著作権重要判例要旨[トップに戻る]







ノンフィクション小説の叙述部分と漫画の台詞部分の翻案性が問題となった事例
ノンフィクション小説『懲戒除名‘非行’弁護士を撃て』vs.漫画『弁護士のくず-蚕食弁護士-』事件平成211224日東京地方裁判所(平成20()5534/平成220629日知的財産高等裁判所(平成22()10008 

【コメント】本件は、原告が、被告Yが執筆し、被告小学館の発行する雑誌「ビッグコミックオリジナル」(「本件雑誌」)に掲載された漫画「弁護士のくず『蚕食弁護士』」(「被告書籍」)の出版・頒布行為は、原告の執筆したノンフィクション小説「懲戒除名“非行”弁護士を撃て」(「原告書籍」)について原告が有する著作権(翻案権)及び著作者人格権を侵害するなどと主張して、被告らに対し、被告書籍の出版等の差止め等を求めた事案です。 

【原審】

 
翻案権侵害の有無について
 
言語の著作物の翻案(権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法211号参照),既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁第1小法廷平成13628日判決)。
 
これを本件についてみると,原告書籍及び被告書籍に,それぞれ,別紙対照表の「原告書籍」欄及び「被告書籍」欄記載の部分が存在することは,前記認定のとおりであり,原告は上記の部分につき翻案権侵害を主張しているところ,原告書籍と被告書籍とは,上記の部分において,その具体的表現において異なるものの,@ 100億円の資産を有する不動産管理会社のオーナー社長(以下「オーナー」という。)から,会社資産を食い物にしている(横領している)顧問弁護士(以下「顧問弁護士」という。)を解任してほしい旨の依頼を受けた弁護士(以下「オーナー側弁護士」という。)が,事件を解決した際には相当の報酬を得ることができるかもしれないと期待すること(別紙対照表の番号1),A オーナー側弁護士は,顧問弁護士の事務所を訪れ,顧問弁護士に対して解任を通告し,会社書類の引渡しなどを求めるが,顧問弁護士の要望により,数日間引渡しを猶予すること,オーナー側弁護士は,この事件を簡単に解決することができると甘く考えたこと(同番号23),B オーナー側弁護士は,約束の日に再度顧問弁護士の事務所を訪れるが,顧問弁護士から,先日開催された取締役会においてオーナーは代表取締役を解任され,新しい代表取締役から新たに顧問弁護士を依頼されたので,書類を返すことはできないと告げられること(同番号4),C オーナー側弁護士は,本当に取締役会を開いたのか,開催通知はいつ行ったのかなどと顧問弁護士を追及するが,口頭で伝えたなどととぼけた返答をされ,憤慨すること(同番号5),D オーナー側弁護士は,顧問弁護士に対抗するためにオーナーの妻の協力を得ようと考え,妻に面会を求めるが,妻は,顧問弁護士から,今回の騒動はオーナーの愛人が仕掛けたものであり,背後には別の団体がいる,オーナーに株式を渡せば裏の世界(闇の世界)に株が流れてしまうおそれがあるなどと説得され,顧問弁護士の言葉を信じて,オーナー側弁護士との面会を断ること(同番号6),E 顧問弁護士は,オーナーに対する報復として,オーナーに対する毎月の報酬の支払を止めた上,会社のオーナーに対する架空の債権に基づきオーナーの預金口座を差し押さえ,オーナーを無一文に追い込むこと(同番号7),F 顧問弁護士は,会社の金で,オーナーの愛人にプレゼントを贈ったり,オーナーと一緒に愛人同伴で海外旅行に行くなどしていたこと(同番号8)を表現している点において共通し,同一性があることが認められる。
 
しかしながら,上記@ないしFの事柄がいずれも実在の事実ないし事件であることについては,当事者間に争いがないので,上記の点における同一性は,表現それ自体でない部分において同一性が認められるにすぎず,翻案権の侵害の根拠となるものではない。また,上記事実の中には,原告書籍の出版以前には一般に知られていなかった事実(原告が顧問弁護士の事務所を訪問した際の同弁護士とのやりとりや,原告がオーナーの妻の自宅を訪問するが面会を拒否されることなど)も存在するが,これらの事実も,あくまで事実である以上,一般に知られた事実と異なる取扱いがされるものではない
 
事実ないし事件を素材とする作品であっても,素材の選択や配列,構成,具体的な文章表現に著作者の思想又は感情が創作的に表現された場合は,著作物性が認められ,このような表現上の創作性がある部分において既存の著作物と同一性を有する場合は,翻案権の侵害となり得る。
 
しかしながら,原告書籍と被告書籍との間には,次のとおり,表現上の創作性のある部分において同一性を有すると認められる部分も存在しないというべきである。
 
(略)
 
以上のとおりであるから,被告書籍は,【事実若しくは事件という】(管理人注:控訴審においてこの部分は削除された。)表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告書籍と同一性を有するにすぎず,被告書籍に接する者が原告書籍の表現の本質的な特徴を感得することはできないというべきであるから,被告書籍は,原告書籍に関する原告の翻案権を侵害するものとは,認められない。

【控訴審】

 
当裁判所は,@原告書籍各部分は,表現においてありふれたものであって創作性がないか,創作性があったとしても表現上の特徴はないこと,そして,被告書籍各部分と原告書籍各部分とは,取り上げられたエピソードやアイデアにおいて共通する部分があるものの,原告書籍各部分の表現上の本質的な特徴を直接感得するものとはいえないから,被告書籍各部分は,原告書籍各部分を翻案したものとはいえない,…と判断する。その理由は,次のとおり付加変更するほかは,原判決…の記載と同じであるから,これを引用する。
 
(略)
 
[当審における原告の主張に対する判断]
 
(原,被告書籍第1部分について)
 
原告は,原告書籍第1部分は,正義の闘いを行う弁護士が,報酬への期待を抱いているとの内容を記載した部分であるが,同記載部分は,事実とは異なるものであり,それ故に表現上の特徴があると主張する。
 
しかし,原告の主張は,採用の限りでない。すなわち,原告書籍第1部分の「男は林田則男といい,…100億円近い資産を食い潰されそうなので,…取り戻したいという依頼であった。…私は,軽い気持ちで,同業としてそんな面汚しはとことん懲らしめてやらねばならないと思うと同時に,この依頼を首尾よく解決すれば,わが貧乏弁護士事務所にもそれなりの潤いがもたらされるかもしれないとの期待も抱いた。」との記述は,ごくありふれたものであり,個性的な表現が用いられているものではない。表現された内容が事実に反するものであったとしても,そのことの故に,当該表現が特徴的なものと解することもできない
 
他方,被告書籍は,弁護士が報酬を期待したという内容を,「それより顧問弁護士が数億円も横領した事件を解決すれば,ニュースになるぞきっと。」,「俺は正義のヒーローだ。」,「きっとあの番組からオファーが来るな…」,「うふふモテモテだぜ」などの台詞によって表現しているものであり,原告書籍第1部分とは,表現において相違し,原告書籍第1部分の表現上の本質的な特徴を直接感得するものということはできない。被告書籍第1部分は,原告書籍第1部分の翻案には当たらない。
 
(原,被告書籍第2部分について)
 
原告は,原告書籍第2部分は,依頼人が場所的にも顧問弁護士に支配されていることを説明するために,依頼人と顧問弁護士の事務所の住所が同一であることを記述した部分であるが,描写する必然性がないにもかかわらず,記述した点で,創作性があり,他方,被告書籍第2部分にも似通った記載があるから,被告書籍第2部分は,原告書籍第2部分を翻案したものであると主張する。
 
しかし,原告の主張は採用の限りでない。原告書籍第2部分の「(株)林田の事務所を自分の法律事務所のあるビルの1階上に移転させ,そこに(株)林田の社長室及び弁護士室の表示をして同室を自由に使い,(株)林田を場所的にも完全に支配したのである。」,「5階の社長室,弁護士室と書かれた部屋に通され」との記述は,ごくありふれたものであり,個性的な表現が用いられているものではない。表現された内容が,全体の流れとの関係で,読者にわかりやすく印象づけるものであるとしても,そのことの故に,当該表現が特徴的なものであると解することもできない。
 
他方,被告書籍第2部分には,顧問弁護士法律事務所のドアの表示の下に依頼者の会社の表示があることが描かれ,「(株)富鳥は,会社と言っても自分の社屋があるわけじゃなし,ここが事務所ってことになるのか…」と記載があり,原告書籍第2部分とは,表現において相違し,原告書籍第2部分の表現上の本質的な特徴を直接感得するものということはできない。被告書籍第2部分は,原告書籍第2部分の翻案には当たらない。
 
(略)
 
以上のとおり,原告書籍各部分は,いずれも,表現において,ごくありふれた記述をしているにすぎない。他方,被告書籍各部分は,エピソードやアイデアを共通にしている点を含むものの,原告書籍各部分と表現上の本質的な特徴部分において共通するものは存在せず,原告書籍各部分の表現上の本質的な特徴を直接感得するものということはできない。したがって,被告書籍各部分は,原告書籍各部分の翻案に当たらない。…











相談してみる

ホームに戻る