものと解すべきであると判示するが,一般論としてそのような調査義務を負っていることは認められるが,そうであるからといって,そのような業者が高度の注意義務や特別の注意義務を負っているということはできない
 
旧著作権法における映画の著作物の著作者については,原則として自然人が著作者になるのか,例外なく自然人しか著作者になり得ないのか,映画を制作した法人が著作者になり得るのか,どのような要件があれば法人も著作者になり得るのかをめぐっては,旧著作権法時代のみならず,現在でも学説が分かれており,これについて適切な判例や指導的な裁判例もない状況であることは,証拠に徴するまでもなく,当裁判所に顕著である。
 旧著作権法下における映画著作権の存続期間の満了の問題については,シェーン事件における地裁,高裁,最高裁の判決が報道された当時,法律家の間でさえ全くといってよいほど正確に認識されておらず,この点は,チャップリン事件の地裁,高裁,最高裁の判決が出た今日でも,同事件に登場してくるチャップリンが原作,脚本,制作,監督,演出,主演等をほぼすべて単独で行っているというスーパースターであるため,十分な問題認識が提起されたとはいえない。この問題が本格的に取り上げられるようになったのは,映画の著作権を有する会社が,我が国で最も著名な映画監督の1人といえる黒澤明の作品について,本件の原告等が本件の被告に対し本件と同種の訴訟を提起したことに事実上始まっているにすぎない。そして,チャップリン事件では,最高裁は先例性のある判断を示しているが,黒澤監督の作品では,黒澤監督以外に著作者がいることが想定されており,明らかにチャップリン事件よりも判例として射程距離が大きく判断も難しい事件であるところ,最高裁は上告不受理の処理を選択し,格別,判断を示していない。そして,本件各監督は,有名な監督ではあるが,黒澤監督の作品よりも,その著作者性はさらに低く,自然人として著作者の1人であったといえるか否かの点は判断の分かれるところである。
 
そうであるとすれば,本件において,何人が著作者であるか,それによって存続期間の満了時期が異なることを考えれば,結果的に著作者の判定を異にし,存続期間の満了時期に差異が生じたとしても,被告の過失を肯定し,損害賠償責任を問うべきではない。原判決は,被告のような著作権の保護期間が満了した映画作品を販売する業者については,その輸入・販売行為について提訴がなされた場合に,自己が依拠する解釈が裁判所において採用されない可能性があることは,当然に予見すべきであるかのような判断をするが,映画の著作物について,そのような判断をすれば,見解の分かれる場合には,裁判所がいかなる見解を採るか予測可能性が低く,すべての場合にも対処しようとすれば,結果として当該著作物の自由利用は事実上できなくなるため,保護期間満了の制度は機能しなくなり,本来著作権の保護期間の満了した著作物を何人でも自由に利用することを保障した趣旨に反するものであり,当裁判所としては採用することはできない。
 
したがって,原告の著作権侵害に基づく損害賠償の請求は理由がない。

 ⇒上告審で破棄(平成240117日最高裁判所第三小法廷(平成22()1884











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